”新人”怪盗アミュール!
短編です。大学時代にとある賞に応募した作品になります。
(賞には至らなかったため、加筆修正して投稿しております)
続き物は書きません。
推理物のようで推理物ではないと自負しています。
とある美術館の中で一つだけ展示室の真ん中に、スポットライトに当てられながら、ガラスケースに厳重に守られた、ターゲットにされた“神々の宝玉”を見守るように、大勢の警察が品物に何かが起こらない事を祈りながら、じっと観察していた。
周りは緊張に身を固め、時にはちらちらと、壁に据え置かれた振り子時計や手元の腕時計で時間を確認したりして、これから起こる事に緊張しながら何者かに警戒していた。
すると、部屋に設置していたスポットライトがバチンッと急に落ち、停電した。
「状況確認! 状況確認! 美術館全体の電気が切れています! 至急電気の復旧を頼みます!」
停電して数秒もしないうち、警官たちが装着していた無線機から、外の状況を確認するために待機させていた刑事から無線機の声が届いたことにより、周りにいた警官たちが、何事だ! “神々の宝玉”は!? 灯りを! と各々に騒ぎ出しはじめた。
「おい! こんなことで、騒ぐんじゃない!! 冷静に、素早く、予備電源を入れろ! この隙に“神々の宝玉”が盗まれてしまう!」
「は……はい!!」
ざわつく警察たちに叱咤し命令する声に、ざわついていた警官たちは、気を引き締めて、電気が切り替わるのを緊張気味に、静かに暗闇の中へ眼光を光らせた。
叱咤し警官たちに命令した人物は、県警怪盗対策本部を任された有馬悠作警部である。
今回も、怪盗からの予告状が美術館に届いたことにより、怪盗対策本部に依頼が来た。
怪盗が数多く存在している世の中で、有馬は新しく生まれる怪盗を、初犯で逮捕しただけでなく、盗まれそうなどんなものでも守り通し、取り戻すという多くの実績を持っているのである。
結果論だけでいうなれば、怪盗対策本部は、数多な実績と結果を持ち、県警の数多くある中で、大変優秀な部署であると国民と警察全体が評価している。しかし、怪盗を捕えることもできなかったことも少なくない。
そして今、美術館全体が停電し、有馬が用意した、予備電源のスイッチを入れるように、部下に命令した。
予備電源が入り、復旧するとともに、有馬はすぐさま部屋の中心にあるケースに走り寄った。
外観は無事であるケースの中身を確認する。
「クソッ! やっぱり……先ほどの暗闇の時に盗まれたか……!!」
警官たちが守るはずだったケースの中身は、有馬の言葉通り、盗まれていた。
ケースの中は空っぽで、“神々の宝玉”があった場所には、白いカードが鎮座し、その紙に書かれていた内容は、
“神々の宝玉”を確かにいただきました。
と書かれていた。
「警部!!」
その内容を見て、拳を握りしめてわななく有馬に、開いていた扉から、急いで現れた警官が呼吸を乱しながら、有馬の前に現れた。
有馬より年齢が若いと推測できる警官が、少し息を乱し、深呼吸をし始め、二・三度の深呼吸をして息を正常なものにした若手の警官に有馬は問うた。
「どうした?」
「先ほどの暗闇で分かったのですが、この部屋から逃げていく人物を、他の配置にいた警備員が見かけたようです!」
「そうか! ならその人物のもとに連れて行ってはくれないか。本人に話を聞きに行くぞ」
有馬は警官を労うように、肩に手を置いて、指示を仰いだ。
「はい!! こっちです!」
「お前ら! 数名ほどここに留まり、どうやって盗んだのか、現場検証をしていてくれ! そして、他の者は俺に付いて来てくれ! 盗人を追うぞ!!」
「はい!!!」
走り出した若手警官を目の端に止めながら、ほかの警官たちに、有馬は命令を出し、走り出した警官を追った。
先頭の若手警官は、有馬と大勢の同僚を連れて、美術館の廊下を一目散に走っていた。
「おい! まだか!?」
「はい! もう少しです!」
有馬は先頭の若手警官に声をかけると、彼は有馬の問いに答える。
「おい、本当は逃げた人物を見た警備員がいたなんて、本当は嘘なんだろう……?」
「なに……っているんですか。本当に……ってここです!」
