第43話:それぞれの日常へ 7
マゼリアに戻ってきた明日香たちは、そのままジジの道具屋へと向かった。
ここではジジが夏希の後見人になっているので、お付き合いを始めると報告するためだ。
ガゼルはすでにジジとも顔を会わせていたが、面と向かって会話をしたことはない。
故に、彼は柄にもなく緊張していた。
「大丈夫だよ、ガゼルさん」
「お、おう!」
「こんなガゼルさんを見られるとはなぁ」
「なんか新鮮だね」
「……イーライもアスカのお嬢さんも、他人事だなぁ」
後ろで笑いながらそう口にしていた二人に対して、ガゼルはジト目を向けながらため息混じりに呟く。
とはいえ、入り口の前で立っているだけでは営業妨害にもなりかねない。
意を決してガゼルが扉を開けようとした――その時だった。
――カランコロンカラン。
「おや? もう戻ってきたのかい?」
「あっ……ど、どうも」
「ただいま戻りました、ジジさん」
「アスカさんとイーライも戻ってきたんだねぇ」
「ちょっとお話があるんですが、中に入っても大丈夫ですか?」
「えぇ、構いませんよ、ナツキさん。皆さんもどうぞ」
ガゼルや夏希の様子からなんとなく事情を察したジジは、笑顔を浮かべながら彼らを中へ促した。
看板も営業中から休憩中に変更し、奥のリビングまで移動して腰掛ける。
椅子の数が足りないのでイーライは壁際に立ち、残りの面々はジジと明日香が並び、夏希とガゼルが向かいに座った。
「それで、お話というのはなんでしょうか?」
「あっ、はい。えっと……」
今日の朝から今に至り、ガゼルの緊張はピークを迎えていた。
しかし、隣に座る夏希の横顔を見ると、彼女もまた緊張しているのが見て取れると、彼は大きく息を吸い込み、はっきりとした口調でジジへ告げた。
「ジジさん! 俺はこんな年齢だし、ナツキのお嬢さんとは親と子ほどに歳も離れている。だが、彼女の気持ちを受け止め、俺も彼女を守るために、お付き合いすることを許してほしい!」
「えぇ、もちろん。構いませんよ」
「認めてもらえないことはわかっている。だが、そこをなんとか許してほし……い……あー、えっ?」
きっと認められない、説得には時間が掛かる、そう思っていた。
しかし、ジジの答えは意外にも即答での了承だった。
「……構わない、のか?」
「……ジジさん?」
「ほほほ。儂は後見人であって、ナツキさんの本当の親ではありません。こちらの世界でいえばナツキさんも大人の女性ですから、お二人の関係に儂がどうこう口にするのも違うでしょう」
目の前に置かれていたお茶に口をつけ、ふぅと小さく息を吐いてからジジは再び口を開く。
「ですが、誰に対しても構わないというつもりはありません。ガゼルさんだからこそ、儂はナツキさんをお任せできると思っているのです」
「……俺なんかで本当にいいのか?」
「ほほほ。ナツキさんが選び、アスカさんも認めた相手です。儂が文句を言う必要はないでしょう」
そう口にしながら、ジジは明日香へ顔を向けるとお茶目にウインクをした。
「ですがまあ……ナツキさんを泣かせるようなことだけはしないでくださいね」
「も、もちろんだ! 俺は絶対にナツキのお嬢さんを泣かせねぇ!」
「であれば、まずはその呼び方を変えた方がいいのではないですかな?」
「そうですよね、ジジさん! ガゼルさん、夏希ちゃんの名前だけで呼んであげてよ!」
ジジの提案に明日香が乗っかり、二人は恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「い、いきなりじゃないか?」
「そうですよ、ジジさん、明日香さん!」
「でも、恋人に対して夏希のお嬢さんはおかしくないかなー?」
「ほほほ。でしたら、時間を掛けてゆっくりと変えていけばいいですかな?」
「そ、そうします! そうさせてくれ!」
「ガゼルさんの意気地なしー!」
「う、うるせえな! これでも年甲斐もなく頑張ってるんだよ!」
こうして、ジジへの報告は和やかな雰囲気で終わりを迎えた。
その日の夜は再び集まり全員でお祝いをしようとなり、一旦は解散となった。
とはいえ、夏希はガゼルと出掛け、明日香はイーライと出掛けることになり、ここからはそれぞれのデートになったのだ。
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