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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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SS チョコには思いさえあればよい

突然ですが、バレンタインに便乗してチョコの話をしましょう。

1章以来久々のキャラ達も出ます。

そして無意識のうちに三人称ではなく、ナレーション視点、通称ナレ子さん視点になってました。

だってネタ回ならこうしろってネタの神様が……(うるさい)

 


 これもまた、どこぞの駄女神がアホなことをし始める前の話……。


「んおおおぉぉ……」


「……ピィリィ」


「んー? なにー?」


「これはなんだい?」


「チョコレート!」


「そうか。なら私の目がおかしいのかね。どう見ても食べ物には見えない」


「食べられればなんでも食べ物だと思うよ?」


「見た目が理性と論理に合わないのは流石にどうかと」


 暗い暗い部屋の中、一人の変態紳士の目の前には、可愛らしい箱の中に入った茶色い何かがあった。

 否、茶色、なのだろうか。

 正直禍々しい黒にも紫にも見える。

 色が七変化し、その上呻くチョコとはこれ如何にタコに。


 そんなチョコと書いてカオスとルビを振れるような物体の製作者は、紛うことなきマッドサイエンティスト。

 一体何をしたかったのか。


「何故突然チョコレートなんてものを作ったんだい?」


「みんなへの日頃のお礼だよ!」


 どうやら単純に感謝の気持ちらしい。

 いやこれ感謝する気あるのか……そんなツッコミが来そうだが、先に言っておこう。

 あくまでピィリィは純粋に感謝の気持ちを込めて作ったのだ、と。

 ただその心の表し方が常人の理解を遥かに超えてしまっていると言うだけだ。

 全くもって理解出来ないし理解するのを拒否する案件である。


「というわけで、ディム、どうぞ!」


「んんー。まずは私で実験かー。素直に困るねえ」


「違うもん! ちゃんとお菓子としてあげるんだもん!」


「可笑しなお菓子ってことかい?」


「むううううう!」


「わかったわかった。食べるよ、大人しく食べようじゃないか」


 ディムは恐る恐る、それを口に含む。

 咀嚼し、吟味し、解析する。

 果たしてそのお味は……?


「……美味しい」


「でしょー? 頑張ったんだよー。どやー」


 美味しかったらしい。

 納得がいかない。


「素直に美味しいから逆に困るよ。一体何を使ったんだい?」


「え、それ聞いちゃう?」


 ピィリィが光のない目で笑ってるように見えない顔を向ける。

 ヤバい顔である。


「……聞かせてもらおうか」


 ディムは覚悟を決め、詳細に耳を傾ける。


「ええっとねー、まず(自主規制)でしょ?次に(アウト)でしょ? それで(危険)とか(カオス)とかー。あとは大元のカカオなんかはちゃんとしたので、他は色々なもので甘くお菓子っぽく仕上げた感じかな!」


「ああ、聞くんじゃなかったよ……」


 日頃素材集めに共に赴く保護者故にそれを理解してしまった。

 ちなみに括弧内はナレーションの優しさです。

 良い子も悪い子も聞いちゃいけないよ!