「うお!?」
怪訝そうに問いかける有馬に、若手警官は頬に汗を垂らしながら、警備員がいる場所にたどり着くことで、案内役をまっとうし、止まった警官に有馬はぶつかりそうになりながらも、ギリギリのところで足を止めた。
「警部……? どうされたのですか?」
「そ……そんな……」
「なあ……おい……」
「……!?」
連れ添った警官たちも遅れて立ち止まり、固まって足元を睨みつけている有馬に、刑事の一人が代表して、問いかけた。
しかし、絶望に染まった顔をした若手の警官と、2人して呟く内容を確認するように、彼も視線の先を追った。
有馬が睨んでいる原因を確認したが、目の前に見える現状に吐き気を催しそうになりながら、こみ上げてきそうなものを飲み込んだ。
三人の目線の先には、壁に寄り掛かって倒れていた警備員がいた。
気絶しているように見えるが、警備員の服とまわりには、水の沢山入った赤い絵の具が散らばっているように、大量の血が警備員の服をあちこち散乱していた。
そして、その服の上には血に濡れながら白いメッセージカードのようなものが大枚に散らばっており、すべて同じような内容の文が書かれていた。
――刑事さん。わざわざここまで、お疲れ様です。新人怪盗より
P.S.美術館の屋上に大きな大きなスポットライトを当てて! 待ってるからね!!――
「ふざ……けるな!! 何が『わざわざここまで、お疲れ様です』だ!! 警官を一人殺しておいて、飄々と……。いいだろう……大きなスポットライトで、目を潰してやる!」
「警部……、こんな……、こんなことって……!」
憎しみに染まった顔をしながら、大量に散らばったカードの文を睨み、二度目の拳をきつく握る有馬にすがるように、若手警官は悲しみに震え、血まみれになっている警備員を見つめていた。
「と……とりあえず、警部。指示をよろしくお願いします!!」
「あぁ……、そうだな……。手遅れだと思うが、倒れている警備員の生存確認と状況把握を。それと5名ほど、美術館の屋上に続く階段を見つけ次第、俺の合図があるまで待機。 それから後は俺に続いてくれ!」
「了解!!」
有馬は大勢の警官に指示を仰ぎながら、それぞれ配置に着くため行動を起こした。
絶望し、悲しみに浸っている若手警官を慰める様に、有馬は頭をわしわしと乱暴に撫でる。
「最初、疑って悪かった。お前は、俺に教えてくれただけでなく、案内役を務めたんだ。結果は最悪だが、君は自分自身を誇っていいんだ。…………よくやった」
「警部……、おれ……オレ……」
「今日はもう上がれ。もし、まだ大丈夫であるのなら、俺の方に付いて来てくれ。君の力を信じてるぞ」
「警部……はい! 分かりました!」
「いい返事だ。お前ら!! 行くぞ!!」
「はい!!!」
有馬は優しく、若手警官に励ますと共に、上着の裾をはためかせて、急ぐように出口へと向かった。
美術館の屋上にいる人物は、そわそわしながら、天高く輝く星を見上げ、何かを待っていた。
「来たわね……」
屋上にいるというのに下階から、忙しい足音が幾数個程、響かせて聞こえてくる。
待ちに待ったことが始まる事に、その人物は胸を躍らせるように、立ち上がり身なりを整える。
それから盗まれていた“神々の宝玉”を片手に持ちながら、口角をニッと吊り上げていた。
外に出た警察たちは、たくさんのライトを屋上に照らしはじめ、仁王立ちに立っている人物に集中するようにライトをあてがった。
ライトの中心に当てられている人物は、顔にオペラマスクに似たサングラスを顔にかけて、身体に合ったスーツと、そのスーツには似合わないホットパンツに、アクセントのように赤いスカーフを巻いた太いベルトに身を包み、膝まである編み込みブーツを履いている、推定10代後半の女性が長い髪を風に、はためかせながら立っていた。
そして、その人物に対して、警察の一人がスピーカーを構え、有馬は美術館の屋上にいる人物に声を掛けた。
「お前の希望通りに来てやったぞ!! 殺人者め!!」
「殺人者……? 何言ってるのよ、あの警察官は……。そんなことより、最初が勝負どころ私よね。……ここの人たちに……。私の名前を知らしめなきゃ! これからの怪盗生活が始まるんだから……」
