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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
70/115

60 氷を砕くようにうち鳴らせ

前回はどうやら後書き茶番を忘れてしまっていたようで。

まあ短いんで、読みたい人だけ読み返してどぞ。

さーてまたサブキャラタイムですよー。

いえいいえい。

 


 その場の空気が変わったのは、ボクにも分かった。

 レイがあの人間に剣先を向け何かを言った直後、二人は一瞬の間を置いて、姿を揺らめかせた。


 そして、剣がぶつかる。

 存在がぶつかる。

 感情がぶつかる。

 そうして、今までとは比べ物にならない剣戟が始まった。


 ただ互いに、己の技量と経験だけをぶつけた剣技。

 一撃一撃に、目を奪われるような力と衝撃を放ち、あたりに砂埃が舞う。

 片方は殺意を、片方は狂気を乗せて、表してぶつけて行く。

 一人の小さな少女と、一人のただの女が、真っ直ぐに剣をぶつけているだけだというのに、その場にいる誰もが目を離せずにいた。


 芸術、なんて、そんな綺麗なものじゃない。

 ただ純粋に迫力ある、剣闘だ。

 力と力のぶつかり合いが、この場の全ての目線を攫って行った。


 二人が何を言っていたのかはあんまり聞こえなかったけど、それでも今のレイがどんな状態かは分かる。

 今のレイは何かに対して、深海のように深く冷たい憤怒を抱いていることくらい、見ればわかる。


 ……あれ、拙いんじゃないの?


『まあいいんじゃないですかね。たまにはストレス発散したって。それで、仮の身体が壊れることになったとしても。マスターも分かった上でやるのでしょう。当機としては、本当に危なくならない限り、止めませんよ』


 身体が壊れるのは、流石に仮の肉体だとしても、良くないと思うけど……。


『あのクソ女み、い゛っ!?……………あの、女神はなんで怒ってんだ?』


『そりゃあ、あの地球人が挑発したからでしょう』


『ユウキ如きの安い挑発に乗るとか、頭悪いのか?』


 頭悪いって。


『いやまあ、流石にマスターだって、自分の琴線に触れるようなことを言われれば、感情を爆発させますよ』


『なーに言ってたんだ?』


『なんというかまあ、本気出せよ弱虫、的な?』


『ユウキ死ぬ気か?』


 いや、単純に本気の本気と言う名のレイの殺意を見てみたかっただけじゃないかな?

 やり方が酷く乱雑だけど。

 酷すぎてレイが激怒するくらいには酷いけど……。


『ああ、そういやあの馬鹿女はそんな奴だった……。でもあの女神の奴も、挑発と分かってて乗せられちまうこともあるんだな。何かと鼻で笑って流すやつかと』


 いやまあ、間違ってはいないかもしれないけど……。


『……マスターは、弱いと言われるのが嫌いなんですよ。自分がまだまだ弱いことは、自分が一番よくわかっているが故に』


『はあ? 弱い? あれが? あれで?』


 ……まあ、レイは一番、上には上がいるってことを知ってるからね。

 力をつけたってどうにもならないことがあるってことも、痛いくらいに知っている。

 だから弱い自分が嫌なんだよ。


『ふーん……』


『なんですか。もしかしてマスターを見直したりしましたか?』


『はぁ? 見直そうが見下そうが、結局クソ女神はクソ女神だろ。俺様にとってムカつく相手であることには変わりねえよ』


『貴方、何回天誅落とされたいんですか?』


『はっ。学習能力がないことは認めるが、俺様は自分の意志を曲げたりしねえ。やりたきゃ勝手にやれよ。まあ俺様が好きなのは自分の意思で闘うことで、素直に痛いのは嫌いだけどな』


 ここまで清々しいとむしろかっこよく見えるね。

 だから生かされてるのかな。


『きっと馬鹿で雑魚なので、こういう清々しさを眺めて面白いと感じ、未だに生かされているのかもしれませんね。あと馬鹿ですけど、ある程度は弁える馬鹿ですし。弱者としての自覚がある馬鹿なら、別にいいかと思ったのでしょう』


『おいこらテメェ喧嘩売ってるよな? 喧嘩売ってるんだな? よーし分かった、表出ろ。無い顔だろうと知ったことか。ボコボコに歪めてやる』


『おほほのほー。やれるものならやってみるのですよー』


 ああもう、目の前でレイが闘ってるっていうのに、なんでこっちは闘えない不毛な闘いを始めるかなぁ。


『このポンコツ精霊!』


『能無し魔力物体!』


 罵倒大会しないの!


