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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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51 雪も降らぬ山の上で

レイ「あれ!?タイトルから痛々しい神の字が消えている!?」

宙:ふっ、いい加減、恥ずかしいかなあってね……(遠い目)

レイ「どうせネタ切れしただけでしょ」

宙:ギクッ!

 


 雪、雪、白、白。

 ふわふわ、さくさく、しんしん。

 冷たくって、優しくって、怖くって、全てをまっしろにしてくれる、雪。

 私は、そんな孤独な雪そのものだった。


 寒いのは、好き。

 誰も傷付けずに済むから。

 温かいのは、苦手。

 誰かを傷付けてしまうかもしれないから。

 私は、人の温かさを、全て奪ってしまうから。

 奪ってばかりで、私はなにもあげられず、償うことも出来なかったから。

 だから、寒いところで、一人でいる方が、好き、だった。


 ……でも、あの人が見つけてくれた。

 雪の中で、咲きたがらない蕾のように閉じこもっていた私を、あの人は、目覚めさせてくれた。


 初めは、怖かった。

 蕾を開くのは、雪の外に出るのは、温かさを知るのは、とても怖かった。

 もし外にある美しいものを、壊してしまったら?

 私がまた、熱を奪ってしまったら?

 そう思うと、震えが止まらなかった。


 でも、あの人は、そんな震える私の手を取って、何もかもをくれた。

 温もりも、自然の美しさも、世界の雄大さも、誰かに触れる、その喜びも、その全てをくれた。

 それが嬉しくて、幸せで、幸せでいればいるほど、ずっと平穏が続いた。


 だから、私は、必死に考えた。

 どうすれば、この人に恩返しが出来るのか。

 どうすれば、この人の助けになれるのか。


 ……でも、考えても、無駄だった。

 だって、あの人は、既に満たされていたから。

 あの人は、ずっと幸せに咲き誇っていたから。

 今更、私が何かをする余地なんてなかった。


 それでも、何かを返したくて。

 何かしてあげたくて。

 笑顔にしてあげたくて。

 ずっとずっと、あの人の隣で、そんなことを考えながら過ごしてきた。


 一番になれないのは分かっている。

 それでも、二番目でもいいから、あの人を笑顔に出来る存在になりたくて。

 私にとっての、あの人みたいになりたくて。

 私はずっと、胸を張って、生きてきた。


 そしてある日、あの人は欠けてしまった。

 あの人は、満たされなくなってしまった。

 あの人は、心から笑えなくなってしまった。

 私は、それを好機だなんて思えるほど愚かでもなく、むしろ弱く、ただただ、悲しかった。


 咲き誇っていた花は、蕾となって閉じこもる。

 そして他の花が話しかけても、何かを差し出しても、陽の光を当てても、ずっとずっと蕾の中に閉じこもって、こちらを見向きもしなかったし、何も届きやしなかった。


 私は、色々試してみて、そして、やめた。

 蕾の意味に、気付いてしまったから。

 きっと、あの人は疲れてしまったんだ。

 あの人にとっての唯一の太陽がいなくなり、人を沢山助けて、誰かの背中ばっかり押して、疲れてしまったんだ。


 だったら、頑張りすぎて疲れてしまったあの人に、これ以上頑張れなんて言えない。

 足が疲れて止まってしまったあの人に、まだまだ先に進んでいこうなんて、言えるわけもない。


 なら、眠らせてあげよう。

 あの人のやりたいように、休ませてあげよう。

 いつかあの人が、もう一度立ち上がるだけの力がつくまで、待っててあげよう。


 そして、あの人が立ち上がり、その足で何処に行けばいいか迷っていたその時は、今度は私が手を引いてあげよう。

 背中を押して、頑張れって言うんじゃなくて、一緒に行こうって。

 一緒に、闘いますって。


 だから、それまでに、私も強くなろう。

 あの人を守れるくらい。

 あの人の守りたいものも、丸ごと守れるように。

 あの人が昔、そうしてくれたから。

 あの人に、恩返しをするために。

 あの人を、笑顔にするために。


 だから、大丈夫。

 私は、自分を怖がったりしない。

 自分自身を信じられなくても、あの人は信じられるから。

 あの人の言葉を、あの人自身を信じて、何処までもついていく。


 もしあの人が、自分のことを信じられないなら、私が信じる。

 私がずっとあの人を信じ続けて、貴女はこんなに優しい人なんだよって、かっこいい人なんだよって、教えてあげて、証明し続けて見せよう。


 私の雪を綺麗だと言ってくれたあの人が、私にとっての、唯一無二の太陽だから。







 *****



 岩肌が剥き出しになった、朗々と連なる岩山の上。

 雄大な自然な景色の中で、山ほどに大きな一つの巨体と一つの引き締まった体躯が対峙していた。


『それで? 我に退けと言うか。人間如きが』


「いやいやー、だって普通に迷惑じゃないっすか。先にここら辺で生活していたのはあの住民達で、あんたは後からここにやって来た。それで、共存するならまだしも、一方的な蹂躙を開始する。害獣以前にただの悪っすよ悪」


