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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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75 氷人形と脇の猫

アヴィーラウラ視点。

 

 時刻は、外では再び太陽が上り始めているであろう頃。


 ガキンゴキンと、氷と金属の音が弾ける。


「悪い! やっぱ短剣じゃ無理だわ!」


「諦めんなし! ヒビが入るまで当てればいいじゃんか!」


「レイチェルちゃん、なんかキャラ違くね!?」


「黙らっしゃあ! 雑魚なんぞ燃えてしまえ!」


「その短剣に纏ってる炎を俺にもくれよ! てかください!」


「ちちんぷいぷい!」


「サンキュ! いや待て今の掛け声なんだ!?」


「気にしたらハゲるよ!」


「ハゲんの!?」


 迫り来る氷の礫を、剣で弾いていく無愛想な騎士。


「ありがとう!」


「……ありがとうございます」


「気にするな、当然のことだ」


「……次来ますね」


「今度は私が! 【ファイアフォール】!」


「ルーリア、流石だな」


「えっへへ〜」


「……ユキさんに援護は、やっぱりいらないですかね」


「うーん、求められるまではいらないのかな〜?」


 そして一人の少女は、素手で氷のゴーレムと格闘していた。

 文字通りむき出しの手で、パンチを繰り返しているのだ。


「ああああー! 冷たいー!」


『やられろやられろー。そのまま氷つけー』


「手加減しつつ攻撃すんのしんどい! 冷たい! めっちゃ痛い! でもゴーレム如きに負けてたまるかー!」


『ちっ』


「おうこらそこ! 舌打ちすんな!」


『げ、聞こえてた』


『そりゃあ聞こえるんじゃないかな……』


「ユウキさん、今誰に言ったんだろう?」


「さあ?」


『ぷっ、一人でなんか言ってるやつみてーになってやがる』


『やめてあげなって……』


 ここはダンジョンのボス部屋。

 レイ曰く、各ダンジョンの十層ごとに配置されているらしく、クリアすると宝箱が出てくるらしい。

 なんともまあ、レイらしい趣味というか、なんというか。

 とりあえず、楽しそうだ。


昨日は一度この外で夕食をとって眠った。


 で、ボクはそのボス部屋の隅で座っている。

 レイの邪魔をしないためだ。

 しかし石の床は心底冷たいので、大太刀になってるレグに捕まっている。


 レグはなんで待機組にいるかというと、理由はボクと似ていて、ユウキの邪魔になるから。

 具体的にいうと、ユウキが自分自身を鍛えるためには自分の力でやるべきだといい、レグを壁に打ち捨てたのだ。

 そして今ユウキは、冷たいものへの耐性を上げるために、素手で拳を入れている。

 ああやって素手でやる方が耐性ってやつは上がるらしい。

 この世界は相変わらず面白いな。

 面白い世界だから、人も面白い。

 見てるだけでも楽しいねえ。


『何人の上に乗りながらニヤニヤしてんだよ気持ちわりい』


『え、なんで表情見えないのに分かるの?』


『そういう空気が感じられたからだ。そんくらいわかるわ』


『君って……意外と空気読めるんだ』


『おいこら意外とってなんだ、意外とって』


『馬鹿って意味ですよ』


『また唐突に馬鹿にしてきやがったなこんのクソ精霊! いい加減顔出せや!』


『別にボク馬鹿とまではいってないんだけど……』


『はっ、出す顔なんてありませんよー。あったとしても、馬鹿には見せたりしませんよ』


『っづぁあああ! あーもーすげー腹立つ! マジで腹立つ!』


 あーもーあーもー、この二人はまた不毛な争いを……。

 会話がボクにも丸聞こえなんだよなぁ……。


『この性悪精霊!』


『低脳悪魔!』


『だからやめなって……うわっ!?』


『いだっ!?』


