表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
88/115

78 スノードロップを引き止めて①

 


 冷たい、冷たい、雪の向こう。


『ミツケタ、ミツケタ。アラタナ、コドモ』


 静かに、静かに、風が吹く。


『コノコ、キマリ。ダイガエ、キマリ』


 暗い、暗い、森の奥。


『サア、タマシイヲ、コノセカイニ』


 孤独な、孤独な、一つの影。


『『『タマシイ、ギフト、オメデトウ。アラタナコ────』』』







 どこかの星の、どこかにある、雪の森。

 その森に、平等にして残酷な朝日が差し込む。

 森の中心地にある、雪を贅沢に被っても尚、悠然と佇む大木の根元。

 そこに掘られた穴の中、そこに朝日が差し込み、一匹の狐が目を覚ました。


 狐は起きると、僅かに被った雪を体を震わせて落とす。

 そして、額縁の中の絵のように朝日が顔を覗かせる穴の入口から、体を出した。


 狐の身体は酷く白く、辺りの雪と同化して、簡単に見えなくなってしまいそうなほどであった。

 しかしその白さは、少しだけ自然でない色を帯びている。

 どこかぼんやりと、何色とも言えない色が揺れていた。

 それに見るだけでは分からないが、狐の周りだけは異常に温度が低かった。

 まるでその一点にだけ、冷気が漂っているかのように。


 それは比喩にあらず。

 確かにその狐の周りにだけ、特別な冷気が漂っていた。

 その場にいるだけで、徐々に辺りの水分さえも凍らせていく、呪いのような冷気が。


 その狐は、普通の狐ではない。

 結論だけ言ってしまえば、獣神と呼ばれる、言わば神の一種であった。


 だが、白き狐は産まれた時から神であった訳では無い。

 稀に産まれた時から獣神であることもあるが、その場合その生まれた子供に生命力の殆どを奪われ、産みの親は死んでしまう。


 神は、不思議な因果に導かれ、突然発生するものが多い。

 生殖により生物らしく生まれた場合、自らの魂を魔力不足の飢餓状態にしないために、周囲の生命力を吸い込んで産まれる。

 高い確率で、親子が生きて顔を合わせることがない、悲しい生まれ方だ。


 が、その狐は普通に狐として生まれた。

 もう一つのパターン、途中で神として変貌してしまう場合の例であった。

 子供の頃は、まだ家族と共に育っていた。

 呪いのような能力が、目覚めるまでは。


 神々の使う魔術を超えた、理解不能再現不能の領域にある、異能力。

 魔術の過程を飛ばし、尚且つその魔術の極み以上の事象を起こす、神すら恐れる力。

 それは、人間や神にだけ宿るものでは無い。

 時に獣に宿ることもある。

 しかし、目覚める時は人によって疎らである。

 産まれた時から能力を使える者もいれば、ある程度成長してから目覚める者もいる。

 その狐は、後者であった。


 だが、目覚めた能力が、必ずしも所有者を幸福にするとは限らない。

 むしろよくある、非常に残酷なものであった。

 おかげでその能力が目覚めた時、狐は能力に混乱し、操ることが出来ず、一つの悲劇を生むことになった。



 能力の目覚めを、兄の死という形で、永遠にその狐の心に、恐怖の呪いを刻み込み、開花したのだ。



 能力が目覚めた時、その狐は兄から狩りの仕方を教わっていた。

 教わった通りに一匹の兎を自分の力で捕まえ、親の元に帰ろうとした時であった。

 なんの脈絡もなく、その狐の能力が目覚め、暴走した。


 ───悲劇の種が、目覚めた瞬間であった。


 狐が謎の衝撃で気絶し、目覚めた時。

 緑豊かなその森は、雪深き白い森へと変貌していた。

 その中心地には、一匹の白くなった狐と、横たわる狐と、捕えられて食べられるのを待つだけの兎が、静かに佇んでいる。

 それは、一瞬の出来事であった。


 初め、その狐は何が起こったのか分からなかった。

 何かが起こり、今の現実がある。

 ただ目の前が、文字通り真っ白になっており、先程まで自分のことを褒めてくれていた兄が、口もなく横たわっており、何も、何も理解出来なかった。


