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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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72 寒くても布団は剥ぎ取ります

 


 暗いテントの中で、一つの影が小さく蠢く。


「ん、んん……」


 不意に目を覚ましてしまったのか、その人影、ルーリアは、暗い中で目をこする。

 初めは何も見えなかったが、暗闇に徐々に慣れて、テントの天井が見えた。


「……ん、あれ……? 私、いつの間に眠ったんだっけ?」


 そう言ってルーリアは一人、欠伸をする。

 ふと、布団に手をつけると、カサリと音を立てる。


「ん? なにこれ?」


 それに気が付き、ルーリアはそれを拾い上げた。

 どうやら何か、小さな紙切れらしい。

 暗いと文字が読めないので、ルーリアは魔力で小さな光の玉を作り出し、それを光源にそのメモを読み始める。

 その置き手紙には、こう書いてあった。


『ちょっと神としての仕事をしに、ユウキと一緒に崩壊しかけのダンジョン近くまで行ってくる。そう時間はかからないし、代わりの見張り番もいるので、いなくても心配しないでね。遅くない内に戻ります』


 そんな内容の文章を三度読み、ルーリアは眠たい頭で状況を把握する。


「んーっと。つまり、レイちゃんに眠らされて、みんなが寝てる隙に何かお仕事をしに行ったのかな〜?」


 考えてから、自分のテントを見る。

 外の男子テントに男子三人が。

 そして女子テントに女子三人が眠る予定で組み立てたそこには、ルーリア一人しかいなかった。

 まだ帰ってきてないのだろう。

 ルーリアはしばらく考えて、もう一度眠るのも面倒だし、次は自分が寝ずの番だから、ということで、外に出ることにした。


「ううっ、寒い〜」


 小声で外の夜の寒さに凍えるルーリア。

 魔法を使えば、多少は温かくなるが、みんなが平等に寒い中で寝ずの番をするのに、自分だけそんなズルは出来ないと、真面目なルーリアは少し着込んで外に出る。

 外に出て、魔道具のランタンに小さな明かりをつけると、外に不気味な剣を発見する。


「ん……?」


 ルーリアのユニークスキル〈精霊の目〉にはくっきりと、不気味なそれが見えていた。

 それは黒い大太刀で、地面に突き刺さった状態で、何やら不気味な魔力を発していた。

 近づいて見てみると、ルーリアはその大太刀が、ユウキのものだと理解した。


「もしかして、代わりの見張り番って、これのことかな〜? なんか、生き物が嫌がりそうな魔力出してる〜」


「にゃあ」


「ひゃっ!」


 突然足元から聞こえた鳴き声に、ルーリアは少し飛び上がってしまう。

 足元にいたのはアヴィーラウラであった。


「んも〜。なーんだ、アヴィーちゃんか〜。ビックリさせないでよ〜」


「うにゃあ」