 ディムが猛烈に数秒前の記憶を消したいと願い、本気で薬を使って消そうとしてくるピィリィを躱している時、他の部屋から一人のパンダ男が現れた。

 堕天使のキトリスである。


「ふあぁ〜……おはよ〜……」


「ここには朝昼などないが、おはようキトリス」


「おはよーなのー」


 相変わらず目の下にクマを作り、眠たそうな堕天使である。

 そしてターゲットを発見したピィリィは、即座に自分の思いの塊を届けに行く。


「はいっ! キトちゃん! なんのお礼かは分からないけど、感謝のチョコレートだよ!」


「いやそこは明確にしてから行こうかピィリィ」


「んぁ……? あり……がと……?」


 よく分からないままに、キトリスは箱を受け取り、開けてみる。


「んああああ……」


「…………」


 箱を無言で閉じた。

 まあそうなる気はしていた。

 そしてキトリスは、どこからか糸鋸を取り出して、僅かに殺気を漏らしながらピィリィに向けて振り下ろそうと脅す。

 眠たそうな顔のせいで、余計に恐怖を増している。


「これは……なんの……つもり、かな……?」


「え? だからお礼だよ?」


 全くもってその殺気に動じることなく、キョトンと小首を傾げ、再度答えるピィリィ。

 おかげでキトリスもキョトンとしてしまう。

 理解不能の沈黙がその場に流れた。

 やがて目の前を理解不能から目を逸らし、キトリスはディムに答えを求めた。

 ディムは肩を竦めて答える。


「本当にピィリィが日頃のお礼のつもりで作ったらしい。残念ながら、味は保証しよう」


「ぷくー! 残念ながらって言わないでほしいのー!」


「ははは、ごめんごめん」


「……食べて……大丈夫……?」


「一応毒ではないらしい。まあ騙されたと思って」


 保護者からの保証が出たので、キトリスは恐る恐るソレを口にする。

 眠たそうにゆっくりと咀嚼する横で、ディムは一つ思い出す。


「ところで、この場に全くもって関係ない且つ言うべきではないかもしれない話をいいかい?」


「なーにー?」


「本編にほぼ登場していない私達がチョコイベントなんてしてもいいのだろうか」


「ディム! お口チャック!」


「おっと」


 メタいとか言わせない。

 そんなメタメタ発言は認めません。

 そしてキトリスがチョコを食べ終わる。


「…………美味しい」


「だろう?」


「ふふん、どーやー」


「……意味……不明……」


「激しく同意しよう」


「んもー。二人共ピィちゃんの傑作に対して失礼なの!」


 小さな頭でぷりぷりと可愛らしく怒るピィリィ。

 こんなロリっ子から一体どうしてこんなものが生まれてしまったのか。

 デザインセンスが壊滅的だったのだろう、多分。

 そんなことをしていると、また渡すべき人物がその場に現れる。


「なーんかみんなが美味しそうなもん食ってる気がするんすよー! たらまーっす!」


「おかえり、エグデル」


「おか、えり……」


「エグちゃんおかえり! というわけで、はいっ!」


 やはり早速チョコを渡しに行くピィリィ。

 エグデルは突然のプレゼントボックスに首を傾げた。


「なんすか? これ?」


「日頃のお礼のチョコなの! エグちゃんには、いつも実験の産廃の処理助かってるの!」


「おお! チョコっすか! いいっすね!」


 食べ物と聞いて、早速雑に箱をビリビリに破いて開けるエグデル。

 すると、やはり中から、三度目のそれが顔を出す。


「んああああ……」


「くんかくんか。おおー、なんか色々な匂いがするっすねー。んじゃ、いただきまーす」


 躊躇無く丸呑みするエグデル。

 どうやら食べ物の見た目には興味が無いらしい。

 ピィリィと価値観が同じのようだ。

 なんとなく予想していた反応に、ディムとキトリスはそのまま食べた後を見守る。

 エグデルが咀嚼し、嚥下する。

 そして美味しさに表情を緩めた。


「うへへー、血肉入りで美味しいっすねー。チョコと血肉のコラボレーションっすよー」


「えっへん! エグちゃんにはきっちりお肉を入れてあるの!」


「チョコに血肉を入れるって聞いたことがない。どんな生々しいチョコだい、それ……」


「よく……わかんない……」


「美味しかったっす! あざっす!」


「喜んでもらえてよかったのー」


 エグデルが興奮してピィリィに抱きついていると、またその空間に人が増えた。

 この空間に住む唯一のまともな神族にして、みんなの良心、そしておかんのカルランである。


「カルちゃんおかえりなのー!」

 

