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コミュニケーションスタイル

作者: 黄昏少年

持病の関係で、気分の浮き沈みが激しく、一度アカウントを削除しました。必然的に執筆作品も消滅しました。とりあえず、どん底の気分から脱出したので再度何とか活動を再開しようと思います。

この作品は過去に小説家になろうにアップロードした作品となっております。

自分の中で一番地に足のついた作品だと思いますので再度アップロードします。

多少筆を加えた部分があります。


2023年9月17日 加筆。

## 出会い


 池袋の東口、そのど真ん中、そこに僕はたたずんでいた。『話し相手募集中』僕はパブリックタグに思い切って、そんなことを書いてみた。


『パブリックタグ』端的にいえば、140字以内で文を書くミニブログの拡張現実版だ。今の気分や、やりたいこと、考えていることなどを、パブリックタグに書き込む、すると関心のある人が話かけてくる。一昔前では、赤の他人にしゃべりかけるのは相当ハードルが高かった。パブリックタグの登場でそのハードルは大きく下がった。アットランダムな人間関係が現代を構成している。心なしか人々の歩む方向も、規則性がない気がする。

 さすがにこのタグはないか……


「ねえ、君」


 そう思い、思考していた矢先、突如話かけられた。まさか本当に話かけられるとは、思わず「はぃ?」なんて疑問形で返してしまった。


「君、要は暇なんでしょ?」


「え、あぁはい」


「私も今丁度暇なのよ」


 彼女はパブリックタグをアップさせて僕に見せつける。


 そこには『暇人です、誰か相手してください。』と記述してある、都会でこんなタグを付けている女性とは一体?


「さっそくなんだけど、ルイク堂いかない?」


 他人とであって第一声の内容が本屋に行こうである。内向的なのか外向的なのかよくわからない。


■■■


 拡張現実とデバイスや、電子書籍がある世界でも、予想外にしぶとく紙媒体の書籍は生き残った。

 なんのデバイスにも依存せず、エネルギーが必要無く、壊れにくい、レイアウトも崩れない、そんな利点から特に技術書などは、いまだに購入者は多い。

 ルイク堂について、そうそう上りエスカレーターに乗って、連れていかされたのは六階だった。コンピュータならびに医学書が置かれているフロアだ。

 エスカレーターで6階に上がると、すぐ目の前のテーブルに平積された本を片っ端から手に取ってゆく。


「今月は大量だなー」


 いい加減カゴがないと持てない量だ。エスカレーター付近にあったカゴをわたすと「サンキュー」といって、ドサドサとカゴに放り込んでゆく。見るぶんには豪快である。

 全部が全部コンピュータ関係の本で、大きさはB5ほどでどれも分厚い。結果として「重い、死ぬ、助けて」ということになり、自分もカゴをとって半分を自分が持つことになった。

 一階の超並列なレジで会計を二人がかりで済ませる。

 店員さんが丁寧に布袋にいれてくれたおかげで、底が抜けるようなことはないであろう。


「暇につきあってくれた御礼に四階のカフェでおごるよー」


 カフェドルイク、池袋ルイク堂書店の中、四階にある喫茶店である。


「飲み物は?」


「じゃあぶどうジュースで」


「ぶどうジュースと、ガヴァジュースそれに、ロールケーキ二つ」


 店員に注文を淀みになく言い終える。


「もしかして、甘い物駄目だったりした?」


「いえ、大丈夫です。いただきます」


「そう、ならいいや」


 書店のカフェで女性と二人、対面して座る。人生で初の経験である。しかもさっき会ったばかりだ。そもそも


「変な話ですけど、なんで僕に話かけたんですか?」


 とその質問は取り敢えずしておきたい。そうしないと落ち着かない。


「今時そんな質問する人、そうそういないよー。まあ、タグと何となくと外見、君割と深い繋がりをもとめるタイプだね。じゃあいっそ名前は?」


矢部隆志(やべたかし)です」


「私は神崎優子(かんざきゆうこ)