 二人の会話に耳を傾けていたら、突然氷の礫が飛んできた。

 レイ達が相手にしている、小さな氷の魔物からだ。

 どうやらその流れ弾が飛んできたらしい。

 うっわー。

 おっそろしー。


「わわっ、アヴィーちゃん、防いであげなくてごめんね〜。だ、大丈夫〜?」


『大丈夫だよー』


 にゃーとしか聞こえないんだろうけど、レグの上で尻尾を振って無事を伝える。

 ルーリアって子は安心したように胸をなで下ろす。


「よかった〜、怪我はないみたい」


『俺様には当たったけどな!』


『また低脳レベルが上がりますね』


『誰が低脳だって!?』


『こらこらこらこら』


 ボクは二人を宥めつつ、敵の様子を眺める。

 大きな氷の人形と、ふよふよ宙に浮いている、謎の魔物。

 ゴーレム、っていうのかな、それが一体と、変な魔物が六体。

 合計七体を相手にしている。

 最早両方生物じゃないよね。


『魔物ですから。人工合成魔術生物、略して魔物です。ちなみに、知性や理性ある魔獣なんかは、人工合成魔術獣、言い換えれば合成獣(キメラ)ですね』


『魔物って名前そっからきてんのかよ。てか、人工ってことは、この世界の魔物や魔獣って呼ばれるやつは全部作り物なのかよ?』


『そうですよ? 今更ですね』


『全部レイが作ったのかい?』


『いえ、マスターと、とある方の合作です』


『……なんのために?』


 この世界の魔物とは、普通の獣よりも凶暴で、理性もほとんどなく、スキルやスキルによる魔法という魔術まがいのものを使う。

 人を襲い、生活を脅かす恐怖の存在。

 でも、それを作ったのはレイだと言う。

 ……レイは、強者に蹂躙される弱者を見て楽しむような性格は全く無いと思うのだけれど。


『ああ、簡単ですよ。この世界の人間を鍛えるためです』


『鍛える?』


『魔物とぶつけることで、戦闘訓練をさせてるんですよ。いつかこの星に来るかもしれない襲撃者に向けて』


『襲撃者? そんなもん来んのかよ?』


『来ますよ? 別に珍しいものでもないじゃないですか。現に、はぐれ天使とか脳空悪魔とか、色々いるじゃないですか』


『『んぐっ』』


 否定は出来ない。

 ていうか事実の塊だね、うん。


『で、でもよ、訓練されてるつっても、外からの奴らに対抗出来るほど強そうには見えねーけど? まあユウキはいけそうだけどな。俺様に一度も負けたこと無いしな』


『え、雑魚悪魔、一度もあの人間に勝てたこと無いんですか? ぷっ』


『おいこら笑ってんじゃねえ! 別にいつもギリギリの所で負けちまうだけだ!』


『はい嘘乙でーす。ギリギリの戦いを出来たことほぼ無いでしょうに。当機の世界把握能力舐めないでくださいね? 貴方の戦いの映像復歴なんてやろうと思えば全部出せるんですよ』


『『怖っ!』』


 何この子本当に怖い。

 レイの育て方色々と間違ってるんじゃないかな。


『ま、まあユウキは例外として、ボクから見てもこの世界の人間って差ほど強くは見えないんだけど? 魔物が強過ぎるんじゃない? 結構魔物に殺されることもあるって聞いた事あるし。訓練っていうのに、殺すのはやり過ぎなんじゃないかな』


『何甘い事言ってるんですか?』


『何甘っちょろいこと言ってんだ?』


 二人揃って僕の意見を全否定して来た。

 その事に一瞬、物理空間を超えた火花が散った気がした。


『人間だって魔物から向けられた殺意に殺意で返してるじゃないですか。それで殺されないと思うのは傲慢が過ぎますね。魔物だって、まともな理性が無くても生き物です。生と生ぶつけたら死が生まれるのは当然では?』


『それにお前、もし魔物を使わずに訓練をまともに受けさせようとしたら、どんだけ人がいるんだよ? あの女神だったら、大量の訓練用戦闘人形用意するとか出来るだろうけど、外の奴らは人形なんかじゃねえ。殺意と狂気を持って、あらゆる方法を使って襲い掛かってくる。それこそやばい魔物よかやばく。……お前も、そうだったんじゃねーのか?』


