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夜が明け、街には昨日の喧嘩を忘れたかの様にいつもの日常が流れでおり、バッケンの進路を塞ぐまでは行かないが人通りはそれなりにある様だ。
だが、こんな当たり前の日常が流れているのが渦中でるバッケンにはどうも腑に落ちないでいた。この地の首都で大きな揉め事があると言うのに、ここの民は全くそれを感じさせることもなく、焼き増しの様な日常を過ごす現状にやらせない気持ちがいっぱいであったが、どうも悲嘆にくれる時間も与えてはくれないのか、昨夜の襲撃者であろう者たちが真っ昼間だと言うのに、ご丁寧に分散して追尾しているのが臭いで察知し歩を進める。
港の方へ行けばまた彼らに迷惑を掛けると思い内陸部へと進むと、またある匂いに気付くはめになった。
だが、その匂いを取られた鼻はなんだかいつもと違う感じがした。いつもはいろいろな匂いに混じりながら、近づくにつれどんどんとその匂いを掴んで行くような、指先にだけ掛かっている遠くの物を手繰り寄せ、その手に掴む感じなのだが、今回は直接パイ投げの様に顔に押し付けられたかのように感じられた。
「探したぞ。ほら昨日の下手人だ」
そこにはなんの気負いも無く、その少年の手には何かが入った沙汰袋が握られている。だが、その沙汰袋はどう見てもボーリングの球とか4人家族で煮込み料理を作るくらいの大きさくらいにしか見えない。
「ほら、確認するか」
それは綺麗な放物線を描くかのように宙を舞い、トマトやスイカを落としたかの様な水っぽい音とともに地に落ちた。
「すまないが少年よ。私は君の言っている事が分からない」
「百聞は一見にしかず百見は一触にしかずだ」
少年は覗いて見ろと言わんばかりに沙汰袋へと視線を送るが、想像通りであればそれを目にしたらバッケンは間違いなく吐くと言うかしばらく寝れなくなる気がし、絶対に拾わないと心に決めた。
何より想像通りの物だとしたらこの星の知的生物なら、十中八九発狂ものの代物だ。いくら政争やなんだと知恵ある生き物の汚い所を見て来たとは言え、だからと言ってソレを掴み持ち上げ中身を覗くなど絶対に御免だね。