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第40話:それぞれの日常へ 4

 しかし、この中で一番驚いたのは周囲の冒険者たちではなく、当然ながらガゼルだ。

 この『付き合ってください!』がダブルデートにただ付き合ってほしいなのか、それとも男女の付き合いをしてほしいということなのか。

 周囲がざわめく中、ガゼルは思考をフル回転させて出した結果が――


「……まあ、二人のデートにナツキのお嬢さんがついていったら、バランス的に悪いからな。この程度なら付き合っても問題ないか」


 ――前者だった。

 とはいえ、これは当然の思考だろう。

 ガゼルと夏希は親と子ほどに歳の離れた男女である。

 年齢が下の者が上の者に憧れや尊敬の念を感じることは多いだろうが、その逆はなかなかないだろう。むしろ、それをしてしまうと相手に忌避されてしまう可能性の方が高いのではないだろうか。

 ガゼルの出した答えを聞いて、周囲の冒険者たちもどこか納得したように頷いていたのだが――


「ち、違います! わ、私は、ガゼルさんとお付き合いしたいんです!」

「「「「……おおおおぉぉおおぉぉっ!!」」」」


 内心でこのまま話が終息してくれればと思っていたガゼルだが、そうはさせまいと夏希が本音を口にする。

 再び騒ぎ出す周囲の様子に、ガゼルは顔を真っ赤にさせながら夏希の手を取った。


「ガ、ガゼルさん!?」

「と、とりあえずここを離れるぞ! いいな!」

「は、はい!」


 大股で歩くガゼルと、それについていくために小走りになる夏希。

 そんな二人に周囲は冷やかしの言葉を掛けているが、そのどれもが暖かな感情を持っている。

 それはきっとガゼルという冒険者が築き上げてきた信頼がものをいっているのだろう。

 さらにいえば、ラクシアの森での騒動で夏希が活躍したことをこの場にいる冒険者たちは知っていた。

 そんな二人だったからこそ、暖かな冷やかしがあちらこちらから届いたのだろう。


「……私たちもいこうか」

「そうだな。だが……ガゼルさんが受けてくれるか、そこが問題だな」

「そうかな? 私は大丈夫だと思うけどな」

「親と子くらいに年齢が離れているのにか?」

「恋に年齢なんて関係ないわよ」


 自信満々にそう言い切った明日香が歩き出すと、イーライは首を傾げながらその背中を追い掛けた。


 ガゼルと夏希は冒険者ギルドを出てから少し進み、川が流れる橋の下までやってきていた。

 ここに至り頭の中が冷静になってきた夏希は、自分の失態を思い出して俯きながら顔を真っ赤にしている。

 多くの人の中で告白してしまったのだから、自分もそうだが告白された側のガゼルも恥ずかしかっただろう。

 それも子供だと言われてもおかしくはない年齢の自分にだ。その羞恥は計り知れない。

 このまま嫌われてしまっても仕方がないと思い、怒声を浴びせかけられるのを覚悟していた――しかし。


「……なあ、ナツキのお嬢さん」

「……」

「……おーい、聞こえているかー?」

「……はい」


 ようやく返事をしてくれたと安堵し、ガゼルはその大きな手で夏希の頭を優しく撫でた。


「……ガゼル、さん?」

「まあ、その、なんだ。どうして俺なんだ? ただのおじさんだぞ?」


 そして、まさか好きになった理由を聞かれるとは思わず、夏希はゆっくりと顔を上げるとまばたきを繰り返す。


「……いや! やっぱり言わなくていい! なんというか、何かの冗談なんだろう? アスカのお嬢さんとイーライのために――」

「ち、違います! 私は本当に、ガゼルさんのことが好きなんです!」


 恥ずかしがっていると思い無理に聞く必要はないと思ったガゼルだったが、夏希は意を決して思いの丈を口にした。


「その、最初こそ見た目から格好いいなって思いました! でも、一緒に採取をしているうちに、ガゼルさんの優しさとか、頼りがいのあるところとか、面白いところとか、色々なところが好きになっていったんです!」

「……マジなんだな」

「うぅぅ……ご迷惑、でしたか?」


 一度は顔を上げた夏希だったが、ガゼルの反応を見て再び顔を俯こうとした。


「いや、なんていうかな……長い間、女性から好意を寄せられたことなんてなかったから、どうしたらいいのかがわからないんだ」

「……そう、なんですか?」

「当り前だろう。俺が何歳のおじさんだと思っているんだ? とうの昔に恋愛だの結婚だのは諦めていたんだ。だから……すまんな、頼りがいがなくて」

「そ、そんなことありません! 私だって、その……恋愛経験は、ありませんし」


 そして、二人はただ黙って見つめ合う。

 …………本当に、ただ黙って見つめ合っている。


「…………お二人さーん?」

「「うわあっ!?」」


 そこへジト目を向けながら顔を出した明日香に驚き、二人は同時に飛び上がった。


「あ、明日香さん! いつからいたんですか!?」

「夏希ちゃんが思いの丈を告白しているところくらいからかな」

「イーライ! お前もいたのかよ!」

「俺は止めたんですけどね。アスカが止まらなかったんですよ」


 驚きの声をあげている夏希とガゼルだったが、二人だけではどうにも話が進まなかったと自覚しているのか、これ以上は何も言わずに明日香へジト目を返している。

 そんな明日香だが、最終的にはニコリと笑って夏希を優しく抱きしめた。


「あ、明日香さん?」

「よく頑張ったね、夏希ちゃん」


 そして、ガゼルがしたように明日香も優しく頭を撫でた。


「ガゼルさん!」

「お、おう?」

「夏希ちゃんを泣かせたら、承知しませんからね!」

「と、当然だろう! ……ん? これって、付き合う流れになってないか?」

「い、いいんですか、ガゼルさん!」


 明日香の手のひらで踊らされた感は否めなかったが、夏希の期待に溢れた瞳を見て、ガゼルも覚悟を決めた。

 そもそも、本当に嫌いだったり、好意を抱いていなければ、彼なら即答で断っていただろう。

 ガゼルの中でも、心のどこかで夏希に対する好意があったということだ。


「……こんなおじさんを掴まえたこと、後悔するなよ?」

「はい! 大好きです、ガゼルさん!」


 抱きしめていた腕を明日香が解くと、夏希は真っすぐに駆け出してガゼルに抱きついた。

 最初こそどうしたらいいのかわからずに両腕を空中で彷徨わせていたガゼルだが、最終的にな夏希の背中に回してポンポンと優しく叩いていた。

 その表情が真っ赤になっていたことは、明日香とイーライだけが知っていた。

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