88 綺麗な氷は湯気に隠して
S²「…………おい、今回の文字量」
シラネ。
S²「確信はーん!」
後悔も反省も無い。
ただ少し疲れた。
今回は音声ないのに音声あるかの如くマジ五月蝿いです。
追記
(修正済み)
S²「ようーつべー」
ノー!
「……それで、帰ってきて、そのまま突然私を拉致してここに来たってこと?」
「そのとーり。ろくに休んでないから、まーた身体がバッキバキだよ。やっぱこの体で魔力解放するもんじゃないね」
「……確かに体の魔力が乱れてるみたいだね。ていうか、残滓だけでも物凄く強大な魔力が見えるんだけど。やっぱりレイちゃんって神様なんだねぇ……」
「まあ私はその中でも結構特別らしいからね。お前の目で私の全魔力をハッキリ見ちゃったら、最悪目がパーンするかも」
「パーン……。……まあ、それはいつもの事として」
ふと、少女、ルーリアが後ろを見る。
「閉館するまでの一時間だけとはいえ、温泉貸切はやりすぎじゃないのかなぁ……」
ルーリア、私、ユウキしかいない、その更衣室の閑散さにため息をついた。
「その分ゴリラがお金払ってくれたからだいじょーぶ」
「ゴリラとは失礼な!」
「んじゃ筋肉ゴリラ」
「酷さが増した!」
「だってお前筋肉じゃん」
「言葉! そりゃ鍛えてるからその通りだけど言葉のチョイス!」
「あはは〜。でも本当に、態々貸切にしなくてもよかったんじゃないかなあ? たったの三人だよ?」
「いや? 六人だよ?」
「六人っすよ?」
「え? ……んんん?」
ルーリアが首を傾げ、上の服を脱ぐ途中で固まる。
すると突然、更衣室のドアが開けられた。
「えっちょ、誰か来て……」
「マスター、よろしいのですか?」
「本当に来ちゃいましたけど……」
現れたのは、二人組の女性。
ルーリアは首を傾げるが、私にとってはよく知っている存在。
「いいんだよ。こいつが先に払ってくれちゃったんだからさ。さっさと着替えちゃいなよ、メルウィー、スーレア」
現れたのは、私の監視役兼一応護衛役の組織の人間、メルウィーとスーレアであった。
「えっと……レイちゃんの、お知り合いさん?」
ルーリアが私とメルウィー達を交互に見て、首を傾げる。
混乱気味のルーリアに向かって、メルウィーとスーレアはニッコリと微笑んだ。
「こうして顔を合わせるのは初めてですね。初めまして、マスターの部下であり、現在護衛役をしております、メルウィーと申します」
「同じく護衛役、スーレアと申します」
営業スタイルで綺麗な礼をする二人。
貴族の目から見てもお手本に出来そうなその所作に、ルーリアは一瞬瞬き、慌てて返した。
「あっ、初めまして。ルーリアです。レイさんにはいつもお世話になってます」
「なんでそんな固くなるの。確かに色々面倒見てるけども」
「いや、なんか身体が自然と……」
あー、まあ歳上だもんなあ。
私はいつも、子供のようにこいつらに接してるけど、もう成人済み、酒盛りできる立派な成年なんだよなあ。
時が経つのは早いもんだ。
『なんかマスター老けてません?』
ババアじゃないし!
『言ってませんよ。ちょっと老朽化したかなと思っただけです』
ひでえ!
『冗談ですよ、半分は』
もう半分はー!?
「マスター、またSさんと話してますねー? ここじゃない所とお話してる顔ですよー」
「あ、バレた?」
「見慣れてますから」
メルウィーに顔の前で手を振られて、私は軽く舌を出した。
まあずっと見られてたらね、バレるよね。
私達の会話にルーリアが首を傾げた。
「Sさん? だあれ?」
「幽霊みたいなやつだよ」
「それはなんだか怖いんだけど……」
『誰が死に損ないの人間の魂ですか』
んなこと言うてなーい!
的確すぎー!
それはドピンポイント悪口すぎー!
「あれ、その目、怪我ですか?」
「っ!」
ルーリアがスーレアの右目の眼帯に気が付いた。
あ、やっべ。
破滅の子はこっちの世界の住人にとっちゃ有名な災害だった。
ルーリアはそんな子じゃないと分かってるけど、大丈夫かなあ?
