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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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71 氷のお城は悠然と

 


『ん……』


 ボクは眠たい顔を擦って、身体を起こす。

 冷たい夜風が、体を冷やす。

 もう空は真っ暗で火元も既に消したから、少し深い森の中は完全に闇に包まれていた。

 そしてボクは気が付く。


『レイっ!?』


 レイが、いない。

 暗視と魔力を使っての気配察知を使っても、何処にも感じられない。

 ……なんてことだ。

 眠ってレイの気配を見失うなんて、なんて失態だ。

 馬鹿か、ボクは。

 レイに何かあったらどうするんだ。


『さ、探しに行かなきゃ』


『その必要はねーよ』


『行かなくていいですよ』


 暗闇の中で、二つの声が聞こえる。

 一つは、暗い中で不気味な魔力を放つ黒い大剣から。

 一つは、ボクの脳裏に直接響いた。

 レグとSだ。

 レグはここにいたのか。

 焦ってて気が付かなかった。

 あれ、でもユウキの方は?


『行かなくていいって、どういうこと?』


『そのままの意味です。マスターはちゃんと自分の意思でその場から離れているので、探す必要はありませんよ』


『それどころか、今お前の役割はここにいることだしな』


 レイが自分でどこかにいって、ボクは探さずにここにいることが今のすること?

 Sの言葉にレイが攫われた訳では無いと安堵出来たが、レグの言葉には疑問が残る。


『えっと、まずレイは何処に何をしに行ったの?』


『マスターは今、この世界の管理者としてダンジョンを作りに行っています。一応聞いているでしょう?』


『ああ、そういえばそんな話をしていたね』


 この大陸に存在する、ダンジョンという人口魔物。

 レイや空間の超越者、あとボクの腕をもいだ怖い女の子が協力して作りあげた、一種の芸術品。

 ボクがグラドを追い込んだ場所でもある。


 んで、レイが管理しており、起動や破壊を担ってるらしい。

 今回崩したダンジョンも、レイ的につまらなくなったから壊すそうな。

 で、今日人間達とのパーティーでやって来たのは、そのダンジョンの近く。

 つまり、そのダンジョンの崩壊を仕上げ、新しいダンジョンを組み立てに行ったのだろう。


 成程、夜にいなくなったのは一緒に来た人間達にバレないためか。

 あの歌も、人間達も眠らせるためのものだったのかも。

 その人間達は、今はテントで眠らされているな。

 多分レイとユウキが運んだのかな?


『それで? どうしてボクが置いていかれなきゃいけないのさ』


『寝ずの番だよ。つまり、あの女神とユウキのやろーの代わりに、俺様達でそこの人間を護ってろってことさ。一応あの鬼のやつも付近にいるがな。ユウキのやつは、喜んで俺様に役割押し付けて女神のやつについて行きやがった。アイツ帰ってきたら一発殴ってやる』


 ああ、あの鬼忍者いるんだ。

 完全に気配を闇に紛れ込ませてるな。

 中々上手だ、感心する。


 でも、そういうことか。

 今までのことを繋げて、ようやく納得がいった。


 まずレイは、ダンジョンを組み立て、それをクリアしに行きたいと思ってた。

 でも子供一人で行くと不自然だし、逆にユウキがいても五月蝿いし戦闘力が強すぎるから、程よい人間達とパーティーを組んで、初プレイをプレイヤーとしても管理者としても楽しもうとした。


 しかし制作のため途中でどこかへ行くと、心配されるし怪しまれる。

 というわけで、どこかしらのタイミングでぐっすり眠らせて、パーティーから抜け出そうとした。

 そしたら丁度寝る前の暇潰しにみんなで一発芸やらなんならをやったので、その時に歌ってみんなをぐっすりと眠らせた。

 もし順番が最後じゃ無かったら、まだ考え中とかいって最後に回せただろうしね。


 で、夜に予定通りユウキを連れてダンジョンを創りに行く。

 この時問題なのが、ぐっすりと眠らせてしまった人間達の安全。

 寝ずの番のはずだったユウキも、戦闘を我慢したご褒美としてレイに連れていかれてしまう。

 じゃあ誰が護衛に適任か?

