85 雪狐のにっき
S²「今回はマジで長いぞ、覚悟しろ、だそうです」
S『うっわ文字量が気持ち悪いことに』
反省はしてますん。
後悔はない!
******
かみ たば もらう した
にっき いう るる おしえる
れい まいちに かく たのしい おしえる
すき ことば あいし ゃ
な まえ じぶん あいしゃ
すき レイ やさしい
ルル すこし こわい
でも やさし い
にっき お しまい
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
たび、はじめ、から。
たいよう、100かい、のぼる。
はじめて、うみ、みた。
きらきら、きれい。
ゆき、ちがう、つめたさ。
れい、るるでぃー、わらった。
たのし、かった。
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
もうなんにちすぎたのかな。
アイたちはとてもとおいところまできた。
あのもりのあったほしから、ずっとずっととおいところ。
アイはたくさんのことばをおぼえた。
まだ、かくのはにがてだけど。
ふたりともほめてくれる。
だからもっとがんばろうとおもう。
いっぱいかきたいけど、かみがもったいないから、ここまでにしよう。
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
今日は、人型に、変化した。
結構上手に、出来た。
これで、アイも、人里に連れて行ってもらえる。
それに、レイやルルさんと、同じ。
それが凄く、凄く嬉しい。
二人も、沢山褒めてくれた。
レイは、耳と尻尾が残ってると、さらに可愛いと言った。
二人の前では、それも、いいかもしれない。
もっと長い時間、変化出来るように、がんばる。
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
今日、変化して初めての村に入った。
そこで、小さな女の子が村を案内してくれた。
その時にその女の子が、お母さんのことを「かか様」って呼んでた。
名前じゃなくて、お母さんって意味らしい。
なんとなく響きが好きだから、私もレイをかか様って呼ぶことにした。
だって、レイはアイのお母さんみたいだから。
ルルさんは、とっても強くてかっこいいから、お父さんかもしれない。
でもやっぱり、ルルさんは未だに少しだけ怖いから、ルルさんって呼ぼう。
日記では、レイって書こうかな。
日記はちゃんと、名前で書きたいから。
それに、レイって言葉を、書くのが好き。
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
今日は何も無い、平和な日だった。
だから改めて、忘れないうちに、旅の初めの頃を少し長めになってもいいから、書こうと思う。
あの日、アイ達はあの星を出た。
出る時は、ルルさんが『時空の扉』を開いてくれて、異空間という所を通って、隣の星に移動したのだ。
レイもルルさんも魔術で飛べるから、てっきり飛ぶのだと思っていたけど、それは随分時間がかかるし、複数の魔術を展開するのが大変だし、途中で簡単に襲われるからそうしたらしい。
そうして次の星に辿り着き、そこから本格的に旅が始まった。
普段は自然の中で野菜や獣を取り、それを料理して食べる。
料理も、初めはもったいない気がしていたが、捨てる所はアイが全部食べたから、特に問題なかった。
それに、やっぱり二人の料理は美味しい。
だからアイも……料理の話じゃない、あの頃の話だった。
旅の間、時々人間の里に入って、物々交換でお金と変えたり、物と変えたり、食べ物と変えたりしていた。
そして、時々、人助けも。
ずっとずっと、そうしてきたらしい。
たまに糸を買って、ルルさんが一から服を作ったりするけど、それがまた上手なのだ。
あの二人はずっと、人間の世界に入ったり出たりして、生きてきたのだ。
だからアイは、特定の場所に留まれない二人を思うと、辛くなった。
そして、いつの日か聞いてみた。
この旅の果てに、何を求めているのか。
ルルさんが、答えてくれた。
「いつか、静かに落ち着いて暮らせる星を、探している」と。
言われて改めて、この二人には、二人の生活が平穏では無くなるくらいに、敵が多いと思い知った。
