第11話:異世界での生活 6
本日四回目の更新です。
翌日、明日香はイーライと一緒にジジの道具屋へやって来た。
今日から仕事を始める事と、住み込みで働くのは今日を含めて七日後からになった事を伝えると、ジジは微笑みながら構わないと口にした。
「儂の方はいつでも問題はないから、先方に迷惑が掛からない方法で来たらいいよ」
「ありがとうございます、ジジさん」
「ほほほ。それじゃあ、今日からよろしくお願いしますね、アスカさん」
「はい! よろしくお願いします!」
腰を曲げてお辞儀をした明日香を見て、ジジはさらに笑みを深めた。
「イーライは奥で休んでおいたらいいよ。それとも、一緒に働くかい?」
「それじゃあ俺は奥で休ませて――」
「イーライも一緒に働こうよ!」
「……は?」
まさかの提案にイーライは驚きの声を漏らしてしまう。
「……いや、騎士の俺がジジさんの道具屋を手伝うなんて、邪魔にしかならんだろうが」
「若い男手はいつでもどこでも貴重なんですよ! そうですよね、ジジさん!」
「ほほほ。まあ、手伝っていただけるのであれば助かりますね」
微笑みながらそう口にされたイーライは、頭をガシガシと掻きながらため息をついた。
「……分かったよ。それじゃあ、何をしたらいいんですか、ジジさん?」
「ありがとう、イーライ。荷物を運んで欲しいのでこちらに来てもらってもよろしいですか?」
そう口にしながら歩き出したジジについて奥へ消えていくイーライ。
残された明日香は店内を歩きながら棚に置かれている商品を眺めていた。
青色、緑色、赤色、黄色といった様々な液体が入った瓶が並んでおり、これらがポーションである事は昨日のやり取りで知っている。
しかし、これらのポーションがどのような効果を発揮するのかは全く分からない。
自分がやるべき事や勉強するべき事を頭の中で整理しながら待っていると、大きな箱を抱えたイーライと、その後ろからジジがゆっくりと戻ってきた。
「くっ! ……これは……重いです、ねぇ……」
「ありがとう、イーライ。いつもは何度も往復して商品出しをするから助かるよ」
「……いえいえ……これくらいなら、全然、大丈夫、です!」
カウンターに置かれた箱には大量のポーションが入っており、ジジは明日香に声を掛けた。
「それじゃあ次はアスカさんにお願いしようかな」
「はい! 任せてください!」
ジジの指示に合わせてポーションを並べていく明日香は、最初に気になっていた通りに色分けされている事に気が付いた。
「ジジさん。これは色によって効果も違うんですか?」
「その通りじゃ。昨日イーライが購入したのは青色のポーションじゃな」
身体の損傷を回復させる事ができる青色の基本となるポーション。
魔力を回復させる事ができる緑色のマジックポーション
毒や痺れなど体の動きを阻害する効果を回復させるのが赤色のキュアポーション。
呪いなどの特殊な異常を回復させるのが黄色のカースポーション。
そして、色の濃さで下級から上級の違いが出てくる。
「薄い色が下級、濃くなるごとに中級、上級と変わっていくんじゃよ」
「だから薄い色のポーションが多いんですね」
「そういう事じゃ。等級が上がるごとに作る手順も増えるし、良い素材が必要になるからのう」
ジジの言葉に納得しながら手際よく品出ししていく明日香は、色と効果を呟きながら作業を進めていく。
その姿を見ていたイーライは内心で感心していた。
品出し、商品知識の確認、それらの暗記。
慣れた作業ならまだしも、初めての作業でそれらをこなしてしまうというのは、自分ではできないとイーライは感じていた。
この後も明日香は自分なりに仕事をこなしていき、ジジの指示を的確にこなしていく。
一人では何時間も掛かる作業が、二人が手伝ったおかげで一時間と掛からず終了した。
「ほほほ。こんなに早く終わるとは思わなかったぞ」
「お役に立ててよかったです! ね、イーライ!」
「……あ、あぁ」
突然声を掛けられて簡単な返事になってしまったイーライは、少しだけ恥ずかしくなる。
騎士団では厳しい言葉で発奮を促されている事が多く、素直に褒められる事は少なかった。
「どうしたの?」
「……いや、なんでもない」
自分でも驚きの反応に顔を逸らせて窓の外を見るイーライ。
その様子が気になった明日香はわざわざイーライの前に立って顔を見ようとするが、またすぐに逸らされてしまう。
「もう! 本当にどうしたのよ!」
「だからなんでもないってば! 気にするなよ!」
やや頬を赤くさせながら明日香から逃れようとするイーライは、最終的には外に飛び出してしまう。だが――
「うわあっ!?」
「ど、どうしたの、イーライ! ……え……えぇぇ~?」
外に飛び出したイーライの声に明日香も慌てて外に出たのだが、そこにいた人物を見てため息交じりの呆れ声を漏らしてしまった。
「……何をしているんですか――リヒト様?」
イーライが声をあげた理由、それはこっそりと後をつけていたリヒトと顔を合わせたからだ。
「あー……なんでしょうか、そのー……あ、あれです! ポーションを買いに来たんですよ!」
「その割には変装が半端ない気がするんですが~?」
リヒトは全身を覆い隠せる茶色の外套を頭から被っており、傍から見ると変質者だ。
「……そ、それよりもです、イーライ!」
「はっ!」
「あなた、アスカ様と馴れ馴れしくありませんか?」
「うっ! そ、それは……」
話を変えようと標的をイーライに変えたリヒトだったが、それを許す明日香ではない。
「イーライには私がお願いして普段通りの言葉遣いで話してもらっています。それよりもリヒト様は何をしているんですか? 私が信用できないって事でいいんですか? いいんですね?」
「ち、違います! そういうわけではありません!」
「だったらどうして隠れてつけていたんですか? やっぱり信用されてないんですよね? そういう事なら七日後とは言わずにすぐ出て行きましょうか?」
「本当に申し訳ありませんでした! それだけは、それだけは止めてください!」
殿下の補佐官であるリヒトが頭を下げている状況にイーライが困惑していると、店の中からジジが微笑みながら姿を現した。
「ほほほ。外で話をするのもなんですし、中に入ったらどうですかな?」
「……あ、ありがとうございます、ご老人」
「……はぁ。それじゃあ、ジジさんもそう言っていますし中に入りましょう」
肩を落としたままトボトボと歩き出したリヒトの背中を見つめ、イーライはさらに困惑する。
そんな彼の肩を叩きながら笑った明日香を見て、イーライはさらに深いため息をついた。
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