継承者という飾り
直接の描写はないですが色々性的だったり暴力的だったりするかもなので苦手な人はお気をつけください。
言うほどではないと思いますが。
「くそ、この化け物がっ!!」
「化け物? 私が化け物だと言うならお前達は何者なんだ? 権力に取り憑かれた怨霊じゃ無いか」
激しく地面が揺れ、大きな屋敷が真っ二つになった。
「避妊の魔法をかけてあるから、それを解除しなければどう扱ってもらっても構わない。ただし死なすのはダメだ」
「はっ、随分だな。くっくっく」
感情を感じられない偉そうな男と、下品な男の会話が薄い壁越しに聞こえてくる。
ここは辺境の森にある冒険者のアジト、らしい。
やっている事は冒険者と言うか、野盗の類かもしれない。
その後、二三話した後、1人がこの家から出ていく気配がして、もう1人がこの部屋に入ってきた。
「つーわけだから、しばらくはよろしく頼むぜ、お嬢様よ。はっ」
入ってきたのは身長180cmほどの無精髭の男だった。
見るからに強そうな体格をしていて、冒険者風の服装に革鎧を付け、剣を下げていた。
下品な喋り方だが、声は意外と若くも聞こえる。
不思議な男だ。
「つーか、見れば見るほど、こんなところに隠しておくには勿体ない良い女だなぁ、お前」
顎の下に指を宛てがい上を向かせて吟味する様に顔を確認する男を突き飛ばす少女。
男は抵抗せずに一旦は離れたが、また詰め寄った。
ヒール込みで160cmほどのスレンダーな美少女だ。年齢は15歳。ちなみにこの国では成人済みだ。
薄紫の長い髪を編み込むでもなく下ろしているのは貴族の娘らしくないが平民にはない気品がある。
それなりに悪くはなさそうなドレスと言うかワンピースと言うか、そんな服を着ているが装飾品は身につけていない。いや、ここに来る際に毟り取られたのかも知れない。
「自分の置かれている状況ってのは分かってるのか? 俺が抱こうが客を取ろうが構わないと言っていたが」
「………」
口惜しげに目を伏せる少女を見てちょっと考える振りをする男。
「貴族の令嬢ってのも大変なんだなぁ、…なんてな。そんな事を言うと思ったか?」
「………」
まあいいか、と言いながら、男は少女の首に太いリングを巻いた。
魔法の道具らしく、きゅっと首にフィットしたが息苦しさはなかった。
「俺は他にも仕事があるんでな、それをつけて大人しくしててもらうぜ」
「…こんな物、無くても逃げたりはしないわ」
「を、ようやく喋ったな。まあ、分からんが長い付き合いになるかも知れないんだ。よろしく頼むぜ。大人しくしてりゃ、良い事たくさん教えてやるよ。くくくっ」
少女に顔を近づけていやらしく笑ったあと、部屋を出て行った。
少女はとある国の公爵家の正統後継者だ。
現在は後妻とその連子がその家を牛耳っている。
要するに少女は予備か、その後妻親子を追い落とすための道具なのだろう。
そんな娘に乱暴を働いても構わないと言うのはどうなのか、と言えばこの世界には魔法があって、その気になれば処女に戻すことすら可能だ。身体が元に戻ったとしても心は、などと言う心配もない。心を弄る魔法もあるが、人間の精神を支配する程度のことは魔法すら必要としない様な人間達だった。
そもそも少女の気持ちなど気にも留めていない。
「じゃあ、大人しくしてろよ。帰ったら可愛がってやるからよ」
男は本当に冒険者なのか武装して数日留守にするような生活をしていた。
武装して出掛けたからと言ってモンスターと戦っているかは分からないのだが、どうやらなんらかの契約状態にある様で、少女の身体からは魔力が抜き取られ、その代わりに経験値が入った。経験値とはなんらかの行動をとって得た能力などを他の能力と交換したり出来る不思議な何かで、一般的に数値で表される。
アジトがあるのは人里離れた森の中で、少女自身は何もできないので、男がいない間は硬いパンと干し肉などで食いつないでいた。家の外は細い道があるだけの森の中。むしろどうやってこんな家を建てたのか。
男とはそう言う事もしたが、それほど悪い物でも無かった。
男と女が森の中の家で特にすることもない時間にそうなるのはむしろ自然だった。
「それでは、これが後金になります」
「えーっと、ひーふー…、おう、確かに」
