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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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63 雪は風呂場でも色褪せてくれず

 


「……てなことがあってさ。いやー、物凄くウザかった。ざいうーの極み」


「あはは〜。私の知るユキさんとは大違いのような、ちょっぴり心当たりがあるような……」


「常にハイテンション過ぎるんだよねー、あいつは。自重して欲しいわ」


「良い人ではあるんだけどね〜。はーい、お目目瞑ってねー」


「ん」


 現在私は、宿屋木漏れ日亭にてまた部屋を取り、食事した後にお風呂に入っている。

 あー、この大浴場も久々じゃー。

 組織の秘密基地の方では、服も丸ごと全身洗浄魔術装置とシャワールームがあるだけで、浴槽はないからねー。

 とる場所を小さくするためには仕方なかったが、やはり贅沢に浴槽に浸かりたい。

 まあこっちの世界も、今や結構水道技術が進んでるから、割とお風呂は一般的になりつつある。

 それでも小さな街や村とかにはまだまだ難しいけど。


 で、今はルーリアと丁度タイミングが合ったので、髪を洗ってもらい背中を流してもらうことにした。

 ルーリアは私の髪を洗っているだけなのに、どこか楽しそうである。


「はいっ、レイちゃんピカピカ〜」


「んじゃ、今度はルーリアの番だね。座る場所交代」


「ありがと〜」


 座る位置を交換して、今度は私がルーリアの背中と髪を洗ってあげる。


「そういえば、私のいなかった一週間の間、なにかあったりした?」


「ん〜? そうだね〜。特になんにも……あ、いや。二日前くらいにユキさんが来て、ギルドが騒がしくなったけど、まあそれくらいかな〜。特に大きなことは無かったよ〜」


 二日前?

 手紙をもらってから大分経つけど、あいつ王都から走ってきたとしても、十数日以内にここにたどり着くでしょ。

 ていうか、あいつ転移魔法使えたよね?

 遅過ぎない?


『まあいつも通り、人助けしながらだったんじゃないですかね。あれのことですし』


 足元の木桶に髪飾りと共に避けておいたSのペンダントから声がする。

 まあそうかもねー。


 ちなみに、アヴィーは部屋で待機だ。

 一応見た目は猫だからね。

 風呂場連れてきちゃ拙いでしょ。

 そして不意に、ルーリアがSのペンダントに目をつけた。


「前から思ってたけど、そのペンダントと髪飾りって、お風呂場に持ってきても大丈夫なの?」


「大丈夫大丈夫。私のチート魔術で防水の効果がついてるから。両方、万が一にも失くなったら困るし。それに髪飾りの方は、私の力を封印しているものだから、長時間外してると色々漏れてきて色々と宜しくない」


