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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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56 霰のように弾けてる

 


 私達は冒険者ギルドを出て裏手の路地裏に入り、互いに向かい合う形で立つ。

 道に置かれた木箱があったので私はそれに腰掛け、アヴィーはそんな私の足元で丸まり、ユウキは壁に寄りかからずに、背中の大太刀に手をかけた。

 そして大太刀を掴んだかと思うと、思いっきり真上にぶん投げた。

 えええええ。


 大太刀は空中で一回転した瞬間、崩れる。

 否、黒いモヤがかかり、大太刀としての形を無くす。

 そして、形がなくなり、ドロドロに溶けた後黒い塊となったそれは、黒いモヤの中から、人の形をとって姿を現す。


 そのまま、自然の法則に従って落下してきたと思うと。


「死に晒せやクソ女神ィィ!!」


 思いっきり私をぶっ殺しに来た。


 その殺意に反応して、アヴィーが反射的に影を伸ばして私を守ろうとするが、私はアヴィーを足で蹴ってやめさせる。

 アヴィーは驚いて影をしまう。

 どうしてという顔だ。

 ユウキは、何もしない。

 私も、何もせず待つ。

 ただ黙ってそいつが落ちてくるのを眺めていた。

 そして黒いガキの姿をした大バカは、右手を剣へ変形させて私に切りかかると。


 バチィッ!


「うぎゃっ!」


 そんなことは出来ず、私の半径一メートル以内に剣が近づいた瞬間、突然何かに弾かれて地面に転がった。

 弾かれた衝撃で剣に変形させていた手も、胴体と同じ人間らしい手に戻る。


「いっでぇぇええ!!」


 そして一人で勝手に痛みにのたうち回り、無様な姿を晒す。

 私はそんな黒いガキを見て、堪えきれずに笑ってしまう。


「ぶっはー! ざまー! ねぇねぇ馬鹿なの? もしかして馬鹿なの? 飼い主の脳筋っぷりがうつってどうしようもない馬鹿になったの? 私に手を出そうとしたら天罰下る呪いかけたって昔言ったじゃーん! だっさー! ぷぷぷ!」


「ちょいちょいちょいちょい。レイレイ、さりげなくあーしを馬鹿にしないでくれっす。あーしのどこが馬鹿なんすか!」


「いや馬鹿じゃん」


「理由をぷりーず!」


「私に対する甘え方がウザイから馬鹿なの」


「ちょっと意味がわからないっすねぇ」


「とりあえず、こいつ相変わらず無様で面白いわー。ぷっ、くっ、あははははっ」


『ぷーくすくす』


「にゃー……」


 私は木箱からおりて、未だ痛みに呻く黒髪黒目に褐色肌のガキの脇腹を、つま先でつついてやる。


「私が人間状態で弱体化してるからって、今なら殺せると思ったんだろうけど、ざーんねーんでーしたー。私そのものに危害を加えられない制約なんだから、私がどんな状態だろうと無理に決まってんでしょ」


「うっ、せえ! 俺様を踏みつけるんじゃねえよクソ女神! あぐうっ!」


 またも一人で痛みに呻く黒ガキ。

 勿論、Sの天罰である。

 学習しない馬鹿は嫌いだぞー。


「はい生意気なので天罰ー。ねえねえ今どんな気持ち? 今どんな気持ち? 子供の姿の私に足蹴にされちゃってどんな気持ち? むしろ私の今の気持ちを教えてあげようか? 答えはカンタン、超愉快♪」


 私は心からの嘲笑を表情に出す。

 愉快だねえ、愉快だねえ!