ライトの中心にいる人物は、有馬の声に怪訝そうに首を捻り、決意を固める為に拳を握る。
そして自己主張するように、見上げてくる警察たちに大声で名乗り上げた。
「あなたが何を言っているのかわからないけれど、私は新人怪盗のアミュール! 予告状通り、“神々の宝玉”は頂きました!! それでは、さらばよ!!」
「ちょっと待て! 貴様の名前なぞしるか! 人を殺しておいて、逃げられると思うな! 待機部隊、今すぐとt……」
「ちょっと待って!」
名乗りを上げたことで満足し、踵を返して、その場を立ち去ろうとした新人怪盗のアミュール。
しかし、逃げようとるとアミュールに、憎しみを込めながら、声を荒げた有馬は、おもむろに無線機を取り出し、屋上の扉付近で待機している部下に、有馬が命令を下そうとしたところ、アミュールが慌てて制止する声によって、命令を下すことを止められたことによって、不機嫌そうに睨んだ。
「……なんだ……言い訳か……? 犯罪者に言い訳なぞ……!」
「ほんとに、何言っているのかわからないわ! 私が殺人!? 冗談じゃない! そんなこと、人生で一回もしたことないわよ!」
憤怒しながら反抗するアミュールに、有馬も声を荒げて抗議した。
「嘘も大概にしておけ! 貴様を見たといった警備員が血を出して、倒れていたぞ! しかも侮辱するかのように、カードをまき散らせておいて、何が『殺人なんてした覚えがない』だなんて、よく言えるな!!」
「ん……ん~? ……あ、あぁ! あの警備員のことね!!」
アミュールは有馬の言葉の真意を考える様に首を捻り、数秒もした後、思い出したようにパンッと、アミュールは手のひらを合わせて、一人納得していた。
「あの警備員は、まだ生きているわよ。私を追いかけてきたから、鳩尾に一発、私の蹴りをお見舞いしただけ」
「なに!? じゃあ、あの散らばった血はなんだっというんだ!」
「そんなの調べたらわかる事だけど――」
有馬の質問にアミュールは、自分の唇に人差し指をあてがい、意地悪する子供のように、悪戯っぽく口角上げて、勿体ぶるように話を止めた。それはとあるタイミングを見ているかのようだった。
「警部! 報告です!」
「報告はあとだ! 新人怪盗と名乗る殺人者の話が先だ!」
美術館の出入り口から、現れた警官に有馬は一喝すると、アミュールは口を開いた。
「まあまあ、刑事さん。部下の話でも聞いてみたらどう? 私の口からいうより、真実味はあると思うから」
「なにっ……!? あ奴の提案には乗りたくないが、報告をお願いする」
有馬は仕方ないというように、眉間にしわを寄せて、腕組みをしながら警官の方に向き直り、指示を出した。
「は……はい! かしこまりました! それで報告なのですが、殉職したとお見受けしていた、警備員の意識が戻りました! 意識が戻る前に、どこも怪我をしていないと確認も出来たので、散乱していた血痕を調べてみたところ、血糊であると判断できました! よって、今回死人は居ませんでした! それでは報告は以上です!」
「な……なんだと……」
「ほらね。私は人を殺して無いモノ、冤罪も甚だしいわ!」
警官の報告に有馬は目を丸くし、アミュールは自慢げに胸を突きだした。
「ならなぜ、あんな勘違いしそうな事をしたんだ」
有馬は馬鹿馬鹿しいと思いながら、呆れたように、アミュールに聞き出す。
「なぜって、あれは一種の演出よ。派手な演出だったでしょう? 赤く散らばる血痕に白いカードを添えれば、どんな愚鈍な相手でも、見落としがちなシンプルな事もすぐにわかるもの。それに――その方が滾らない?」
有馬の質問に答えるアミュールに、怒りを覚える有馬は、感情に任せて人差し指を突出し罵倒する。
「とんだイカレ話だな! 貴様は人の命を軽々しく扱っただけの、サイコパス野郎だ!」
「ふーん、この芸術観が分からないのね! あと、私はサイコパスじゃないわ! 私は怪盗よ! ただ、演出をするためにはどんな手段も選ばないだけよ!」