「け、結構大事なものなんだ〜……」


「まあ私にしか効力ないから、他のやつの手に渡っても、ちょっと高価な髪飾りだけどね。ていうか、渡ったとしても無駄だろうし」


 貰ったものだけど、私以外の物に効果がないように術が編まれていた。

 そして、私以外のものが悪用しようとすると、自壊する機能つき。

 マジ物でした。

 Sのペンダントに付けた魔術の色々は、この髪飾りに込められた魔術を参考に私が付けたものだしね。

 流石だなって思う。

 ……本当に、凄いや。


「ん〜? レイちゃん、どうかした〜?」


「え? なんで?」


「なんか、魔力が乱れたような気がして。触れられてるだけでも、ちょっと分かっちゃうくらいには」


 おっと、ほんの少し感傷的になってしまったのがバレてしまった。

 全く、ちょっと腹立つなあ。

 私はルーリアの頭をぐしゃぐしゃと乱してやる。


「あうっ」


「なんでもないよ。はい、一度流すからね」


「う〜」


「……はい終わり。次背中ね」


「はーい」


 大人しくさせて、背中を洗ってやる。

 気を紛らわすために、先程の話題に戻すことにした。


「ユキがやって来た時、騒がしかったんじゃない?」


「まあね〜。冒険者でユキさんを知らない人なんて、ほとんどいないもん。この都市ビギネルは、ユキさんが昔活動拠点にしてたらしいからね〜」


「まあここは、誰でも冒険者としてやりやすいもんね。冒険者ギルド的にも、街としても」


「えへへ〜」


 自分が褒められたわけでもないのに、ルーリアは嬉しそうに笑う。

 その理由を知っているので、私は特にツッコミは入れておかないでおいた。


『ああ、あのちっちゃい人ですか』


 こらこら、本人のコンプレックスなんだから言うんじゃない。

 本人に届くよ。


「はい、流すから、また目瞑って」


「はいはーい」


 洗い流して、二人とも入浴準備完了だ。

 私は髪を上げてペンダントと髪飾りを身につけて、ルーリアと一緒にお風呂に浸かる。


「「ふあああ〜」」


 お互いに年寄りみたいに息を吐く。

 あー、疲れた。

 本当に疲れた。


「ねえねえレイちゃん。明日から普通に冒険者として活動するの? 今日あんな闘い方してたのに大丈夫?」


「ん? そうだよ。ユウキから回復薬貰ったから、ノー問題。勿論、ルーリアとセルトの訓練も再開するから、楽しみにしておいてよ」


 私がそうニヤリと笑って脅してやると、ルーリアは対抗するように胸を張って、浴槽でだらしなおっぱいを揺らす。


「ふふん、私もセルト君も、レイちゃんがいないからってサボってたわけじゃないんだから。成長した姿を見せて、むしろ驚かせてあげるもん!」


「ほほう、それはそれは楽しみだ」


 精進しているようで感心感心。

 そうして、私がルーリア達の努力に頷いている時であった。

 二人きりだったお風呂場の扉が、バーン! と道場破りの如く開かれた。

 そして堂々と(まあ風呂場だから当たり前なんだが)裸体を晒して立つのは、艶のある黒髪が降ろされたことで撫子美人に見えなくもない、変態ゴリラことユウキだっだ。


「我が愛しのレイレイはここかー!」


「ハイドロポーンプ!」


「もがごぼっ!?」


 エンカウントと同時に水責め!

 脱衣所へリリース!

 そして魔力糸で扉を閉め、直ぐに開けられないようにロック!

 が! 馬鹿力の前では無力!

 虚しくもまた扉は開けられた!


『悲しいかな』


 うわああぁぁああん!


「いきなり締め出しだなんて酷いっす!」


「るっせー! 落ち着いた時間を返せ! そして帰れ!」


「残念! 今のあーしにとってはここが帰る場所っす!」


「うわあああ! 部屋とりやがったこいつー!」


 ていうか、三人は!?

 アレンとウレクとメルウィーは!?


「(マ、マスタ〜)」


 脳内にスーレアの〈念話〉が届く。

 あっれ、まさか。


「(なに? どした?)」


「(その、三人が……止められなくて誠に申し訳ございません、と……)」


 のおおおおお!

 足止め無駄だったー!


「(うん、まあ、一応無事でよかった。こいつはもういいから、いつも通り私の護衛に戻ってって伝えておいて)」


「(あ、ありがとうございます……)」


 なんか凄くあいつらに申し訳なくなってきた。

 どうやらあいつらでは役不足だったようだ。

 流石に、この変態暴走ゴリラ相手は、なあ……。

 

「あ、ちなみにレイレイの隣開いてたらしいんで、そこにしたっす」


「なー! こいつまじありえねー!」


 私の隣、ってことはルーリアとは反対側の隣の部屋か!

 空いてたんかーい!

 どんなタイミングよ!?

 主人公補正でもかかってんのかこの地球人には!


 私はがっくしと浴槽の淵に手をついて項垂れる。

 ルーリアはそんな私とユウキを交互に見て、戸惑いの色を浮かべた。


「ええっと、仲いいんだね?」


「もち、あーし達の仲っすから! なかよしこよしっすよ!」


「良くない! こんなゴリラと仲良くなんてないから! こっちくんな!」


 私は魔力を漂わせて威嚇する。

 しかしユウキはヘラヘラと笑いながらこちらに近付いてこようとする。


「んもー、猫みたく威嚇してても可愛いっすねーもー」


「ふしゃー! せめて体洗ってこいあんぽんたん!」


「おっとついうっかり。じゃあ洗ってから一緒に入るっすー」


「いや来ないくていいから。ていうかむしろ私が先に上がってやる!」


 私が浴槽から出ようとすると、ユウキがシャワー前の椅子に座りながらこちらに手をかざした。


「魔力糸バインド!」


「うわあっ!?」


「レイちゃん!?」


 不可視の何かに体を拘束され、その場に身体を拘束される。


「かーらーの、おすわり!」


「わぷっ!」


「レイちゃんがユキさんの言われるがままに!?」


 ユウキが指を下にやると、私はそのまま浴槽にしゃがみこんでしまった。

 見えない何かに縛られながら、風呂場に強制的に浸からされてる状態だ。

 こ、こいつ、いつのまにこんな器用な真似を!?