 そこそこ強い悪魔のレグとボクしかいないってわけだ。


『成程ね。全部理解出来た。だから君も妙な魔力撒き散らしてるんだね。魔物をここらに近付けないために』


 先程から若干威圧の乗った魔力を周囲に散布しているレグの刀身。

 昼間に出会った魔物などであれば、すぐに逃げ出しそうな魔力だ。

 魔物避けには丁度いい。


『ああ、大抵の雑魚は俺様の魔力にビビってこねーからな。ユウキにそうしてろって言われた』


『んで、一応ある程度の力が使えるボクも置いていかれたと。成程ねー。でも、事前に言っておいて欲しかったなあ』


『マスター曰く、うっかりして伝え忘れてたー、めーんご、だそうです』


『うっかりでこっちの寿命縮めないで欲しいかな。正直いないと思った時かなり焦ったよ』


 はあ、ホントに、良かった。

 いなくなったらどうしようかと。


『でも、ボクはレイの護衛として傍にいなきゃいけないのに大丈夫かな? 怒られない?』


『大丈夫ですよ。あの変態筋肉人間もいますし。正直あの変態、貴方よりか遥かに強いですよ』


『うーん、そりゃあ、ボク今弱体化してるし。負けるよねえ』


『いいえ。貴方が本体であっても、多分負けますよ』


 Sの平坦なその言葉に、ボクは唖然とした。

 ボクはこれでも、それなりの力があると自負しているつもりだ。

 この世界で暴走していたころにも、人間だけでなく神にも被害を出せたくらいには。

 なのに、ボクより強い?

 本当なのだろうか。


『この世界のSランク冒険者を舐めてはいけませんよ。あれらは本当に人間をやめているような者なのですから。軽く下位の神と同等か、それ以上にやりあえます。特にあのユウキというものは、マスターが素直に実力を認める指折りの人間です。貴方くらい倒せても、おかしい話ではないでしょう?』


『えー……なんか素直にショックだよ。こう、その、あんな感じなのに、ボクより強いってことに』


『それはよく分かる。だがまあ、あいつ初めて会った時、俺様の事も殺しかけたくらいだしな。まだ今とは全然比べ物にならないくらい弱かった時なのによ。ただの丈夫な剣と少ししか覚えていない魔法で、俺様を圧倒しやがった。死にかけることも無くな』