『『黙れヘタレ猫!』』


 ふぐっ……。







 *****



 ルーリア達は、その光景から目を離せずにいた。

 あまりにも荒々しい剣に、酷く澄んだ金属音に、怒りと狂気の激突に、その場の力という力に惹き込まれていた。


 初めは、ただの常識外れの魔法と、狂った力のぶつかり合いであった。

 なのに気が付けば、それはただの剣技と経験と意志のせめぎ合いに変わっていた。

 ルーリアは、ただ友人二人の闘いを見ているだけのつもりであった。

 しかし、気が付けば、剣を持つ二人が、本当の剣の闘いを始め、それに魅入られ、考える余地さえ────。


(……あれ?)


 ふとルーリアは、否、ルーリアだけは気が付いた。

 自分はユウキのことは知っている。

 闘い方もその人となりも、見たことがあるし、接したことがあるから知っている。

 だからこそ、レイに期待していた。

 一度も見たことの無い、レイの本気の闘いが観れると興奮していた。


 だが、何故だろう。

 この場の者達にとっては当たり前のことに、ルーリアは疑問を持てた。

 否、レイの正体を知るが故に疑問を持てた。


(私……なんでユキさんばっかり見てるんだろう……?)


 いつの間にか、目が自然とユウキを追っているということに気が付いた。

 どこか、視界がぼんやりするような、遮られているような。

 何か膜を被らされているような感覚に気が付いた。

 疑念を持った途端、ルーリアは今までの、まだ一月しか経っていないレイとの思い出の中から、小さなヒントを掻き集める。

 そしてレイのことを多少なりとも知っているが故に、答えに辿り着けた。


(もしかして、目立ちたく無いからって、魔術か何かでユキさんに目を向けるようにしている、とか?)


 生まれた仮定。

 仮定は確信へと変わる。

 確信は抵抗を生んだ。


(……試してみよっかな。レイちゃんには悪いけど、私はレイちゃんの闘いをこの目で見ていたいもん)


 そしてルーリアは、その場で思いついた抵抗の術を試してみることにした。

 自ら愛用する杖に魔力を纏わせ、なんの意味もない適当な空っぽの魔法式を組み合わせる。

 そのまま、その杖で自分の額をゴツッと叩いた。


「っうぅ〜〜〜」


 加減したつもりだったが、当たりどころが悪かったのか額がジンジンする。

 しかし、痛みとは逆に、頭はスッキリした気分であった。

 そんなルーリアの突然の行為に驚いたのは、隣にいたセルトである。


「……ルーリアさん、いきなりどうしたんですか?」


「んん〜? ちょっとぼんやりしてたから、目を覚まそうと思って」


「……目を?」


 セルトは首を傾げるが、ルーリアは一人、自分自身の状態を把握していた。

 今の行為でルーリアは、レイの魔術の対象外となることが出来た。

 簡単に言えば、自分自身に魔法がかかっている時、直接的な魔法の影響を受けると稀に解除できるという話だ。

 正直、普通は思いつくものじゃない。

 だがルーリアは、知識と経験と記憶から、そんな低確率な方法を思いついた。

 ここら辺が、ルーリアが天才と呼ばれる所以なのだろう。


(レイちゃんが前に言ってたっけ。認識阻害の結界は、自分のことやこの術のことを知る相手には効果が弱くなることがあるって。私はレイちゃんのことも、レイちゃんが使っただろう術を理解したその上で、自分に魔力で衝撃を与えたから、 簡単に解除出来たみたい。視界がハッキリスッキリしたもん)


