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第一話②

 雨の日はやる気が出ないが、晴れの日はもっとやる気が出ない。


 晴れてる日はたしかに気分も上がるけれど、それも何だか無理矢理に気分を上げさせられているような、体育祭でクラス皆で盛り上がることを強要されているような気持ちになる。


 青春の押し売り。

 「みんなで頑張ろう!!」 等という集団心理の育成は、是非ともやめていただきたいものだ。


 そんなこんなで今日も晴れ。


 嫌になるくらいの快晴。


 暖かな日差しが憂鬱にさせる。

 

 晴れているだけでどこか気分が上がってしまっている自分にも嫌気がさす。

 まだ春だというのに、少し歩いただけで汗が滴ってくる。

 汗を拭おうとすると、タオルを忘れたことに気づいた。上り方面の快速電車が来たのはちょうどその時だった。


 ため息をつきながら電車に乗り込む。今日はアルバイトに行かなければならない。

 昼前の時間の電車は、朝の満員電車が嘘のように空いていた。ちらほらと人のいる座席もあった。

 以前は少しでも空いている席があれば座っていたが、座るのも面倒に感じる最近は、目的の駅までは開かない右側のドアに寄っ掛かるようにして立つことにしている。


 大学を辞めてからもう一年。正確には休学という形ではあるが、俺の通っていた大学は特別な事情が無い限りは二年間の休学で退学という形になる。

 そして、今年も大学に復学するつもりはない。

 

 別に、大学という場所で特別何か嫌なことがあったわけでもなかった。

 だが、それ以上にあそこには何もなかった、というのが二年間通ってみての感想である。

 中身の無い会話に、単位を取るためだけの授業。表面だけの人間関係、充実したふりの上手さだけが身についていく周囲。

 

 その虚しさに、嫌気がさした。


 もともと退学するつもりではあったが、両親に、特に母親には休学にしておきなさい、と強く言われたのでとりあえずは休学という形をとった。俺の将来を思ってか、はたまた世間からの目を気にしてか、わからないがまぁどうでも良いことだ。

 幸い、学費は給付型の奨学金で払えていたし、大学に友達もそんなにいなかった俺の休学を止めるものはいなかった。

 授業でよく一緒になっていたバンドをやっている前髪君にだけ、LINEで休学をする旨を伝えて、返事の来る前にブロックした。

 

 何だか返事を見るのも怖かったから。


 と、回想もこの辺までにしておこう。ただでさえ地の文続きなのに、これ以上の回想は読者が離れていきそうだ。


 特にやることもないので、外の景色をぼんやりと眺める。田んぼと住宅街だけのつまらない景色。でも、東京よりは幾分かマシな気がする。

 散歩の時間だろうか、幼稚園児たちが田んぼ道からこちらにかわいらしく手を振っていた。

 お前たちは、こんな人間になるなよ。

 心の中でそう呟く。


 電車はスピードを上げ、次の駅を通過していく。


 時の流れは速い。この快速急行よりもずっと。

 この間まで小学校に通っていた気がする。

 この間まで中学生で教室で好きな子を見ていた気がする。

 この間まで高校生で、この間まで人生は楽しくて、この間までの俺は希望に満ちていた気がする。


 いつからだろう。


 時を「流れる」と表現した人は素晴らしいと思う。 

 目に見えないものに流れを感じて、それを言葉にしたのだから。

 

 たしかに時は流れている。

 それは時に緩く、激しく。しかし止まることなく。

 凪がれることなく、俺たちを薙いでいく。

 それは永らえることもなく。


 どこへ。

 俺たちはどこへ行くのだろう。

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