表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
1章 神の大冒険の始まりだそうです。
8/115

7 神と龍と山の上

 


 その少女は、森の中一人で鍛錬していた。

 己のため、憧れの人に近づくため、想いを寄せる者のため。

 子供の頃から日々努力を重ね、研鑽を積み、自分なりの魔導を極めていた。


 幼い頃から、周りに天才だ奇跡の子だと言われ育った。

 子供ながらすでに魔力を感知し、操作し、扱いの難しい魔法を扱える、奇跡の天才児だと。

 少女はその賞賛から、確かに自分はそうなのかもしれないと思いつつ、だがその賞賛を受け取ろうとはしなかった。

 周りを見ればもっと優れたものはいるのだから。

 天才でも何でもない、ただ己の力を極めた強い者が。


 少女は努力や才能で秀才より優れていたかもしれないが、一番近くにいる真の強者達には届かなかった。

 だから、手を伸ばせるように、足りない分を心底努力した。

 子供だろうと大人だろうと、努力の積み重ねに年齢は関係ない。

 年齢では一生勝てなくとも、努力や己の力では勝てるかもしれないから。


 少女は、とあることがきっかけで、そんな努力をしても一向に手が届かない者達が近くにいることに歓喜し、感謝していた。

 その人達を目標にして、いつか踏み越えるその日まで、自分はがむしゃらに努力が出来るから。

 自分が自惚れずにすむから。

 だから、自分を天才だと思わせない者達が数多といる、この世界に生まれてよかったと思っている。


 そんな少女は、一人の少年に想いを寄せていた。

 その少年こそが、少女にがむしゃらに努力するきっかけを作ってくれたのであった。

 そして、そのきっかけにより、想いを寄せるようになった。


 少女は幼い頃、周りからの薄っぺらい賞賛ばかりを貰い、だがいくら褒められても本当に届きたい者達には届かないことに、ほんの少し疲れていた。

 周りからこれだけ評価されているこの自分が、いくらやっても届かないということは、努力しても無駄なのではないのだろうか。

 何を積み重ねても、望むところにはたどり着けないのではないか。

 そうかすかな傲慢に浸りつつ、諦めかけていた時があった。


 そんな時、少女は少年と出会った。

 その少年には、幼い頃から天才と呼ばれる兄がいた。

 逆にその少年は、凡人だ、兄の方とは大違いだと、軽く見下されていた。

 確かにその少年は、その剣の降りは凡庸で、イマイチ光るところの無い、そこらの者と変わらない程度の実力だった。

 だが少年は、どんなに力が遠く離れていたとしても、その遠い兄の背中を追い続け、ひたむきに剣を振っていた。


 だから少女は疑問に思った。

 少年と出会って、しばらく少年を見ていながら思っていたこと。

 そしてその疑問を、ふとある時口にした。

 何故強くなろうと思えるのか、そんな兄がいるのに、どうして諦めないのかと。


 少年の答えは簡単だった。

 心底尊敬し、そして憧れ、何より諦めることが出来ないから。

 ただそれだけの理由で、前を向き努力を重ねているのだ、と。


 少女は、自分が馬鹿らしく感じた。

 周りのこと、憧れる者の遠さに、自分の弱さばかりを気にしすぎて、自分の初めの頃の気持ちを見失っていたことが、恥ずかしくなった。

 強くなる理由など、進む理由など、単純なもので良かったのだ。

 ただ、憧れだけで剣を振れる、この少年みたくあれば良いのだと。


 少女は恋をした。

 出会って、ほんの少し時を過ごし、彼の瞳を、真っ直ぐなあり方を見て、惹かれていた。

 不器用で無愛想で、どうしようもなく天才の兄を敬愛しているが、真っ直ぐひたむきに努力するその少年に。

 だからその少年のように自分もあろうと心を決めた。

 その少年の隣で努力を重ねるに相応しい人間であり続けられるように。


 そんな少女は、成長した今も努力を続けている。

 まだまだ足りない、まだまだ行けると、自分を奮い立たせて、日々己を練磨した。


「【ウォーターカッター】!」


 放った初級攻撃魔法は、本来の強さの何倍もの威力で、放った先にあった木の枝を切り落とした。

 だが水の刃はそれだけで消えず、くるりと周り、もう一本切り落とした。

 そしてもう一度回転し、再び枝を落とす……と行きそうになったところで、切込みを入れて刃は霧散した。


「ふうっ……。まだまだこのくらいしか持続出来ないか〜」


 そう、少女は本来であれば一度撃てば終わるはずの魔法を、魔力を注ぎ続け、持続して攻撃を続けるという鍛錬をしていた。

 一度発動した魔法に、魔力を注ぎ続けることはかなり難しい。

