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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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77 雪の花畑で叫び咲く

 


 思わず息が止まるほどの、綺麗な花畑。

 いるだけで満たされる、純粋な魔素。

 ダンジョンには似つかわしくないほどの、神秘的な場所。

 そんな場所が、階段の上に広がっていた。


 私はゆっくりとしゃが込み、地面の花を一輪手に取る。

 白く小さな、雪のように美しい花。

 下向きで、まるでベルみたいな、綺麗な花。


「この花……」


 凛と咲き、しんと冷たく、どこか、懐かしい。

 この花、この花は……。


 私がそれを思い出そうとした、その時であった。


「ニンゲンだー!」


「えものだー!」


「イタズラだー!」


 辺りをゆらゆらと舞っていた粉雪。

 それが突然、殺意を持って私達に襲いかかる。

 それをやったのは、三匹の妖精であった。


「えっちょ、わわわわっ!」


「っぶねえ!」


「ちょっ!?」


 慌てて左右に避けるユウキとレグと私。

 ええええええ。


「よけられたー!」


「つまんなーい!」


「もういっかーい!」


 もう一度、粉雪が縦横無尽に襲いかかる。

 寒い寒い寒い!


「わっ、ちょっ、まっ!」


「なんだこいつら! なんで襲ってくるんだよ! お前の知り合いかおい!?」


 素早く避けて、困惑と文句を漏らすレグ。

 いや、知らない。

 こいつら知らない。

 てか知り合いだったとして、何故いきなり襲って来たりする。

 ……って、一番近くにそんなバーサーカーいたわ、畜生。


 ていうか、ねえちょっと、Sー!?

 Sさーん!?

 なんか意味不明なのがいるんですけどー!?

 流石にこれは予想外ですよー!?


 …………え、ちょ、S?

 なんで応答がないの!?

 ねえ! Sさんってばあー!

 ちょー! へールプ!


 しかし、私達の混乱などガン無視して、容赦も慈悲も無く攻撃を続ける妖精達。


「すばやい!」


「てごわい!」


「でもまだまだー!」


 諦めるどころか、どんどん攻撃の精度を上げていく。

 ちょいちょいちょい!

 容赦ないな!?


「あー! くそっ、たれがあっ!」


 いい加減頭に来たのか、吹雪を避けつつ、アヴィーを投げ捨てて、妖精達に襲いかかるレグ。


「きゃー!」


「うきゃー!」


「こわーい!」


「なっ!?」


 しかし、一瞬で創成された氷の壁によって、レグの拳は防がれ、その氷にめり込む。

 あいつの強力な一撃を、ただの妖精の氷の壁が防いだのだ。

 マジか、えー、マジか。


「おかえし!」


「しかえし!」


「やりかえしー!」


「うわっ!」


 どころか、その氷の壁を使って、襲いかかってきたレグを吹き飛ばした。

 えええええっ!?


「レグっ!」


 咄嗟に花畑を蹴ってレグをキャッチするユウキ。

 上手いこと勢いを殺して、二人は花びらを散らかしながら転がる。


「大丈夫か!」


「も、問題ねーよ。吹き飛ばされただけだ」


 どうやら二人とも無事らしい。

 が、そんな二人の上に、巨大な氷塊が迫っていた。


「ユウキ! レグ!」


「どすーん!」


「ちゅどーん!」


「ぺちゃんこー!」


 即座に反応出来ず、唖然とするユウキとレグ。

 私は咄嗟に地面を蹴って、拳を引く。


「らあっ!」


 その直線状で魔力を乗せた拳を振り、衝撃を氷塊に当ててやる。

 間一髪氷塊は弾かれ、壁の方へと転がって行った。

 私は二人を妖精達から庇うように立った。

 アヴィーも私の足元にやってくる。


「二人とも、大丈夫?」


「も、問題ないっす。サンキューっすよ」


「あ、ありがと、な」


「無事ならいいよ。それよりも、問題はあいつらだよ」


 向こうで不満そうな顔をする妖精達をキッと睨む。

 躾がなってないぞ躾が!

 なんだあの不良妖精!


「あれ、確か、『ゆきんこ』って妖精っすよね。イタズラ好きで、活発で、手のひらサイズで、可愛い雪女みたいな雪の妖精、ゆきんこ」


「どこが可愛いんだよ! いきなり襲いかかってきて、ふつーにやべーだろ!」


「見た目は可愛いじゃん! ……まあ、中身がかなり好戦的でビックリしてるけど」


「私としてもビックリだよ。正直あんまり見たことは無かったけどさ、このダンジョンで遭遇したどの魔物より凶暴じゃない? やばない?」


 警戒を解かずに、周りの状況を判断する。

 とりあえず、Sとは何故か話ができない。

 中は体育館くらいの大きさの空間で、一面花畑。

 気温は、外の通路よか寒い。

 髪も汗で凍りつきそうだ。

 奥の壁の向こうには、なにかいる……?