 アヴィーラウラは謝るように、喉を鳴らしてルーリアの足元に擦り寄る。

 甘え上手なアヴィーラウラを抱えて、ルーリアは近くの丸太の椅子に腰掛けて、星空を見上げた。


「わあ〜。お星様がいっぱいだね〜。アヴィーちゃんは眠らないの?」


「うにゃう」


 ルーリアの腕の中で、一度眠り、そして起きる動作をするアヴィーラウラ。

 寝落ちていたが、起きてしまった、ということを表したいらしい。

 そのジェスチャーは、なんとかルーリアに伝わった。


「なるほど〜。私と同じで一度起きちゃったんだ〜。じゃあ、見張り番しながら、一緒にレイちゃん達の帰りを待とうね〜」


「にゃー」


 嬉しそうに鳴くアヴィーラウラ。

 ルーリアはそんなアヴィーラウラの頭を撫でながら、夜風のそよめきに耳を傾け、しばし森の静寂と同化していた。


 そうしていて数分後、突然草むらが揺れる気配がした。

 ルーリアは冒険者として意識を切り替え、何時でも魔法を放てるように杖を手にする。

 だが〈気配感知〉の範囲内に対象が入ると、その正体が分かったのでルーリアは警戒を解いた。

 その影の一人、それに向かって手を振った。


「おーい、レイちゃん、ユキさーん」


 現れたのは、予想通りレイとユウキであった。


「おー、ルーリア。私達が起こすまで寝てれば良かったのに」


 レイがルーリアに気が付き手を振り返し、ルーリアはレイに駆け寄った。

 アヴィーラウラも、ルーリアについてレイに駆け寄る。


「えへへ〜、目が覚めちゃったから、二人を待ってたの〜」


「待ってただけじゃなくて、見張り番もしてたんでしょ? 私達の気配を感じた瞬間、警戒出来て偉いじゃん。アヴィーも、お疲れ様」


「うにゃんっ」


「ふふん。冒険者として当然だよ〜。ところで……」


 ルーリアは会話に入ってこない、不気味な程に静かなユウキに目を向けた。


「ユキさん、どうかしたの?」


 その上、ユウキはレイに首根っこを掴まれ、引っ張られながら来た状態であった。

 傍から見れば、森の中で何をやってるのか、意味不明である。


「ん? あ、あー。えーと」


 見ると、ユウキはどんより顔で、マフラーの中に顔を半分ほど埋めていた。

 いつものユウキを知る者からしたら、かなりの別人である。


「はあああぁぁぁ〜」


 しかも、ユウキらしくない、とてもとても深いため息までついている。

 おかしいと思うのが当然だろう。

 そんなユウキにいい加減イラついたのか、レイがユウキの沈んだ頭を叩く。


「痛いっ!?」


「もうっ、いい加減うじうじすんのはやめてくれるかなあ!? そりゃ言わなかった私も悪かったとは思うけど、弱点くらい克服してよ!」


 レイが男子陣を起こさないように、小声で叱ると、ユウキはキッとレイを睨み返す。


「煩いっす! 苦手なものは苦手なんすよ! なんのためにあーしがマフラーを常時してると思ってるんすか!? てか、レイレイ絶対このこと知ってたっすよね!? 知ってて誘うとか、なんのいじめっすか!?」