 ルーリアは腑に落ちない感覚から抜け出して視線が自由になると、改めてレイの姿を見詰めた。

 ふと、自分だけ解除してるのも狡いだろうかと思い、隣のセルトに話しかける。


「ねえねえセルト君、今セルト君の目にはあの二人のどっちが映ってる?」


「……どっち、と言われましても。やっぱりユキさんの方に目がいってしまいますよね。Sランクなだけあって、凄く目を引く闘い方ですし」


「じゃあ、そんなユキさんに対して未だに対抗出来てるレイちゃんは凄くないの〜?私としては、まだレイちゃんが立って剣を合わせていられてるだけでも十分凄いと思うんだけどな〜」


「えっ……?」


 ルーリアに言われて、セルトは闘技場に目を向ける。

 そしてやはり、ルーリアと同じような感覚に気がついたのか頭を抑えた。


「……そ、ういえば、そうですよね。なんで、俺……」


「なんでレイちゃんばっかり見てるんだろう、って?」


 ルーリアの言葉に、セルトはハッとする。

 どうやらその通りだったらしい。


「……ルーリアさん、なにか知ってるんですか?」


「うーん、ただの推測なんだけどね〜。でもそのモヤモヤした何かを解除する方法なら分かったよ〜」


「……さっきのですか?」


「そうそう。レイちゃんをちゃんと観るために、やってあげよっか?」


「……お願いします」


「分かった〜」


 今度はキチンと加減して、先程と同じようにした杖でセルトの頭にコツリと当てた。

 セルトは当てられた頭を、僅かに嬉しそうにしながら、顔を上げた。


「どう〜? 痛くなかった〜?」


「……あ、大丈夫です。……確かに、視界がスッキリしたような気がします。なんで気が付かなかったんでしょう」


「なんでだろうね〜」


 適当にはぐらかすルーリアに対して、セルトは空気を読んで特に何も指摘しなかった。

 ふいにルーリアはセルトの反対側、リグアルドとノクトの方を見つめた。

 そして何も言わずに、コツリコツリと、二人の頭に杖を当てた。

 勿論驚いて振り返る二人。


「ど、どうしたん?ルーリアちゃん」


「いきなりどうしたんだ?杖なんかもって」


「ん〜、仲間外れは良くないかな〜って」


「いや、何の話?」


 ノクトに首を傾げられるが、レイのためにも、変に探られるのも面倒だったルーリアは、同じようにはぐらかすことにした。


「うーん、内緒!」


「は、はあ」


「ルーリアも突然変なことを言うこともあるんだな」


「にしても、ユキさんはやっぱすげーな。よくよく考えたら、まだ立ってられてるレイチェルちゃんもすげーけど」


「確かに、そうだな。ユキさんにばかり目がいって気がついてなかったが、それもそうだ」


(うんうん、ちゃんと解除されたみたい。レイちゃんには悪いけど、観るんならみんなで観てたいもん)


 ルーリアは満足して、また観戦を再開した。


「っらあ!」


「ふんっ!」


 知らない者から見れば、明らかに体格も、経験も、実力も違うはずなのに、既に拮抗状態は数分続いていた。

 ルーリアからすれば、どちらも桁違いにも程があると驚嘆する他ない。

 片方は人間で、片方は人間のフリをして、弱体化した神なのだ。

 いくらお伽噺でも、人間と神が対等な闘いをするなんて、聞いたことがない。

 だが、ルーリアはそんな常識に、内心で首を振る。


(……きっと人間は、誰だって強くなれる可能性を持ってるんだろうなあ)


 目の前のこれが現実で、答えなのだと。

 ありえない強さを持つ人間と、お伽噺のような力を封じても尚十分強い神。


(自分も、あんなふうに、かっこよくなりたいなぁ……)


 ルーリアはそんな、子供じみた憧憬を抱いた。

 そしてそれを自覚してすぐ、一人首を振った。


(ううん、違う。なりたいんじゃない。絶対なってみせるもん)