「手段を選ばないとはいえ、していいことと、して悪いことがある。その片方をしてしまった、貴様自信を憎むんだな!」
アミュールと有馬の言葉のドッチボール状態の抗争に口出しをせず、やり取りだけを見ていた警官たちは、事の成り行きを見守っていた。
見守りながら有馬の人に対する命の尊厳さを、大切にしているような言い分に感動している人と、アミュールの感性に対して、共感している警官がまばらにおり、頷いたりしている人と別れていた。
「まあ、貴方は私の感性に共感できないようね。でもまばらだけど、私の言い分に共感している人たちがいると、お見受けしたわ」
周りの警官たちを見て、アミュールは勝ち誇ったように笑う。
「ふんっ! 感性に共感だと……? ただ共感していたとしても、我々警察は法を守り尊重する人間の集まりだ。一時の共感程、一度の感性だ。そして酷く脆いものはない!」
有馬は、自論をアミュールに聞かせるように、高々と感性に対して否定していた。
「まあ、そうよね。怪盗と警察は、逃げる者とそれを捕える者で、もともと相容れぬものだし。そういうのは百も承知よ」
アミュールは指を唇にあてがい、どうでもよさそうに有馬の話を聞きながら、言葉を続けた。
「……貴方との会話、とても感情的で退屈しなかったけれど、子供の罵り合いみたいで、すごく疲れたわ」
「ふっ、そうか。そうだな。……なら俺たち警察は、お前を捕えるだけだ」
有馬は鼻で笑いながら、アミュールの呆れ気味な態度に背を背けると、手に無線機を持って口にあてがい、機械に向けて一言叫んだ。
「待機部隊! 突入!!」
「えッ……ちょッ……!?」
「了解! 突入――!!」
有馬の一言により、屋上の扉の前に待機させていた警官たちが押し入り、バタバタと屋上に数人の警官たちが、アミュールを一定の距離を保っていつでも捕えられるように囲んだ。
「さあ、下には俺たち、貴様の後ろには警官たちだ。逃げ場なぞないと思え……?」
「……ッ!!」
じりっとアミュールとの距離を詰めて、捕えようとする警官たちと、有馬はどちらが悪役かどうかわからない笑みを湛えて、焦りを見せるアミュールの成り行きを見守る。
「ふっ……、あっはははは!! いいじゃない!! そうこなくっちゃ!」
「なにがおかしい……」
焦っていたように見えたアミュールの高い笑い声に、眉を寄せる有馬。
「あなたの自信を、私が打ち砕いてあげるわ! 師匠からの御墨付き! 逃げるが勝ち戦法!!」
「なっ!?」
アミュールは不敵に語ると、地面を蹴り、手すりから身を乗り出して、空中にその身を投げた。そんなアミュールの行動に驚く有馬をよそに、身を投じた身体は、大勢の警官の前から一瞬にして闇夜に隠れた。
「いったい、どうやって消えたっていうんだ!!?」
屋上から落ちていったアミュールを探すように、一人の警官が、落ちていった方向を確認するように、素早く手すりから身体を乗り上げたが、アミュール自身を見つけることが出来なかった。
「ウフフ……」
「どこだ!? どこから声がする!?」
消えたと思った矢先、アミュールの笑い声が、四方八方に響き、有馬も声が聞こえる方向に身体を向けるが、探し人は見つからない。
だが、姿は見えずとも、アミュールの声は、どこからともなく、聞こえてくる。
「私は今、闇夜に隠れた忍者のようなもの。何処を探しても見つかりっこないわ!」
「それでも、お前を捕まえるのが警察だ! 必ず見つけてやる!」
姿が見えず自慢し挑発する声のアミュールに、高らかに逮捕宣言する有馬。
「ところで私と対話してた貴方、名前教えなさいよ」
「何故、俺の名前を貴様なんぞに、教えなければならないのだ!?」
「私は名乗ったのよ? 敵対するにあたって、名前を知っておかないと、呼べるものも呼べないじゃない」
名前を知りたがるアミュールに、交渉するように有馬はニヤリと笑う。
「そうか、まあ、お前を捕まえることが出来たら、いくらでも、名前でもなんでも教えてやろうじゃないか」
「……なるほど、貴方は教えるほどの名前ではなく、どこにでもいる一人のモブってことね。……だからといって名前を知りたいがために、捕まるのはなんだか癪だし、いいわ。モブには興味無いもの」