 術式を構築しながら注ぐのと違い、自分の手元から離れた魔法という完成した器に、水という魔力を流し続け、なおかつ操作し続けるのだから。

 普通であれば、やろうとは思わないだろう。

 あまりにも高度すぎる技からだ。


 しかし少女はやり、そして成した。

 だが、まだまだ満足していなかった。


「もう少し〈魔力操作〉のスキルレベルが上がれば、上手くいくかもしれないけど、レベル6以降ってどのスキルも上がりにくいんだよね〜」


 ちなみに、スキルレベルが6というのは、中堅冒険者以上で見られるステータスであり、まだまだ冒険者としては浅い少女が持っているようなレベルではなかった。

 これを誰かが聞けば、すぐさま引く手数多だろう。

 将来有望な若者として。

 もちろん、それは分かってるし、嫌だったので、こうして森の中で誰にも見られないよう鍛錬しているのだが。


「ん?」


 ふと少女は顔を上げる。

 何か聞こえた気がしたからだ。

 そして風を魔法で操作し、周囲の音をかき集める。

 これもまた、魔法の応用である。

 少女は知らないことだが、システムに組み込まれていない魔法は、全て純粋なその人個人の力でなせる魔法である。

 つまり、システムの補助なしで発動している魔法。

 これもまた、彼女が天才と言われる所以である。


「誰かが闘ってるのかなぁ。見つからないように、そろそろ移動した方がいいかな。……って、嘘」


 少女はちらりと見えてしまった。

 この森で、冒険者に恐れられる、山猫と呼ばれる強力な魔物に、追いかけられる幼い女の子を。


「大変! 助けなくっちゃ!」


 少女は魔法使い職で遅い足を動かした。

 基本的に体力や敏捷値は魔法使い職は低い。

 それでも、困っている人を放ってはおけなかった。


 しかし少女は知らない。

 その幼女は、少女よりも、少女が憧れる者達よりも、遥か彼方にいる、本物の天才であることを。

 そして、その天才が、暇つぶしの途中で、間抜けにもこうなってしまっていることを。


 本人の視点に、ほんの少し時を戻して見てみよう。





 *****



 私はレベルを上げ、スキルを入手して、少し山の方に来ていた。

 都市ビギネルの西の方にあるアステ山。

 そこにいる、ちょっとしたやつの顔を見に来るために。


「よっす、就眠ドラゴン。相変わらずぐうたらしてるねー」


『いやそれマスターにだけは言われたくないと思うのですが』


 るっさい私は一応働いてたわい。


 私が山の頂上付近に到達すると、そこには一体の巨大な龍が地面から頭を覗かせていた。

 木龍の一種で、肉体から巨木が生え、この山の半分ほどをこいつの肉体が占めている。

 しかも山の下の地中にまで埋まっている巨体だ。

 これで時を経て小さくなった方だというのだから、驚きを通り越して呆れてしまう。


 こいつは、この世界で古龍と呼ばれる、最古の龍。

 昔龍族は、この世界でもそこそこ幅を利かせてたけど、私がちょっとお話したら、みんな私の部下兼この星の忠実な兵隊となってくれた。


『お話といっても肉体言語だったと聞いているのですが?』


 龍族は基本的に弱肉強食なんだから単純な方法でいいのよー。

 正直昔殺した龍より雑魚だった。


『身を賭してプライドかけた戦いをしたのに、龍族哀れ』


 負けるのが悪い。


 私が話しかけても、その龍は木の根に覆われた瞼を重く閉じたまま、微動だにしなかった。

 そーかい、起きる気はないのね。

 まあいいんだけどさ。


 龍が無意識下でも貼り続けてる結界に、私が手を伸ばすと弾かれたので、ちょちょいっと簡単な魔術を構築して、堂々と隙間を開けて通り抜ける。

 そして地面に腰を下ろしてその幹にもたれかかった。


 もし他に人がいたら、何も無いところで指を振って歩いているようにしか見えないだろうけど、ちゃんと結界に隙間を開ける魔術を構築していたのだ。

 まあ、別に動作とかなくても出来るけどね、気分ですよ気分。


『それくらいは人間の肉体でも出来るんですね』


 結界を小さく破る程度の術だったら簡単に構築出来るからね。

 魂の魔力を封印してても、多少の魔術を扱うには支障ないし。


 私は腕を伸ばして息を大きく吸う。

 うむ、濃厚な魔素を放出している。

 巨木のおかげで空気がうましうまし。


『え、まさか休むためだけに来たのですか?』


 そうだけどなにか?

 あとはまあ、もし起きたら、からかって笑いのダシにでもしようかと。


『このマスターは……』


 でも起きてないから、こうやって体を休めるしか出来ないなー。

 つまんなーいのー。


 ……ん?

 もしかして私の身体、この駄龍の魔素を吸い上げてる?

 確かに何かと魔力を吸い込むくせあるけど、人間っていう別の器でもそれ起こるのかな?