だから、守ろう。
絶対に、絶対に、レイとルルさんを守る。
アイが、絶対に。
******
ーーーーー
ーーー
ー
******
今日は、本当に怖かった。
恐怖と怒りでどうにかなりそうだった。
でも、かっこよかった。
だから、全部書くことにする。
昼間、レイが攫われた。
攫ったのは、龍族だった。
ルルさんの話によると、龍神勢という、龍族の中でもかなり野蛮な龍至上主義のため、とても危険な連中だったそうだ。
龍族がレイを攫ったのは、本当に突然で、ルルさんが気を失っていた最悪のタイミングだった。
ルルさんは時々、突然意識を失う。
レイによると、ルルさんの中の膨大な魔力が不安定になるせいで、意識を保っていられなくなるらしい。
前にもあったけど、あれはそういう事だったらしい。
アイとレイは、倒れたルルさんを二人で洞窟に運んで、前の時と同じように一緒にルルさんを目覚めるのを待っていた。
そして、タイミングは、一瞬のことだった。
アイは一度レイに頼まれて、一度洞窟の入口辺りを警戒しに行って、問題無かったから戻ってきた。
でも、その時にはもう、レイはどこにもいなかった。
私は呑気にその場でレイを探した。
洞窟の中は広くなかった。
隠れられる場所もない。
なのに、背を向けた一瞬で、後ろにいたレイが消えていた。
横を通り過ぎた気配も無かったのに。
その時、ルルさんから聞いた前に攫われた時の話を思い出して、レイが攫われたのだと気が付いた。
急いでルルさんを起こそうと、本当だったら無理に起こさない方がいいけど、無理矢理肩を揺すって名前を呼び続けた。
何度も何度も、泣きそうになりながら呼び続けて、ようやくルルさんは目を覚ました。
起き上がって寝ぼけていたルルさんは、まず私になんか目もくれず、レイの名前を呼んだ。
レイを求めて手を伸ばそうとする、ルルさんのその腕を止めて、アイはレイが攫われたかもしれないと告げた。
でもその瞬間、正直自分が死んじゃったかと思った。
だって、一気に顔色を変えたルルさんに、首を絞められたから。
いつもの優しそうな雰囲気なんて、少し寂しそうな色なんて、どこにもなくて、ただ怒りに染っていた。
「どうして目を離したの」って、そのまま心臓を掴みそうなくらいの冷たい声音で言われた。
アイは、怖い、怖い、怖い、って泣きそうになってた。
でも、泣かなかった。
今泣いているのは、レイの方かもしれなかったから。
だから「謝るなら後で何回だって謝ります。だから今は一緒にレイを探して下さい」って、詰まった声でそう言った。
それでルルさんは、一時的に首から手を離してくれた。
アイは一気に吹き出た汗を、冷やして無理矢理押さえ込んで、ルルさんと向き合った。
ルルさんは目をつぶって、黙っていた。
そして、ルルさんはその有り余る魔力の全部を解放した。
辺りが、とてつもない威圧感に包まれた。
魔力の量に押しつぶされるかと思った。
普段見えていたのは、ほんの少しだった。
でも、今日見た魔力の量は、元々不安定だったのもあって、ありえないほどの量になっていた。
その中に一つ、薄い魔力の糸が見えた。
薄い魔力の糸は、レイが消えた位置で途切れていた。
その糸は、段々と太くなって、手でしっかり握れるくらいの太さになったところで、ルルさんは魔力の解放をやめた。
あの糸は、レイとルルさんを繋ぐ、鎖のような糸なんだそうだ。
お互いに、何時どこで迷子になるか分からない。
だから、お互いの魔力を使って、どんな場所に行ってしまったとしても見つけられるようにしたらしい。
ルルさんはその糸を右手で掴んで、左手を黙って私に差し出した。
私は人型になって、その手を取った。
ルルさんが糸をつかんで足を踏み出した瞬間、何とも言えない吐き気がした。
異空間に入る時と同じ感覚だ。
となると、空間を渡っていたのだろう。
そのせいで、空間酔いを起こした。
つまり、攫った龍族は自分達のテリトリーにレイを攫ったのだ。
ルルさんじゃなかったら、追跡不可能だったと思う。
アイ一人じゃ、絶対見つけられなかった。
龍族達の空間に入って、直後、武器を向けられた。
そいつらは、嫌な顔で笑っていた。
たしか「獲物が自らやって来るとはな」とか、言っていた気がする。
傲慢過ぎる奴らだ、と思った。
誰を敵に回したか、自覚が足りなかったんだろう。