 インターネットのある時代と、そうでなかった時代に、コミュニケーションの形は明らかに違いがある。

 昨今、過剰に発達したネットワークの上で展開されるコミュニケーションの形それは、端的にいうなら「希薄な一期一会」である。

 人によっては名前も聞かないで、一緒に御飯を食てさようなら、なんてことも有り得る。「名前を教える」という行為はイコール「深い関係になってもいいよ」というサインでもある。


「神崎さんの仕事はコンピュータ関係で?」


「優子でいいよ、そう、プログラマ」


 内向的なようで外向的、クライアントからニーズを聞きだすのもプログラマ、はたまた技術者の役割の一つだ。よくわからないものが解消されて、こころなしかほっとする。


「そう言う隆志君は学生?」


「はい、一応情報ネットワーク系です」


「お、同じ情報系か、君ウェアラブル端末オンリー派?」


「いえ、スマホありますよ?」


「アドレス交換しようぜ!!私わりと付き合いは、一度はじめると、離れないタイプだよ、最近の若い子はどうもドライで如何と思うのよ」


「何時でも繋がっているでも、集団の中にいるのに、一人でいる感覚になることはよくあるかな、同じクラスなのに名前すら知らない人とかいますし」


 そう言いながらスマートフォンのアプリの通信で互いの情報が交換される。


「まあでも、優子さんと、バッタリ会えたのも、パブリックタグのおかげではあるんですけどね」


「世の中、技術決定論、なところはあると思うけど、技術は何時でも使い様だよ」


「あ……」


「どうしました?」


「この本、家まで持って帰るの手伝ってくんね?」


 この人いつもどうやって買い物しているんだろうか?


## デート?


 スマートフォンが着信音をならして、着信したことを知らせる。

 どうやら電話らしい。

 日曜日の朝9時、もう少し惰眠していたいところへの、モーニングコール。

 大体誰からかは予想がつく。

 布団にもぐったまま手探りで、スマートフォンを手に取る。


<着信神崎優子>


「ハロー元気?」


「モーニングコールどうも」


「あー寝てたか、ごめんごめん」


「いや、大丈夫です、うんで、どうしたんですか?」


「今日暇?秋葉原いかない?」


「いいですよ、何時?」


「11時に電気街口で」


「了解」


「ほいほい、じゃあそれで」


<通話終了>



 割と突拍子のない人だ、非常にアクティブだ。

 スマートフォンの連絡先をおしえてから、時たま、この類の電話が掛かってくるようになった、この前池袋で出会って、数すくない電話友達である。

 最近はウェアラブルデバイスが普及して久しい、スマートフォンというものが、大分駆逐されつつある。

 大概のことは眼鏡型のウェアラブルデバイスでことたりる。パブリックタグを表示し、それを視認できるのも、ウェアラブルデバイスがあってこそである。

 それでも、スマートフォンをもっている理由は、単純にそれが「情報オタク」のステータスになっているからだ。電話のつかえる、自分専用のネットワーク回線、それなりの月額で電話もネットも使い放題。それが今のスマートフォンのスタイルだ。

 プロバイダはウェアラブル端末と、スマートフォンのサービスを両方提供していることが大概だ。二足草鞋で大変だと思う。ネットワーク関係を仕事にしようかと考えている自分としては、若干他人事におもえない。


■■■


 全員が全員そうではないが、理系な人はなぜか、休日の遊びの集合時間にルーズなことが多い。自分は大体集合時間10分前には集合場所に到着しているが、他の人は大概遅れてくる。優子さんも例にもれなかったようだ。

 秋葉原電気街口の時計が11時5分をさしたあたりで、スマートフォンにメールがきた。


<ごめん10分おくれる>


 メールをくれるあたり律儀な方だと思う。友人の中には、20分ぐらい平然と連絡なしに遅刻するような奴もいるわけで……

 暇潰しに、改めて周りを見てみると、パブリックタグには様々な日常が展開されていた。


<冬月電商に用事>


<無線に興味あり>


<今日QQ電気特売>


<ねらわれた金曜日翌日>


 などなど、駅構内をみるだけでその町がどの様なな町なのかパッとわかる。そんなことをしていると、あっというまに10分ほどが経ったらしい。ふと改札の向こうから優子さんがやってきた。

