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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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74 冷え切った池を超えて

 


 現在ダンジョンの第七層。

 ここまで来るのに数時間はかかった。

 途中私がわざと罠を起動させてユウキに氷柱を当ててみたり、兎の大群の逆襲にあったりと、まあ大したことは無かったし順調に来れている。


『大したこととは』


 あんまり怪我とかしてないし、してもすぐ回復してるから、結果的にはモーマンタイ。


「ふにゃあ」


 アヴィーが寒さに震えて首の後ろでプルプルしている。

 私も寒い。

 魔術かけるのも面倒になるくらい寒い。


 なにせ今私達は、目の前の氷の池に絶句し、足を止めて動いていないのだから。

 あー、寒い寒い。

 早く体を動かしたいよー。


「なあなあ、ここ以外に道なんて無かったよな?」


「うん。どこも同じところに戻ったり行き止まりだったりしたから、残った一本を選んだよね〜」


「にしても、これは……」


「……これ、道、なんですかね?」


 目の前のその池は、所々に乗れそうな一平方メートルくらいの氷が見えてるだけで、向こう百メートルくらいはこれが続いているようであった。

 果たして道と言えるのか。

 いやただの氷の川やん、と即否定。

 鬼畜ステージキタコレー。


「んああああ。さぶいいいいい」


「ちょ、いきなりガクブルしないでよ。さっきまでヒャッハーしながらイエティとか倒してたのにどうしたのさ」


「一時的にヒャッハーポイントは尽きたっす」


「どんなポイント!?」


「ちょいちょい、レイチェルちゃんにユキさんや。頼むから現実逃避せずに現状を打破する方法を考えてーや」


 怒られちった。

 てへぺろー。


 でもまあ、打開策つってもねー。


「そんな悩むことある?」


「悩む必要あるんすかね?」


「「「「え?」」」」


 首を傾げた私とユウキに対して、四人は逆向きに首を傾げる。

 みんなが分かっていないようなので、私とユウキは顔を見合わせて氷の池を指さした。


「いや、ここ進めばいいじゃん? 他に選択肢ないんだから」


「……具体的にはどうやるんだよ」


「頭出してる氷を跳べば行けるっすよ! 多分!」


 親指立ててニカッと笑うユウキに対して、私以外が絶句する。

 いやいや、まさかとは思うけど、このルートを回避する方法があると思ってたん? 

 あるわけないやん! 

 なにせここのルート作ったの半分は私やぞ! 

 んな甘っちょろい選択肢用意してませーん! 


『鬼畜の極み』


 初めに考えたのはマッドロリなんだよなあ。


 そう、ここはあの白衣ロリが考えた巨大トラップを改変したものだ。

 初めはあいつ、プレイヤーがここに来たら床をパカーして針山でグサーってするー! とかアホ抜かしてたあれだ。

 でもそれだと道が完全に潰されてるから、私がストップをかけて、ちょっと手を加えて使えるようにした。


『ちょっと……?』


 いや、針山氷を少し削って、水を流して浸してやっただけだし、ちょっとの範囲でしょ、多分。


『トラップじゃなくなってる時点でちょっとじゃない気がするんですよねー、不思議ですねー』


 あーっはっはフシギダネ。


 脳内で現実を笑っている間、ノクトがまだ受け入れられないという顔をする。


「いやいやいやいや、ユキさんにレイチェルちゃん? それ間違って足滑らせたら、普通に体温奪われて死ぬと思うんだが?」


「落ちなきゃ問題無いじゃないっすか」


「落ちなきゃいいじゃん」


「駄目だこの二人! なんか目が楽しそうに輝いてるんだけども! ちょっとお前らもなんか言ってやってくんね? このままだと俺らこの不安定な道とも言えない場所を通る羽目になるぜ?」