えと、どうしよう。
「えっと、その……」
「……スーレア、私もいるし大丈夫。外してみせた方が早いよ」
「……はい」
私が背伸びして頭を撫でてやっても、スーレアは震えている。
幼少期のトラウマが深く根付いてるんだろう。
組織の人間は、みな同じような境遇だから、誰もスーレアのことを差別したり、逆に特別扱いしたりもしない。
みんな対等な仲間だ。
でも、ルーリアは違う。
こちらの世界で、普通に、普通の人間として、普通に幸せな環境で育った人間だ。
スーレアにトラウマの幼少期を植え付けた、普通の人間達と同じ、普通の人間なのだ。
怖がるのは、当然だ。
それでも、私は大丈夫だから、と背中をさすった。
「っ……」
スーレアが、恐る恐る眼帯を外す。
閉じていた瞼を、そっと開く。
「あっ……」
ルーリアが、息を呑む。
その禍々しい目に、魅入られる。
「この目は、破滅の子の特徴。破滅の子は、知ってるよね?」
私が、スーレアの代わりに口にする。
ルーリアはゆっくりと頷いた。
「文献と、噂程度だけど……。確か、赤い渦を巻いた目が特徴で、魔力の暴走で、周りを巻き込んで突然死んじゃうんだよね?」
「一応、それだけ知ってるならいいよ。……そして、スーレアはその目を持っている。つまり、破滅の子なわけさ」
「マスターの、言う通りです……」
スーレアが、服の裾を掴む。
メルウィーが、そんなスーレアの肩に手を置き、感情が荒れないように落ち着かせる。
一応知っていたユウキは、黙って成り行きを見ている。
少しの沈黙の中、ルーリアがスーレアに一歩踏み出す。
「その目、少しじっくり見てもいいですか?」
「え……?」
ルーリアは、至って普通に、微笑みながらそう言った。
「文献の中のあやふやな絵でしか知らないから、ちゃんと見てみたくて」
「えっと……その、どうぞ……」
スーレアは少し困った顔をしつつ、ルーリアにその目を見せてやった。
ルーリアも自分自身の目を煌めかせ、ユニークスキルを使ってその目を観察した。
「内側から魔力が溢れてる……。でも、その魔力がどこかに流れ込んで、留まってない……。もしかして、流れ的にその腕輪かな? 首輪とかの場合、首輪に付けられた空っぽの魔石に、体内から除いた魔力を溜め込んで調節してるって聞いたことあるけど、成程、常に放出させるっていうのも手なんだね……。こういう技術は他のところにも使えるかもしれないし……」
ルーリアが観察対象を目の前に、何やらブツブツ言っている。
やばい、知識欲やら好奇心やらが旺盛な秀才モードに。
「えっと、あの……」
「……はっ! ご、ごめんなさい! やだ私ったら、いつもの癖で」
きゃー、とルーリアは恥ずかしそうに顔を抑える。
どうやら我に帰ったらしい。
よかった、あのままルーリアの方が知識欲で暴走されたらどうしようかと。
「あの、ルーリアさん……」
「ああああ。ごめんなさいごめんなさい。目が痛かったですよね!? 本当にすみませんっ! あんまりにも色んな意味で綺麗だったから……」
「きれ、い……?」
スーレアは、その意外な言葉に耳を疑った。
「ルーリアさんは、私が怖くないんですか?」
「怖い? どうしてですか?」
ルーリアはキョトンと首を傾げた。
スーレアは俯いた。
「だって、私は破滅の子で、いつかみんなを、殺すかもしれない、化け物、だから……」
「ええ? ただの可愛らしい、人間の女の子じゃないですか?」
その言葉に、スーレアは顔を上げた。
ルーリアは腕を組んで鼻を鳴らした。
「スーレアさんも、みんなも、悲観的過ぎますよ。そりゃあ、噂とかにも多少事実はあるんでしょうけど、こうして目の前にいたら、ただの人間じゃないですか。可愛らしいのに化け物だなんて、逆に変ですよ」
そう言ってルーリアは、少し頬を膨らませる。
だが自身の言葉のチョイスに気が付き、口に手を当てる。
「あ! 私の方が歳下なのに、可愛らしいとか女の子とか、失礼ですよね!? あーもうっ、本当に色々すみませんっ!」
恥ずかしくなったルーリアが、らしくなくペコペコする。
色々と無自覚過ぎたことを自覚したらしい。
まあ、見た目じゃルーリアの方がスーレアより歳上に見えるもんな。
破滅の子だから、成長速度遅いのは仕方ない。
「私が、ただの、人間……?」
組織の者達意外に、受け入れられたことも、そもそも明かす勇気すらなかったスーレアは、ルーリアの言葉に瞳が揺れる。
「あ、でも。もしかして、これってレイちゃんのおかげなのかな?」
「あー、封印とか調節とか、そこら辺は私の技術だからなあ」
「じゃあ、二人でレイちゃんに感謝しなきゃですね。こうやって出会うきっかけをくれたんですから」
そう言って、ルーリアはスーレアに手を差し出した。
握手の手だ。
「もしかしたらあんまりきちんと顔を合わせることは無いかもしれませんが、仲良くしませんか?」
「あっ……」
その手を、スーレアがそっととった。
ルーリアは、目を細めて、綺麗に笑った。
「スーレアさん。自分を傷付けすぎたり、変に怖がったりする必要、そんなにないと思いますよ。だって今、こうして普通に生きてるじゃないですか。私には、分からない苦しみがあるのかもしれませんが、それでも、今は、生きてる今は、気を楽にしててもいいと思いますよ」
「……っ!」
強く握った手に、涙が落ちる。
俯いたスーレアの、小さな涙だった。
「ありがとう、ございます。ルーリアさん」
「いえいえ。私にとっての普通のことを言ったまでです。とりあえず、温泉を楽しみましょう?」
「……はいっ」
いやー、イイハナシダナー。
お母さん涙ちょちょ切れそう。
『ほらやっぱり老婆感……』
お母さんです!