 そして早速、チョコの入った小箱を持って突撃しに行くピィリィ。

 いつもより少しテンションが高く見えるピィリィに、カルランは食材の入った袋を手にその場で立ち止まり、やって来たピィリィを見下ろす。


「はいっ! いつも美味しいご飯をありがとうなの! お礼のチョコなの!」


 カルランは一度袋を床に置いて、差し出された小箱を受け取った。

 その小箱を眺め、蓋を指さして首を傾げる。

 開けてもいいかどうか聞きたいらしい。


「うんっ! いいよー。感想とか聞きたいから!」


「……うちのシェフにアレを差しあげに行くなんて、ピィリィって図太いのかな?」


「え? 美味しかったっすよ?」


「そういう……問題、じゃない……」


 既に食べた組の小声会話を他所に、カルランは渡された小箱を開ける。

 勿論中身は以下同文。


 カルランは一瞬固まったが、本当に一瞬で、即座にそれを口にした。

 普段から食事でお世話になっているみんなが見守る中、カルランは静かに咀嚼する。

 謎の沈黙が続き、カルランが嚥下する。


 食べ終えたカルランは、ピィリィの頭を優しく撫でた。

 ピィリィは顔を上げて、カルランを見返した。


「美味しかった?」


 カルランは無言で頷き、小さく微笑んだ。

 無口キャラの近年稀に見る笑顔である。

 え、あれで?

 あのチョコで?


「よかったー!」


 つられてピィリィも笑う。

 すると、カルランは何かを思い出したようにピィリィの頭から手を離し、キッチンの方へ小走りする。

 みんなが首を傾げる中、カルランは冷蔵庫から一つの大きなお皿を持ってくる。

 そのお皿の上に乗ったものに全員の目が輝く。


「チョコケーキだー!」


「チョコケーキっすわー!」


 無邪気な女児二人が即座にお皿に跳んでいく。

 ディムとキトリスも、その美しい黒い光を放つチョコレートケーキに近寄った。


「わお。いつの間にこんなものを作ったんだい?」


「おいし、そう……」


「なになにー? みんなのおやつー?」


 ピィリィが首を傾げると、カルランは小さく頷く。

 言うまでもなく、全員のテンションが上がった。


「わーい! おやつだー!」


「おやつだー!」


「やれやれ……今チョコを食べたばかりだと言うのに……。いや、あれはチョコにカウントしてよかったのか」


「別に……なんでも……いいん、じゃない……?」


 そうして、カルランのチョコレートケーキを囲んで、五人のお茶会が始まりましたとさ。

 めでたしめでたし。







【おまけ】



『マスター、どうしたんですか? いきなりこの空間で料理なんて始めて』


「いや、あのマッドロリからチョコを貰ったから、私も作ろっかなーと」


『へえ。チョコですか。何チョコを作るんですか?』


「手軽に生チョコかなー。……その、お返しとかのつもりじゃないから。てかチョコと言っても、チョコらしからぬものだったし。思わず殴ったレベルのチョコだし。何故か美味しかったし栄養たっぷりだったけど」


『別に何も言ってませんよ。ええ、何も』


「むう、Sのくせに、ムカつく」


 その後めちゃくちゃ生チョコ配りまくった。

 ちゃんちゃん。



【チョコを配り終えたレイ】


レイ「お前には、バレンタイン何をあげようか。精霊だからなー。食えないもんなー」

S『お気遣いなく。気にしませんよ』

レイ「いやいや、お前にだけなにもあげないのもあれでしょ。……よし分かった。じゃあしばらくナデナデしてあげよう。私の魔力をくらいたまえ」

S『え』


その後エラーをきたしそうになり、萌え死にしたSさんでしたとさ。

これは惨い。

そしてもう一つのおまけ。


【多分カルランさんの心の声】


カル「(まさか帰ってきてお菓子を貰うとは思っていなかった。それもチョコ。嬉しい。でもどうしよう。実はこっちもチョコのお菓子を作っていたんだけど、みんな連続でチョコなんて嫌だろうか。いやそもそも次のご飯まだなのに、ケーキなんて食べさせたらお腹いっぱいになってしまうのでは。被るとか思ってなかったのだがいや本当にどうしようどうしようどうしよう。とりあえず感想待ってるみたいだし食べよう)」


なんて、刹那の間に考えていたのかもしれません。

ぶっちゃけカルランさんは無口なので、何を考えているのかは作者にも分かりません。

しかしまあ、オカンか。

いや、オカンだ。

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