「未知なる道ってか?」


「あっはは、未知なる道っすねー」


「おーい笑い事かー? なあルーリアちゃん、この道通るの反対だよなあ?」


「え? えーっと」


 ルーリアは一度私をチラリと見る。

 その顔からは、この道通るって本気? と疑念が浮かんでいた。

 私は安心させるように、笑って親指を立てた。

 そんな私に小さくため息をつくルーリア。

 おいちょっと、そのため息はなによ。

 なんの文句があるんだい。


『いやこんな道喜んで通るのマスターやそこのゴリラくらいでしょうに』


 んえええ。

 アスレチック感覚で行こーよー。


『命綱無しのアスレチックとはこれ如何に』


 タコに。


「いいんじゃないですか〜? ここしか道が無いのなら、私はレイちゃん達にさんせーい」


「僕も、ここしかないならここでいい」


「……凄い不安だけど、レイだって考え無しに言ってるわけじゃないんだろ?」


「え? 楽しそうだからだけど?」


「……ごめんやっぱすげえ心配」


 安心しなよ、氷漬けになったら死体はダンジョンに食わせず回収してやろう。


『違う、そうじゃない』


 むー。


 みんながオーケーを出したので、ノクトは頭をかいた。

 諦めなってー、ここしか道は無いんだからさー。

 みんなで楽しもうじゃないかー。


「レイレーイ、顔顔」


 うっぷす。

 ユウキに小声で言われて、私は顔を抑えた。

 主催者としてのニマニマがついついね。


「はあ、分かった。まあここ以外に道も無さげだったしな。どこまで続いているかは分からんが、一度行ってみっか」


 よっし! 

 そう来なくっちゃ! 


「じゃ、まずは言い出しっぺのユキが先に行ったら? 氷が乗れるかどうか確かめて。私は一番後ろから、みんなをサポートするからさ」


「ん? なんでサポートがいるんすか?」


「落ちそうになった時の補助と、あとはほら、ここはダンジョンだよ? 何時どこから何が現れるか分かんないじゃん」


「ちょっちレイチェルちゃん、怖がらせないでくれ。確かに常識なんだが、あの氷の上に乗った瞬間襲われるとかシャレにならねー」


「それに対処するために、私が後ろからサポートするんじゃん。まあものは試し。とりあえず行ってみなよ」


「ういーっす」


 ユウキは少し準備体操すると、幅二十メートル程、距離不明のその氷の池を眺めた。

 そして出発はせずに、無言で手をかざす。

 ……おいちょまさか。


 刹那、冷たい暴風が氷の池を大きく揺らし、波を産んだ。


 っあー! 

 こいつ賢い事をー! 


 風に揺れた池の上で、水と一緒にいくつかの氷もぷかぷかと揺れる。

 が、一部の氷は揺れない。

 一番底から生えた岩の上に薄い氷が張っているだけだからだ。

 それは揺れることなく、ただ波の中で頭を出したり隠したりする。

 つまりは乗りやすい足場だってこと。


「い、今のなんですか? ユキさん一体何をしたんですか?」


「んー? いやー、ここの氷、どうやら乗ったら簡単に沈む、水の上に浮いているだけのものと、乗ってても沈まなそうな、池の底から生成されているものがあるような気がしたんで、選別っす。ううーっ、さっみー」


「さ、さっすが〜……」


 ルーリアが感嘆する横で、ユウキは自分で起こした風に震える。

 ちっ、バレたか。

 沈む氷に乗って足が濡れたら内心で笑ってやったのに。


「(趣味悪い顔が見えてるぜー、レイレイ。残念ながらそう簡単には騙されないっすよー)」


 〈念話〉で指摘されたので、私はサッと顔を逸らした。

 ふーんだ、楽しみは他にもあるからいいもんねー。


「んじゃ、行くっすわー」


 ユウキが軽くぴょんと跳ぶ。

 そして一番近くにあり、さっき安全だと確認した氷の上に乗った。

 そして次に安全な氷を確認すると、どこからか短剣を取り出して、今いる足場に突き刺してから、次へ跳ぶ。


「こうやって、安全な氷には短剣刺してくんで、みんなそれに続けばいいと思うっすー。あ、回収は最後尾のレイレイに任せたっすよー」


「なるほどー、さっきよりも断然攻略しやすそうになったな!」


「これならいけそうだ」


「ちょっと楽しそうかも!」


「……やってみましょう」


 みんな乗り気になって、ユウキに続いて氷の間をぴょんぴょん跳んでいく。

 氷の上に乗ったら滑ってしまいそうだが、みんな剣やら杖やらでバランスを取る。

 セルトは良いものを持ってなかったので、私の短剣を片方貸してやった。


 アヴィー、落ちるといけないから、バッグの中に……っていつの間にか呑気に寝てりゃ。


『怠慢ですね』


 まあ別にいいよ。

 バッグに入れとくからそこで眠ってなー。


 最後に私が跳んで、目印の短剣を回収していった。

 意外とみんな適応力高い。


 ……だが、普通に行けると思うなよ。


『ハメる気満々じゃないですかーやだー』


 あったりまえー。

 罠に引っかかってくんないとさ、製作者として楽しくないでしょー。

 楽しい回避方法見せられるのも、まあ好きだけどね?