 そう言われて、ボクは何も言えなかった。

 殺意と狂気があるなら、まだマシだ。

 ボクなんて、ただ……ありとあらゆるものに八つ当たりをしていただけ。

 その途中で、運良くこの星に辿り着けて、レイ達に止めてもらった。

 もしも殺す気で止められてなかったら、ボクの命も、ボクに殺されるかもしれない多くの人達の命も、既に宇宙に散っていただろう。

 殺意と狂気なんて、現実逃避に比べたらまだマシだよ。


『それにまあ、ある種の支援物資とでも言いましょうか、魔物というものは』


『支援物資?』


『あー……、その辺は説明するのが面倒なので、また時間がある時にでも。ほら、そろそろあのアホゴリラはこっち来るそうですよ』


『機械精霊にまでナチュラルにゴリラって呼ばれるユウキマジゴリラだな』


 そう会話してると、ユウキはこちらにやって来て、レグの隣にドカッと座り込んで胡座をかく。

 後はレイ達に任せるらしい。


「ううー、手が痛いー、冷たいー、ちくしょー」


『痛いっておま……痛覚軽減とか氷への耐性とかスキルであるだろうが』


「はえ? 全部切ってるぜ?」


『は!?』


『え?』


 ユウキのセリフに、レグは剣の状態で絶句し、聞こえていないだろうがSまで疑念の声を上げた。

 そしてしばらくSの声が聞こえなかったと思うと、とんでもない事実を言った。


『……あ、うわマジです。この人間本当にほぼ全てのバフスキル切ってます。道理でワンパンマンしちゃわないわけです』


『はい!? え? おま、今生身の人間の状態なのか!?』


「ん? そだよ? だってそうしないとあの程度のボスなんて一撃で終わっちゃうじゃんか」


『いやいやいやいや。この人間おかしいです。なんでステータスの力を一切借りずに、この数分間ノーダメージで、しかも素手で殴り続けて痛いで済んでるんですか』


『お前、魔力でこっそり強化してたりしたんじゃねえの?』


「失礼な! してないって言ったらしてない! あたしは紛れもなく素手で殴った!」


『マジかよ……』


 驚いた。

 この人間、本当にただの人間の状態で闘ってたみたいだ。

 この世界の、常にステータスで強化された人間ならともかく、普通の人間にとっては魔物なんて驚異だろうに。

 身体を鍛えてればどうにかなるっていう問題でも無いような……。


『うわっ、しかもこの人間のスキルの使用復歴……はぁ、流石というか、なんというか』


『え、なになに、どうしたの?』


『え、聞きたいですか? 聞かない方がいいですよ?』


『何それ怖い。ある意味怖い君がそんなこというと本当に怖い』


『やっだーもー、怖ーくないですよー』


『『怖いっ!』』


「何が?」


『あーあーあー、何でもねえ、何でもねえよ』


「ふーん?」


 ガシャアァン、と大きな音が響く。

 目をやると、倒れたゴーレムの前で、肩で息をするレイが立っていた。

 どうやら終わったらしい。

 ユウキが立ち上がり、ボクが地面に降りるとレグを地面から引き抜いた。


「おつかれーっすよー」


「だーもー! 疲れた! 氷系の魔物防御力高い! ゴーレムの関節狙うのムズい!」


 地面に座り込んだレイが疲れたのか少し喚く。

 他の人間達も、結構疲れているみたいだ。

 周りに散らばるのは、魔物の残骸。

 やっぱり、この世界の人間は強いよなぁ。

 ま、レイのかっこいい強さの方が好きだけどね。

 とりあえず、お疲れ様。







 ********



『今回は休憩』



アヴィー『ていうか、素手でヒビ入れてた気がするけど、なに、あのゴーレム脆いの?』

S『いえ全然。並の人間が金属バットを全力フルスイングしてヒビを入れてもすぐに修復しますよ。さっきは確実にヒビを残してましたけどね』

アヴィー『なにそれ色々と怖い』

レグ『お前本当にゴリラな』

ユウキ「いやー、それほどでもー」


ユウキ(……確実にもう一人誰かいるよなー)


勘のいいユウキ。

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