 狐は一人、その骸に足で触れる。

 寝ているだけだと思ったから。

 そう思いたかったから。


 しかし、その冷たくなった柔らかい毛皮は、触れたところだけ凍りついた。

 まるで、自分の手から雪を生み出したように。

 理解、出来るわけもなかった。

 したくもないだろう。


 もしこの現象が真実ならば、恐らくこの森の状態と、眠る兄の原因は、間違いなく自分になってしまうのだから。


 白くなった雪狐は、ぐるぐる回る頭に操られたように、その場を意味もなくぐるぐると回る。

 ぐるぐると、ぐるぐると、ぐるぐると。

 しかし、時計の針を回すように、時が巻き戻って、兄が起きて、森が元通りになる、なんてことは無かった。

 ただ無意味に、冷たい時間が過ぎていくだけであった。


 やがて日が傾き始めた頃、二匹の帰りを心配した親狐二匹と、残りの兄弟二匹がやってきた。

 家族は、変貌していたその森に絶句した。

 自分達の家である森が、まるでその場所だけ別世界になっていたのだから。


 雪狐はやって来た家族に気が付き、近寄って助けを求めた。

 森が白く雪に染まったこと、兄が眠ったまま起き上がらないこと、どうすればいいのか分からない故に、近寄ってその前足を伸ばした。



 ────だが、家族が一歩身を引いたことで、その前足は届かなかった。



 雪狐は、何故家族が自分を怯えるような、否、不気味なものを見るような目を自分に向けているのか、理解出来なかった。

 理解出来ないまま、一歩足を出す。

 家族が、一歩身を引く。


 そして雪狐はようやく気がついた。

 自分のその前足が、見たことのない、白色になっていたことを。


 頭も、白い。

 体も、白い。

 尾も、白い。

 白くて、白くて、白くて、────。


 ────自分が、きつね色の家族と、別の色をしていることに、まるで化け物のように変わり果てていたことに、気が付いてしまった。


 家族は、自分という子供から身を引いたのではない。

 見たことの無い存在に怯えただけなのだ。

 記憶にない、覚えのない、恐怖の冷気を放つその化け物に、怯えたのだ。

 そして、家族を守るために身を引いたのだと、気付いてしまった。

 解ってしまった。


 雪狐は一人、理解した。

 今この瞬間、自分と家族は、家族で無くなってしまったことを。


 悲しかった、泣きたかった、喚きたかった。

 だがそれ以上に、家族を傷付けたく無かった。

 困惑以上に家族への愛情が勝り、今度は雪狐が、一歩身を引いた。


 そして雪の中、倒れたままの兄に近寄った。

 冷たくなった、優しかった兄の顔を舐めようとした。

 その瞬間、後ろで唸り声がした。

 母親、否、母であった狐が、自分の子に近寄る害獣を追い払うように唸ったのだ。

 その子に触れるな、と言っているに等しかった。


 その時、もう雪狐の心は絶望で冷たく染まっていた。

 だが家族への想いだけはあり、兄に触れることもなく、黙って背を向けて歩き始めた。

 少し距離をとってから、家族へ振り返る。

 まだ、自分を睨んだままだった。


 頭を一度下げて、前を向き、駆け出した。

 大切な家族から、自分という恐ろしい化け物を遠ざけるために、一人森を駆けた。


 自分が通った道、森の一部に霜がおり、雪が舞う。

 白い自分が通ったあとは、白い道が出来上がっていた。


 それでも、振り返ることも無く、立ち止まることも無く、どこまでも、どこまでも、駆け続けた。


 やがて雪狐は疲れ果て、トボトボと足取りを重くする。

 そうやって足を踏み出した場所もまた、少しづつ冷えていく。

 そんな地面に、突然氷の粒が落ちた。

 反射的に空を見上げても、腹立たしい程の快晴である。

 氷の粒など、どこにもなく────。



 ────その雨雲は、自分自身であった。



 自分から流れ落ちた涙が、落ちた時に凍りつき、氷の粒となっていたのだ。

 ポタリ、ポタリと、一つ、また一つと、氷の粒が落ちていく。

 霜の乗った草の上に、青い宝石が積もっていく。

 ポタリ、ポタリ、ポタリ、ポタリと。