 それはそれ、これはこれってやつですわ。


「ふふーん、意外といけるっすねー。案外よゆーっすかね?」


 ユウキがスイスイと、時折風を起こして確認しつつ進んでいく。

 はいフラグ発言頂きましたー。

 ごっつあんでーす。


「……あっ! ユキさん危ない!」


「ふえ?」


 ルーリアが一番に気が付き、ユウキに声をかける。

 水が揺らめいていた。

 否、生き物のように、動いている。

 中に、何かがいるのだ。

 水に同化した何かが。


 そして突然、水の中から氷柱が吐き出された。


「っああ!?」


 ユウキは体を大きく仰け反らし、間一髪避ける。

 そして転けそうになり、慌てて足を後ろに引いて体制を整える。

 にゃはははは! 

 来ましたねえトラップゾーン! 


「な、なんすか今の!?」


「わ、分かりません。ただ〈気配察知〉によると、この水の中に沢山何かがいるみたいですけど……」


 リグアルドがその場に留まり、辺りを注意深く見守る。


「おいおい、まさかこれ……」


 そしてノクトが、その正体を〈解析〉する。


「ア、アイススライムだ! この水の中に、大量のスライムがいやがる!」


 大正解! 

 自分のフィールドから安全に氷柱を吐き出すという、卑怯なアイススライムだよ! 


『その卑怯な手を考えたのは紛れもないマスター』


 楽しければ良かろうなのだあ!


「ノクトさん! また!」


「っおいい!?」


 ルーリアの声にノクトが避けようとするが、その拍子に足を滑らす。

 そして後頭部から極寒の池に突っ込もうとする。


「ヤベっ!?」


「魔力糸レスキュー!」


 即座にユウキが魔力の糸を使って、ノクトと天井を繋げる。

 間一髪のところで、ノクトは後頭部から水に浸からずにすんだ。


「あ、あっぶねええええ!」


「か、間一髪っすよー·····」


「二人とも、また来るぞ!」


「「容赦ないっ!?」」


 リグアルドの声にユウキが慌ててノクトを起こすが、その隙にアイススライムが水の中から飛び出し、ノクトに襲いかかろうとする。

 ちなみに、アイススライムにくっつかれると、全身凍りついてそのまま食べられるよ! 

 みんなも気を付けようね! 


「ノクトさんっ!」


「ちょっ!」


 ルーリアが杖を構える。

 だがそれと同時に、アイススライムはルーリアとは別方向から吹いた風によって吹き飛ばされ、水の中にリリースされた。

 その隙にようやく立ち上がるノクト。


「あ、ありがとなルーリアちゃん!」


「い、いえ、今のは私じゃ……」


 ルーリアが恐る恐る振り返る。

 私は笑ってピースしてやる。


「言ったでしょ。どこから何が来るか分からない。だから、みんなのサポートとして最後尾につく、ってさ」


「レ、レイチェルちゃんがなんかかっけえ!」


「ふふん、クレープ奢ってくれてもいいんだよ?」


「沢山奢ってやるぜ! 帰ったらな!」


「やったねクレープだ!」


 私は笑いながら、背後から襲ってこようとしたスライムを風で吹き飛ばす。

 ふふんふんふん。

 いい所取り? マッチポンプ?