「別にそれとこれは無関係ですー。私が作りたいからあれにしただけで、お前に意地悪したんじゃないし!」


「悪意が無かったとしても素直に受け取れないっすよー!」


「え〜、なになに〜。喧嘩はやめようよ〜」


 ルーリアが二人の言い争いに涙目になって止めようとする。

 二人は互いに互いを睨んでやめようとしない。

 とりあえず宥めたルーリアは、二人にワケを聞いてみる。


「えーっと、なんの事で争ってるの〜?」


「……別に、大したことじゃないよ。争ってる訳でもないし。単純に、こいつが苦手なことを克服しようとする気概がなくてうじうじしてるのがムカつくだけ」


「ううっ、正論すぎて反論出来ないっす」


「う、うーん。よく分からないけど、二人とも落ち着こうよ〜。折角みんなでパーティープレイしに来てるんだし〜」


 ルーリアの説得に、二人は一度顔を合わせて、肩を竦めた。


「ま、そうだね。とりあえず私達は寝るとしますか。じゃあルーリア、引き続き見張り番よろしく。アヴィー、おいで」


「にゃー」


「う、うん。おやすみ」


「ううー。寒いっすよー」


「だーもー! ひっつくんじゃない!」


 アヴィーラウラを引き連れてルーリアの横を通り過ぎ、テントに向かうレイ。

 そしてテントに向かう途中、横から抱き着いてくるユウキとは反対側を向いて、レイがポツリとこぼす。


「……楽しんでくれると思ったのに。むぅ」


 その言葉をハッキリと聞き取り、ユウキはレイの体を強く抱き締める。

 レイの漏らした本音に、少しだけ顔を綻ばせながら。


「……分かってるっす。そこはちゃんと、感謝してるっすよ」


 そうして二人と一匹の影は、テントの中に吸い込まれる。

 やがて、ルーリアは一人になり、夜の森の中に溶け込みそうになる。


「うーん、大丈夫かな〜?」


 そうして心配しつつも、多分大丈夫だろうと前向きに考え、今度は一人っきりで丸太に座り、寝ずの番をするのであった。

 森の夜風は、少しずつ朝を運んでこようとする。







 *****



 おはようございます。

 朝です。

 隣に丸い猫、反対に丸い白い布があります。


 問答無用でその白い布を蹴り転がします。


「あうっ!」


 布の中でくぐもった悲鳴を上げるのは、やはりユウキ。

 何故ダンゴムシをしておる。

 まだ春だよ?

 冬じゃないよ?


 隣で音がしたせいで、アヴィーもパチリをと目覚ます。

 おはよ、アヴィー。


「うにゃー」


「ううー、酷いっすよー。蹴り起こさなくてもなくてもいいじゃないっすかー。寒いんすよー。つらいんすよー」


「まだ春だよ?」


 亀のように頭だけ出して抗議するユウキ。

 私は問答無用でその布を引き剥がしにかかる。

 勿論全力でヒッキーダンゴムシしようとするユウキ。


「おーきーろー!」


「いーやーだー!」


 くうっ、こいつ。

 流石ゴリラなだけあって重いし強い!

 剥がせぬー!


「ん、んん……」


 んあ、ルーリアが起きたっぽい。


「レイちゃん〜……? 朝からどうしたの〜?」


 ルーリアが毛布から眠たそうな顔を覗かせる。


「おはよ、ルーリア。いや、こいつが寒がって出てこないから、無理矢理起こそうとしてるとこ」


「ええ〜? まだ早いし、無理に起こさなくてもいいでしょ〜」


「いいやルーリア、ダンゴムシ状態になったやつを舐めたらいけない。こういう奴は起きる起きるーと言って、永遠に起きないのだから。だから起きろ」


「ぎにゃー! 理不尽! いいじゃないっすか! あと三分! 三分の慈悲を!」


「それずっと起きる気がないやつのセリフ! てかカップ麺かよ! 起きなさい!」


「びゃー!」


 私とユウキで不毛な争いをしていると、ルーリアがほのぼのとした表情を浮かべる。


「わあ〜、レイちゃんってば、なんだかお母さんみたいだね〜」


「まあ年齢から考えても、レイレイって相当な年m、痛い痛い痛い!」


「んああああ! ダンジョン行く前に痛い目見せたろか!?」


「もう見てるっすよ!? ぬぎゃー!」


「わ〜! わ〜! レイちゃん落ち着いて〜! 確かに今のはユウキさんが悪いけど落ち着いて〜!」





「あー、もー。ダンジョンに向かう前に酷い目にあったっすよー」


「誰のせいだと……?」


「うにゃう」


「すんませんっす! もう言わないっす!」


「楽しそうだなあ、女性陣は。まあ、ダンジョンに向かうっつっても、まだあるのかどうかすら不確かな話だがな」


「あったらいいな」


「……ですね」


「あるといいね〜」


 朝食を取り終えた後、私達は再び歩き始める。

 ふんふふふーん。

 果たしてみんなの感想はどんなもんかなーっと。


『今までにも何回か初プレイヤーの反応は見ていたことがあるじゃないですか』


 いやー、今回はデザイン頑張ったからさー。

 より一層気になるじゃん?


『確かに、今までので外観こだわったダンジョンってあまり有りませんもんね』


 でしょ?

 というわけで、もしも私のデザインセンスに文句を言うやつがいたら、この場で直接ハリセン出来るわけだ!


