表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第一話③

 アルバイトを終え、自宅の最寄り駅に着く頃には、夜も深まり町に人影はほとんど無くなっていた。くたびれたスーツを着たサラリーマンがちらほらつまらなそうに歩いているだけ。


 駅のロータリーにある、随分とスペースの狭くなった喫煙所に寄り、煙草に火をつける。

 吸い始めてから一年。もうここへ来るのも習慣のようになっていた。

 初めて吸ったときは、味なんて何もわからなかったが、慣れというのは怖いもので、今では1日に10本は吸っている。


 いや、今でも特に味を感じているわけでもない。ただ、煙草を吸うことで気持ちが落ち着く。

 おそらくそれはニコチンのせいだけではなく、煙草が自分の体を蝕んでくれているから。

 

 緩やかな自殺。痛みのない自傷。

 それが僕の心を落ち着かせた。


 無駄に綺麗な夜空に向かって煙を吐く。

 その白煙が消えるか消えないか、というくらいのところでロータリーの向こう側の人影が視界に入る。

 並んで歩く二つのそれは、背の低めな女の子と少し恰幅の良い青年だ。

 

 手を繋ぎ、仲睦まじそうに歩く二人。


 その女の子、羽鳥萌子は僕の中学の同級生。

 そして、僕の元彼女。


 成績優秀で、図書委員長なんてやっていた彼女は、何の不思議か中学二年生から高校二年生まで、僕の彼女だった。

 中学校からは毎日一緒に帰っていたし、バレンタインも毎年くれた。

 高校生になってからは別々の学校だったが、帰りに待ち合わせてデートもしていた。

 キスだってしたし、彼女に僕の童貞を捧げて、彼女の処女を貰った。


 そして、高校二年生の冬、たしか珍しく僕らの住む街に大雪が降った日。

 

 僕はフラれた。


 何だか理由を色々言っていたような気がするけど、忘れてしまった。

 涙は出なかった。三年以上付き合っていれば、何となく彼女の気持ちもわかっていたから。いや、本当にわかっていたらフラれてなんかいなかったのかもしれない。


 そんな彼女は、煙草が大嫌いだった。

 家でお父さんが吸うから、口も利いてやらない、みたいなことを言っていた。

 もちろん僕も煙草なんて好きでも何でもなかったし、ヤンキーがカッコつけるために吸うような物だと思っていた。


 彼女にフラれたときも、間違っても煙草なんて吸おうと考えなかったし、せいぜい一週間学校を休んだだけだ。


 そして、1年前彼女が今の彼氏と歩いているのに出会(でくわ)した。


 その日も今と同じように、彼女はその青年に笑顔を向けていた。どこかで見覚えのあったその青年は、僕と彼女の通っていた塾の先生だった。僕らが中学生の時から講師として働いていたから、おそらく年齢は10個近く上。みんなから「太郎さん」と呼ばれていて、お兄ちゃんのような、優しい、良い先生だった。

 

 太郎さんは、僕らに向けていたのとは少し違う笑顔で彼女を。

 彼女はいつだか僕に見せてくれていた笑顔をで太郎さんを見ていた。

 

 詳しい経緯はもちろん知らないが、つまりはそういうことらしい。

 

 その日、僕は初めて煙草を吸った。

 

 味なんてわからなくて、火の付け方も見よう見まねで、咳き込みながら吸った。

 煙のせいか、涙目にもなっていた。

 それも誤魔化すように吸った。

 

 そして、今日も僕は煙草を吸っている。

 人気のない喫煙所で、思い出を煙で隠すように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