 入ってきた入口は、げっ。


「やばい、退路絶たれてるんだけど」


「「え?」」


 咄嗟に振り返るユウキとレグ。

 私達が入って来た入口。

 いつの間にか、氷で固く塞がれている。


「ちょっ! あの妖精達容赦ない!」


「別にあれくらい、ユウキの馬鹿力なら一発でぶっ壊せるだろ?」


「その余裕をくれると思う?」


 その直後、突然、襲いかかってくる無数の氷の礫。


「こおりがっせんー!」


「らんとー!」


「せんとー!」


 私は咄嗟に、まだスキルは入手してないが〈アイスウォール〉を創成し、私達の身を守る。

 ガガガガッ! と氷の壁が砕けていく音がする。

 やー、ちょっと待って。

 普通に怖い。

 めっちゃ怖い。


「レイレイ、伏せ!」


 反射的に〈アイスウォール〉を維持したままその場でしゃがむ。


「そいやあぁああ!」


 仁王立ちしたユウキが、上から振ってきた巨大な氷を両手で受け止める。


「おっ……もいっ!」


 見事受け止め投げ出すユウキ。

 飛ばされた巨大な氷塊は花畑を無情にも散らかし転がっていく。


「ありがと」


「お互い様っす。にしても、そろそろ打開策考えた方がいいんじゃないっすかね」


 無数の打撃音の中、ユウキは少しだけ声量を上げて私に告げる。

 透けた氷の壁の向こう、まだまだ攻撃が迫ってくる。

 時折壁の横からやってくるので、後ろに退路を残しつつ、私はコの字型に壁を創成する。

 打開策、つってもなー。


「暴力で黙らせるしか無くない? あれ絶対対話出来ないでしょ」


「いつもなら可愛いものを虐めるとか嫌っすけど、今回こっちが先に被害者にされたっすからね。それでいいっすよ」


「おーけー、なら……」


 ズドンッ!

 氷の壁に重たい音が響く。

 巨大な氷塊がぶつかり、ヒビがはいる。

 おー怖や怖や。

 私もそろそろ魔力が切れそうだし、一気に行くっきゃないね。


「なら、とっととやろっか。私が次に来たデカいのを止める。流石に妖精達も、デカい氷柱を連発することは出来ないだろうからね」


「そしたら、上手いこと強行突破っすね。シンプルでいいっす。レグ、前にやった手袋になってくれるか? あれの方が常に魔力で手を覆うよかマシだかんね」


「あーはいはい。りょーかい」


 ユウキに言われて大人しく身体をドロリと溶かし、ユウキの手に巻きついたと思えば、その形をレザー手袋へと変えた。

 相変わらず便利だねえ。


 私は氷の壁を形成し続け、タイミングを伺う。


「むー! しぶとーい!」


「むー! しつこーい!」


「むー! しまいだー!」


 ぐわん、と辺りの魔素が動いた気がした。

 どうやら、向こうで妖精三人が一緒に氷を創成してるようだ。

 丁度いい。

 私はユウキの方に目をやり、ユウキが頷く。


「「「せーい!」」」


 向こうから、巨大な物体が接近してくる。

 刹那、私の鼻先に氷柱が迫っていた。

 くっ! 旋回しながら破って来た!

 氷のドリルじゃん!


「レイレイ!」


「この程度、問題ないっ!」


 私は魔力を最大限に注ぎ、氷の壁でまとめて固めて止めようとする。

 だが向こうもどんだけ魔力を込めたのか、勢いは一向に収まらない。

 だったら、ぶっ壊してやる!


「はああっ!」


 〈アイスウォール〉の修復を緩めずに、私は雷の魔法を纏い始める。

 私を、舐めんなっ!