「スーレア、今日は私もいるし、眼帯外して入れば? いつも眼帯とかつけっぱなしで気になってるでしょ」
「え、いつも着けっぱなしなんですか?」
「まあ入浴中とかに万が一完全に封印解けたら不味いからねぇ」
「そのまま暴走したらみんなに裸体を晒す羽目に!?」
「うるさい黙れ変態ゴリラ」
「ごふっ!」
謎の着眼点を見せてきやがったユウキを魔力玉ヒットで撃退。
まあ確かにそれは間違ってはいない懸念である。
でもそうじゃないし、論点が違うそうじゃないだし。
「えっと、いいんですか? 外したままでも」
「はっ、私を舐めんなよ。視界に入る範囲にいるなら何時でもどうにか出来るよ。だから安心してリラックスしなって」
「……はいっ! ありがとうございますっ!」
「良かったわね、スーちゃん」
「うんっ」
あー、一件落着だ。
良かった良かった。
「まあスーレアの眼帯問題が解決したところで」
私は脱いだ服の方に目を向ける。
「ツララ、お前の主人はまだ来れないの?」
私がそう言うと、私の脱いだ服の下からモゾモゾと何かが出てくる。
それは今日ダンジョンで出会った、アイシャに一番懐いているゆきんこ、ツララであった。
ツララは顔を見せると、うう〜、と小さく唸りながら、手を頭に当てる。
アイシャと交信しているのだろうか。
「えっ! 可愛い〜!」
(ビクウッ!)
その可愛らしいツララに反応したのは、可愛いもの好きのルーリア。
だがルーリアが私の脱衣カゴにいるツララに顔を近づけた瞬間、ツララは怖がって服の下に埋もれてしまった。
「ああ〜、驚かせちゃったかなぁ〜」
「主に似て引っ込み思案だからなあ。おーい、ツララー、出てこーい」
(……のそのそ)
「あ、出てきた。わぁ〜、やっぱり可愛い〜。なあに、この子?」
「ゆきんこ。雪妖精の一種さ。息吹かれると凍り付くよ」
「うぇっ!?」
「嘘」
「な、んも〜、本当かと思っちゃったじゃーん」
「って言うのが嘘で、実は本当」
「どっち!?」
「実は両方かもしれない」
「どゆこと!?」
(じー)
ルーリアから悪意やら邪気やらが無いと察したのが、ツララは顔を出す。
物珍しいのか、面白い反応をしてくれるルーリアをマジマジと見つめている。
そしてふと、頭をピクッと起こすと、私に向かって手で何かを訴えてきた。
「ん? なになに、アイシャ来れるって?」
(コクコク)
「おっけ。じゃあ掌乗りな」
私が脱いでる途中で掌を差し出すと、ツララはそこにのそのそと登ってきた。
そしてツララの頭上と足元に魔術の方陣が浮かび上がる。
二つの方陣が上下に交差した瞬間、ツララの姿が消える。
代わりに、その場にはアイシャが現れた。
「……ん」
「ええっ!? 何今の!?」
驚いてばっかだなルーリア。
今のは大した魔術でもないんだが。
「物質位置を交換する位置転換の魔術さ。普通の転移よりも楽に転移が行えるのが特徴。何せ二つの物質の座標を交換するだけなんだからね」
「はわ〜。昔習った記憶があるけど、生物でも使用可なんだね〜」
「まあ下手なやつだと転移の途中で窒息死したり、空間にねじ切られたりするけどね。そもそも術者本人が移動するとなると、余計に高等魔術になる」
「楽じゃない!?」
それでも転移なんかよかマシでしょ。
全然疲れないしね。
「んで、ルーリアの驚愕に答えてやってて無視してたけどさ……」
私はアイシャの方に顔を向け、そのままつま先まで視線を移した。
「何故既に真っ裸」
現れたアイシャは、既に真っ裸にマイタオルを持って、準備万端であった。
だが、他の人間が沢山いるからか、少しモジモジしている。
「かか様、温泉、言った……」
「もしここが脱衣場じゃなかったら痴女だぞお前。いやツララで確認出来てたからいいんだろうけどさあ」
「気にしちゃ、負け負けー」
「ノォ! お前がそのセリフ言うのはなんかノー! 昔の純粋なお前はどこいった!」
「かか様の影響……バッチリ」
「すみませんでした」
くっ、私に一番懐いてたこいつに色々と影響してるとは。
何か罪悪感があるなあ畜生。
「えっと、貴方が、アイシャ様ですか? その、初めまして、メルウィーと申します」
「はじ、初めまして、スーレアと申します」
突然現れたアイシャに対して、着替え始めていたメルウィー達も頭を下げる。
アイシャの神聖な空気に、若干気圧されているのだろう。
まあアイシャも強くなったもんなあ。
私も鼻高だよー。
「……じめ、まちて」
だがまだまだ中身は昔のままなアイシャは、私の影に小さく丸まって隠れながら答える。
心做しか、多少プルプルと震えている。
「あー、ごめんね? 重度の人見知りなんだ、こいつ。悪く思わないでほしい」
「いえ、私達も昔はそんな感じでしたし」
「気にしてませんよ。マスターのご友人と少しでも仲良く出来れば嬉しいです」
優しく微笑んでくれるメルウィー達に、裸のアイシャは長髪に顔をうずめつつチラチラと見る。
一応アイシャとしても、仲良く出来るならしたいみたいだ。
ただ昔のトラウマからはまだ抜け出せないのか、人間と接するのは怖いらしい。
「おーい、アイシャさーん? 私まだ着替え途中だから、何時までも壁にしないで欲しいなー」
「あう……」
しょぼくれながら離れるアイシャ。
既に着替え終わっているので、モジモジと髪をいじっているしかすることがないらしい。
頑張ってコミュニケーションをとれ。
私は少ししか助け舟を出さん。
『でも少しは出すんですね』
まああんまりにも可哀想だったら。
それでもまずは自分から踏み出さんと。
「アイちー、大丈夫っすよー。あーしは可愛い女の子みんなと仲良くしたいだけっすからうへへへへー」
「アイシャ、そいつは変態だ。近付いちゃいけない」
「…………ふいっ」
「ちょいちょいちょいちょい。それはあんまりっすよぉー。ちょこっと殴り合った仲じゃないっすかー」
「殴っては……ない。間接的に、攻撃しちゃった、だけ……。あと、素直にタイプが、苦手……」
「ドストレートにクリティカルヒット! あーしの心が痛い! すっごく痛い!」
こいつは裸で何地面をダムダム叩いてるんじゃ。
普通にうるせえ。
「あはは、賑やかな温泉になりそうだねえ」
「騒ぎ過ぎるなよーお前らー」
私は着替え終わると、さっさと温泉の方に出ていった。
「ちょーい、待ってーなレイレーイ」
ユウキ達も慌てて私についてきて、屋外の温泉に踏み出した。
アイシャを助けた後、私達は小さな雑談を交わした。
最近何してたとか、アイシャはSに誘われてダンジョンに来たとか、一通りの騒動をゆきんこ達と一緒に謝ったりとか。
別に私は気にしてないからと、笑って許してやった。
アイシャは悪くない。
恐らく、悪いのは悪意を持って仕向けた奴。
……色々と、どうにかしなきゃな。
そしてユウキは言った。
とりあえず一件落着したしダンジョンを最後まで行こう、と。
元々そのつもりだったからそれはいいのだが、アイシャはこのままでもいいのかなあ、そんな風に少し心配に思った。
だがその時に、アイシャからツララを差し出された。
「この子、アイと遠くでもお話出来る。あと、位置転換の転移も出来る。だから、連れて行ってあげて」
(!?)
