6 神が弱いわけなかった
「あーはっはっはー、ないわー」
高笑いに続きため息が響く、周囲には誰もいない森の中。
勿論、その声の主は私である。
そして、そんな私の目の前には、無残にもズタボロになって倒された木が。
うん、はい、倒したのは私っす。
いや、ほんとに、ねー。
昔から周りには秀才だ天才だとは褒めたてられてきたけれど、弱体化した状態でもそれとは思わなんだ。
何がって?
いやいや当然、魔法ですよ魔法。
魔法は最初からステータスに入れて置いたから、試しに発動させてみたんだけどね。
全力で構築した魔法の威力は想像通りとして、うん、構築速度が、ね。
なあなあSさんや。
『はい、なんでしょうか?』
魔法は確かに弱体化されてるみたいだけど、それでも威力あるほうだし、何より構築速度が常人より早すぎるんですけど?
そこだけあんまり弱化されてないんですが?
『はて、魂の底から常人ではない方が一体何を言っているのでしょうか。それに当機、一度も構築速度に制限かけたなんて言ってませんよ?』
そうなんだけどさあ!
発動時間は多少かかるが、遠距離から強力な一撃を撃てるって設定の魔法が、こんなに速くてどうするさ!
ゲームバランスが崩壊してるよ!
『いやいや、逆に聞きますけど、もし構築速度に制限かけるにしてもどうやってやれと。マスターの魔力制御率を大幅に下げろとでも言うんですか? 魔法構築の妨害魔術でも組み込めと言うんですか? そしたらマスターのその特殊な肉体と魂の都合上、生死に関わりかねないんですが。流石にそんなことをすれば、当機が別の方に怒られますよ』
うぐっ、確かにそうだけども……。
『大体からして、何故そこまで弱体化にこだわるんですか? そりゃあ、強いままだとつまらないというのは分かりますけど、だからって、ここまでこだわる必要ないでしょう』
そりゃあ、強いまんまだと訓練にならないじゃないか。
『訓練? 何の話ですか?』
……あー、もー、いいですよーだ。
どうせ天才は凡人になれっこないって言うし!
あんまり人前で使わないように気をつければいいだけの話だもん!
『まあ、マスターが納得してくれるならそれでいいのですが、とりあえず人の目には気を付けてくださいね。使うにしても非常時か信頼出来る相手だけにしてください。強いと各方面から囲いの手が迫りますし』
分かってますしおすしー。
まあ、来るのは冒険者からの勧誘だけで、面倒なとこからの囲いは全部組織側で始末してくれるだろうから心配してないけどね。
いずれ消える存在に色々巻き込んでくっつける必要は無いもん。
はあ、こうなったら基本的に魔法は身体の補助とか索敵に使うべきかね。
んで、初めの方は攻撃にはあんまり使わず、目くらましとかの敵の妨害に使えば、無駄に多いMPも程よく減るでしょ。
そんじゃ、魔法の確認も終わったし、まずはステータスカードでジョブを決めて、と。
ポチポチっとな。
《ジョブ転職:「シーフ」に転職しますか?》
いえす。
《ジョブ選択:「シーフ」に転職しました》
《各種基本ステータス値が上昇しました》
私は自分のステータスを確認した。
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『名前』レイチェル・フェルリィ
『種族』 人族
『ジョブ』シーフ
『Lv』1
『HP』70/70(↑50)
『MP』150/150(↑30)
『SP』50/50(↑30)
『攻撃』40(↑30)
『防御』17(↑10)
『魔力』110(↑10)
『抵抗』110(↑10)
『敏捷』35(↑30)
『運気』10
『スキルポイント』0
『アクティブスキル』
「火炎魔法 Lv1」