目の前に見える、この人の怒りの大きさが、傲慢により曇りすぎた盲目で見えていないんだろう、と。
アイは、知ってる。
怒った時のルルさんの怖さを。
ルルさんは、静かに歩いた。
龍族は、剣を構えていた。
でも、ルルさんが横を通り過ぎた瞬間、その剣の先も、その首も、腕も足も、綺麗に切れて落ちていた。
アイの出番なんて無かった。
今のこの人に勝てる奴なんて、きっといないんだろうなって、不思議と確信していた。
そして、龍族の空間の中心地に、特に何事も無く、敵を皆殺しにしてから入った。
でも、その空間内にあった光景を見た時、アイは頭の中が真っ白になっていた。
何の変哲もない、ただの閉鎖された異空間。
その前の通路までと同じく、沢山いる、頭から角が、後ろから尾が生えた人型の者達。
その中心地にあった、鎖で繋がれた巨大な結晶。
でも、その鎖と、魔力の檻の中に閉じ込められたレイの手足にはめられていた鎖が、繋がっていた。
それが分かった瞬間、アイは、全身が熱くなっていた。
ううん、自分だけじゃなかった。
その空間そのものが、熱くなってた。
きっと、あれはアイの怒りに反応して、能力が勝手に発動したんだと思う。
今では大分能力を操れるようになった。
でもいつも、水を氷に変えることばっかりやっていた。
だから、熱い方に温度を変えられるなんて知らなかった。
でも、使えるんなら使おうと思った。
ルルさんが頭を撫でてくれたおかげで、突然開花した力を怖がらずに済んだ。
この人なら、アイの能力なんかに傷付いたりしないって、分かったから。
だから遠慮なく、辺りを灼熱地獄に変えて見せた。
レイの周りには、届かないように、気を付けながらやった。
龍族達は、熱い熱いと叫んで、悶え苦しんでいた。
周りの空気が熱くなったから、龍族も環境の変化に耐えられずに、何人かはそれで倒れていった。
今までの自分だったら、きっと嫌な光景だっただろう。
だけど、今日は正直、ざまあみろ、って思った。
レイを攫って、そのエネルギーを吸収して、自分達の力の糧にしようとしてる奴なんて、苦しんで死ねばいいんだ、って。
罪悪感なんて、全然わかなかった。
……ルルさんの気持ちが、少し分かった気がした。
二人で龍族を完全に皆殺しにして、涙を流しながら閉じ込められてるレイを、檻から出してあげた。
扉を壊して、レイが恐る恐る出た瞬間、ルルさんがその頬を叩いた。
びっくりした。
「なんで、またすぐに助けを呼ばなかったの」って、怒ってた。
また、ってことは、前にあった時も、レイは黙って、自分の力だけで抜け出そうとしていたんだろう。
今回も、密かに自分で檻を壊そうとしてたみたいだった。
レイは泣きながら、「助けに来て、ルルやアイシャまで、同じ目に遭って、傷付く羽目になったら、嫌だった」って。
……レイは、もう少し、自分にも優しくなるべきだと思った。
それに、もう少し、信用して欲しいとも思った。
そんな簡単にやられるつもりはないのに、心配ばっかりされて、なんだか寂しくなった。
それはルルさんも一緒だったのか、似たようなことを言った。
そしたらレイは「ルルが倒れた時に私が狙われた。ってことは、ルルの調子が悪い時を、相手は分かってるってことでしょう? なら、中にはルルをきちんと相手にできる敵だって、きっといる。そのもしもを考えたら、怖くて助けなんて呼べないよ」って。
その瞬間だった。
嫌な目眩がした。
地面が、空間がぐらついていた。
咄嗟に顔を上げて周りを見てみると、辺りが徐々に収縮し始めていた。
まるで、辺りに転がる死体諸共、一つに凝縮するように。
アイ達は気が付いた。
ここは袋のネズミなんだ、って。
アイ達は、計算され、嵌められたのだ。
その空間の外から、声が響いた。
酷く傲慢そうな声で、その主は「その通りだ、愚か者共。感謝するよ、見事に罠に落ちてくれて」と、アイ達を嘲笑った。
慌てていたから、あんまり覚えてないけど、敵の話をまとめるとこうだった。
負けると分かっていた同胞や、アイ達なんかが助けに来ると確信していたレイを囮にして、この龍の空間に閉じ込め、丸ごと一つのエネルギーにし、その声の主が全てを手に入れる。
そんな腐り切った戦法を取ったらしい。
あの声の主は、自分達の同胞を、自分が強くなるための糧としか思っていなかっただろうな。