驚いていたのは、勿論ツララだ。
突然のことにオロオロして、捨てられると思ったのかポロポロと泣き出した。
するとアイシャは、そんなツララに口付けして、小さく笑った。
「違うよ。一番アイに、懐いてくれて、ゆきんこの中でも、一番強くて、アイが一番信頼してるから。ずっと、アイの隣にいてくれて、嬉しかった。さっきも、しがみついてくれてて、本当に嬉しかった。だからこそ、今度はかか様の隣に、いてあげて欲しいの。アイの代わりに、かか様を守って欲しいの。それに……外の世界が、気になってたんでしょ?」
(ピクっ)
アイシャに言われて、ツララは図星のように反応する。
だが、それでもアイシャから離れたくないのか、外が少し怖いのか、アイシャの顔にしがみついて離れまいとする。
ユウキから、仲間が人間に攫われていると聞いた。
だからこそ、怖いのかも知れない。
でも、好奇心もある。
それに、寂しさもある。
その中で葛藤して、迷っているのだろう。
顔に張り付いたツララを、指で優しく撫でてやりなだめてやろうとする。
「大丈夫だよ、かか様、すっごく優しいんだから。すっごく強くて、すっごくかっこいいんだよ? それに、すごく温かい。だから、怖がらなくていいんだよ」
自然と笑みを零しながら、ツララを宥めるアイシャ。
正直、傍で聞いててこそばゆがった。
本人の目の前で褒め殺しおって。
天然タラシかな?
ツララは私をチラっと見た。
私は、仕方ないなあというように、笑って手を差し出してやった。
「いいよ。来なよ。私の手の上を大きな船だと思って、広い外の世界を、その目で見なって。外敵上等、魔の手どんとこい。私が守ってやる。だから、来たいんなら飛び込みな」
(……チラ)
アイシャと私を交互に見比べるツララに、アイシャは力強く頷いた。
それに勇気づけられたのか、ツララは伸ばされたアイシャの手を伝って、ピョンッ、と私の手に飛び乗った。
私は小さなツララの頭を優しく指先で撫でてやる。
「ふふっ、小さな同行人が増えたね。よろしく、ツララ」
(じー……)
私が挨拶すると、ツララはじっと私の顔を見つめている。
ふと手をにぎにぎし始め、小さな冷気と水分をその手に集める。
冷気が凝縮し、ツララがその手を広げていくと、それはどんどん大きくなっていく。
やがてツララの頭ぐらいの大きさになると、ツララはそれを私に差し出した。
「なにこれ? 雪の結晶?」
それは間違いなく、綺麗な六角の結晶であり、とても丈夫に作られているので暫く形を保っていそうだ。
「ゆきんこ達の挨拶、だよ、かか様。ゆきんこ達は、気に入った相手、見つけると、そうやって髪飾りに出来る、雪の結晶を作って、相手に渡すの」
「成程、出会い頭の花束的な。分かった、ありがとう、ツララ」
(……ニコッ)
おお、笑うと可愛いじゃん。
妖怪チックな顔だけど、誰しも笑えば可愛いな。
私はツララから氷の結晶を受け取り、アヴィーから花の髪飾りを返してもらい、髪飾りに魔力で取り付けた。
うん、可愛い。
良い贈り物を貰った。
やっぱり精霊に直ぐに好かれるように、妖精からも多少好かれやすいのかな。
まあ最初から好戦的だと、話が通じないみたいだけど。
「じゃあ、アイシャはしばらくここに?」
「うん。神殿と、ここを行き来しながら、のんびりしてる。ここなら、かか様以外には、人も殆ど来れないから、ゆきんこ達にも安全みたいだし」
「まああんな扉解けるやつ人間じゃほぼほぼいないでしょ。でももし人間がやってきたら、気を付けるんだよ」
「うん、大丈夫」
頼もしそうにアイシャは胸に拳を当てた。
ふと、私はこの部屋の存在意義を思い出した。
それをSに問い詰めようと思ったが、やはり返事がない。
何か変なバグでも起こっている、そういう感じでとりあえず保留にしようとしていた、その時だった。
『……スター、マスター!』
Sの必死な声が、突然響く。
おお、ようやく帰ってきたか。
どしたん? 急に接続悪くなって。
『それは、その……いえ、単なる接続不調です』
何かシステムにエラーでも?