 背が高くお洒落というよりは、落ち着きがある、髪型が性格に似て破天荒、多分くしでとかしていないと思う。


「ごめん、おまたせー、録画したアニメみてたら遅れたー」


「遅れた理由が、斜め上ですね」


「いやさほら、途中でとめられなくなっちゃってね、いやーお昼奢るから、許して」


「いや、そんな待たされていないし、いいですよ」


「いえいえ、誘ったのこっちだし」


「そういえば、今日の目的なんですか?」


「まあ、特に用事はない、強いていえば、市場調査?」


 やっぱり突拍子もない……まあ慣れてきたけど。


「それより、そのタグなんですか?」


<彼氏いないけどデート>


「え?いや?」


「じゃあこっちも」


<デートだけど彼女いない>


「ネガティブだね。記述の順番だけで印象がかわるね」


 一昔前なら、「リア充爆発しろ」とか言われそうだ。

 「さて先にお昼をすませよう」と言って連れていかれたのは、ケバブ屋だった。お昼時一歩前だけあってそこまで、混雑していない。

 このケバブ屋の丼メニュー、肉がやまもりで、暫くしないと白飯がみえない、正直成人男性でも小食な人はまずお腹にはいらない。

 優子さんは平然と大盛りを注文、僕は普通盛りでとか言ったら、「え、たかるときは思いっきりたかりなよ」とか言われたけど、お腹に入らないので、丁重にお断りした。


「優子さん、いつもこんな感じの飯食べてるんですか?」


「わたし、体の燃費が大層悪いらしくて、全然太らないのよ。あ……ゆっくり食べてて良いよー」


 注文がきてから10分ほどで優子さんの丼はすっかり綺麗になっていた。対して僕の丼はまだ3分の1残っている。なんとかお腹におさめるけれど、暫く肉料理は遠慮したいと思った。


「後はQQ本店の地下1階だね」


「サーバーもの置いてあるんでしたっけ」


「そうそう、グラフィック性能はいらないけど、単純にCPUパワーが欲しい」


 色々と店を転々とした。軒並み値上がりしている様子だった。優子さんは「お財布にやさしくない」と一言嘆き、結局何も購入しなかった。


「ねえ、マイクロラボでまったりしない?」


「マイクロラボ?行ったことないです」


「なら、丁度いいや」


「どんな所?」


「行けばわかるさ!!」


 マイクロラボは牛丼専門店コマンドサンボの向かい、PCガンガンと同じビルの3階にある。貸し工房とカフェを綯い交ぜにした感じの雰囲気をもつ空間だった。秋葉原にはチョクチョクあしを向けるが、こういうコアな空間があることを初めて知った。優子さんはどの程度秋葉原を利用しているのだろうか?