「水流魔法 Lv1」
「暴風魔法 Lv1」
「地動魔法 Lv1」
「光魔法 Lv1」
「闇魔法 Lv1」
『バフスキル』
「魔力感知 Lv1」
「魔力操作 Lv1」
「神層領域拡張 Lv10」
『ユニークスキル』
「観察眼」
『称号』
なし
********
うむうむ、これは正常だな。
ジョブによるステータス強化は問題なしっと。
斥候職なのに魔法関連が異常なのは目を瞑ろう。
さてと、気を取り直して、手頃な魔物でも探しますかね。
私は自分に意識を集中させ、魔力を自分の中心に集めてから、球体状に爆発させて広げてみせた。
ほんの少し頭がくらりときたが、近くに私の魔力に当たった魔物がいるのを感じたので、足でしっかり地面を取り、そちらへ駆けた。
「ギギッ!?」
目の前に私が来た瞬間に気がついたらしく、不気味に光る赤い目に焦りを見せるゴブリン。
ちなみにこの世界には、魔物と魔獣という、私が用意した二種類の敵NPCがいる。
どちらもスキルを使い、そのために心臓とは別に、魔核という核を持ち、ここを破壊すると簡単に死ぬ構造だ。
その上で、魔物は理性も知性も低くが、魔獣は理性や知性が普通の獣よりも高めに設定されているので、〈従魔契約〉が出来る、という違いだ。
ここら辺も私がノリで作った設定だ。
ちなみに、体内の魔核は完全なものとかけたものがあり、冒険者ギルドで換金出来るのは完全な魔核だけだ。
でも私は欠片も集めるつもり。
欠片は集めれば完全なものに出来るからね。
勿論人間達は知らない裏設定なので、大抵は集められてないだろう。
「ごきげんよう。そして死ねっ!」
ゴブリンの首を構えた短剣でかき切った。
慌てて首を抑えているが、ほんの少しの風を纏わせた上で切ったので、傷は深く血の止めようがない。
倒れたゴブリンを見て息を吐く。
魔力拡散による索敵、久々にやったけど上手くいくもんだね。
ただし、ものすごく疲れる。
そしてシステム的に設計されてないもののくせに、MPが5も減っている。
魔法一発撃つくらいに減ってやがるよ。
索敵だけでなんでやねーん。
一番の問題は、目眩がしたってこと。
それだと近くに敵が潜伏してたら大きなスキを作ることになる。
ううむ、別に索敵はこれじゃなくてもいいかもなぁ。
しばらくしたらなれるかもしれないけど、はぁ、弱体化煩わしい。
まあ自分で決めたことだし文句ないけど。
でもまあ、咄嗟に風で短剣を纏って攻撃するっていうのは出来たね。
こういう簡単なのなら出来るってことか。
もうちょい色々確認してみようか。
魔力による身体の一時強化っと。
魔物発見。
キラーキラー。
「グギャッ」
結構上手くいったなー。
解体ショー解体ショー。
お、もう一体いるな。
蹴りでも入れるかー。
ゴッドキーック!
かーらーの、とどめっ!
「グバアッ」
うむ、ちょっと吹き飛ばせる程には強化出来るな。
いや、正直蹴りとか慣れてないからあんまり使わないけど、必要があったらね、使えるようにね。
はい、解体ショー解体ショー。
《熟練度が一定値に達しました。アクティブスキル「魔闘術 Lv1」を取得しました》
わお、ほんの一定時間で手に入れちゃったよ。
つまりこの体でもかなり適正高いってことか。
とりあえず発動っと。
昔も肉体自体はそんなに強くなかったから、魔術で強化するしかなかったんだよね。
どこぞには筋肉男でもないくせに素手で一騎当千出来るような脳筋いるけど、あれには届かないわー。
脳筋……、いや、ヒキニートゲーマーの方が正しいか。
『ブーメラン』
気のせいですっ!
じゃあお次はー、試しに魔法の威力を魔物相手にやってみるか。
丁度いい距離にウルフ二匹発見!
魔法構築!
発動!
【ウィンドショット】!