『え、あ、そっちですか』


 療養中に頑張って考えたのにセンス悪いとか言われた流石に悲しいの。


『成程』


「にゃー」


 アヴィーが大丈夫だよと言うように、私の肩の上から頬をぷにぷにしてくる。

 ふへへ、まだ見たことないアヴィーも多分ビックリするぞー。

 楽しみにしてなよねー。


「前のダンジョンは完全に無くなっちまったのかなー」


「ダンジョンって確か、崩れたあとって、跡地も何も残らないんだよね〜。忽然と現れて忽然と消えるなんて、ちょっぴり不気味かも〜」


「……神が創りし宝箱、なんて言い方もされますし、本当に神様が作ったのかもしれませんは」


「いやー、もしかすると、宝箱ってか玩具箱な気分なのかも知れないっすよー。色々愉快っすしー。ちらり」


 おいチラッとこっち見んな。

 正解だけども。

 ルーリアが隣で苦笑いする。

 全く、こいつらは。

 とりあえず、私は私自信をフォローすることしにした。


「そこはさ、神様の芸術作品って言ってあげようよ。神様にだって、それぞれのダンジョンに色んなこだわりがあるかもしれないし」


「おー、それもかっけーなー」


「まあ結局は、謎の存在だが、それのお陰で冒険者達は儲けを得ているから、ありがたい話だな」


「神様に感謝しなきゃだね〜」


「……ですね。……ところで、気の所為かもしれませんけど。なんだか、少しずつ寒くなってませんか?」


 セルトの言葉に、みんなが辺りを見渡す。

 別に、辺りに怪しいものはない。

 だが確かに、流れる空気に寒気が乗っている。


「確かに寒くなってんな。でも、さっきまでと変わらない森の中だぜ? いきなり寒くなるって、なんか魔物の影響か?」


「だが、ここらでそういった魔物の話は聞いたことがないぞ」


「まだ春なのに、変だね〜? 魔物の気配も感じないし〜」


 原因を知らないみんなの発言の横で、ユウキはこっそりとマフラーをきつく巻く。

 ちなみに今日は袴の方で、レグの方は大太刀として背負っている。

 レグも寒さに強いようにはなっているが、常にユウキを温めてやるのは疲れるし面倒らしい。

 生き物という意味で生きてる鎧らしいなぁと思う。


 やがて、自分だけだと狡いので、ユウキはみんな用の、私に指示されて用意した上着やマフラーを取り出し始めた。


「もし寒いの苦手な人いたなら、あーし丁度いい服持ってるんでどうぞっす」


「おおー、ユキさん用意いいっすね」


「あーしの場合は色んなとこに冒険しに行くっすからねー。こういう用意は慣れてるんすよ。今回も、もしダンジョンが特殊な場所だった場合の備えとして用意してただけっす。ほい、リグリグ。寒いならマフラーどぞっすよ」


「ありがとうございます。使わせて頂きます」


「ほらセルトっちにはモコモコケープっすよ。セルトっちにピッタリっしょ?」


「……! あっ、ありがとう、ございますっ!」


 あ、なんかセルトの中でカッケー姉御みたいなポジションに嵌る音がした。

 指示したのは私なんだが、まあいっか。

 人見知りで顔隠し気味のセルトにケープだなんて、センスあるじゃん。

 早速羽織ってフード被って、セルトの口元はニヤケまくりである。

 全員に配ってそこで終わりと思ったのだが、ユウキは私に笑顔を向けてきた。

 ん? 私は別に常に魔法でなんとかなるけど?

 別に服なんか……、


「そしてっ、レイレイにはこのうさ耳パーカーっす! 可愛いっ!」


 レイは飛び膝蹴りをくらわせてやった!


「んぎゃー!」


 ユウキの脇腹にクリティカルヒット!

 とても痛そうだ。


『わーお』


「にゃーん……」


 私は蹲るユウキからうさ耳パーカーをぶんどる。

 ピンク兎の耳と尻尾付き。

 内側にちょっと短い毛皮がついている。

 ふむ、別にみんなのより機能が特別って訳でもないね。

 プラスで耳と尻尾がついてるだけだ。


「どーも。着させてもらうよ」


「あれっ!? 今の素直に受け取ってくれる流れだったんすか!? 思いっきり膝蹴りくらったんすけど!? そんなに痛くは無かったけども!」


「なに、着て欲しくないの?」


「いいえ着てくださいお願いしますレイ様仏様っす!」


 ユウキが土下座で頼み込む。

 別に嫌いじゃ無いんだよ?