 優子さんは、初期料金をさりげなく僕の分まで払ってから、奥のスペースを確保する。

 おもむろにノートPCを取り出す。


「ThinkBoard主義者だったんですね、優子さん」


「そういう君はLet'sBook派なのね」


「きっちりしたノートは大体この二択になる気がするんですよ」


「うん、パワーを求めるとThinkBoard、持ち運びの手軽さを求めるとLet'sBookになるよね」


「隆志君はOSは何か拘りはある?」


「Linux系列を使ってますVineLinuxです」


「日本語ディストリビューションの代名詞だね、なんだかんだ言ってもも扱いやすいよね」


「そういう優子さんはOSなに使ってます?」


「NetBSD」


「随分とコアですね」


「シンプルさを突き詰めると、ここにたどり着くよ」


 二人して椅子にすわり、とりあえずは無線LANに接続する。


「隆志君はコーディングするのは好き?」


「とりあえずC言語やってますけど、下手くそです」


「今の世代の子にしては珍しいね、JavaやPython、Perlじゃないんだ?」


「なんかC言語って世界共通語みたいなところありません?」


「うんCは出来るにこしたことはない」


「そういえば優子さんプログラマでしたよね?いったいどんなことやってるんですか?」


「基本的に何でもやるよ?フリーランス、今はWeb開発が多いかなー」


「唐突だけど隆志君はなんでLinux使ってるの?」


「多分……好奇心です」


「いいね、知的好奇心は本能的なものだよ。素直になろう」


 そんな会話をしていると、不思議と楽しかった。こんな形で異性と話をするとは思ってもみなかった。

 それに、彼女に褒められたように思えて、すこし胸が高鳴た。


「好奇心といえば、私も気にしていることがあるのよ。パブリックタグを日常的に使用しているパブリックタグネイティブ世代的に、今現代のつながりの形、私たちには少しわかりづらい、言ってしまえば『君たちの一期一会』ってどう思うの?当たり前のことだったから考えたこともなかったかな?刹那な一期一会を繰り返す現代だと、こういう話しにくくてね」


「考えていないという点は正直な話図星ですね。あまり、というのが頭につきますが……今考えるなら……有り体なことろから言えば、文通から電子メールになって、電子メールがLuineやTawitterになって、パブリックタグになった。段階が進むに連れて、やり取りは手軽に、高速になった。同時にちょっとやり取りが雑になったのも事実だと思います。結果今『関心のある人と出会て用事を済ませてさようなら』という形に落ち着いている。僕のあり方の問題もあるかもしれませんが刹那もしくは『希薄な一期一会』のように思います。情報で満たされているはずなのに、コミュニケーション手段が増えたにもかかわらず、希薄に感じることがある。けれど皆その中で生きていて、僕も含め大きな違和感を感じてはいません」


「そうね。その過程と今ある現実が結果だと思うね。それが良いか悪いかと断ずるのは難しいところよね」


「現代をネイティブで生きている世代だからこそ、違和感がわからないというのが正直な意見です。ただ、きっかけが増えたというのも事実かなと、そうやって優子さんと出会えたわけですし」


「嬉しいことを言ってくれるね!!そう、きっかけは重要だよね。出会うきっかけや、物事を知るための手がかり、そういったものは現代になってから爆発的に増えた」


「そうですね、きっかけは多分増えたのだと思います。でもそれを続けるかどうかはその人次第だと思います」


「そっかー」


 優子さんは意味有りげに微笑んでいる。はて何か上機嫌になるようなことを言っただろうか?

 夢中で会話をしているうちに時間は瞬く間に過ぎ去った。


■■■


「そろそろ、切り上げて帰えるとしましょうか?あ、あと、ちょっと家寄ってく?渡したいものがある」


「え?あーはい、寄っていきます」


 優子さんは池袋在住で僕は西武線沿いにすんでいるので、通り道だ、ちょっとした寄り道である。

 優子さんの住んでいるマンションは池袋にある時点で、結構なお値段すると思われる、そこら辺、やっぱり彼女は腕利きのプログラマなんだろうなと思う、一体年収いくらであろうか?

 優子さんのマンションの一室の前で、待っていると


「ほい、これ」


 数冊の本をてわたされた。


 プログラミング言語Cとは


 C言語入門書の次に読む書


 一般のLinuxプログラミング


「これあげる、適当に読んでみると良いよ」


「え、いいんですか?」


「いいのいいの、わからない所あったら、連絡をくれればいいよ。あと、送って行こうか?」


「いや、大丈夫です。なんというか、色々ありがとうございます、うんじゃまた今度?」


「うん、またねー」


 なんだかんだいって彼女は面倒見の良い方なのだと思う。

 あと渡された本はどれもボロボロで、色々なところにポストイットが貼られている。多分、優子さんはプログラマとして、センスのある方なのだろう。でも、それとは別にそれを研く努力も惜しまなかったのだと思う。

 それをこのボロボロな技術書三冊が証明しているように見えた。


## 告白


<モバイルバッテリーほしい>


 僕は優子さんと、二人してこんなタグをつけて秋葉原の裏手を歩いていた。なにも珍しい光景ではない。

 道をとおる人は、それぞれで<サーバ用ックマウントケース><タイマICほしい><FXシリーズ買いに来た>などなどそれぞれタグをポップアップさせて秋葉原をねり歩いている。当然店員さんもそれに目を光らせて、集客をするようになった。個人によってパブリックタグの使い方は違うが、主に秋葉原は買い物をする街なのだろう。買い物目的のタグ表記されることが殆どだ。