「ユウキ、行けっ!」


「了解!」


 ユウキが飛び出し、向こうに消える。

 最後はユウキに任せよう。

 私は持てるだけの魔力を使って、高威力の〈スパーク〉を発動した。


 その瞬間、雷光が弾け、自分の創成した〈アイスウォール〉も、迫ってきていた氷柱も纏めて爆発した。


 爆風に巻き込まれ、私自身も後方に吹き飛ばされる。

 何とか残った魔力で風を操り、上手く地面に転がる。

 うぐっ、やりすぎた。

 魔力の使いすぎで倦怠感が……。


 私はフラフラしながらも、なんとか起き上がり、向こうに目をやる。


「だせー!」


「ほどけー!」


「はなせー!」


 花畑の上で胡座をかいているユウキとレグ。

 そんなユウキの手の中には、魔力で編まれたネット袋がある。

 その中に、魔力ロープでぐるぐる巻きにされた妖精が三匹入っていた。

 生け捕りやん。


「レイレーイ、終わったっすよー」


「あー、やかましかったぜくそー」


「お疲れさん」


 私は二人に近づき妖精達を見下ろす。


「んで、血気盛んな妖精ども、いい加減大人しくしてくれる?」


「や!」


「ぷいっ!」


「つーん!」


 三人ともぐるぐる巻きの分際でそっぽを向く。

 こいつら……。


「あのねえ、別に私達は、たまたまここに来ただけで、荒らすつもりで来たわけじゃ……」


 その瞬間、私はバッと顔を上げた。

 何かを感じたのはユウキとレグも同じだったらしく、この部屋の奥の壁に警戒するような目を向けていた。


 奥から感じるのは、とてつもない魔力。

 そして、尋常でない冷気。

 何かの影が、そこに居た。


「レイレイ……あれは……あの、存在は……」


「ああ、多分、お前の予想通りだよ」


 瞬間、奥の壁が砕け、中から何かが出てくる。



 ────刹那、その美しさに、時間が止まったような気がした。



 白銀の、美しい毛並み。

 空色の、ガラス細工のような瞳。

 この世のものとは思えない雰囲気を放ち、ただ佇む。

 ただそこから出てきただけなのに、とてつもない威圧感と、質量を持っているかのような冷気。


 それは、狐。

 とても美しい、雪の狐。


「お、まえ、は……」


 その狐と、私の視線が、交差する。

 その瞬間、狐がふわりと地面をかける。

 静かな音とは反対に、目で捉えることが出来ない速度で、私の元に一直線にかけてくる。


『かか様っ……!』


 狐の前足が、私の肩に触れる。

 私は反射的に、両手を伸ばして、そいつの身体を抱き締める。

 どうしてそうしようと思ったのかは分からない。

 ただ、自然と身体が動いてしまったのだ。


 だが、それがいけなかったのだろうか。

 何が、引き金だったのか。


 ────パリン。


 何か、嫌な音がした。

 なんの音か、誰が立てた音か、分からない。

 だが、駄目な音だということを、直感していた。


『え……?』


 小さな、驚愕。

 刹那、辺りの温度が急激に下がり始め、息をするのも痛くなる。

 全てを凍らせる、氷点下の世界と化す。

 いや、下がったのは、部屋の温度だけじゃない。

 身体が、私の身体が、動かない。


『かか……様……?』


 ずるりと崩れ落ちた私の耳に、不安そうな声が聞こえる。

 あれ、私、なんで……。


 ふと、手を伸ばして、その手を見る。

 私の手は、霜がこびりついており、まともに動きそうになかった。

 否、手だけではない。

 服も、足も、髪も、凍り付いていた。


 私の体が、霜に包まれて動かない。

 溶けることの無い氷のように。


「レイレイ!」


「おいっ!」


 近くで、声が聞こえる。

 だが、凍って思考も冷え切った私は、それが誰の声かすら分からなくなっていた。

 駄目、だ……動け……動けっ……。

 しかし、抗う意志に反して、体温の低下はリアルに生命を危機に追いやる。


『あ……なんっ……なんでっ……』


 今にも泣き出してしまいそうな、誰かの声が聞こえる。

 よろけて、後ずさって、怯える気配。

 一体何に対して、怯えたのか。

 それを分かっているのに、私の手は指すら動かない。


『い……や……ああぁぁああああっ!』


 そして、一つの悲鳴を引き金に、世界がどんどん白く染まる。

 白い狐を中心に、世界が冷たく白く染まっていく。

 人も、花も、空気も、空間も、心さえも。

 パキパキ、パキパキと、凍っていく。


「あ……ぃ……」


 私は、指先を泣き叫ぶあの子に向けて持ち上げ、言葉も凍って力尽きる。

 そして、極度の眠気に耐えられず、瞼が落ちてくる。


 ああ、畜生。

 なんで、なんで、こんなことに。

 私は、なんで、こんなに。



 たった一人の涙すら拭えないほどに、ちっぽけなんだ。



 そんな悔しさを胸に、私の意識は冷気に堕ちる。

 世界の冷たさは、益々増していた。

 誰かの悲しみを乗せて、どこまでも、どこまでも、冷たいまま。

 氷の世界が、その場に生まれる。







 *****



「さーてさてさて。面白くなってきたねえ。眠る救世主。泣き叫ぶお姫様。何も出来ない、傍観者。これからどうなることかなーっと。くすっ。面白くなるといいなあ。いいや、なるに違いないさ。だってレイだもの。ついでに、良いデータも取れるといいね。まあ、本当はそっちが本命なんだけどさ。……ふふっ、ふふふふっ。あははははっ!」







 ********



『今回は休憩』



【舞台裏】

S『今回一切の台詞が無かった件について』

S²「気にせず強く生きろ!」

S『いや誰ですかー!貴方誰ですかー!』

S²「どうも!メインキャラが全員アウトになったら適当に出てくるシュールでシビアでスーパーなシリアスちゃんだよ!略してSの二乗!」

S『キャラ被ってるかと思いきや微妙なライン』

S²「ちなみに作者ではありません。ってカンペに書いてありましたー」

S『おいカンペー!』

S²「よろしくパイセン!」

S『コンナコウハイイヤダ』


今後も舞台裏で出すかどうか、不明です。

誰も出れない時の代役ですらないポンコツが欲しかった。

反省も後悔もない。

恥はある。

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