 魂自体の特性だったのかな。

 封印しても、その特性は抑えらんないみたいだ。

 いずれにせよ、ここはMP回復場になるわけか。

 んでもって、この龍にビビって大概の魔物は近づかないから、安心してステータス確認も出来るし、休憩も出来る。


『でもほぼマスター専用ですよね? そういう特権は利用するわけですか』


 こういう休憩時ぐらい許してちょ。

 昔なんて休憩さえも気を張らなきゃいけなかったからさ、これくらいの贅沢は見逃してよ。


 さて、上がったステータスを確認しますかー。

 ステータスカードポチッとな。



 ********


『名前』レイチェル・フェルリィ

『種族』 人族

『ジョブ』シーフ

『Lv』2

『HP』78/78(↑8)

『MP』142/155(↑5)

『SP』48/55(↑5)

『攻撃』45(↑5)

『防御』20(↑3)

『魔力』113(↑3)

『抵抗』113(↑3)

『敏捷』40(↑5)

『運気』10

『スキルポイント』5(↑5)


『アクティブスキル』

「罠解除 Lv1」

「魔闘術 Lv1(new)」

「火炎魔法 Lv1」

「水流魔法 Lv1」

「暴風魔法 Lv1」

「地動魔法 Lv1」

「光魔法 Lv1」

「闇魔法 Lv1」


『バフスキル』

「強力 Lv1」

「俊足 Lv1」

「気配感知 Lv1」

「魔力感知 Lv1」

「魔力操作 Lv1」

「罠感知 Lv1」

「神層領域拡張 Lv10」


『ユニークスキル』

「観察眼」


『称号』

 なし


 ********



 うむうむ、ちゃんと上がっておる。

 順調順調。

 今日はあと一体くらい狩ったら、帰ってもいいかもなー。

 宿も早めに取らなきゃだし。

 普通は来る前に取るべきなんだろうけど、宿をとるなんていう経験がほぼないから、うっかり忘れてしまった。

 昔はずっと野宿だったものなぁ。


 ……なんか、まだ半日も経ってないのに、一々昔のことを思い出してしまってる気がする。

 こんなんでやっていけるんだろうか。

 私は、ちゃんと、強くならなきゃいけないのになぁ。

 一人でも、生きていけるように、いつか一人で歩いて行けるように。

 広い世界を歩くには、やっぱり力が必要だ。

 だから、もっと……。


 そう、意識がまどろみかけていた時である。

 ゾッと悪寒が走った。

 これは、まずい。

 何かは分からないけど、とにかくまずい。

 自分自身じゃなくて、この場所にいるのが。


 私は思わず立ち上がった。

 そして咄嗟に横に飛び除けた。

 それはずっと怠けていたが、衰えていなかったらしい勘により成せた技だった。

 でもって、嫌なことに大正解だった。


 ドゴッ!


 私がさっきまでいた場所に、衝撃音が走る。

 が、不思議かな。

 普通だったら穴でも開いてそうなものだが、ガッチガチやで! な木龍からは葉がハラハラと落ちるだけでほぼ無傷だった。


 いや、こんな龍はどうでもいい。

 とりあえず、こいつがなんでここに来て、しかも入って来たかだ!

 なんでこの辺りで一番厄介なキラーキャットがいるのかな!?


『ああ、マスター、ちょっと解析結果が出たのですが』


 なに!

 今このブサ猫からどう逃げるか頭フル回転してるから手短に!


『その龍の結界、ちょっとした興味本位で調べたのですが。それ、接近防止結界といえばそうなのですが、マスターが思っているものとは少し別物でした』


 それはどゆこと?


『結論だけ言えば、寝てる間その龍にとって脅威となる存在だけを弾く結界で』


「ブニャァァ!」


『要は格下は普通に通すという、なんとも傲慢な結界でした』


 ちっきしょー!







 ********



『以下の用語とその解説が追加されました』



「人物:最古の木龍:???」

 都市ビギネル近くの山で眠る巨龍。

 特徴:とても濃い魔素を放出していて、木龍の魔力のため、植物の成長促進や品質向上にも効く。

 この龍のおかげで都市ビギネル近くで取れる野菜は美味しいとされ、農業が盛んな一因となっている。

 補足:正直こいつの方がマスターよりも仕事してなくてイラッとすることもありますが、寄越す仕事もないし余計なこともしないで欲しいので放置ですね。



「場所:山:アステ山」

 木龍の寝床となってる山。

 特徴:山猫と称され恐れられる魔物が多く徘徊し、山付近ほど強力な個体が多い。

 この山で取れる山菜や果物は栄養が豊富で美味。

 山に行っても、大抵は木龍に近づく者はいない。

 補足:寝てるくせに変なところで役に立つ木龍に感謝を捧げる人間には、微妙な気持ちになりますな。



S『あー、ちなみにこの山は、別に言うほど大きくないです。この龍も弱体化して縮んでますし。ほら、老人は背が縮むみたいな』

レイ「ねえ、ちょっと! 私にピンチフラグ立ってるんだけど!」

S『大きく見えるのはマスターが縮んだからですね。小さくて可愛らしいですよ』

レイ「小さいからピンチなんだけどー!」

S『フラグ回収、万歳です』

レイ「ぎゃあああ!」


フラグはいつか回収されるのが常。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