「そこの歳の差カップルさん、モバイルバッテリならウチで扱ってるよ!!専門店だよ!!来ない?」


「え、マジ?そう見える?いくいく」


 裏路地にあるお店の店員さんに話かけられる。もはやナンパに近いやり取りだ。ニーズに合致しているとはいえ、なんと勢いのよい二つ返事である。案内されて優子さんは店員さんにひょいひょい付いてゆく。当然僕も金魚の糞のごとく付いてゆく。

 案内された店は雑居ビルのなかにある小さな店舗だった。固い鉄扉を開くと。そこにはところせましとモバイルバッテリーが並んでいた。よくぞここまで品があるものだと関心する域である。


「うちモバイルバッテリ専門のお店なんよ!!容量どれくらいのお求めですかね?」


「ThinkBoardを充電できるぐらいハイパワーなやつ」


「無くもないよ!40000mAhなやつがある。彼氏君は?」


「現在のスマホ3回ぐらい充電できるもので十分です」


「それは余裕だよ」


「うーんさすがノートPCにおいてLet'sBookバッテリの持続時間は頭一つ上だね」


「まあ用途に違いもあるので、あ、いくらですか?」


「彼女さんのが30,000円、彼氏君のが12,000円だね」


「オウ、懐に結構な打撃……」


「しかし専門店でこの価格だと、大概のお店でもこの価格だと思われますね」


「うん、そうだよねー、あー背に腹は変えられない!!」


「毎度あり、お宅らは情報オタクとみる、そのよしみで少し負けてあげるよ!!」


「え、良いんですか?」


「うん最近は情報技術があたりまえすぎて、オタクの減少がたえなくてね……このままだと将来が危うい、なのでリピータを確保する路線なんだよ」


「なるほど機会があったらまた来ますよ」


「よろしくー」


 モバイルバッテリーを買うという目的を果たしてしまったので、手持ち無沙汰になる。正直もっと時間がかかるかと思っていたが、意外に早く用事が済んでしまった。さてそろそろお昼時少しま前だ。


「お昼どうします?」


 秋葉原のジャンクフードもしくは美食事情などは、多分優子さんのほうが詳しいので、手っ取り早く聞いてみることにする。


「うんとね、牛かつなんてどう?」


「多分それなりに高いでしょ?学生の身としては少々値が……」


「君のとなりには大人がいますがね。もっとたよっていいと思うんだけど?」


「いいんですか?」


「バッチコイ」


「なんだか上機嫌ですね、何かありました?」


「うーん内緒」


 時刻11時ジャストにして「牛かつ」の店に到着、比較的速い時間帯にもかかわらず、そこそこの行列ができていた。


「なんか結構並んでますけど?どうします?」


「大丈夫これぐらいならすぐに店に入れる、そして牛かつにありつけるよ」


 優子さんとであって暫くになるが、優子さんは昼食にしろ、おやつにしろ、結構ハイカロリーなものをオーダーする、にもかかわらず、余分な肉がないのである。

 不思議だ……


「どしたの?難しい顔して」


「え!!あいえ、なんでもないです、考え事してただけです。」


 心が下にあったか、真ん中にあったかは、自分でも分からないが、嘘は言ってない。


「不思議だね、まあいいや」


 不思議はこっちのセリフである。


「ねえ、今度映画みにいかない?」


 また突飛だった。しかし断る理由などない、むしろ断りたくないので


「いいですよ。SFですか?」


「なんで分かったし!?」


「情報オタクの勘です」


「ぬースルドイ、実はこの前録画して見ていたアニメの続編なのよ。平日は避けたいよね?」


「いえ夜なら空いてますよ?場所はどこですか?」


「地元池袋だよ、作品的にニッチだから長い間はやらないと思うな、今週の金曜日にどうよ?」


「いいですよ」


■■■


 専門学校の授業が終わり、19時に優子さんと映画館の前で待ち合わせした。分野がニッチなだけあって人が少ないのは気のせいではないだろう。

 結果から言えばその映画は若干トラウマになった。

 出血の量が半端ではなかった。最初のアクションシーンでアクション的な要素が多い作品だと思ったが、そんな甘いものではなく。流血シーンが鮮明に目に焼きついてしまった。

 それにしても、なにか強い意思をかんじる作品だった。少し理屈めいているのは作者の癖かSFの特性か?はたまたメッセージ性が強いとも言えるだろうか?