 こいつはアヴィーと同じく、宇宙のあぶれもの、悪魔。

 その昔、つっても数年前だけど、この世界に不法侵入しようとしてきたので私が即座に捕らえた。

 だが、すぐ殺すのも勿体ないしただの馬鹿雑魚みたいだったので、むしろ利用した方がいいのでは? と考えた。

 きっとこの世界で適当に踊らせた方が愉快なことになるに違いないと期待を込めて、私に手出し出来ない制約をかけから、こいつをこの世界に放りだしてやった。


 その数年後に、メスゴリラことユウキが、こいつと出会い、殺し合いになったのだが、勝ったユウキは何を思ったのか、こいつを相棒にするとか言って手を差し出した。

 すると雑魚悪魔の方も、何を思ったのか、それとも何も考えてなかったのか、その手を取ってユウキ専用の武器へとその姿を変えた。


 そうして二人は各地で色んな奴や色んな魔物、ドラゴンなどをぶっとばしまくって、程よくいいコンビとなり、今に至る。

 ユウキは手頃な相棒という得物を得られ、雑魚悪魔も傷付けた相手から魔力を奪えて、お互いウィンウィン。

 そうやって丁度いい共存関係を築けていたことで、案外上手くやれている。

 単純に馬鹿同士波長が合ったということかもしれないが。


「うっせ! こっちは心底不愉快だよクソめ、がっ!」


 黒ガキに暴行加え隊に一人追加される。

 もち、ユウキである。

 いくら相棒でも、こいつにとっては私の方が優先度が高いらしい。

 ユウキはその足で私とは反対側から黒ガキの脇腹を蹴っており、その顔には冷たい笑顔を浮かべていた。


「相変わらずレイレイに対しては一層口が悪いなー。ほーらちゃんと謝れよー。いきなり殺そうとしてごめんなさいって言いやがれー」


「誰が、んなことっ」


「ああん?」


 ユウキが目付きを悪くしてドスの効いた声を出す。

 おおう怖や怖や。

 でもいいぞー、もっとやれー。


『傍から見たらゴリラ女と幼女に足蹴にされる哀れな子供ですけど、中身があれなのでシュールだなーとしか思いませんね』


 まあ別に、既に人払いの結界はうちの優秀ちゃん達が張ってくれてるから、誰も来ないし気付かないけどね。


『あ、天罰追加しますかー?』


 よろー。


「あぐうっ!」


 謝るまで天罰追加の劇。

 超笑うわー。

 私がゲシゲシと黒ガキを蹴りつけていると、アヴィーがトテトテと呻く黒ガキに近づいて行く。


「にゃー……」


「……ああ? 猫……?」


 ……なにアヴィー、こいつに手を貸す気?


「にゃあ」


「いでっ!? いででっ!? おいっ! なんだよお前! 爪で腕を引っ掻いてくるんじゃねえ!」


「にゃー」


 流石アヴィー。

 追い打ちをかけるスタイルですね分かります。


「つーか! おめーも悪魔じゃねえか! まさかこんな奴に従ってるってのか!? 騙されて利用されてんじゃねえのか!?」


 その言葉に、アヴィーはカリカリしていた手を止める。

 かと思ったら、子猫の小さな口で黒ガキ噛み付いた。


「いだっ!? ちょっ、おまっ! 俺様の魔力吸ってんじゃねえ!」


 噛みつきながら吸収とか流石。

 おこですねー。

 どの辺に怒ったのかイマイチピンとこないけど。


「ああ、やっぱりその子も悪魔だったんすねー。ほらー、そこの悪魔にゃんこもおこなんだから、早く謝るんだなー」


 ユウキに急かされて、黒ガキ、レグは、心底嫌そうな顔で、未だにゲシゲシと脇腹に蹴りを入れる私を睨みつけ、未だに反抗的な態度を見せる。

 そしてゆっくりと、口を開く。


「…………いきなり、襲いかかって、わ、悪かっ、た」


「いいよ分かった。許す」


「え」


 私は足を離してやり、再び木箱に腰掛けた。

 アヴィーは口を離して意外そうな顔で私を見て、ユウキは私がやめたので同じく足をどけて建物の壁に寄りかかった。

 一番間抜けな顔をしてたのはレグの方であった。


「いいよ、って、おま」


「え? 謝ったから別にいいよって意味で言ったんだけど? なに、許されたくなかった? もっと天罰下されたかった? もしかして、そこのゴリラと同じくマゾなの?」


「レイレイ! あーしはマゾじゃなくてバーサーカーっす!」


「いや意味わからんわその訂正」


「にゃーあ?」


 アヴィーが足元に近づいてきて、本当に許していいのか? と言わんばかりに見上げてくる。

 私はそんなアヴィーを抱き上げる。

 いや、んな顔されても、ねえ。


「別に、いきなり切り掛かられてムカついたから痛めつけただけだし。大体、どう足掻いたって、私に手を出すなんて永遠に出来ないでしょ? ちゃんと謝罪したならそれでいいじゃん? なにもされてないんだし。それに、理由だって一応は理解してるし」


「え、いや、その。てっきり、やだ許さなーい、とでも言うのかと」


 その言い方は私のノリの真似なのか?

 ちょっとムカつくんですが。

 まあ大体当ってるけど。


「失礼な、私の事どれだけ鬼畜だと思ってんのさ。そもそも、この世界に勝手に不法侵入して来たお前に対して、殺しもせず、適当に放置しておいた時点で、私にとってはその程度なんだけど。お前如きが私を殺せるわけないでしょ? そりゃあ、殺意を向けられれば腹立つけど」


「うわやっぱこいつムカつくわ。優しく諭してるみてーだけど、要するに俺の事完全にアウトオブ眼中なんじゃねーか」


「はっ、大して面白味もない雑魚に、なんで興味を持たなきゃいけないの?」


「やっぱり死ね」


「やれるものならどうぞー。無理だし返り討ちの倍返しにしてあげるから」


「当たらねえのに倍返しっておかしいだろ……」


 当たってなくても向けられた殺意の分は返す。

 これ私の常識。


『当機であれば、マスターに敵意剥き出しな時点で永遠に天誅下したいですけどね』


 モンペすぎない……?

