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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

蛸とこうがん

作者: オルタ

 オスの蛸は繁殖行動をすると、その場で死んでしまうらしい。

 まさに腹上死inルルイエラブホテル。

 じゃあ、つがいを見つけられなかったオス蛸はどうなるのか。

 成長が止まらないそうだ。死ぬまでデカくなり続ける。

 食って、焦がれて、膨れて、食って、糞を海底にぶちまけて、膨れて、食って、膨れて――。



 食っても食っても腹が満ちない。アホみたいなアルコール度数の飲料で脂ぎったフルコースを流し込む。脂とヤニでギトギトしたマウスに触れて、一刻も早くスリープを解除したかった。照明の落ちているモニタには、俺のたるんだ二重あごと垂れた頬、死んだ魚みたいな目が映っている。こんなの見たくない。暗澹とした液晶は、俺の一番汚い部分を、嫌味に良く表していた。モニタよモニタ。この世で一番醜い男を映しなさい。でも俺は除外しろ。


 USBメモリを繋いで、本棚いっぱいはあるエロ画像フォルダを開く。別に独り暮らしだ。覗くヤツなんていない。

 でも、俺が蓄えたエロ画像をイジワル半分で探すような、そんな懐っこい女の子と、いつかは付き合える――そんな妄想は、妄想のまま潰えてしまった。

 それでも、こうやってエロいデータが満載されたハイテク機器を隠している。なんだか、恥部を下着で覆うように。


 フォルダの中には、色とりどりの裸体と痴態の展覧会。でも、どこか倦んだまま、もう適当な一作を選んだ。パンツを下げる。


 さあさあ、やって参りましたマスターベーションターイム♪

 そう華やいでみたって、最近はエンジンのかかりが遅い。

 十分かかって、ようやく血潮が集まり始めた。

 ふんわりした蛸の頭とは真逆に 俺の睾丸が強ばっていく。


 日曜日も夕方にさしかかった時のような気分になる。ティッシュを満杯のごみ箱に捨てる。山盛りのポップコーンを傾けたみたいに、床を転がるDNAの群れ。

 もう、萎びたこれらは生殖器ではないんだ。ただただ、外部刺激を脳に与えるだけの器官。気づいてしまったからなのか。この頃は虚脱感も恍惚感も、すっかり薄れてしまった。


 ユニットバスの上に突っ立って、シャワーを浴びる。脂肪ばかりが詰まった腹がブルブルと揺れる。シャワーをいくらかけたとて、雨だれが穿つ石のように、削がれることはなかった。

 俺自身が、俺そのものが睾丸そのものなのかもしれなかった。


 シャワーを浴びて着替える。歯磨きも億劫なまま、せんべい布団にもぐりこんだ。いやでも俺の脂汗の臭いがした。


 夢を見た。蛸になった夢だ。大きな蛸になった夢だ。

 青く暗い海の底で、ちっちゃくて可憐なメス蛸を見つけた。すいすいとモップのように海底を滑る雌蛸だ。

 俺はその雌蛸を追いかけはしなかった。遠巻きに、己の触椀を触椀で擦り付けてるだけだった。山羊みたいな四角い瞳孔から滲んだ排泄物は深海に溶けて紛れて、何がなんだか分からなくなった。

 

 オスの蛸は繁殖行動をすると、その場で死んでしまうらしい。

 俺という繁殖行動を捨てた蛸は、今この場で生きているのか?


 いじらしいメス蛸は、どこまでもどこまでも小さくなって、ついには見えなくなってしまった。

あとがき

暗い!

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