 とにかく気を抜いてみれる作品ではなかった。

 そして映画のあとはレストランというのが定番である。優子さんは相変わらずハイカロリー路線で僕はその半分ぐらいのカロリーでおさまった。


「近代SFらしい作品かもしれませんね、感想としてはそうですね……生々しいと思ったかな?後はなにか意思の強さを感じた作品でしょうかね?」


「原作は小説で作者は余命がない追いつめられた状態だったらしいよ?だからこそ意思が強いと感じるのかもしれない」


「なるほど、生死を意識するから生々しさが生まれ、余命が短いからこそ、ああいった作品が生まれたのかもしれないと?」


「うん、そうだね、技術も芸術も「意思」がないと生まれない、そのなかで危機的状況は強い意思を生み出す切っ掛けになる。特にに自分の命となればなおのことだろうね」


 優子さんと一緒に長い時間をすごしてきて、感想や印象として「博識で達観している」そして惜しみなく沢山のものを僕に詰めこもうとしているように思う。

 僕にとってそれは、言うなれば、まるで先生の様にうつる。


 優子さんは僕が質問したとき「答ない」ということは無い。わからないことでも、考え暫定的な解を出し、僕に伝えてくる。今も曖昧な感想や抽象的な発言に対しても明確な意見がかえってくる。僕はそういう優子さんと話すのが好きだ。だから素直に聞いて見ることにした。


「唐突ですけどプログラマの才能、センスってどんなものですかね?情けないんですが悩んでて、自分はそこらへんのセンスがないと思うんですよ」


「確かに物を作る上ではセンスは重要だし、努力は万能ではない。でもさ隆志は要は「自信がない」といったけど、コーディングへの意欲と興味はある。けどいまいち伸びないつかみどころがわからない。その中でももがいてみて結果いまネットワークもしくはインフラ構築への道を目指した。違う?」


「はい」


「本当にセンスがないかどうか?それは突き詰めてみないと分からない。君はまだ発展途上真っ最中だよ?でもね、少なくとも言えるのは、進もうとしている道は、選択肢としては十分。ネットワークエンジニアはネットワークインフラを支える技術と知識を身に着けることになる。あらゆる機材があり、あらゆる規約(プロトコル)がある。それを上手に利用する術を頭と体で覚えていく、インフラの構築に関与し保守維持する。そうして知識を蓄えつづけ、トラブルが起これば時間制限の中で、原因の切り分けと復旧をする。24時間の自動化を求められる世界欠かせない存在。でも情報技術に関与するエンジニアは得意分野はあれど、最終的にはある程度、ハード、ソフト、ネットワーク、サービス、それらの設計、計画の知識と技術を習得しなければならない場面に直面する」


 少しだけ様子を見るように間をおいてから


「そして隆志はその素養を十分にもっていると私は思うよ。生活上情報を取り扱うだけならウェアラブルデバイスだけで足りてしまうこの時代けれど、スマートフォンやノートPCが自然と出てきて、会話をすれば、文通から電子メールやLuineやTawitterという歴史上代表的なコミュニケーションツールやサービスの名前が出てくる。これは情報技術に無関心でいられなかった証拠でしょう?」


「そうです」


「それで十分」


 そして少しだけ考えるように目を動かし。


「それにねプログラムはややこしい物が全てではないよ」


 言うが早いかするが早いか、判別する間もなく、僕と優子さんの間に一行のコマンド群が投げ込まれた。


<ほれ!!簡単なワンライナーだよ>

「ほれ!!簡単なワンライナーだよ」


 突然パブリッックタグに優子さん声が重なる。いや言語を読みとってそれをパブリックタグへ送信しているのだろう。なによりも驚いたのは共有視界上で渡されたスクリプトはたったの一行だった。