ひとりでに納得するアミュールに、今までより、感情を爆発させた有馬は目を吊り上げ、失礼なッというように騒ぐ。
「誰が、どこにでもいるモブだ! 俺の名前は有馬悠作だ! よく覚えておけ!」
コントのようなやり取りに、周りの警官たちは苦笑いと呆れを感じながら、アミュールに返答する有馬に同情の表情を向けていた。
「有馬……悠作……ね。覚えたわ! 貴方の名前を知ることが出来たし、また会いましょう!」
「姿を現せ! 怪盗アミュール!!」
「……、やっと、私の名前を呼んだわね! いいわ! 私の姿、見せてあげる! ……ただし、次回からね!!」
有馬は捕まえようにも姿を現さず、捕まえられないもどかしさに戦慄くが、有馬の感情に関係なくアミュールの声は続く。
「これで、さよならよ! 有馬悠作……警部さん♡」
高笑いしながら、アミュールの声が現場から離れていくことを感じながら、有馬は三度目の握り拳を作り、悔しそうにギリッと奥歯を噛みしめた。
「あの……警部……。そろそろ、撤退を……」
刑事の申し訳なさそうな声が掛かるまで、有馬はずっと悔しそうに顔を歪めさせていた。
「あ、あぁ……そうだな……。捕まえることは出来なかったが、みんなよく頑張った。そして、今はもういい時間だ。一度家に帰るなり、警察署に戻るなりして、自身の反省を明確にし、明日になったら対策室で反省会と、怪盗アミュールに対して、今後の作戦を立てる!! 総員、退散!」
「……はい!!」
有馬の声で、捕まえられず落ち込んでいた雰囲気から一変し、警官たちはそれぞれ力を込めて返事をした。
一方、アミュールは、美術館から遠く離れた場所にある隠れ家の一つに身を隠し、嬉しそうに頬を緩ませ少女のように騒いでいた。
「初めて盗んだにしては、なかなかいい代物じゃない? それに師匠が盗めなかったお宝を、盗めたなんて師匠にどう言おうかしら??」
アミュールは手に入れた大事そうに“神々の宝玉”を小さい座布団に敷いた上に置き、それをうっとりと眺めていた。
「はぁ……さすが“神々の宝玉”と言われているだけはあるわねぇ……。神々しさがあってこれを持つだけでも、神に近づけたような雰囲気になりそう……。それにしても、あの有馬とかいう警部、自信ありげにしていたけれど、私を掴まえらなかったから、プライドはおろか、今はよほど悔しい思いしているでしょうね。明日の朝刊が楽しみね」
ふふっと思い出し笑いをして、座布団ごと“神々の宝玉”を手に持ち、用意していたガラスケースにしまい、鍵をかけた。
そして、簡易的なベッドに腰掛け、次は何を狙おうかと思案し始めた――。
――次の日――
昨日の一件から、有馬は一度署内に戻り、対策本部に置かれた自身のデスクに座り、パソコンを起動した。それからずっと、朝まで寝ずに報告書と反省文をワードに書きだしていた。
「おはよう、有馬。今日は出勤早いんだな」
朝一番に扉を開けてやってきた同僚は、デスクを前にしてパソコンを睨み、カタカタと手を動かしている有馬に声を掛けてきた。
「おはよう……。いや、昨日は家に帰ってないんだ……。徹夜でこれを書いていたからな」
同僚の問いに返事しながら目頭を揉んで、イスを仰け反らした。
「怪盗アミュールに対しての報告と反省書か。お疲れさん。……そういえば、新聞の一面にでっかく昨日の夜の事が乗ってたぜ。『怪盗に特化した敏腕警部。新人怪盗に手も足も出ない。今までの功績は嘘だったのか!?』ってさ」
同僚は朝買った朝刊の見出しを有馬の眼下に持って行き、有馬は朝刊に目を通した。
「ふん。マスコミが何を言おうが、今まで怪盗を捕まえた功績は嘘ではないし、“新人怪盗に手も足も出ない”は大間違いだ。あと少しで捕まえられたんだ。忍術を使ったように逃げられたが、忍者はこの世に存在しない。アミュールは怪盗業が新人だったとはいえ、逃げ足が速いだけの人間だからな」
腕組みをして、きっぱりと言い放つ有馬に、同僚は同調するように頷く。
「だな。有馬警部の言うとおり。マスコミが何と言おうと、怪盗どもを捕えているし、逃げられたとしても、次の時には捕まえているから、俺たちの功績は、嘘ではないな。逆に俺たちは頑張ってる方だろう? 言っちゃなんだが、犯罪組織対策本部よりさ」