『ああ、だから一緒にいるのかい? 実力を認めて?』


『ま、いつケンカ売っても退屈しなさそうだったしな。負けてるってことは、まだ勝つ楽しみが残ってるってことだし。今じゃ、かなり化け物地味てるけどな』


 うわー、やだなー。

 レグも魔力や年季から見ても相当強かったはずなのに、それをまだ弱かった頃に圧勝って、何者なのあの人間は。


『あの人間は地球人で召喚された者ですが、それはあまり()()()()()()()しねえ。本気であの人間のセンスで成り立ってるんですよ』


『地球の日本って、かなり平和ボケしたところなんじゃ?』


『いやいやー、日本には霊長類最強とかネタ的に呼ばれるようなものも居ますしー。平和ボケしてても、喧嘩やら運動やらは出来ますよ』


 人間ってよくわかんないね。

 もうさっぱり分からないや。


『まあ、要するにボクが着いてなくても大丈夫ってことかな?』


『そういうことです。貴方は大人しくここで人間達のお守りでもしてるんですね。当機は今から本気でシステムを動かさなきゃいけないので、ここで落ちます』


『おーおー、帰れ帰れ。二度と出てくんな』


『天誅』


『ぎゃあああ!』


 ……まったく、何をやってるのやら。







 *****



「うひゅー、寒いっすよー。春なのにー」


 ユウキがマフラーをぐるぐる巻きにして、袴を着た身体を抱きしめる。


「まあここらの夜は冷えるからねえ。でもその袴、一応〈熱変動耐性〉が付与されてるんでしょ?」


「そこそこっすけどね。でも寒いもんは寒いんす。ううううう」


「はあ……仕方ない」


 私はユウキに手をかざし、魔術を発動する。


「うぶぶぶぶ。う? 寒くなくたったっす」


「お前自身に直接〈熱変動耐性〉つけたから。これで寒くないでしょ?」


 そう言うと、ユウキは秒差でぶわっと涙を溢れさせた。

 なになになになに。


「レイレイの気遣いというあったかさに魂が溶けそうなんすけど。萌え殺す気っすか?」


「いや、いざという時にお前が護衛として機能しなかったら困るだけだから」


「ああ。やっぱり単に見せたいものがあるってだけじゃなくて、護衛の意味もあったんすね。それなら任せろっすよ!」


 話が早いようで何より。


 私達は今、魔術で徐々に内部を崩しているダンジョンの傍の丘に来ている。

 眼下では、ホログラムが崩れていくかのように、頑丈な結界内で魔術の分解が行われているダンジョンがある。

 脱走する魔物に備えてダンジョンから離れた位置で待機していた遠征隊は、もうほぼ帰ろうとしている。

 後はただ崩れるだけだしね。

 お疲れさーんっと。


 当初の予定通り、ルーリア達はぐっすり眠らせた。

 外に放っておくのは流石に鬼畜なので、ちゃんと先に張っておいたテントに眠らせておいた。

 ルーリアの枕元には置手紙があるし、まあ大丈夫でしょ。


 まあ間違えて話を通す前にアヴィーも眠らせてしまったけど、気持ち良く眠れてるみたいだったから無理に起こさずにおいた。

 代わりにレグの方が蹴り起こされてたけど。

 いやあ、めんごめんご。

 私達の代わりに見張りよろしくー。

 ユウキの連れのオボロもこっそり置いてきたし大丈夫でしょー。

 組織の四人はここに一応いるが、危ないので少し離れた場所で待機するように言ってある。


 ダンジョンの分解ってのは、結構大変だ。

 地雷の安全な処理が大変なのと同じ。

 てかそれより怖いかもしれない。

 下手をすれば辺り一帯を吹き飛ばしかねないからね。

 なにせ中には、何重構造にもなった魔術空間が形成されているのだから。

 それがぐしゃりと崩れて内部でエネルギーが爆発したらアボンである。

 素直にアウト。


 まあ今までそんなことは無かったが、今までに無かったは、これからも無いとイコールではない。

 なのでいつも、Sに任せるだけでなく私も現地で監視、管理して、安全にダンジョンを処理している。

 つまり今はいつも通りの力を使うために封印開放中。

 ま、前回で慣れたものだから、ユウキのために魔術を並行で展開するくらいの余裕はある。

 それでも、少し気を抜けばアボンしかねないけど。

 ダンジョンも私の頭も。


「結構大変そうなんすね。神様ってなんでも卒無くこなせるのかと思ってたっす」


 ユウキが私の状態に気が付いたのか、気遣うように声をかける。


「人間の姿だとやっぱりね。普段だったらもう少し楽に出来るんだけど」


「話すのにも気を削がれる感じっすか? だったら黙って離れてるっすけど」


「いや、基本的に私は監督というか補助で来てるだけだから、そこまでじゃない」


「補助? これ全部をレイレイがやってるんじゃないんすか?」


 ユウキが眼下を指差して首を傾げる。

 私は魔術を維持しながら答えた。


「この大陸にあるシステムが自動的にやってるんだよ。スキルとかステータスを管理してる中心の魔術。それがシステム。で、それがダンジョンの管理なんかもやってるってわけ。勿論、製作者は私だけど」


「……やっぱ、レイレイってデタラメっすよね。今こうしてレイレイが外に出てるって事は、システムって完全自動管理なんっしょ? ここまで大規模な物を、自動管理して維持出来るようにするなんて、絶対おかしいっす。魔術とかそんなに知ってるわけじゃないあーしにも、それくらいは分かるっすよ」


「なははー。そこはほら。私が天才だからって一言で纏まっちゃうし」


「天才だとしても、才能だけじゃないんしょ?」


 どこかこちらを見透かすような目で、星空の下、そいつは私に微笑みかけた。

 私は崩れるダンジョンを見ながら微笑した。


「当たり前。才能だけでやっていこうなんていう輩は、私は大嫌いだね。真の天才ってのは、小さな才能を下地に、何処までも努力して、その上に立派な花を咲かせられるようなやつだ。才能なんてちっちゃな種。種なんて、何もしなきゃやがて腐るよ」