 だがなあ、そういう遊び心溢れた魔法とか魔術に関しては、私の方がプロだ!

 当然解除の仕方も心得ておるわ!


「魔力糸、分解っ!」


 私はブチブチと音を鳴らしながら、ユウキの放った魔力糸を引きちぎった。

 やったことは簡単。

 魔力糸の魔力を放出してしまい、魔力濃度を薄め、ただの細い糸にすればあとは簡単に千切れる、というわけだ。

 私の荒業に、ルーリアもユウキも目をひんむいた。


「えええっ!? あーしの折角の魔力糸が!」


「なになにっ!? 魔力で出来た糸が千切れたよ!?」


 ふふん、どーよ。

 驚きおののきやがれ。

 私は鼻高に二人を嘲笑ってやった。


「はっ、悪いけど、こういう技に関しては私の方が先駆者だから。ていうか、こんな稚拙なもので止められると思ったの?」


「むむむ、ならば、魔力結界っす!」


 今度は魔力の障壁が私を取り囲んだ。

 中々丈夫な魔力の檻だ。

 まあ、これも私にとっては、薄い氷の板みたいなものだけど。

 そう鼻で笑いながら拳を握り、破壊の魔術を込めながら魔力障壁を殴る。


「ふっ!」


 が、殴った瞬間、魔法が障壁に呑まれて、ただの弱々しい幼女パンチだけが障壁に響く。

 えっ、マジで。


「うぇっ? 魔術分解? お前いつのまにそんな技を身につけたん?」


「なははのはー! レイレイの所の組しっ……んぐっ、レイレイの秘密兵器を使わせてもらった時に、参考にしてもらったんすよ!」


 短時間で身体を洗おうとするユウキが高笑いし、風呂場にうるさい声が響く。


 マジか。

 中の魔法式を読み取って自分のオリジナル魔法として組み立てただって?

 天才かよありえねー。


『マスターがそれを言いますか』


 ただの人間にそんなことが出来たという事実を受け入れ難い。

 やっぱ無自覚に本能が覚えてんのか……。


「むむむ、きちんと編み込まれてるなー。ムカつく」


 私はついつい研究意欲かられて魔法式をじっくり読み取ってしまう。

 その間にユウキが急いでやって来ようとしてるのに、だ。

 私がむむむと唸っていると、ルーリアも障壁に近付いてじっくりと見つめる。


「レイちゃんって、魔法を見ただけで魔法式を読めるの?」


「ルーリアもある程度は読めるでしょ?」


「ううう〜、読めないところの方が多いよ〜。学園でやったことは全部覚えてるけど、レイちゃんやユキさんが使うのは、学園じゃ学べないような魔法だから、普通は読めないって〜」