<ワンライナー?>

「ワンライナー?」


<そう、こういうの楽しいよ?技術は使い様、それをうまく使ってあげるだけでも楽しい世界が広がっているんだよ。一行のコード、コマンドをつなぎ合わせるだけで、言語を読み取りながらパブリックタグへ起こすことも出来るんだ>

「そう、こういうの楽しいよ?技術は使い様、それをうまく使ってあげるだけでも楽しい世界が広がっているんだよ。一行のコード、コマンドをつなぎ合わせるだけで、言語を読み取りながらパブリックタグへ起こすことも出来るんだ」


 正直怒られると戦々恐々としていたけど、意外だった。


<センスがないというのは「言い訳だ」と怒られると思った?>

「センスがないというのは「言い訳だ」と怒られると思った?」


<はい>

「はい」


<世界は広いよ?だからこそ「選ぶ必要」もあるし「センス」も事実あるんだ。その選択に悩むのは当然だよ。特に君のような年頃はね>

「世界は広いよ?だからこそ「選ぶ必要」もあるし「センス」も事実あるんだ。その選択に悩むのは当然だよ。特に君のような年頃はね」


 優子さんの物の教え方は丁寧というのもあるが、それ以上に的確なのだ。的を見るための知識を持ち合わせ、的をいる為の思考ができる。もっと簡単にいえば的確につたえる訓練をしてきたのだろうと思う。

 僕あはプライベートに指定したタグで


<なるほど……有難うございます。優子さんにで会えて良かった>

「なるほど……有難うございます。優子さんにで会えて良かった」


<え、なんと!!それは告白?>

「え、なんと!!それは告白?」


<はい、一期一会の世界でこんなこと言える相手はそうそういませんよ>

「はい、一期一会の世界でこんなこと言える相手はそうそういませんよ」


 情報のやり取りは、パブリックになり、雑になり、高速になり、膨大になり、引切り無しに変化する。一つ一つが希薄になっていく。コミュニケーションの手段は多様で手軽になっても、伝わらないことは多い。

 何となくこの世界を生きていて、その中で情報を意識して感じたものだ。

 だから自分のプライベートが必要で、だからこそ自分の意思は意識して伝えないと伝わらないと。

 これが自分が行きついた着いた暫定的な解。

 故に意識をして口に出して音として、言葉にて伝えよう。


「僕と付き合ってくれませんか?」


<ふぁ!!あ、変な声だしちゃった!!そこは何故スクリプトを使わないの!?>

「ふぁ!!あ、変な声だしちゃった!!そこは何故スクリプトを使わないの!?」


「いや、あえて口頭だけで伝えたほうがいいと思いまして、きっと原始的かなと」


<た、確かにプリミティブなところを!!心情的に斜め上だ。いやこの場合プリミティブ的な意味で低レイヤー?下の方?あぁあいや、個人的には真ん中がいい、いやいやその前に、あーこちらこそよろしく、え、ていうより、私は既に……>

「た、確かにプリミティブなところを!!心情的に斜め上だ。いやこの場合プリミティブ的な意味で低レイヤー?下の方?あぁあいや、個人的には真ん中がいい、いやいやその前に、あーこちらこそよろしく、え、ていうより、私は既に……」


「え?」


<いや、なんでもない、最後のやつはなし、忘れて!!ととととりあえず、これからもよろしく>

「いや、なんでもない、最後のやつはなし、忘れて!!ととととりあえず、これからもよろしく」

 

 揮発する口頭での情報交換、重要な事ならログに残したほうがいいのでは?でも口頭でも変わらずコミュニケーションが成り立つのだと強く感じる。

 ログに残らない情報、おおよそ最も原始的なコミュニケーション手段で、僕よりプロフェッショナルな優子さんこれほど慌てふためくとは意外だった。

 そして忘れろと言われても無理がある。なにせ優子さんの発言だけパブリックタグのログに残っている。僕としても絶対に忘れられそうにない。

 僕が優子さんからもらったワンライナーを使わなかったのは単にログに残るのが気恥ずかしいというたったそれだけだったのは内緒である。

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