殺したのはアイ達だけど、あの龍族達は、自分達の仲間に殺されたようなものだった。
敵だけど、それはどうなんだと、腹が立った。
でも、その間にも、空間は収縮していた。
しかも、突然ルルさんが胸の辺りを抑えて蹲った。
まだ、調子が良くなかったのだ。
いつもだったら調子が戻るまで眠らせてあげられてたけど、今回はアイが慌てて無理矢理起こした。
だから、魔力がぐらついたままだったのだ。
アイも、自分の能力じゃ何も出来やしない。
声の主を高熱で殺せてしまえれば良かったけど、どこにいるか全く分からない、そんな存在の周囲の熱を操れる訳もなく、この状況では全くの無力であった。
魔術だって、強力な空間を破れるほどのものは習得していない。
成程、確かに敵は、全てを分かっていたんだ。
レイの不安は、見事に的中したのだ。
なのに、そんな絶望的な状況でも、その中心にいるはずのレイは、絶望なんてしてなかった。
むしろ、その目は少し、不敵に笑っているように見えた。
檻から出て、でも手足の鎖は繋いだままの状態で、レイは右手を掲げた。
アイとルルさんは、そんなレイを見上げた。
そして、レイは言ったのだ。
「言ったでしょ? きっと敵は全部分かってるんだって。つまり、それを考えていた私にとって、今の状況は全部予想通りなんだよ」
私にとってその瞬間、レイはすっごくかっこよく見えた。
「なのに、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓った私が、それをただの予想通りで終わらせると思う? 過ちへの対策を、何も考えないと思う?」
その途端、レイの手に膨大な量の魔力が集まり始めていた。
その魔力は、その鎖から、収縮する空間から、全てを掻き集めるように集まっていた。
「私は、卑怯だ。強くて、かっこよくて、優しい二人が必ず助けに来てくれるって、分かってた。だから、声を上げずに、弱いフリをして、敵が油断する瞬間を待った。一番都合のいい瞬間を、静かに待った。最低な、やり方だよ」
レイは、本当に申し訳なさそうな顔で苦笑いして、それでも魔力の収縮をやめなかった。
敵が根こそぎ奪おうとしていた魔力を、レイが逆に奪い尽くしてやっていたのだ。
たまったもんじゃないのは、明らかに敵の方であった。
敵は、明らかに狼狽えた声を上げていた。
でも、もう遅かった。
レイの集めた魔力は収縮し、やがてその形を、一本の巨大な剣へと変えた。
その魔力の剣を、レイが両手で握り、構えた。
レイは叫んだ、「私に捕まって!」と。
私とルルさんは慌ててレイに捕まった。
その直後、とてつもない斬撃音が、その空間を、私達の耳の中を、切り裂いた。
次の瞬間には、アイ達は、真っ暗な空間に投げ出されていた。
きっと、何処でもない異空間の流れにいたんだと思う。
龍族の空間から抜け出したはいいものの、時空の濁流なんて、ルルさんじゃなきゃ上手いこと抜け出せない。
でも、ルルさんはまだ調子が良くなかった。
敵は、もしかしたらここまで読んでいたのかもしれない。
このままじゃ、時空の濁流に飲み込まれて、みんな魂ごと消えてしまう。
そう不安になって、アイはレイの服を強く掴んでいた。
それでもレイは、敵やアイ達の予想の、その遥か上を行った。
アイ達二人を魔力の糸で縛って、時空の濁流を飛んだ。
地を駆ける獣のように、川を泳ぐ魚のように、空を飛ぶ鳥のように。
悠々と、滑らかに、危険な濁流を飛んでいた。
「ルルが時空の扉を開けるとこ、何度も見てたから」そう、レイは小さく言って、敵から逃れるためにすいすい飛んでいった。
そして、時空の濁流をこじ開けるような穴を、また魔力の剣をつくって、切り裂いて開いてみせた。
だが、ルルさんみたいには上手くいかず、すぐに閉じてしまいそうになった。
その瞬間、ルルさんが手を伸ばして、閉じてしまうのを止め、三人が通れるようにした。
レイは笑って、アイ達を連れてその中を通り、暗い暗い夜空の、でも時空の濁流ほど嫌な暗さではない、どこかの星の星空の下に投げ出されていた。
レイはやってやったと笑って、ルルさんはしてやられたような顔をして、アイは心臓がバクバクと鳴り止まないでいた。
怖かった、でも、かっこよかった。
かっこよかったんだ。