パンクした?
『あ、いえ、その……』
Sに顔があったなら、青くなった顔で話していそうな、戸惑った声。
私は逆にそれで察した、察してしまった。
あー……いいよ、分かった。
分かったから、今は話さなくていいよ。
『マス、ター』
大丈夫、見えてるかわかんないけど、見ての通り、私は無事だよ。
アイシャも、ユウキも、みんな無事。
だから、今はそれでいい。
『……すみません、マスター』
いいよ、許す。
許すから、次に気を付けて、頑張れ。
『……はい』
Sの声が、普段の平坦な機械の声が、とても暗く聞こえる。
こりゃ、相当心配かけたみたいだ。
私が大丈夫って言っても、余計に落ち込むだけだろうし。
早く気を直してくれるといいけど。
「レーイレーイ、いい加減行こうっすよー。アイちーの説明は、道中で聞くっすからー」
「ア、アイちー?」
「アイシャっちだからアイちーっす! 可愛いっしょ?」
「…………。」
「諦めろ獣神。こいつのネームセンスはゴミだ」
「しっつれいな。じゃあお前もそのゴミネーミングセンスで別の名前つけたろか?」
「勘弁してくれ……」
痺れを切らしたユウキが、アイシャに変なあだ名をつけながら私を急かした。
おかげでレグはやれやれと肩を竦めている。
全く、このバーサーカーは。
「はいはい。分かったよ。じゃあ、また今度ね、アイシャ。今度は何かお菓子でも持ってくるよ」
「ん。楽しみ、してる。ツララも、またね」
(フリフリ)
「ツララ、またねー!」
「まったねー!」
「おみやげきたいー!」
私の肩の上に乗ったツララが、手をいっぱい振る。
ゆきんこ達も、アイシャの頭の上に乗って手を振った。
アヴィーは地面が冷たいからか、ツララとは反対の肩に飛び乗った。
そして私達は出ていこうとした、その時だった。
「あ、ちょいまち」
「ん? どしたん?」
「いきなりどうした?」
ユウキが立ち止まり、私とレグは首を傾げる。
ユウキはアイシャを見つめ、アイシャは首を傾げた。
次の瞬間、ユウキはアイシャの目の前に移動しており、顔と顔が触れそうな距離にまで迫っていた。
「……っ!?」
突然の動きに、固まるアイシャ。
そのままユウキは何をするのかと思うと、アイシャの顔の横に鼻をやり、クンクンと臭いを嗅いだ。
え、なに、犬?
いやいやいや、何してんの?
「この臭い、あいつの……」
「あっ、あああああのののっ」
「いや、でも、何の目的で……」
アイシャが慌てて声を上げるが、気にせず臭いを嗅ぎ続けるユウキ。
いやいやいやいや、本当にどうした?
変態? 変態なの?
「なっ、んの臭い、をっ」
「……うし、なんでもないっす!」
突然顔を上げて、いつもの様にニカッと笑うユウキ。
いや、なんでもなくないよな?
「ふぇ、え?」
「お前、いきなりどうしたのさ? 頭バグった? 匂いフェチに目覚めた?」
「だからなんでもないっすー。って、匂いフェチじゃないっすよ! あーしの好きな匂いはレイレイのだけっすから! どれでもいい訳じゃないっす!」
「怖いわ!」
「まあアイちーの匂いも良かったっすけどね!」
「!?」
「キモイわ! もういい! 行くよ! これ以上はアイシャの教育に有害だ! アイシャじゃあね!」
「あぐぐぐぐー。く、首があー」
私はユウキの首根っこをずんむっと掴んで、さっさと雪の部屋を出ていった。
その後、私はアイシャとの昔話を交えながら、ダンジョンをまたひたすらに登って行った。
正直強大な魔力の残滓が体を蠢いて痛かったが、魔法を使って無理矢理消し飛ばした。
そのまま猛スピードで最上階までいき、ダンジョンボスを倒した後、私達は帰ってきた。
正直異例の早さだと思う。
まあまだ挑戦者私達以外にいないけどね。
街へ帰ったユウキは、即座に日付を確認し、慌ててルーリアを探し始めた。
私は訳が分からないまま、ユウキに片手で連れて行かれた。
どうやらまだまだ休ませる気がないらしい。
というか、片手で私を持ち上げて平然と走れるのおかしいと思う。
都市ビギネルを走り回り、もう夜になった頃、宿に帰る途中のルーリアとセルトを見つけ、ルーリアだけをもう片方の手で拉致し、また走り始めた。
セルトは突然現れたユウキに驚き、ポカンとしていた。
折角二人きりだったのに、想い人を拉致られたのだ。
申し訳なくなり、心の中で謝っておいた。
ユウキの腕力から逃げられなかったからね。
そしてルーリアと私の頭にハテナを浮かべさせたまま、走り続けたユウキの足が止まったのは、とある温泉屋であった。
そこでようやく手を離され、私とルーリアは雑に落とされた。