 別に、私は敵意を向けられるなんて慣れたことだし、なにかされたりしなきゃ、大したことじゃないんですけど。


『ああ……。そうですね、そうですよね。マスターは、敵意なんて当たり前ですもんね』


 そーそ。

 だから、こいつに対しても、やられた時だけやり返す。

 それ以外の時はどうでもいいんだよ。


「にゃぁ……」


 私に抱き締められたアヴィーが、私の胸に頭を擦り寄せる。

 なーに、慰めのつもり?

 しかし、そんなアヴィーを見ていたユウキが唖然とするレグを抱き上げ、ふむ、と呟く。


「レイレイ、その悪魔にゃんこもレグみたく人間に変化出来るんすか?」


「おーい! 持ち上げるなー! はーなーせー! はーなっ、むぐー!」


 黒ガキのレグは、ユウキの腕の中で口を塞がれる。

 こうして見ると、うるさいコンビかな?

 黒髪同士だし、姉弟と言えなくもなさそう。


「まあ、普段は人間の姿をとってるけど、今は無理だよ。こいつ、弱体化してるから」


「なーんだ、残念。今その体勢で悪魔にゃんこが人間の姿になったら、なんだかえっちい気がしたのに」


「えっち?」


「レイレイのちっぱいに頭を擦りy」


「だらっしゃあああ!!」


「にぎゃー!?」


『まーた飛んだー!』


 私が反射的にキレてアヴィーをぶん投げると、ユウキは衝撃を殺してから優しくキャッチする。


「おーっと。にゃんこイジメ反対っすよー」


「お前が変な妄想してそれを発言するからでしょーがこの変態! アホ! 脳筋!」


「怒ってるロリレイレイ、かーわいーなーもー」


「触りに来んなー!」


 ユウキは肩にアヴィーを乗せ、片手でレグを持ち上げながら口を塞ぐという器用な真似をしながら、私を撫でようとしてくる。

 私は即座に、文字通りの魔の手から逃げる。

 やっぱりこいつ面倒くさい!

 私の謎のナデナデ避けの攻防戦を楽しんだのか、満足気なユウキはアヴィーを私に返して口を開く。


「まあそんな茶番を置いといて」


「茶番ておま」


「むぐー」


「にゃう」


 ユウキはレグをむぎゅっと抱き締めながら、ニヤッと笑った。

 それはもう、いいことを思いついたと言わんばかりの笑みで。

 対照的に、レグは抱きしめられて嫌そうな顔で。


「久々に、全力で相手してくれないっすか? 今なら、レイレイに本気出されたってあーし死なないっしょ?」


 心底恍惚とした目で、私に挑戦状を叩き付けてきた。


 ほらな?

 面倒なことになった。


『ですね』


「にゃーう」







 ********



『以下の用語とその解説が追加されました』



「人物:人族(地球人):ユウキ・カンザキ」

 冒険者ではユキと名乗る、元地球の日本育ちの人間。

 詳細:レイが大好きで、スキンシップが激しすぎるためにレイにしょっちゅう殴られたり蹴られたりするとか。

 ドMの気があるのか、殴られても普通に笑顔。

 普通に変態で、普通に馬鹿で、普通にゴリラ。

 地球にいたときはここまで酷くなかったらしい。

 相棒にして得物は悪魔のレグが変身した多様性可変型武器。

 その場に合わせた戦闘スタイルをとる、超有名Sランク冒険者。

 魔法も得意らしい。

 二つ名は『疾風迅雷』。

 補足:マスターも、別に嫌ってはいないんですよ、ただ面倒くさいだけで。



「人物:悪魔:レグ」

 隙あらばレイを殺そうとする悪魔。

 詳細:昔イリルフェレで暴れるために侵入しようとしていたが、結界に阻まれ、レイに捕えられ、殺されそうになる。

 しかし、レイが気まぐれに生かし、呪い付きの首輪を着けてこの世界に放りだしたので、お望み通り自由にこの星で過ごしてやった。

 結果的にユウキと出会い、謎の流れでコンビを組むことになり、ユウキの武器として活躍し倒した相手から魔力を奪うことで生きてきた。

 レイのことは、ムカつくから嫌いと言うだけでなく、他にも嫌いという理由はあるらしい。

 だが、格が違うことくらいは自覚しており、単にやるせなさ悔しさを無駄にレイにぶつけているだけである。

 天誅がSから落とされてるものとは気がついてない。

 補足:こちらは馬鹿悪魔とは違って明らかな敵意を持ってるので、当機としては普通に嫌いです。



レイ「やーもー、こいつマジでド変態なんだが」

S『もし地球でもこのテンションだったなら、軽く通報ものですよね』

レイ「こんなやつ豚箱にいれられてしまえ」

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