「まあ、あーしはスキルから独学で学んだっすし」


「私はまあ、そういうわけだし」


「……あれ? そういえば、ユキさんって、レイちゃんのことどれだけ知ってるんですか?」


 ユウキと私で顔を見合わせる。

 んー、んー、んー。

 私から説明するのが一番マシかー。

 結界に手を触れて解析し、徐々に分解しながら説明する。


「一応、私の正体を正規ルートで知ってる、ちょっとした知り合い」


「むー! 知り合いじゃなくてダチがいいっすー! それか犬!」


「なにさ、フリスビーでも投げられたいの?」


「昔から飛んで行ったものは取りたくなる本能ならあるっす」


「何故か訓練された犬としての本能。いやそれは本能っていうのかなあ?」


「え、えっと。じゃあ私と同じで、レイちゃんが、その、人間じゃないって知ってるってこと?」


「まあそういうこと」


 というか、ルーリアよかこいつの方が付き合いは深い。

 組織にも入り浸ってるし。

 ルーリアなんて、ほんの数週間前に会ったばっかりの、一方的に知っていただけの関係だし。


「ところで、正規ルートって?」


「あー、どちらかっていうと、裏ルート? いやでも、私が唯一存在していると設定されてる場所なら、正規ルートなのかな?」


「え、あそこに行けばレイレイに会えるイベントって正規ルートなんすか?」


「まあ、この世界で私が正式に存在しているのって、あそこだけだし」


 正式というか、なんというか。

 知るやつしか知らない場所だしなあ。

 そんな私とユウキの会話に、ルーリアが首を傾げた。


「あれ? レイちゃん前に、この世界では存在していないことになってるって言ってなかった?」


「ん? ああ。神話的意味では存在してないよ。でも、実は本来の私とちゃんと会おうと思えば会えるんだよねー」


「まあ軽く三十回は死にかけるんすけどねー」


「三じゅっ……!? ユウキさんでそれだけ死にかけるなんて、その場所って、一体……」


 ルーリアが浴槽の中で軽く青ざめ、口に手を当てる。

 その間にユウキが全身を洗い流し終えてしまい、浴槽に入ってきた。

 そして私と顔を合わせ、口を揃えて答えを出した。


「「底無しの迷宮(アビスラビリンス)」」


「えっ……」


 ルーリアが唖然とし、固まってしまう。

 まあ、驚くのも無理はないよなあ。


 底無しの迷宮、通称アビスラビリンス。

 そこはこの世界で一番最初に創られたダンジョン故に、最も古いダンジョンであり、現在最も難しいダンジョンと言われる場所だ。


 一層目からBランクダンジョン並の難易度で、Bランクの冒険者がパーティーを組んでクリア出来るか出来ないかといった具合である。

 しかもそのダンジョンからは、特定のモンスターが所持しているテレポストーンを使うか、クリアする以外に脱出方法はないという鬼畜仕様。

 ようはクリアするか、緊急脱出装置見つけないと帰れまてんだ。


 階層を重ねる毎に難易度が徐々に上がるというのならば、普通のダンジョンと変わりない。

 しかし、そのダンジョンには初め、たったの十層しか無かった。

 Bランク級のダンジョン十層くらいならば、大したものでもなく、そのダンジョンは割りと早いうちにクリアされた。

 しかし、話はそれで終わらない。


 次にそこへ挑戦しに行った者達は、帰ってきた時にこう言ったのだ。

 ダンジョンに下の階が増えている、と。

 それを確かめに、次の者達が向かい、帰還した後その者達もまた言った。

 あのダンジョンは、十二層だったのか、と。

 その次も、そのまた次も、彼らは口を揃えて、前に行った者達の階層よりも、先があったという。


 つまりそのダンジョンは、誰かにクリアされる毎、一層ずつ増えていたのだ。

 それが、最高難易度ダンジョン、アビスラビリンスという場所だ。


「あそこは今やあーし以外はあんまり行かなくなったっすよねー。つまんないっすー」


「いやお前が無駄にクリアしすぎるからでしょ……。……おっ、解けた」


「逃がさないっす!」


「ぎゃー! 抱き着くなー!」


 折角結界を破壊出来たのに、既に浴槽に入ってきたユウキに捕まってしまう。

 てかこいつ体洗うの早くない!?

 水魔法とか使ってたん!?

 お風呂場で落ち着きがないと思うの!


