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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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64 夜だろうと猛吹雪の如く

 


「「「申し訳ございませんでした……」」」


「ほえ……?」


 ユウキとの騒がしい風呂から抜け出して部屋に戻り、部屋の扉を開けると、アレンとウレクとメルウィーの三人が土下座待機していた。

 そんな三人をベッドから見下ろしていたアヴィーが、私の姿を見るなり喉を鳴らして近寄ってくる。

 私はアヴィーを洗浄の魔術で少し洗ってやってから頭に乗せ、三人に目をやった。


「えーと、それ、なんの謝罪?」


「ユウキさんを止められなかった力不足と命令を遂行出来なかったことへの謝罪です……」


 アレンが代表して謝罪の中身を明かす。

 そして下げていた頭をさらに下げる。

 三人の頭が汚い床に触れる前に私はツッコミを入れる。


「いやいやいや、それならそこまで気にしなくていいから。なんとなく無駄かもなーと思ってたし、お前ら何も悪くないでしょ」


「ですが、ユウキさん一人に対して、三人でかかっても、結局無力化されてしまいましたし……。これでは、護衛役として役不足過ぎるかと……」


 アレンが心底項垂れながらそう零す。

 あー、あー、うーん……。

 なんか、この所こいつらには申し訳ないなあ。

 自信無くさせてばっかりじゃない?

 比較対象がデカすぎるんだよなあ。

 どうしよう。

 励まし方とか知らないんだけど。

 うー、うー、あー。


 とりあえず、三人の頭をぐしゃっと撫で回してやった。

 三人とも一様に、顔を上げて呆然とした表情を見せる。

 私は呆れたため息を吐く。


「あのさ、そんなに悲観的にならないでよ。規格外とエリートを比べるもんじゃありません。悪魔の件についても、あいつについても、両方規格外の化け物なの。化け物と、普通の人間であるお前達を比べちゃいけないでしょ。むしろお前達は普通の人間の中では常識外れの力を持ってるんだからさ、ちゃんと自信持ちなって」