ユウキは間に合ったー、と汗を拭い、そのまま中に入っていった。
私とルーリアはまだ訳の分からないまま顔を見合わせ、ユウキについていった。
中に入ると、一人の女性、いや、ただの女性ではない、鬼人族の女性が、店員の着物に身を包んで出てきた。
そして私達に丁寧なお辞儀で、ようこそ当館へ、と言うと、ユウキに向き合い、間に合ったようで良かったです、ユウキさん。
そこで、私達はユウキがここを予約していたことを知った。
どうやら、ここに私を連れてきたかったらしい。
そのために、オボロをここに遣わせたそうな。
だが予約をしていたのはいいが、ダンジョン攻略に思ったより時間がかかり、予約日が今日であることに気が付き、慌ててルーリアかっさらって来たらしい。
そのまま私達はあれよあれよと流されるままに脱衣場まで行き、そして現在へ至る。
「わあ〜! 宿のお風呂よりずっと広いね〜」
「本当ね。こんな大きな温泉久しぶりだわ」
「すごーい。煙がいっぱいだー」
湯けむりの向こうにある、岩に囲まれた広めの温泉。
その温泉に、みんな感動して興奮する。
「いやー、いつ来てもここはいいっすわー。そして今日は金に物言わせて貸切にしたからさらにいい!」
ユウキは引き締まった筋肉を見せびらかしながら、ナハハハハと高らかに笑った。
このプチボンボンは。
そんなユウキに、アイシャが近づく。
「あ、あの……」
「ん? どしたんアイちー?」
「アイ、本当に、よかった?」
まあ、予約してた人数に、追加料金で突然増やしてたからね。
一瞬誰の分かと思っていたが、まさかアイシャを呼べだなんて。
アイシャも突然のことにビックリしてるよ。
「ああ、いいんすよ。だって人は沢山いた方がいいじゃないっすか」
「まあ他の客は押しのけてるけどね。金の力怖すぎでしょ。お前どんだけ払ったの?」
「別に、しばらく真面目に狩りすれば直ぐに取り戻せる程度っすよ。だから気にしないで欲しいっす」
その狩りはどちらかと言うと上級の魔物を相手にする気なんじゃないんですかね?
全然安心出来ん。
しばらくそこらのダンジョンやら森やらが荒れそうだなー。
生態バランス壊すのは勘弁な。
「アイシャ様、私達も突然誘われましたし、お互い様ですよ」
「そうですよ。なので、今はユウキさんのご好意に甘えましょう」
同じく巻き込まれた組のメルウィーとスーレアが優しく微笑む。
といっても、こいらは後で何かしらの形で返すんだろうなあ。
そう簡単に恩は貰えないだろうし。
でもそれを言えば、アイシャまで気にしてしまう。
なので、アイシャにはそれを言わず、とりあえず微笑んだ。
かくしてアイシャは素直に騙されたのか、コクリと小さく頷いた。
「ん? ユウキ、さん?」
ふと、ルーリアがスーレアの言葉に疑問を覚えた。
あーっと、そういや冒険者としては基本的にユキでどうしてたっけ。
「なあに、どうかした?」
私は気を利かせて、ルーリアの肩を叩いた。
「えっと、ねえ、レイちゃん。いま、スーレアさん、ユキさんのこと、あの、ユウキって……」
「……ルーリア、それはお風呂から上がった後にでも、本人に聞いてみな。多分、多少は話してくれるよ」
「う、うん、分かった」
不安の後回し。
でも、私達と深く関わるなら、いつかはバレてしまうかもしれない。
だったら、先に、口止めするに限る。
さて、気を取り直して、極楽温泉回の始まりだ。
「……っはー! 極楽極楽だぜー」
「ひゃっ、あつい〜」
「スーちゃん、ゆっくり入ろうね」
「うん。わあっ、結構熱いねえ」
「……ふひゅう」
「あー、こういうのもたまにはいいねえ」
私達は体を洗い、温泉に浸かって、ふはあっ、と息を着いた。
髪を洗う時に、誰が私の髪を洗うのか、ユウキとアイシャ、しかもメルウィー達まで混じって争いになりかけたので、私は火花が散るまえにさっさと自分で洗った。
いやー、何故みんな揃いも揃って私の髪を洗いたがる。
一人でやりんしゃいな。
でもアイシャは折角久々に会えたので、洗ってやることにした。
しかも、人型ではなく、本来の獣の姿で。
「かか様、アイだけ、本当によかった?」
「いいのいいの。お前とは最近会えてなかったんだから。それに、こういう所で洗ってあげてみたかったし」
「じゃあ、ありがとう、かか様」
「どういたしまして」
私は回収したアイシャの抜け毛の入った桶をくるくると回しながら、軽く笑ってやった。
うーむ、今考えてみると、私がアイシャの体を洗ってあげたいっていうのと、みんなのは同じなのかな?
