表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/105

第45話:エピローグ

 ――カランコロンカラン。


「いらっしゃいませー!」


 ジジの道具屋に明日香の明るい声が響いた。

 乾いた寒い風が吹いてくる季節になったものの、冒険者の活動が落ち着くことはない。

 道具屋にはポーションを求めて多くの客が足を運んでおり、毎日のように明日香もジジも忙しくしている。

 しかし、今この場所に夏希の姿っはない。いったいどうしたのかというと――


「明日香さーん!」

「あっ! いらっしゃい、夏希ちゃん!」

「また買いに来たぞ」

「ほほほ。二人とも、いらっしゃい」


 笑顔で出迎えた明日香とジジ。

 明日香は夏希の横に並んで世間話を始め、ガゼルはポーションを吟味していく。

 その様子をジジがカウンターから見守りながら他の客の対応を行っている。


「新しい生活はどうかな、夏希ちゃん?」

「えへへ……とっても楽しいです!」

「だよねー!」


 実をいえば、夏希はこの時点でジジの道具屋から居を移しており、ガゼルと共に暮らしている。

 ガゼルも元は宿屋暮らしをしていたのだが、溜め込んでいたお金が多くあり一括で家を購入してしまったのだ。

 夏希は当初こそ家の購入に反対していた。

 まだ付き合っている段階であり、ガゼルに大金を使わせることに遠慮したのだ。

 しかし、ガゼルは家を購入したところでお金に困ることはないと快活な笑みを浮かべながら、あっさりと支払いを済ませてしまった。

 呆気にとられた夏希だったものの、いざ新しい生活が始まると毎日が充実しており、今となってはガゼルに感謝しかなかった。


「ジジさん、これとこれを貰うよ」

「ほほほ。ありがとうございます」


 ガゼルがポーションの支払いを済ませると、その足で夏希のところへ戻ってきた。


「今日も森へ向かうんですか?」

「あぁ。金はあるんだが、やっぱり体を動かしていないと気が済まないんでな」

「でも、危険な依頼は避けてもらっているんですよ」

「そりゃそうだろう。……守るものができたからな」


 最後の言葉は尻すぼみに小さくなってしまったが、明日香も夏希もはっきりと耳にしており、明日香はニヤニヤと笑みを浮かべ、夏希は恥ずかしそうに頬を赤くさせた。


「お熱いですね~」

「う、うるせぇな! いいじゃねぇか、事実なんだからよ!」

「うふふ、そうですね。夏希ちゃんもよかったね!」

「……は、はい~」


 最後は軽く茶化しながら、明日香は二人を見送った。

 すると、客の流れが落ち着いたところでジジが明日香に声を掛けた。


「今日はもう上がってもいいよ」

「えっ? でも、まだ時間も早いですよ?」

「ほほほ。裏口から外に出てみなさい。きっと、嬉しいことが待っているよ」


 ジジの意味深な言葉に首を傾げながら、明日香は言われた通りに裏口から外に出てみた。すると――


「……イーライ?」


 裏口から外に出ると、そこには正装をしたイーライが花束を抱えて立っていた。

 珍しく頬を赤くしており、明日香から見ても緊張しているのが目に見えて明らかだ。


「ど、どうしたの、イーライ?」

「……これを、受け取ってくれ」

「う、うん」


 不器用にずいっと花束を差し出され、困惑しながら明日香はそれを受け取る。

 そして、受け取った明日香が花束の中に一つの小さな箱が入っていることに気がついた。


「これは?」

「……」


 無言のままのイーライに首を傾げながら、明日香は箱を取り出してゆっくりと開いてみた。


「……イーライ、これって」

「……俺は、アスカのことが好きだ。大好きだ」


 突然の告白、そして指輪を目の当たりにして、明日香の瞳には自然と涙が込み上げてくる。

 悲しいからではない、嬉し涙だ。


「今まではずっと外から見守ってきたけど、これからはアスカのことを一番側で守りたいんだ」

「……うん」

「ガゼルさんと比べるとまだまだ頼りないかもしれない。だけど、俺は何があったもアスカのことを守り抜いて見せる。だから――!」


 イーライのプロポーズを受けて、アスカは満面の笑みを浮かべながら大粒の涙を流していた。

 慌てたイーライは言葉を詰まらせてしまい、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。


「だ、大丈夫か? その、俺のプロポーズは、やっぱり駄目だったのか?」

「ううん、違うよ。こんな私にプロポーズしてくれる人がいるだなんて、思ってもいなかったんだ。だから、とっても嬉しいんだよ」

「それじゃあ、なんで泣いているんだ?」

「嬉しいからに決まってるじゃん。私、イーライのことが大好きなんだよ?」


 一歩前に出ると、明日香は両腕を広げてイーライを抱きしめた。


「……アスカ?」

「……私も大好き、本当に大好きだよ」

「……あぁ。俺も大好きだ。だから――結婚しよう、アスカ」

「……はい!」


 体を離した二人はお互いに見つめ合い、そして唇を重ね合わせた。

 明日香とイーライ。これからの二人がどのように生きていくのか。

 幸せが訪れることもあれば、苦労だって訪れるだろう。

 しかし、彼女の隣には間違いなく彼がいてくれることは間違いない。


 ――明日香のメガネは、イーライの好感度が振り切っているのを示していたのだから。


 終わり

本編完結です。

読んでくれた皆様、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