「助けを呼べなかったのは、嘘じゃないよ。もしも、私の考えた最悪の場合が二人に降り掛かったら、本当に嫌だったから」と、レイはひとしきり笑ったあと、さっきの話の続きをした。
「でもね、きっと二人なら来れちゃうんだろうなあって、信じてたよ。だから、ありがとう」そう言って、レイはまた笑ったんだ。
アイは、怖くて、悔しくて、少し怒ってたはずなのに、その笑顔で全部許せる気がした。
だって、信じてくれていたから。
アイも、ルルさんみたいに、信じてもらえる存在になれたんだって。
嬉しかった。
だから、レイと一緒に、落ちた星空の下で笑った。
ルルさんは、怒ろうとしてたみたいだけど、呆れたようにため息をついて、そのまま苦笑いした。
今日は、怖かったけど、でも、変かもしれないけど、楽しかった。
今日はここまでにしよう。
長くなりすぎちゃった。
でも、嬉しかったから、書いてよかった。
******
アイはペンを置いて、インクの瓶の蓋を閉じた。
今日だけで沢山書いた。
でも、思い出は全部抱えることは出来ないから、こうやって記しておかないと。
日記を閉じて、顔を上げた。
今日寝泊まりすると決めた洞窟には、壁に寄りかかるルルさんと、その腕に抱き締められながら眠るレイがいた。
レイは、あんなことがあったっていうのに、すっかり眠りについている。
なんというか、こういう所も強いなあと思う。
……それとも、慣れちゃっているのかな。
分からない、分からないけど、安心して眠れてるようで良かった。
「書き終えたの? 随分長かったわね」
顔を上げたアイに気が付いて、ルルさんがこちらを見る。
「今日のこと、全部書いてました。だから、長くなっちゃいました。紙が勿体ないから、ダメでしたか?」
「別にいいわ。紙やインクなんて、また作るか買うかすればいいもの」
そう言って、ルルさんは一息ついた。
レイと違って、疲れて眠れないんだろうか。
それとも、やっぱりこの人は、何時も起きてるのかな。
アイとレイ、主にレイのために。
「ねえ、ちょっとこっちに来てくれる?」
「……? なんですか?」
アイは言われるままに近付いた。
もしかして、今日のことで怒られるんだろうか。
正直、アイも謝り足りないから、この際に謝っておこうか。
でも、ルルさんの口から出たのは、少し違う言葉だった。
「……この際だから、貴方には全てを話すわ。今日みたいな事は、この先何度かあるかもしれないから。だから、話すわ。私達の全て、始まりを、そして、私達の、終わりの話を」
「終わり……?」
よく分からなかった。
でも、何か嫌な予感がした。
ルルさんはレイに手をかざし、レイの頭を透明なドームで覆った。
「これで、レイは眠ったまま、何も聞こえないわ。これから話す事、その全てを」
ルルさんは私の瞳を覗き込んだ。
その目は、今までで一番、泣きそうな瞳をしていた。
「今までは、まだ貴方に思慮分別が足りてなかっただろうし、まだ完全に信じることが出来なかったから、何も話さなかった。でも、今日貴方は、レイのために本気で焦って、全力で怒ってくれた。だから、私も、勇気を振り絞って、貴方を信じてみようと思う。貴方ならきっと、最後までレイを守ってくれると。……だけど」
そこで、ルルさんは顔を逸らして、陰りを見せた。
「だけど、もしも今の話を聞いて、私達と出会ったことを後悔するようなら、私だけを、恨んでしまいなさい。でも、お願い。私のことを嫌いになっても、レイだけは、守って欲しい。それも嫌になったなら、私達とここでお別れして」
「そんなことっ……」
「そういう話なの。だから、素直に聞いて頂戴」
ルルさんはアイの否定を遮って、首を振った。
だから、アイは、黙って聞くことにした。
……そして、アイは全てを聞いた。
長く、苦しく、終わりに救いが存在しない、二人の罪の話を。
「…………それが、二人が旅をする理由で、追われる理由ですか」
全てを聞き終えたあと、アイは声が震えそうになるのを抑えて、俯きながらそう聞いた。
ルルさんは、黙って頷いた。
その目には、涙が滲んでいた。
「馬鹿にしないでください」
自分の口から、怒った声が漏れる。
ルルさんが申し訳なさそうに俯く。
だって、怒りたくもなる。
「そんな理由で、アイが二人から離れるわけないじゃないですか」
信じて話すと言ったくせに、そこを信じてもらえていなかったことに、アイは怒っていた。