「あぁ、そうだ。……まだすべて書き終えていないから、怪盗アミュールの対策を考えるのは、みんなが着き次第、会議を始めるとしようか。他の部署の事は聞かなかった事にしよう、愚痴ったと知れたら、怒られる」
「あはは、確かに。刑務所にぶち込まれそうだ。とりあえず、了ぉ解。じゃあ、俺も昨日の件について、まとめ上げるよ」
軽く笑って、ひらひらと手を振りながら自分の席に戻るように立ち去った同僚に、徹夜をしていたとはいえ、有馬はフッと軽く微笑むと、自身の業務に集中した。
数日後――。
怪盗アミュールから二回目の予告状が届いた。今度は、都会から遠く離れた田舎町にあるとされる、“秘宝の書物”を盗むという内容であった。
本来、予告状が届いた場所の警察関係者が、警備をはじめ、怪盗を捕えることになっているが、特別対策室宛てにも届き、有馬を指名するように書かれてあったことから、有馬達は、その田舎町の警備に当たり、“秘宝の書物”が置かれている小屋の近くで取り囲むように見守っていた。
「警部……そろそろ、怪盗アミュールが盗みに来る時間です」
「わかっている。……総員! 注意しろ!! 奴が現れたらすぐに――」
「新人怪盗アミュール。有馬警部さん“秘宝の書物”確かに頂戴しました!」
指示を出す有馬の言葉を遮るように、小屋の屋上から高く笑う声が聞こえ、すぐさま屋上に目線を上げると、そこにアミュールは、巻物を手に持ち、仁王立ちに立って居た。
「現れたな! 怪盗アミュール!! 総員、プランAを執行する! 放て――!」
逃げ出そうとするアミュールを逃がさまいと警備にあたっていた警官たちは、有馬警部の指示により、バズーカ砲を構え、引き金を引き黒い塊を発射した。その黒い塊は数秒もしないうちに捕えるための網が屋上にいるアミュールに向けて展開された。
「あみっ!? ひゃっ!?」
「よし! 捕えた!! A班ただちに屋上を確認しろ!」
「了解!」
アミュールの悲鳴で、有馬警部は手ごたえを確信し、数名に分かれていた一つの班に指示し、連絡を待った。
「け……警部! ターゲットの存在、確認できませんでした! ですが、狙われていた“秘宝の書物”が代わりに網にかかっていました!」
「アミュール! また逃げるのか!?」
警官の報告を受けた有馬警部は、アミュールに呼びかけるように、言葉を続けた。
「…………」
しかし、有馬警部の呼びかけにアミュールは、反応することなかった。そのかわり、冷たい風が有馬たちの頬を撫でつける。
「警部! 風に乗って紙が一枚だけ落ちてきました!」
一人の警官の所に予告状と同じ性質の紙が風に乗って落ちてきたようで、有馬に見せに来た。紙を受け取った有馬は、目を通す。その紙にはこう書かれていた――……。
――まさか、網を利用してくるなんて思ってもなかったわ。今回は悔しいけれど私の負け。でも、負けたからと言って、貴方に捕まるなんて、まっぴらごめんよ。と言うわけで、お宝は惜しいけれど、諦めます。だけど、今度はきちんとお宝を頂にまいります。 怪盗アミュール――
「クソッ! また逃げやがって……次こそは捕まえてやる……!!」
有馬警部は消えたアミュールに対して宣言する。
「だが、一度怪盗の手に渡ったが、死守することが出来ただけでも、前回よりは進歩だな……」
有馬は今回の現状に納得しながらも、捕えることが出来なかった悔しさを顔に湛えていた――。
数日置きに、有馬とアミュールの攻防が続き、捕えることが出来ずにいた警官たちを翻弄したとして、世界の怪盗の一人として、アミュールは一役有名になっていった。
そして、有馬たち警察は、アミュールに対して捕まえることを主流とせず、宝を盗まれないように守ることを主力として力を入れるようになったのだった――。
おわり
怪盗アミュールと有馬悠作警部との出会いと攻防をえがいた内容のはずでしたがどうでしたか?
今後の書き方として参考にしたいので、辛口の感想でもしかと受け止めるつもりですので、気になった個所などがあれば指摘をよろしくお願いいたします。