「まさに、天才とは1パーの才能と99パーの努力っすね」


「どこぞの発明家の言葉を簡単に借りればそうなるね。……そろそろ完全崩壊だよ」


 私とユウキは、崩れゆく巨大な森のダンジョンを眺める。

 ある程度崩壊してきた所で両手をかざし、そして天に向けて上げた。

 すると、ダンジョンは地面からゆっくりと剥がれていき、森を構成していた木々や土が消えていく。

 ここら辺は、世界樹の周辺からとったのもあるんだっけ。

 一部の資材は元の場所へ。

 残りは異空間へ転送。

 ……っあー、補助だけでも、この体だと辛い。

 頭が魔術式の情報量でパンクというか爆発しそう。


 外殻から分解され、次第にダンジョンのコアが見える。

 そのコアのエネルギーを分解しようとすると、小さな鳴き声が聞こえた気がした。

 ……自分の作った作品(こども)を、自分の手で(ころ)しているが故の、幻聴だろうか。

 いつも、この感覚には慣れない。

 きっと、慣れるわけもないのだろう。

 ……果たしてそれは、弱い事なのか、当たり前のことなのか。


「……ありがとう。お疲れ様」


「……おやすみ、っすね」


 だから小さくそう呟き、コアを消し去った。

 ダンジョンに意思は宿ってない。

 それでも意思のようなものを感じるのは、Sと同じような存在だからだろうか。

 だが意思がなくとも、私を楽しませ、この世界を楽しませた、立派な作品だ。

 ならば、労いの言葉の一つくらい、別にいいだろう。


 大規模魔術の衝撃による振動が止むと、結界が消滅し、辺りは静寂となり、丘の下にはポッカリと穴が開いていた。

 もしこれで壊すだけなら、辺りの地形を少し動かして周りと同じような環境にするのだが、今回はこのまま使わせて貰おう。


「そういえば、新しいダンジョンについて、あーしまだ聞かされてないんすけど、どんなダンジョンなんすか? レイレイに言われて、みんな用の寒暖どちらでもいいような服は一通り持ってきたっすけど、暖かいダンジョンなんすか? 寒いダンジョンなんすか?」


「おいおい、それを今聞くのは興ざめだぞー? 出来てからのお楽しみに決まってるでしょ」


「っすね。じゃあ引き続きいいもの見せてもらうっすよー。人生最初で最後の光景だろうしー」


「うんうん、こんな特等席で私の魔術の分解と構築を見られるんだもん。感謝しなよねー」


「ははー」


「ひれ伏せとは言ってない」


 魔術痕を消し去り、自然な土地へと一旦戻す。

 S、次は新しいダンジョンの構築、いける?


『しばしお待ちを。当機も少しパンクしそうです』


 ゆっくりでいいよー。

 夜はまだまだ長いんだから。


『すーはー。はい、大丈夫です。始めましょう』


 息しないのに深呼吸って不思議ね。


『ノリです』


 ノリか。


「ちょっと待ってて」


 私は丘から跳んで、一人で下の地面に着地する。

 そして元ダンジョンがあった中心地に向かう。

 そこに転移魔術でダンジョンの核を呼び出すと、その場に魔術で固定させた。

 核に触れて、マスターコードを入力する。

 すると自動的に、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 うん、これで土台は完成だね。

 土台を作り、ユウキのいる丘の上に再び跳躍で戻る。


「今からダンジョン創るけど、お前呑み込まれたりしないでね?」


「……はい?」


 何を言ってるのか分からないという顔でユウキは首を傾げる。

 私はそれに肩を竦めて答えた。


「いや、大規模な魔力とか発動するとさ、その余波で回りの人間を魔力の渦で呑み込んで、ダンジョンのエネルギーにしちゃうことあるんだよね。まあ人間でそんなヘマしたことないけど、魔物では集中しすぎて気が付かない内にやっちゃったことある」


「何それ怖い! そんなとこに連れてきてた

 んすか!?」


 我が身を庇うようにユウキが一歩遠ざかる。

 んなビビるなって。

 私がヘマしなきゃいい話だし。

 ヘマしたら?

 私もユウキもアボンかな!

 あっはっは!


『笑えませんねー』


 笑えないねー。


「といっても、お前なら大丈夫か。魂にそこそこ耐性ついてるだろうし。無自覚に自力でなんとか出来るっしょ」


「へ? 耐性? 一体なんの話っすか?」


「こっちの話。気にしないで。んじゃあ、始めるよ。気合いで耐えてね」


「いや明確な方法をお願いするっすよ!?」


「自分でなんとかするんだね」


「無慈悲! 鬼畜! いやー! 死にたくないっすよー!」


「それじゃ、ダンジョン構築、開始」


 私がダンジョンの核に向かって、手を伸ばす。

 魔力が注入され、巨大な魔法陣が起動する。

 強固な結界が現れ、筒状となった結界内部に、何重にも魔法陣が浮かび上がる。

 組み立ての方は壊すより楽だ。

 何せ事前に異空間に完成させてあるダンジョンを呼び出すだけなのだから。

 それでも、少し座標がズレてぐしゃっとなったら、それもまたアボンである。

 ダンジョン計画は構築も処理も大変だ。

 ま、それ以上に楽しいんだけどね。


 S、順調?