ルルさんは顔を上げて私と目を合わせる。
信じられないと言った顔だ。
……ほら、やっぱり信じてくれてなかった。
「ルルさんにとっては、それはそんな事じゃないのかもしれません。でも、アイにとって、それはそんな程度の事です。アイにとって、それは大した問題じゃありません」
アイは、ルルさんの片手を両手で包み込み、微笑んでみせた。
「だって、二人が誰であれ、なんであれ、あの星で二回も、アイを救ってくれたのは、紛れもなく、ルルさんとかか様なんですから」
そう、それがルルさんにとって重い話で、苦しい話でも、それは離れる理由にならない。
だって、誓ったんだ。
二人を守るって。
「一度目は、アイを能力の恐怖から。二度目は、あの星の神族達から。だから、あの時に決めたんです。絶対に、離れないで、一緒に居るって。どこまでも、絶対に」
「……一度目は、私達が勝手にやって来て、二度目も、正直私達のせいとも言えるわ。だから、救ったとは……」
「それでも、嬉しかった」
そうだ、嬉しかったんだ。
見つけてもらって、遊んでもらって、手を取ってもらって。
「その過程がなんであれ、アイは嬉しかったんです。救われた気が来たんです。もし、あの星で二人に出会わず、ずっとあの森で一人だったなら、アイは何も成せず、成長することも出来ず、無意味に限界を迎えて、死んでいたと思います」
白い森の中で、能力を操りきることも出来ず、ただ死んでいく。
それに、今まで学んだことによれば、きっとアイは死ぬ時に暴走していた。
能力はその保持者を無自覚に殺そうとするが、意識的に生かそうともする。
よって、能力を操れていない能力者は、勝手に能力によって生かされそうになり、結果暴走を引き起こす、と。
成程、それを考えれば、あの日あの星の神族達がアイを殺そうとしたのも理解出来る。
不穏分子は早急な排除を、当たり前のことだ。
アイ達も、同じじゃないかもしれないけど、同じことをしているのだから。
「だけど、二人が来てくれた。一緒に生きる道をくれて、生きる意味を、光をくれた」
破滅の道と違う道をくれたのは、間違いなく二人だ。
生きるための確かな選択肢を見せてくれたのは、能力の可能性を教えてくれたのは、レイとルルさんなんだ。
「だから、それだけで十分です。アイが二人を守りたいって、二人と一緒に行きたいって思うには、それだけで十分なんです」
ルルさんの手を離して、その首に抱きつく。
あまり温度を感じない、でも、確かな温かみを感じるその肌に。
「例え、世界中が二人を罪人と糾弾しても、アイは、二人を赦します。だって、二人だって、生きたいって願っただけなんですから」
傲慢かもしれないけど、アイと二人は、似ている気がする。
居場所が自分自身にしかなくて、周りから糾弾されて、ただただ、生きたいと願って。
「だから、もう一人で泣かないでください」
今流れ落ちる涙を、拭ってくれる誰かが、欲しいと思っただけなんだ。
零れ落ちる程の感情を、共感してくれなくてもいい、ただ理解して欲しいと、叫んだだけなんだ。
「……ありがとう、アイシャ」
だからアイは、そんな似た者同士の、この人の涙を、今はただ受け止めてみせた。
アイは、まだまだ幼い。
どうすればいいかなんて、全然分かんない。
それでも、分からなくても、何者であっても、今目の前にある温もりに寄り添って、守ってあげることは出来る。
だから、絶対に離れたりしない。
絶対に、守り抜いてみせる。
…………そう思って、いるのにな。
『い……や……ああぁぁああああっ!』
なんで、今、アイは。
「……ぁ……っ……」
守ると誓ったその手で、あの人を冷たい檻に閉じ込めようとしているんだろう。
どうして、アイが、レイを傷付けているんだろう。
アイは、何も出来ない子供のままだったの?
ねえ、誰か、誰か教えてよ……。
お願い、どうかアイを、止めて…………。
********
『今回は休憩』
S²「と、いうわけでー。次回から現在地点に戻るので、先輩との戯れもここまでとなります!私大ショック!」
S『あーはいはい。どうぞオカエリクダサイマセ』
S²「くっ!先輩冷たい!でもめげない!とりあえずアイちゃんガンバレですよー!」
S『(はよマスターと茶番がしたい……)』
次回氷の部屋に戻ります。
現実も氷いっぱいになってくれませんかね……(あづぃ)