 失礼な、助けてあげただけなのです。

 んあ、ついでに向こう側の足場にバグ発見。

 ちょちょいのちょいっと。


「リグル、斜め右後ろっ!」


「はっ!」


 後ろからのルーリアの指示通りにリクアルドは剣を振り、氷柱を水の中に弾き返す。

 うんうん、いい連携プレイだねー。

 パーティープレイ万歳だ。

 私はセルトに飛んできていた氷柱を弾いてやりながら一人頷く。


「……助かった」


「別に、これぐらい余裕だよ」


「んああああ! レイレイ! こいつらムカつくから、〈スパーク〉水中に向けてブッパしてもいいっすか!?」


「おいつまらなくしようとするんじゃないよ! こういうスリルがある方がいいでしょ! てか、今ここでそういうことしたら、確実にこっちまで被害受けかねないから!」


「こういうスリルは微妙なんすよー!」


「ヌルゲーよかマシでしょ!」


 私とユウキは互いに言い合いながら、地道に水中に隠れやがるスライムを倒していき、次の足場へ進んでいく。

 こいつが魔法一発撃つだけでも何十体死ぬやら。

 ダンジョン起動初日から冗談じゃない。


 しばらく順調に進んでいく。

 途中、妙に避けにくい攻撃があったり、弱ったスライムが合体したキングアイススライムがいたりと、そこそこに苦労したが、それでも徐々に進めている。

 ……あんな鬼畜なトラップしかけたっけ?

 避けた直後にまた攻撃が三度ほどくるなんて、流石の私もあそこまで鬼畜じゃないぞ?

 私じゃなかったらユウキ以外には無理じゃない?

 てか私にばっかり来てた気がするけど?


 そう思った瞬間、また壁の方から突然氷柱が飛んできた。

 私は風を起こして吹き飛ばす。

 水中から来てないんだよなー。

 明らか何か違うんだよなー。

 バグにも見えないし、なんだこれ?


「あーもー、そもそもこの先どんだけあるんだ? 徐々に右に曲がってってるみてーだけど、先が長過ぎないか? おおっと」


 ノクトが氷柱を避けながら言う。

 作ってる時はあんまり長いと思わなかったけど、いざやって見ると長いな、これ。

 体感距離的にも物理的にも。

 しかもスイスイ進めないから更に大変。


「……もしかして、途中で抜け道があるパターンなんじゃないっすか?」


 ぎくっ。


「抜け道? そんなのあるんですか?」


「そ。たまにダンジョンであるんすけどね。道の突き当たりに階段があると思って進んでたら、実は途中で隠し扉があって、正解のルートに繋がるってパターン。悪趣味なパターンっすよ」


 ぎくぎくっ。


「なら、もしかすると進む途中で怪しい壁があるかもしれない、と」


「それか、何か衝撃を与えれば出てくるパターンとか。ここにいるスライムの氷柱が、避けた時に横の壁に当たって、その衝撃で正解ルートが現れる、みたいな。こういうパターンもありえるっす。稀っすけどね」


 ぎくぎくぎくっ! 


「……でも、スライムを倒し切った場合、凄く困るんじゃ?」


「流石に積みルートになることはないっしょー。スライムがあーしみたいなのに倒し切られちまったら、壁が少し動いたり、スライム無しで氷柱が出てきたり。……それに、あーしの場合は真似っ子すればいいだけっす」


 ……ねえ待ってお願いだからおいちょまあ!


「【アイシクル】! 」


 こいつも詠唱なんていらないくせに、カッコつけてそう唱えた。

 すると、周りの水を利用して生成された氷柱が無数に現れ、左右の壁やら天井やらに当たり、ついでにスライムすらも倒していく。

 凄い反響音が鳴り響き、私達はその場で耳を塞いだ。

 んああああ! 

 ダンジョン内部で爆音やめー!


 そして不意に、一つの氷柱が、先の方の壁にあたると、壁の氷がパコっと出てくる。

 そして飛び出た氷は、そこへ行く道を作るように、池の中にバシャンっと倒れた。


 その開いた壁のずっと向こうに、上に続いている階段が見えた。

 次の階へ行く、唯一の階段だ。


「おおっ! 階段が!」


「ユキさんの言う通りだったな」


「すごーい!」


「……やった」


「ほら! あーしってばてんさーい!」


 ぬあああああ! 

 負けたあぁぁぁ! 





 ちなみに、一番簡単な攻略法はというと?


『飛べば万事解決、です』


 つまりはそういうことなのだ。


『どういうことなのだ』







 *****


「むー、よけられたー」


「むー、つまんないー」


「むー、にげられたー」


「(すぅ……すぅ……)」


「そうだ!」


「どしたの?」


「どしたの?」


「(すぅ……ぴぃ……)」


「ねよう!」


「あきた!」


「つかれた!」


「(すや……すや……)」


「くぅー」


「うー」


「すかー」


「(すぃ……ふぃ……)」







 ********



『今回も休憩』



ユウキ(なーんかいるような、いないような……)

レグ『おん?どうした?』

ユウキ「うんにゃ、なんも」


なんかいるっぽい。

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