まあ私はアイシャの獣の毛をもふもふしたかったっていうのもあるけど。
あいつの毛は絶品である。
「くっ、アイちー羨ましいぜ。レイレイ! 今度あーしにも!」
「じゃあお前にはなにか高く付けよう」
「何故あーしは有料!?」
えー、だってチョロいこいつにタダでやってやるのもったいないジャーン。
「あ、メルウィーとスーレアは、いつかの機会にやってあげるよ」
「そっ、そんな、恐れ多いですっ」
「そうですよっ。申し訳ないですようっ」
「いいのいいの。普段頑張ってくれてるお礼」
「あーしとの温度差が酷い!?」
上司と部下の仲を舐めるなよ。
これはボーナスです。
「仲いいんだね〜。ところで、護衛役って言ってたけど、どういうことなの〜? レイちゃんに護衛っているのかなぁ〜。あっ、メルウィーさん達が弱そうとか、そういう意味じゃないですよ!?」
慌てて弁明するルーリアに、メルウィー達は気にしてなさそうに笑った。
「分かってますよ。マスター、強すぎますもんね」
「マスターの強さは、スー達もよく分かってます。でも護衛の件は秘密です。任務なので」
「そうですか〜。じゃあ気にしないでおきますね〜。あれ、でも、護衛役ってことは、いつも私の近くにもいたんですか?」
「マスターの側にいるので、ルーリアさんの側にいる時もありましたね」
「わあ、気付かなかった〜」
「こいつらの隠密能力はプロ中のプロだからね。魔法専門のルーリアなんかじゃ絶対見つからないって」
「まああーしには分かるっすけどね」
「ユウキさん、さりげなく私達の自信をへし折るのは勘弁してください」
「貴方はマスターの次に特殊なんです」
「ナハハハ、ごみんごみん」
メルウィー達に真顔でツッコミを入れられ、ユウキは反省してない様子で頭を小突く。
確かにまあ、メルウィー達にとっちゃ、ユウキは私の次に特殊だよなー。
何せ完全に気配を立っているのに、ユウキってば時折完全に四人のいる方向に顔向けてるし。
まあそれが分かっちゃう私もやっぱりおかしいんだけどさ、仕方ないね、私だもの。
「でもそういえば、あの部屋を出たとき、何故かお前達外にいたよね? 一緒に来てなかったの?」
「ああ、それは……」
「……何かに、邪魔されたのです」
「邪魔?」
顔を曇らせ、それから悔しそうな顔をする二人。
二人はその時の状況を説明し始めた。
「あの時、マスターを追って、扉の奥の階段を登ろうとしたんです。でも途中から、何か変な違和感を感じたんです」
「それが異常だと気が付いたのは、完全にマスターと距離が開いて、私達だけが置いてきぼりになった時です。何故か自分達だけが登れない、その異常に気が付いたのです」
こいつらだけ拒まれた?
S、そんな設定仕組んだ?
『いいえ。あそこを通る条件は特にありません。強いて言うなら、扉がきちんと明けられた時だけちゃんと通れると言った感じでしょうか。万が一破壊されても、その先の階段を登れないように』
じゃあ、何かおかしいな?
『ええ、おかしいですね』
胸元のペンダントからSの説明を受け、私は首を傾げる。
そのまま二人は続けた。
「マスターがあの向こうに消えて、見えなくなった時、私達は慌てました。何とかして登ろうと、必死になりました」
「ですが、魔術で飛んでも、かけ登っても、登れど登れど、余計に階段は伸びて見え、私達は完全に置いてけぼりとなり、どうしようもなくなりました。緊急の通信も繋がらない、移動も出来ない。完全に何も出来なくなったのです」
「それで、私を外で待ってたの?」
「いいえ、違います」
メルウィーが首を振る。
私はさらに首を傾げた。
「私達が途方に暮れて、階段の途中で足を止めた瞬間、変な空間に放り出されていました」
「多分、外界から隔離された、監獄のような空間だったと思います」
「誰かに閉じ込められたってこと? え、なに、大丈夫だったの?」
初耳の情報に、私は心配になってそう言った。
外傷はない。
だが、なにか変なことをされていたら、見えない傷をつけられていたら。
しかし、メルウィー達はそれにも首を振った。
「いえ、私達は閉じ込められました。でも、それだけだったのです。閉じこめられて、そのままでした」
「閉じこめられて、そのままずっと。あとはマスターが帰ってくるまで、その場で放置でした。私達自身、もし無理に出ようとして空間にねじ切られたらたまったもんじゃありませんから、黙って待つしかありませんでした。そして、気付いたら外に出ており、マスターとあの場で合流したわけです」
……なあ、S。
『……恐らく、マスターの予想通りかと』
なーんか、かなり読まれてない?
あいつの手の上でコロコロ転がされてたってこと?
全部? 何もかも?
『……あの方なら、本気になればやりかねません』
……はあ、なんかきな臭くなってきたな。
何が目的なんだ、あいつは。
「ですので、マスター。本当に申し訳ございませんでした」
「中で大変なことが起こっていたというのに、何も出来ず、すみませんでした」
メルウィーとスーレアが、温泉に浸かったまま頭を下げた。
私は慌てて手を振った。
「あーあー、いいよ、気にしないで。なんて言ったところで、気にするんだろうけどさ。出れなかったんでしょ? むしろそっちも命の危険があったんでしょ? だったら、いいよ。お前達が私を守る前に自分達の命を守れなかったら本末転倒だもの。だから、気にしないで」
「……はい」
「……すみません」
はぁー、もー。
折角の温泉なのに、暗くなっちゃったなあ。
最近こんなことばっかだなー。
私ムードメーカーにはイマイチなりきれないからなあ。
私がそう悶々していて、微妙な空気が漂う、その時であった。
ふと、隣で腕を組みながら考え事をしていた様子のユウキが、勢いよく顔を上げた。
「よし、気分転換に、覗くか」
「何を?」
「隣の男風呂を」
こいつは何を言ってるんだ。
確かに、隣には男衆が居る。
しかも、隣も貸切、つまり知り合いだけ。
そしてメンバーは、アヴィー、レグ、アレン、ウレク、オボロと中々に濃い。
無理矢理メンツ組んだらこうなった。
だからといって、何をどうしたら覗こうという事になるのか。
さっぱりである。
「レイレイは見たくないんすか! 男衆の語らう姿を! 友情とか、まあ産まれんかもしれんが、そんななんかを! レグとかオボロんとか、あそこら辺のメンバーが今何をしているのかを!」
突然拳を握って力説するユウキ。
いんやー、いやいやー。
「いや確かにある意味気になるけど、それ普通逆じゃね?」
「覗きに女も男も関係ないっすよ! ロマンっすからね!」
「そうだね、どちらにしろ犯罪だからね。どうぞ一人で捕まってく……」
「分かりますユウキさん!」
「正直共感です!」
あれえええええええ?