 自分が描くのは、お伽噺のような夢ではなく、確実な目標なのだと、自らを鼓舞した。

 絶対に手に入れてみせる自分の未来なのだと、前を向いた。

 その目に、眩しく輝く憧れ達を映して、自分の未来の姿を描き重ねる。


(限界はあっても、不可能なんてきっとないもの。いつか、ううん、いつかじゃない遠くない未来で、必ず。お母様みたいな、賢者様みたいな、レイちゃんみたいな。いや、いっそ、みんなを越えられるくらいの大魔法使いになってみせるんだから)


 そんな強い野望を胸に仕舞い込んで、ルーリアは小さく笑った。

 そして視界に、こちらに目を向けるセルトが映った。


「……ルーリアさん、あいつに勇気づけられたんですか?」


「えっ?」


「……なんだか、その。少しだけ、晴れやかな顔してるので、そうなのかなって」


 自分から言ったくせに、セルトは恥ずかしそうにフードを伸ばした。

 ルーリアは少しキョトンとしてから、くすりと笑ってしまった。

 みんながレイとユウキに目を奪われている中で、自分の小さな変化に気が付けるとは、一体どう分かったのだろうかと。


 だが、いいや、自分はよく知っているはずである。

 好きな人のことは、小さな変化だって見逃したくないことを。

 ルーリアはなんとなく、嬉しいような気恥しいような気持ちになって、フード越しにセルトの頭をくしゃっと撫でた。

 その行為に、セルトは一瞬で顔を紅で染める。


「なっ、なんですかっ」


「ううん〜、なんとなく〜」


「は、恥ずかしい、です……」


「ふふっ、セルト君可愛い〜」


 セルトが羞恥心でプルプルと震え、恥の湯気が出始めたところでルーリアは手を離してやった。

 そして、もう既に二人の乱闘による砂埃が舞い、金属音の鳴り止まない闘技上を眺めた。

 戦況としては、レイの方が押され始め、体制を崩してきているといったところか。

 ルーリアも、レイの鈍くなってきている動きを見て、


「そろそろ、終わりかな〜」


「……流石に、あいつもユキさんには勝てないですよね」


「まあ、純粋にステータスが大きく違うだろうからね〜。むしろこんなに長く出来ること自体が異常だと思うけど〜」


「……確かに、結構続きましたね。てっきりすぐこてんぱんにされるものかと」


「まあねぇ〜」


 セルトのきょうび聞かない言葉に苦笑いしつつ、ルーリアは最後まで、この美しい戦闘を目に焼き付けておこうと思った。

 そん時であった。


「……残念だけれど、ここらで私達は行きましょうか」


「分かりました。ではそうしましょう」


 ルーリアの後ろで、この場から去っていく足音がした。

 慌てて振り返るも、もう声の主は野次馬の遥か向こうに消えて影もない。


「今の人達って……」


 記憶を探り、該当する人物に当たりをつけようとしたその時、辺りの空気が変わったのが分かる。

 それまでは、魔法戦から剣技戦に切り変わるまでは熱狂に包まれ、ただの互角の斬撃だけになった時は、小さな感嘆の声が漏れるだけで静寂を保っていた。

 だが、今その瞬間だけは、誰も口を開こうとは思わなかった。

 否、場の重みに、口を開けるわけもなかった。


「────駆け出し冒険者、レイチェル」


「────疾風迅雷、ユキ」


 そう冒険者としての名乗りを上げ、剣を構えた。

 その次の瞬間、その一瞬を、果たして明確に認識出来たものはいたのだろうか。

 反応出来たのは、ただ一匹。

 レイの荷物番を、大剣レグの隣でしていたアヴィーラウラだけが、本能からくる恐怖により、影の魔力で防御アーチを作り出すことが出来た。


 ────刹那、その場の空間が歪んだ。







 ********



『今回は休憩』



S『おいこらおっぱい聖人』

アヴィ『え、なになに?どうかしたの?』

S『ああ、いえ、こちらの話です』

レグ『今ポンコツ精霊からやばい単語が聞こえたんだが』

S『気の所為ですよ。そしてポンコツではありませんからね、この雑魚馬鹿悪魔』

レグ『おっともう一ラウンドいくかおい?』

アヴィ『なんで念話で喧嘩するのやら……』

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