『正常に稼働してます。いつも通りです』


 おけ。

 じゃあこのままここに呼び出すよ。


『了解です』


 座標把握、固定、設置ポイント、確立。

 エネルギー、十分、土台構築、完了。


 ダンジョン、顕現!


『ダンジョン、転送開始します』



 ────刹那、まだ初春のその夜に、辺りを凍てつかせる暴風が吹き荒れる。



「なっ、えっ、ええええっ!?」


 自分をその場に固定した状態で集中する私の横で、ユウキが魔術の余波に吹き飛ばされまいと地に足を張る。

 しかし暴風の方が強いのか、ユウキの足は踏ん張りで地面にめり込む。

 私は目をしっかりと見開き、その場に現れるものを見つめた。


 それは、氷の城であった。

 紛うことなき、雪と氷の城。

 それが、森のど真ん中に姿を顕にしていた。


 雪だるま作ろーとか、ありのままのーとか、まんまそんな感じの。

 ファンタジーならば一度は見てみたくなるだろう、氷の巨大な城。

 そんな立派な城が、その場所にて徐々に顕現する。


 立体パズルを組み立てるように、少しずつ外観がハッキリとする。

 この外観は私デザインだ。

 つまり完全に私の趣味。

 正直、ダンジョンにとって外装なんてオマケみたいなもんだし!


 ダンジョンは空間型の人口魔物。

 つまり、大事なのは内部なのだ。

 ぶっちゃけ、外側なんて見栄えを良くするためだけにある。

 滅多にないことだけれど、外側を壊して侵入されたとしても、ダンジョンに呑み込まれて時空の狭間で死ぬか、運が良ければどこか適当な階層に放り出されるだけ。

 外で見た一通りの場所に、内部がある訳では無い。

 簡単に言えば、外から十階に飛び込んだつもりなのに、中に入ったら三階だった、みたいな。

 ハリボテもいいとこである。


 そうしてその氷の城が、冷気を撒き散らしながらに完全に姿を表す。

 やがて、完全に設置、固定され、外側には万が一にも破られることがないように丈夫な結界が何重にも張られる。


 ……後に、その日、都市ビキネルの北東半径数十キロメートルに、氷の城が現れたことが後に記される。


 私は完全に終わるのを見て、建築時のカバーのような役割をしていた結界を壊す。

 そして隣にいるユウキに向かって、僅かに汗の滲んだ額を擦りながらドヤ顔をする。


「どーよ! 私のこの芸術作品ともいえる傑作は! 素晴らしい、で、しょ……」


 そこで私は、振り返って気が付いた。

 ユウキがいない。

 否、いる。

 ただ、いつもより明らかに低い位置にいるだけで。

 ユウキが縮んだ?

 否、縮こまっている。

 そう、何かに怯えるように、絶望するように、身体を大袈裟に震わせながら縮こまっていたのだ。

 どういうことなの。


「んぇ、えーっと。どしたのお前、ダンゴムシ状態になったりして」


「あああああああああもうダメっすお終いっすもうダメだ完全にオワタこれはあかんあーしの時代これにて終了打ち切りサヨウナラっすわもう生きていけないありがとうございましたあああぁぁぁぁ……」


 ……なんだこれ。

 何このネガりよう。

 何があった?


「えっと、なに、どうかしたの? なにか問題あった?」


 私がそう聞くと、ユウキは涙目でキッと睨むように顔を上げた。


「問題大ありっすよ! 大問題っすよ! 最重要案件っすよ!」


「な、なにが?」


 私のさっぱり分からんと言う顔に、分かれよ馬鹿! というようにユウキは立ち上がる。

 そして片手でマフラーを掴み、目の前のダンジョンを指さすと、



「あたしは! 寒いのが! 大の苦手なんだよ畜生がああああああ!」



 そう叫んでユウキは、マフラーの中に顔を疼くめて弱点を嘆くのであった。

 えーと、つまり、あれか。


『変態ゴリラ、活躍終了のお知らせ』


 うーん、その、なんかごめん。







 ********



『今回は休憩』



【待機組】

レグ『くらえ!魔力刃!』

アヴィー『そいっ!』

S『必殺、天誅』

レグ&アヴィー『あばばばば』

S『ふっ、やはり当機が一番最強ですね』

アヴィー『いや遠距離攻撃はずるい!』

レグ『そーだそーだ!』

S『つーんだ』


【テント組】

全員「Zzz……」


平和な夜です。

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