 ルーリアは私とユウキの無駄な取っ組み合いをスルーして話を続けた。

 こいつもなんか図太くなったような気がすんなあ、悲しいなあ……。


「ユ、ユキさんが今のアビス最下層クリア者って、本当だったんですね」


「なんすかー、信じてなかったんすかー?」


「いや、だって、ここ数年ユキさん以外にクリアしたって人を聞いたことがありませんから、その……」


「まあ、そりゃあ信ぴょう性薄いよね。でもまあ、ギルドで公式に発表されてるし、ちゃんと本当だよ」


 むむむ、ユウキの胸、ルーリアほどウザくない。

 しかし逃げたいことには変わりない。

 でも今のこいつの馬鹿力に勝てねー。


「あれ、最後に攻略したのって何層ですか?」


「133層っすねー。また今度クリアしに行っていいっすか?」


「遊びに行っていいみたいに言わないでくれるかな。私の自慢の遊び場で」


「ふえええ、あそこが遊び場だなんて、次元が違うよ〜」


 何故何度クリアされても、何度も行く者がいるのか。

 名誉やら力試しに行く者もいるが、なによりも魅力的なのは、最下層攻略時の豪華なクリア特典である。

 毎度その時の最下層をクリアすると、様々なお宝が貰えるのだ。

 装備や、ポーションや、沢山の財宝などなど。

 しかも、最下層が深くなればなるほどに、中身の格も上がっていく。

 時には国が遠征隊を立ち上げて向かわせたこともあるくらいには、そこにあるものは魅力的なのだ。


 五十層くらいまでは、まだAランクダンジョンレベルであった。

 しかし、51層、つまりクリアしたグループが41グループに達した時から、そこはSランクダンジョン並となった。

 つまり、クリア者が狂人と呼ばれるレベルだ。

 そこからは、一層解放するまでに、いくつものグループの屍が積み上がることがあった。

 時には、単騎で挑む戦闘狂もいたが、そういう奴らも死んでいった。

 おかげで、階層が深くなっていく事に『骸達の迷宮』なんて呼ばれるようになっていったり。

 失礼しちゃうわ。

 そっちが勝手に骸になりに来てるんでしょーが。

 それでも未だにクリアするやつがいるんだからこの世界の人間はおかしい。

 ピィリィと共同で全力で制作してんのになー。


『いつも新しい階層創るときは楽しそうですよね』


 そりゃあ、どんな罠に嵌めてやろうか考えるのは、楽しいよねえ?


『楽しみ方が完全にドS制作者……』


 遊び心満載といいなさい。

 ただし、純然たる悪意と殺意を持った。


「あれ、でも、それならレイちゃんの存在って、昔から知られていてもおかしくないんじゃ?」


「そこはほら、完全なる口封じという名の、契約魔術だの記憶消去だのでどうにかなるしー。口から出るような情報を削除しちゃえばいいよねー」


「ふえええ、神様怖い〜」


「それに、私が顔を出すようになったのは、迷宮が100層に達してからだもん。昔の攻略者とは顔を合わせてないよ」


「あ、そうなんだ」


「流石に100層以降のクリア者は、かなり人間やめてるようなものだし、私が直々に褒美を下賜してやろうかと思ってね。で、こいつともそこで知り合った」


「へえ〜。初めて会った階層は何層だったんですか?」


「124層っす!」


「わあ〜、流石凄いです、ね……?」


 ルーリアがユウキの言葉を聞いて、首を傾げた。

 あ、気付いちゃった?


「……あれ? 確かアビス攻略者って、ここ数年でずっと一人しかいないって……」


「そっすよ!」


「そうだね」


「ってことは、あそこに九回も行ってるんですか!? しかも一人で!?」


「なははのはー!」


 ユウキは私の真後ろで高笑いする。

 風呂に反響してうっさいわ。

 私は頭痛を抑えるようにこめかみを抑えた。


「もう正真正銘の馬鹿だよねこいつ……。今まで九回まで連続して来たやつ、流石にいなかったよ」


「え、でも、連続して来た人、他にもいたの……?」


「いたね。100層攻略者も四回も来て、四層も増やしていったよ」


「せ、世界って広いんだな〜。あはははは〜……」


 そうそう、世界は広いのだよ。

 こんな戦闘狂ゴリラも、案外いるもんだ。

 だからこそ、眺めてて面白いと思えるんだけどね。


 そうしみじみ思っていると、ユウキが私の頭に頬擦りしてくる。

 なにやってんのこいつは。


「はあ〜、にしても、ほんっとレイレイ、ちっちゃくて柔らかくて可愛いっすわー。普段なら、こんなふうに触れる前に物理的に押しのけられちゃうぐぐぐぐ」


 私は首を掴んでお風呂に沈めてやろうとする。

 ロリコンと言われて捕まっても文句言えないだろこいつ……。


「天誅下して風呂場の藻屑にしてやろうか……」


「そ、それは勘弁っすよー、もー」


「ふふっ、やっぱり仲良いんだ」


「勿論っすー!」


「良くなあぁあい!」


 そんな騒がしい風呂で、他の人が入ってくるまで馬鹿騒ぎしていたのであった。

 ああ、なんか前にもあったような、無かったような……。


『風呂って優雅に入るものじゃありませんでしたっけ』


 身体も心も全くもって休まらないね!







 ********



『今回は休憩』



アレン&ウレク&メルウィー「……。」

スーレア「み、みんなー、護衛任務〜」

アヴィ「にゃー」


返事が無い、ただの屍のようだ。

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