冒険者の男は渡された革の袋に手を突っ込んで中身を数えて答えた。
「では、娘は返して頂きますね」
「おう。なかなか良い具合だったから、このまま引き取りに来なかったら良いと思ってたんだが、仕方ねぇ」
「ふん、良い夢が見れたとでも思っておくことですね」
「ああ、身の程は弁えてるつもりだ」
「よろしい」
男との別れはあっさりした物だった。
馬車に乗せられ、王都へと向かう。
途中の街で泊まった時に魔法で全身を清められた上で避妊魔法の解除も行われた。
これで何もなかった生娘同然だ。
公爵令嬢にふさわしい装いに包まれて再び馬車に乗り、王都にあるタウンハウスへと乗り込んだ。
「なんだ、わりとそれらしく仕上げてきたな。だが、子供さえ産めればその女自体には用はないんだよ」
数年ぶりに帰った公爵邸には後妻はおろか父親である公爵の姿もなかった。
「まあ、良い。大人しく俺の子供を産め」
あぶらぎった顔の中年男が堂々と乗っ取り目的であることを宣言する。
公爵邸にはその男の他に官僚と思われる男達と護衛の騎士が屯していた。
「お断りします」
「何? まだ自分が置かれている状態が分かっていない様だな…」
蔑む様な目で少女を見下す男。
「残念ですが、分かっていないのは貴方の方ですよ?」
少女がキッと睨みつけると、少女を中心に強風でも吹いた様な圧力が発生して男達をなぎ払う。冒険者の男が留守の間にどんな大冒険をしていたのかは分からないが、彼から分け与えられた経験値だけで、少女は魔法使いとしての能力を最大まで高めていた。
魔力を解放しただけで大の男達を吹き飛ばしたのだ。
少女が呪文を唱え始める。
冒険者に教えてもらった良い事の一つだ。
神代語なのでダメージは少ないが内容は厨二的でちょっと恥ずかしい。
『天と地の間、光打つ精霊よ、古の契約に基づき我が声に答えよ。その刃もて我敵を滅ぼせ』
無差別に放たれた雷光が男達を焼き払う。
「舐めるなっ!! 小娘が!!」
武装した騎士、おそらく立場的には一番低いであろう彼だけが1人少女の魔法をレジストして生き残っていたのだ。騎士は少女を斬りつけた。おそらく魔法耐性を上げる武装をしていたのだろうが全身がミミズ腫れになっていて所々白い煙が上がっている。手応えはあったが少女は怯むことすらなかった。
少女の首に巻かれていたリングがボロボロと崩れて落ちた。
「あ…」
少女はこのまま斬り殺されて死んでも構わないと思っていた。
思っていたが、それが崩れ落ちたのを感じた瞬間、彼女の中で何かが弾けた。
『大地に遍く精霊よ、古の契約に基づき我が声に答えよ。我が剣となりて敵を切り裂け』
騎士の足元に地割れが走り、片方が目にも留まらぬ速さで10mほど持ち上がり、屋敷ごと真っ二つにした。
その日、王城の正面にそびえ立っていた立派な館が倒壊したのだった。
「ただいま」
「んー。なんだ、ただいまって。公爵様なんだろ? こんなところに来ないで王都で暮せば良いじゃねえか」
「嫌よ、あんなところ。それに、まだ教えてもらってないのがあるもの」
「あ? 魔法か? それともアッチの方か」
冒険者の男が椅子に座ったまま少女に向き直りいやらしく顔を歪めた。
「両方よ」
少女は男の膝にまたがってキスをした。
「首輪が壊れちゃったのよ」
「あー? あー、アレか。アレは拾い物だから代えはねーよ? そうだな、指輪でよけりゃあるが」
「付けてくれる? 左の薬指に…」
「物好きだな、お前さんも…」
「だって、私には他に居ないもの…」
「ま、別に良いけどな」
そう言って魔法の収納庫から綺麗な指輪を取り出して、少女の指にはめてやる。
やはり指の太さに合わせて変形してぴったりと収まるのだった。
「今度から、私も冒険に連れて行っていただけないかしら」
「どうすんだ?」
「私もドロップアイテムの指輪を手に入れて貴方に贈るわ」
「ほんと、変わってるな、お前さん…」
「受け取って貰えるかしら?」
「んー、まあ、そりゃ喜んで貰うけどよ」
「本当? じゃあ頑張って探索しなくてはね」
ふにゃりと笑う元公爵令嬢の笑顔を眺めながら、そんな事もあるのか、と思う冒険者だった。
なんかもうちょっと孤独に打ちひしがれる話とか書こうと思っていたはずなんだけど、普通にイチャイチャしてそう…