 ただ何となく恥ずかしさがあるだけで。


 服の上から着て、フードはセルトほどではなく浅く被る。

 細い針金でも入っているのか、耳が何故か立つ仕様らしい。

 謎い。


 耳をちゃんと立ててから、私はみんなの方を振り返った。


「どう?」


「やばいめっさかわええ。ありがとうございます、ありがとうございます」


 何故か平服するユウキ。

 だいたい、どんな服でも私が可愛くないわけがないでしょ。

 ただこいつの服のセンスが嫌なだけ。

 何故いい歳してうさ耳。

 嫌いじゃないけども。


「わあ〜、レイちゃん兎人みたい〜」


「似合ってんじゃーん。耳と尻尾ってすげーなこの服」


「兎人の真似なのか?」


「……似合ってるんだが、違和感あるな」


「るっさいわ。ほら、寒さ対策もしたし、とっとと行くよ」


 みんな防寒装備して進もうとすると、ユウキが一人、うげっ、と嫌な顔をする。

 何故防寒しなければならないのか、その原因を思い出してしまったらしい。

 どんだけ寒いのが嫌なの。


 森の中を歩くと、寒さはますます増してくる。

 風が冷たさを運ぶと、肩の上でアヴィーが寒さに震えた。

 私としても、少し寒くなってきた。

 なのでアヴィーと私を対象に体温を保温するための魔術をかける。

 体温を奪われなければ問題無いのだ。

 みんなにもかけてもいいが、それだとダンジョン内で困る。

 六人と一匹同時に魔法展開したままダンジョン点検なんて、素直にキツイ。

 そう思った時、ふるっと震える、ユウキが背負う大太刀が見えた。

 ……ちっ。しゃーない。

 私はこっそりレグにも手をかざしてやる。


「ん? レイレイ、今なんかしたっすか?」


「べっつにー」


 そうしてしばらく歩いて辿り着いた先。

 そこには昼過ぎだというのに、昨日の夜と変わらず湛然不動と構える、美しい氷の城があった。


『自分で美しいって言っちゃいますか』


 客観的に見ても綺麗でしょう!?

 文句ありますかー!?


『目の前の方々に聞けばいいんじゃないでしょうか。当機に文句など一つもありませんよ』


 せやね、客の感想を聞こうじゃまいか。


「わ、わあ〜。氷のお城だ〜」


「おおう……まじでダンジョンあるなんてな……。レイチェルちゃん運いいな?」


「寒さはこれのせいか。近くにくるとますます寒いな」


「……ダンジョンには到底見えないお城ですけど、本当にダンジョンなんですかね?」


 ねえちょっと!

 みんなもっと外観についての話をして!

 ほらそうだ!

 こういう時にユウキから話を振ってくれれば!


「ねえユ、キ……」


 振り向いた先、またユウキダンゴムシがいた。

 

「だあああああ! ダンジョン前でしゃがみこんでるんじゃありませえええん!」


「いやー! 寒いっすー! 寒さはあーしの一番の敵っすよー!」


 こいつ、駄目だ。

 冬とかになるとこたつから出ないタイプだ。


「なになに〜? もしかしてユキさんって、寒いのが苦手なんですか〜?」


「え、普段あんなに暑苦しいのに? おっと」


 ノクトが口を滑らせて思わず手で塞ぐ。

 いや思いっきり言っちゃったがな。


「おいノクト、そこは元気溌剌としているとでも言えばいいだろう」


 いや変わんねーよ。

 フォローになってねーよリグアルド。


「……別に、どんな人にも苦手なものとかあると思いますけど、冒険者で寒さが苦手って、弱点になりうるような……」


 おい馬鹿トドメを刺すな!