 白くなった森の中、一人ぼっちになった狐の青い宝石が、静かに落ち続けた。





 それから、どれくらい時間が流れたのだろう。

 数分か、数時間か、いつの間にか、辺りは黄昏の色に染まっていた。

 いつもであれば、隣に家族がいる時間。

 しかし、今は誰もいない。

 本当に、一人ぼっちであった。


 不意に、物音が聞こえた。

 雪狐の鼻が、それの臭いを捉える。

 本能が、それに向かって駆け出した。


 見えたのは、一匹の野兎。

 兎は雪狐の姿を見ると、その脚力で逃げようとした。

 だが雪狐が近づいた瞬間、その場に薄い氷が張り、兎は知らぬ間に転んでしまう。

 獲物を捕らえるため、無意識のうちに能力を操ったのだ。

 その隙を逃さず、転んだ兎の喉元に雪狐は噛み付いた。


 生々しい赤い味が、口の中に広がる。

 何故かまた、青い宝石が流れ始めた。

 雪狐の心を表すように、辺りは徐々に白く染っていく。


 ああ、一体、どうすればいいのだろう。

 捕らえた獲物を一心に喰らいながら、泣きながら雪狐は思った。

 獲物を捕らえても、もう褒めてもらえることも、寒い時に、温めて貰うことも出来ないというのに、何故自分は、生きようとしているのだろう、と。


 それでも、食べるのをやめなかった。

 ほんの少し前に見た、冷たい兄の顔が浮かんだから。

 死んだものへの、自分が殺したものを悼む心があったから。


 だから、生きなければ、と雪狐は誓った。

 涙混じりに、生を食らった。

 自分自身という死の存在に抗うために、負けないために、生きるために、地に足をつけた。

 そうして一匹、白い森を歩き始めた。

 ただ、生きるために…………。




 それから約百年もの時が過ぎた────。







 ********



『以下の用語とその解説が追加されました』



「情報:神族:神の生物的発生について」

 神は突然変異でなるだけでなく、生物として生まれることもある。

 詳細:神は人間が変貌したり、動物が変異したり、突然発生するものもあるが、稀に番の子として生まれることもある。

 生殖行為により、普通にメスの方に子が宿るのだが、その際その子供の肉体に宿った魂が、魔力を多く含む、所謂神の素質を持った魂であった場合、産まれた時に周囲から魔力という生命力を奪って、魂の器がスカスカにならないようにして生まれる。

 よって多くの場合、周囲の存在は死に、子供は一人で生きなければならない。

 それを保護するために、大抵はその星の神が回収して親代わりになるのだが、獣神の場合手懐けるのも面倒で放置する場合も多い。

 今回のこの狐はその例である。

 ちなみに、龍、天使、悪魔に関しては、それぞれ全く違うものなので、別の話である。

 補足:なんというかまあ、厄介な産まれ方ですよねえ。



「情報:能力:能力者の発生について」

 能力の発生には、先天性のものと後天性のものがある。

 詳細:この世界に存在する、魔術を超えた術、能力。

 これは生まれつき持っている場合と、後に目覚める場合がある。

 だがどちらも、高確率で自らの意思で操れないことが多い。

 よって暴走を招き、能力の種類によっては大災害を巻き起こす。

 今回の狐は後天性で獣であったために、自分自身の状態を理解出来ず、そのまま能力に飲み込まれた。

 ほんの少しなら操れるようだが、それは能力者の状態による。

 補足:望んで得たわけでも無いのに、悲惨ですよね。



S²「はいはいどうもー。シリアスちゃんですよー」

S『アーハイ、ドウモー。Sですよー』

S²「今回は今回はー、新キャラですねー!どうやらキャラ的にはまともに獣で、でも生物的にはまともじゃない獣みたいですけど、これからどうなると思いますかぁ、司会のSさん!」

S『とりあえずマスターのもとに帰りたいです。変わってください』

S²「はい、何とかなるだろうということで、ではまた次回ー!」

S『マスタァァァ(号泣)』


……始めておいてなんだが、カオスや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