「ヴォンっ」「ギャンっ」
左手をかざし、構築から二秒ほどで発射された風のドリルみたいなのが、ウルフ二匹を切り殺す。
……ええー、つっよ。
普通だったら穴を開ける程度の初級魔法なのに、ぱっくりえぐれてやがる。
えぐい、とてもえぐいです。
《経験値が一定に達しました。Lv1からLv2になりました》
《各種基本ステータス値が上昇しました》
《レベルアップボーナスにより、各種スキル熟練度が上昇します》
《スキルポイントを取得しました》
よし、とりあえず目標達成。
これでジョブスキルが取れる。
ジョブスキルってのは、スキルポイントがたったの5ポイントで、そのジョブの特典スキルが全て入手出来るという優れもの。
戦士だったら〈魔闘技〉〈気闘技〉〈強力〉〈強固〉〈気配感知〉の五つ。
魔法士だったら〈魔力感知〉〈魔力操作〉〈術式感知〉〈保魔〉〈精魔〉の五つを、レベル2時点で5ポイントあるスキルポイントだけで取れるのだ。
これを利用すれば、〈魔闘技〉や〈気配感知〉を持っていない人でも、ジョブを戦士に選ぶだけでそこそこのスタートラインには立てるし、〈魔力感知〉や〈魔力操作〉を持っていない人でも、ジョブで魔法士を選んだ場合にこのスキルをすぐに入手出来るので、魔法の道を歩んでいける。
まあ魔法の場合は、大抵誰かに教えてもらわないと無理だけどね。
独学で魔法を覚えるなんてあまりにも難しい。
親か知り合いに教えてもらうか、貴族であれば家庭教師か学園で学ぶしかない。
そんなわけで、シーフ特典をゲットっと。
《スキル取得:『シーフジョブ・スキルセット』を取得しますか? 尚、一次ジョブでのスキル取得特典は一回のみになります》
おけ!
《スキルポイントを5消費して、『シーフジョブ・スキルセット』を取得しました》
《バフスキル「強力 Lv1」を取得しました》
《バフスキル「俊足 Lv1」を取得しました》
《バフスキル「気配感知 Lv1」を取得しました》
《バフスキル「罠感知 Lv1」を取得しました》
《アクティブスキル「罠解除 Lv1」を取得しました》
よーし!
チュートリアル・完!
ここから本格的に冒険者始めるぜ!
『おめでとうございまーす』
ありがとうございまーす。
……さて、〈ウィンドショット〉でズタボロにしてしまった、ウルフ二匹の解体ショーといきますか。
すごく、めんどくちゃいです。
『頑張ってくださいな』
はあ、やるかー。
人目を避けながら進んだ森の中で、解体用ナイフを使って皮剥をしながら、そこそこ順調だなあと思った。
……いや、想定外のところもちょっぴりあったし、そもそもこういう考えが想定外のイベントを呼ぶって言うし、気をつけよう、うん。
私はフラグ建築士ではないのだから!
『フーラーグ、フーラーグ』
るっさいわい。
********
『以下の用語とその解説が追加されました』
「魔術:システム内魔術:ジョブ選択」
〈ジョブ〉を取得し、様々な効果を得られる。
特徴:一次ジョブはレベル1から、以降レベル20毎に取得出来る。
ジョブを取得すると、五ポイントでジョブ関連のスキルをまとめて手に入れたり、またステータス補正がかかる。
ステータスカードより選択でき、あとから変更も可能。
補足:魔物には取得出来ない、人間のみのオリジナルシステムですね。その代わり魔物は『ランク』という項目があります。
「魔術:システム内魔術:スキルポイントによるスキル取得」
スキルポイントを消費することによるスキル取得。
特徴:ゼロレベルからの熟練度を貯めることによる取得と違い、即座に使用出来るレベル1の状態でスキルを取得出来る。
ジョブ特典の場合は、特別に5ポイントで複数のスキルをセットで取得出来るが、基本は50ポイントが最低値である。
50ポイントのスキルは、大抵適性値が高いか、効果が低いかのどちらかである。
スキルポイントの取得量は10レベル事に増え、レベル10毎到達事に更にボーナスとして多くのスキルポイントを入手出来る。
補足:ここら辺も完全にゲーム趣味丸出しですよね。
レイ「ふふふ、私の無双タイムだね!」
S『おっと特大フラグの匂いプンプンですか?』
レイ「フラグっていうからフラグになるんだよやめて」
S『フーラーグ、フーラーグ』
レイ「こいつ……」
イベントがある方が楽しいじゃない。