 それ今一番言っちゃいかんやつだよセルト!


「うう〜、だから寒いのは気乗りしないんすよー。特に理由無く、単純に寒いのが苦手なんすよー。そんで、冒険者の間で寒いのが苦手とか噂されたらそういう嫌がらせされそうじゃないっすかー」


「んな今どきお前に嫌がらせするやついるかな……」


「まあやられたら倍返しするっすけどね」


「するんじゃん」


 はあ、折角ダンジョン前だってのに、入れないとはどういうことか。

 しょうがない、またやる気を引き出してやるか。


「じゃあこのダンジョン攻略で、ちゃんと私の指示通り動いてくれたなら、ダンジョン攻略した後、お前が私を連れていきたいところに行ってあげるよ。だから元気だしな?」


 その言葉に、ユウキが耳をピクリと動かす。

 ルーリアは私の言葉に苦笑いした。


「それ普通は連れて行ってあげるじゃないのかなあ〜……」


 こいつの場合は私に対しての欲望まみれだから、それを叶えてあげるって言えばいいんだよ。

 そして寒さに蹲っていたユウキは、ゆらーりと顔を上げた。


「……その言葉、本気っすか?」


「本当じゃなくて本気なのかって聞くの? なんか撤回したくなってきたんだけど」


「いいや撤回は却下っす。女に二言は無いっすよ。いいんすね?」


「う、うん。仕方ないからやってやろうじゃないの」


「おーけー、ならばあたしの願いは一つ。オボローん!」


「ここに」


「「「「うわっ!?」」」」


 突然の忍者。

 何故に?


 私の疑問を置き去りに、ユウキはボソボソとオボロに耳打ちをし、何やらお金が入っているらしい袋を取り出す。

 え、なに、なんのためのお金ですか。

 ユウキからの話を聞き終えたオボロは黙って頷く。


「では、すぐに行って参ります。……もしかしたら少し戻るのが遅くなるかもしれませんが」


「大丈夫っすよ。お使いよろしくっす」


 そしてまた忽然と消えるオボロ。

 私はやってやったぜ顔してるユウキの肩を掴む。


「おいお前、一体何をさせに行ったの?」


「えー? それは帰ってからのお楽しみっすよー?」


 やっべー。

 早まったかも。


「ま! とりあえず、やる気もでたし行くっすかね!」


「待って!? 今の鬼人さんは誰ですか!?」


「あーしの子分! 以上っす!」


「ええ〜……」


 聞くな、ルーリア。

 ぶっちゃけ私もよく知らん。


「さてさて、厳寒の呪いに包まれた氷のお城様に、カチコミと行くっすかね!」


 わお物騒。


『でも間違ってはいませんね』


「にゃーん」







 *****



「わきゃー!」


「うひゃー!」


「ひゃはー!」


「(フルフル)」


「こおりー!」


「ゆきー!」


「へやー!」


「(パタパタ)」


「あられー!」


「ろっかー!」


「みぞれー!」


「(カツカツ)」


「もうっ! ツララもあわせるの!」


「あわせるの!」


「の!」


「…………ァラ」


「きこえない!」


「きこえてない!」


「きーこーえーなーいー!」


「(しょぼん)」


「まあいいや!」


「いいの!」


「よしなの!」


「(のそのそ)」


「あそぶの!」


「あばれるの!」


「いたずらするの!」


「(スヤァ……)」


「ねないのー!」


「ないのー!」


「のー!」


「(すやすや)」







 ********



『今回は休憩』



レグ『俺様さみぃ』

アヴィー『正直ボクもすっごく寒い。……あ、レイが魔術かけてくれた』

レグ『畜生!こうなったら自分の魔力を燃やして……んあ?なんか温かくなったか?』

S『……ふんっ』

アヴィー『……やれやれ』


ちっちゃな優しさ。

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