「で、ですが……」


「なにさ、この私の貴重な褒め言葉を信じられないっていうの? 組織のマスターであるこの私が、お前達はちゃんと強いって言ってんの。だからほら、しゃんとせい!」


「「「あうっ」」」


 全員の額にデコピンをかまして無理矢理顔を上げさせる。

 ああ、もう、ガキの励まし方なんて知らないって。

 こうやることでしか喝入れてやれないってーの。

 私がそうモヤモヤして頭をかいていると、後ろで待機していたスーレアが、突然扉をガタッと抑えた。

 かと思うと、扉がバンバンバンバン! と乱暴に叩かれた。


「化け物と呼ばれた気がして来たっすー! レイレイの犬のあーしっすよー!」


「うっせー! 懲りないなお前!」


「ふぐぶっ!」


 スーレアを押しのけて扉を開け、蹴りを御見舞してやった。

 蹴りをくらったユウキはそのまま廊下に倒れ、腹を抑える。


「くっ、いい蹴りっすわー」


「判定はいらん。そして帰れ。何しに来たのさ」


「いや、さっき風呂場ではしゃぎすぎたから、レイレイ大丈夫かなーって。湯あたりしてないっすか? 魔力結構減ってないっすか?」


 そう言って部屋に入ってきて、普通に心配するように額に手を添えて顔色を見てくる。

 ああ、はしゃいだ自覚はあるんだ。

 無自覚にあのテンションだったらどうしようかと思ったよ。


「大丈夫。あの程度なら平気だよ。まあ多少火照ってはいるけどね」


「それはあーしもっす。風呂場ではしゃぐもんじゃないっすねー。あっはっはー」


 ハイテンションに入ってきてよう言うわ。

 ユウキは部屋で未だに正座してしょんぼりする三人を見て首を傾げた。


「で、どしたんすか?」


「さっきお前にコテンパンにされたせいで自信喪失して私に謝罪してんだよ。どうしてくれる。これでも組織ではエリートな奴らなんだぞ」


「えええ〜、差し向けたのはレイレイなのにー。うー」


 ユウキは頭をかきながら、三人に近づいて、アレンの肩に手を置いた。


「ま、三人とも中々の強さだったっすよ。そんじゃそこらの奴らには手も足も出ないっすよ。だからこれからもっと精進して、頻繁にあーしの遊び相手になってくれっす!」


「おいこら励ましが途中から欲望に変わってんぞ」


「おっとついうっかり」


 ぺろーっと舌を出して悪気無しに見せたいのだろうが、ただただイラッとするだけだ。

 しかし、ユウキの微妙な励ましに、アレン達はまだ立ち上がろうとしない。


「でも、やっぱりユウキさんにはコテンパンにされましたし、次にもしまた手合わせしても、負けるかもしれな……」


「下を向くなー!」


「いっ!?」


 ユウキからの突然のパンチに、アレンは腫れた額を抑える。

 アレンは目を白黒させて困惑する。

 他の三人も、私も同様だ。

 そしてユウキは腰に手を当てて、いかにも私怒ってますの雰囲気になった。


「たかが一回の負けで、なんで完全なる敗北だと受け入れちゃうんすか! 十回やったら一回は勝てるかもしれないじゃないっすか! 十回が無理なら百回! 百回で無理なら千回! 勝ちを掴めるまで努力して、何度もぶつかるんすよ! 今弱い自覚があるんなら、これから強くなればいいだけっす!」


 そう言いきり、胸を張った。

 こいつ、本当に元日本人なのかなー。

 いやまあ、平和ボケしてても、こういう体育会系はいるかもか。

 アレン達もポカンとしてるってのに、それが当然ばりに胸を張ってて、なんか笑えてくる。


「っふふ、あははははっ」


 思わず口に出して笑い、ユウキの背中をばしばしと叩く。

 面白い、うん、面白い。

 これだからこいつは、馬鹿で脳筋でゴリラで変態だけど、なんとなく気に入ってるんだよな。

 ま、本人には絶対言ってやんないけど。


「なっ、なんすかー。あーし、間違ったことは言ってないっすよ?」


「いや、間違ってないからこそ、笑えちゃって。ぷふっ。いやー、うん、お前はそういうやつだよな。なにせ本気で闘って、私に勝てたこと無いんだし」


「むむむ! 今日は一応勝ったっすよ!」


「はっ、そりゃこんだけ私が弱体化してりゃあねえ?」


 私がそう言ってやると、アレン達は、ああ今の言葉は実体験からか……という遠い目をした。

 ほんっと、これだからこの筋肉ゴリラは面白い。

 諦めが悪すぎて、ね。


「この馬鹿の言う通りだよ、三人とも。最近自信を無くしてばっかりかも知んないけどさ。それってようは、それだけ世界の広さと、自分の弱さを自覚出来たってことでしょ? 足りない部分が分かったなら、そこを埋める努力をすればいい。それでまた進めたと思ったら、また挑めばいいさ。種族とか、格とか、経験とか関係なくさ」


 私は笑いながら、三人の頭を撫でてやる。

 弱いのがどうした。

 強くなればいいじゃないか。

 種族が違うのがどうした。

 そんな差なんて埋められるくらい、自分なりの力を身につければいいじゃないか。

 経験が足りないのがどうした。

 まだまだこれから積めばいいだけじゃないか。


 弱い強いなんて、案外単純だ。

 単純故に、その変わり方も単純でシンプルだと思う。

 努力は裏切らない、とまでは言わない。

 でも何かを変えるのは、いつだって変わろうとする意思だというのは、確実だと私は思っている。

 私だって、そうなんだし。


「自分のためでも、誰かのためでも、闘いのためでも、なんでもいいからさ。弱いと自覚してそれで終わるんじゃなくて、そこから先に進もうとする意思が少しでもあればいいと思うよ。だからさ、相手の強さに打ちのめされてるんじゃなくて、自分の強さを見つめようよ。お前らがへこたれてるのは、なんか嫌だし。元気だしてよ」


 うん、なんか、いやなんだよね。

 身内で弱いだなんのでへこたれられるのはさ。

 私がそういうと、三人と後ろのスーレアはぶわっと泣き出した。

 えっ、えっ、なになになに。

 どうしたの、どうしたのさ。


「俺、マスターのために、みんなのために、もっと頑張りますううー」


「僕も精進します」


「私も……」


「うう〜……」


 なんで? なんで泣くの!?