おーい? メルウィーとスーレアさーん?
あんたらいきなりどうしたー?
「正直私達も見たいです! アレンとウレクの兄弟愛を!」
「恋人としていてくれるのも、友人としていてくれるのも大好きです。ですが! あの二人だけで兄弟水入らず仲良くしてる姿も大好きなんです!」
「そうよねえ、そうよねスーちゃん! ウレクのブラコンな所とか最高に萌えよね!」
「分かる! 分かるよメルちゃん! それに少ししか気が付かずにたじろぐアレンとか最高に可愛いもんね!」
待ってー!
お願い止まってー!
ブレーキ! ブレーキ踏んでー!
『無理ですねマスター』
な、何故だ!?
『きっとアクセルしかありませんよ、今のお二人には』
うぉーい! 戻ってこーい!
「よーし、じゃあそうと決まれば行くっすか! レッツ盗撮っすよ!」
ザパアッと温泉から上がって、地球にいたころ使っていたであろうスマホをどこからが取り出し、竹の壁に近づくユウキ。
盗撮する気満々じゃないですかやだー。
貴重な地球物品を犯罪に使うのどうなーん。
「うぇーい待たんかーい!」
「ごっふう!」
私は軽く疲れながら、慌てて桶をフリスビーしてヒットさせた。
「そもそも! ここ結構良い温泉だから不可視の術と防音の術が壁についてるでしょ! 無駄だから! 無理だから!」
そう、この世界には魔法がある。
その魔法を使った、結構ハイテクな技術がある。
そのハイテクな技術は、時に一般的なロマンをも壊す。
「じゃっかましゃー! だったら登ってやんよ! 壁の上では無効になるって知ってるんすよ馬鹿め! そんなロマンぶち壊しフラグは叩きおってやるっす!」
しかしそんなものはなんのその。
興奮した変態ゴリラには通じなかった。
「やめて! フラグ成立させてあげて! お願いだからそっとしておいてあげて!」
「ユウキさん! どうか二人の動画とか撮って貰えませんか!」
「萌える二人の兄弟愛を記録動画に!」
「よっしゃ任せろっすー!」
「こらこらこらこら! やめんかい! 止まらんかいおみゃーら! ちょっとルーリア! ルーリアも止めて!」
私は必死にユウキを壁から引き剥がそうとしながら、ルーリアに助けを求めた。
「……私も、お兄さん大好きなリグアルドが丸ごと好きだからなぁ」
「ダメだ! ブラコンバカしかいない! ちょっとー! 我が友アイシャー!」
私は最後の頼みの綱、アイシャを呼んだ。
だがしかし。
「すぅ……すぅ……」
「寝てるだと!? この状況で!?」
岩に器用に頭を置いて、アイシャは眠っていた。
能力を使って疲れたんだろうねーそうだねー仕方ないねー。
『マスター、一人で止めるしかない模様』
のおおおおお!
こいつ強くて止められなああ!
てかツルツルした竹の壁を登るとかマジで反則ー!
ジャンプしても届かなああ!
「よーし! あとちょっとで……!」
ぎゃーす!
竹のてっぺんに手をかけやがったー!
「レッツ覗き」
「ふんっ!」
「み゛っ!?」
突然、ユウキの顔面にパンチがめり込んで、ユウキはドシャアッと地面に落ちた。
い、今のパンチは……。
「テメーの変態奇行なんざ読めてんだよバーカ! そこで眠って風邪でもひいてろ!」
壁の少し上から、黒い髪が覗き、そして消えていった。
「ぐ、ぐぬぬぬ、おのれ相棒め……よく分かって、る……ガクッ」
ユウキはそのまま倒れた。
レグさーん!
ありがとよー!
お前頼りになるなあー!
『面白い所で役に立つ雑魚悪魔、笑ですね』
後で美味しい魔力玉でも差し上げようそうしよう。
とりあえず、こいつは放置して、温泉に入るとするかな。
その後、放置しておいたら寒くて起きたユウキが、温泉入って体温回復してから、また壁を乗り越えようとしていたが、結局レグにまた阻まれ、謎の攻防を繰り広げていた。
私達はそんな何やかんやは放っておいて、仲良く女子トークやら、ダンジョンの話しやら、他愛ない話やらをしてたとさ。
めでたしめでたし。
『めでたし、めでたし?』
温泉が良かったから、めでたしめでたしなのです。
異論は認めん。
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『今回は休憩』
レイ「というかお前は比較的常識人だから止めてくれると信じてたんだけども」
ルー「みんな楽しそうだし、いいかなーって」
レイ「強くなり過ぎだよ……慣れすぎだよ……」
ルー「ところで、あの薄い金属みたいな板はなあに?」
レイ「キニスルナ」
ユウキ「うおおお! 相棒! そこをどけ! あたしはエデンを覗かにゃならんのじゃ!」
レグ「エデンなんかねーよ帰れ!」
メル「ユウキさんファイトです!」
スー「負けるなです!」
アイ「すぅ……すぴー……」
賑やかすぎる温泉。
ユウキの知る壁の秘密は、温泉の人にでもさりげなく聞いたんじゃないですかね(適当)。
そして次回は男風呂回です。
いええええええい!(一番テンション高い)