 私がそうオロオロしていると、ユウキが隣で冷やかしてくる。


「あーあ、レイレイが泣かしたー。いけないんだー」


「え、これ私のせい!? 私のせいなの!? ちょっとお前ら! もう立派な成人男女が子供みたいに泣かないでよ! 困るんだけど! ねえちょっとぉ!」


 その後結局、混乱しつつも四人を宥めて、その場を収めた。


 そしていつものように健康診断を済ませ、スーレアの魔力もある程度弱めておき、私はベッドに入る。

 ペンダントと髪飾りをスーレアに渡して机に置いてもらうと、アヴィーがベッドに乗ってきた。


「にゃあー」


「ああ、魔力ね。はい、勝手に吸えば?」


「にゃむ」


 アヴィーが私の指を加え、歯を立てて血を吸う。

 正直、人間擬態したら、なんとなく艶かしい光景な気がする。

 その光景を見て、ユウキがほーう、と一人頷く。


「同じ悪魔だから、やっぱり血、というか魔力を欲するのは同じなんすね」


「そういや、お前も定期的にあの黒ガキにあげてるの?」


「ま、しないと向こうが力でなくなっちまうっすからねー。あーしの相棒という名の武器として、それは困るっすもん」


「でも闘いで結構力使うでしょ。あいつよく死なないね?」


「斬った相手からも吸い取ってるっすからねー。魔核まで溶かさない程度に。だから問題ないそうっすよ」


「なるほどね。上手く共存できてんじゃん」


「なはは。あいつも、根っこから悪いやつってわけでもないっすしねー。自分にも他人にも清々しく素直だし。単純に馬鹿なだけなんすよ」


「あっそ。あいつの性格とかはどうでもいいや」


「にゃあ」


 アヴィーが私の指から口を離して、血の出た部分を舐める。


「もう終わり?」


「にゃー」


「はいはい。じゃあ好きな場所で寝てて」


「にゃん」


 アヴィーは私の枕元の近くで眠り、私は布団を被って、まだ堂々と居座っているユウキを睨んだ。


「おい、寝顔を見る気じゃないよね」


「何故バレたっす!?」


「流石に分かるわ! とっとと出てけ!」


「えー、いいじゃないっすか別にー。減るもんでもないしー」


「なんか恥ずかしいっつーの! 落ち着いて寝られんわ! でーてーけ! それか、こっちが布団かぶって背中向けてやる! 背中だけ見てろ変態!」


「ああっ、そんなー」


 がばっと布団を顔にまで被せて、ユウキに背中を向ける。

 ユウキは残念そうに背中を揺するが、やがて諦めたのか手を離す。

 かと思えば、私の頭をそっと撫で始めた。


「……なにさ」


「うーんにゃ。なんでもないっすよー」


「頭なんか、撫でても、寝顔なんて……」


「はいはい、分かったっす。おやすみっすよ、レイレイ」


 ユウキに頭を撫でられ、瞼が重たくなってくる。

 ああ、折角冒険者再開した日に、どっと疲れが……。


「ん……おや……すみ……」


 そうして私は、騒がしい一日の、終わりを迎えるのであった。

 ああ、疲れた、なあ……。







 ********



『今回は休憩』



ユウキ「ひゃあああい。かーわいー」

アレン「あの、ユウキさん、流石に枕元で騒ぐのは……」

ユウキ「ねえちょっとカメラないっすかカメラ」

ウレク「流石にバレて処分されますよ……」

ユウキ「ちぇー」

アレン達(やっぱこの人危険人物……)


このゴリラ、変態につき近寄るべからず。

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