『人間が我を善悪で測るとは、小さなことよ』


「……はぁ、クソトカゲはみんなクソトカゲなんすね。話し方の時点でムカつくっす」


 山の頂上で眼下の人間を見下ろすのは、磨いた鉱石のごとく光る透けた黄色の鱗に、電撃を帯びた巨体。

 それは、紛うことなきドラゴンであった。

 その翼が空を掴めば、周囲のものは風圧で吹き飛ぶであろう想像は容易であり、その尾も、気まぐれに振るだけで、辺りの木々を薙ぎ倒すであろう。

 まるで肉体の全てが、世の中に暴力を加えるために存在しているかのようであった。


 一方、対峙する人間は、この場に全くもってそぐわない姿であった。

 何せ、対峙するのはとても若い人間の女なのだ。

 夜闇の如き黒髪は、後ろでポニーテールにまとめ上げられ、前髪は目の上で切りそろえられている。

 茶目は挑発的に光り、世界で最強の種と謳われるドラゴンに対して、一歩も引く気は無い。

 そして服は、撫子美人な顔に似合って、上は白く、下は黒染めの袴であった。

 しかし何故か、首には不自然に赤いマフラーが付けられているが、案外不自然に見えなもない。


 なら手には木刀か竹刀が握られているのかと思うかもしれないが、手の中にも腰にもそれらしきものは何も無かった。

 代わりに女の背中には、あまりにも大きすぎる黒い太刀が、黒い紐で括られ背負われていた。

 しかもその太刀は、掴も刃も、太刀の全てが雑に黒塗りしたかのように、黒で染まっていた。

 しかしその黒は、まるで生きているかのように、どこか揺らめいて見える。

 まるで、意思があるような、一応形だけでも服に合わせましたと言っているようだ。


「大体、あんたがここらで威張るせいで、この山の魔物が降りてきてるのが一番の迷惑っす。魔物の群れが村に降りてきた時の村人達の恐怖と絶望を考えて欲しいっすね?」


『知らんな。強者が力を示して何が悪い?』


「あ、そ。じゃあ、大人しくする気も、ここから退く気は無いってことすか?」


『人間なぞに妥協してやる理由はない。さっさと居ね』


「成程理解したっす」


 その瞬間、両者の間に爆風が巻き起こる。

 それが収まった時、対峙していたドラゴンが吐血した。


『かはっ……。なっ……?』


 ドラゴンは、何が起きたのか理解出来なかった。

 ただ、爆風を受けた自らの肉体を見ると、まるで大砲の玉でも撃ち込まれたかのように、龍の鱗が陥没していた。

 常に結界を張り、魔力で強化された、宝石並みに硬い鱗であったというのに。

 だが、そこに玉など無い。

 ただ、陥没した傷があるだけだ。


 この場で何かしたとしたら、ただ一人。

 その刹那の出来事の原因は、ただ一つ。

 ドラゴンは、眼下の女に目を向けた。

 その女は、ただ拳を突き出していた。

 ただそれだけである。



「居なくなる気も、大人しくなる気もないなら、とっとと消えろ」



 ドラゴンは、ようやく理解した。

 ただの脆弱で矮小な女だと見下していたこの人間が、自らに傷を付けたのだと。

 強者にして傲慢なドラゴンのプライドを傷付けるには、それで十分であった。


『……んの、人間如きがああぁああ!!』


 ドラゴンは飛翔し、天から雷撃を放った。

 無数の紫電が、獣のように女に襲いかかろうとする。

 辺りの岩の隙間に生えた小さな草花を焼き、女の袴に焦げ目を付け、女の肉体に傷を付けようとする。

 しかし、女はものともせずに、背中にあった太刀を手に取る。

 すると不思議なことに、鞘は霧散し、黒い刃が姿を見せた。

 そして女はその剣を持ち、その場で静かに構える。


 恐れもせずものともせずに立っている姿にますます激昂したドラゴンは、女が動かないのをいいことに、ドラゴンの特徴でもある、咆哮(ブレス)を放つために、その口を開き、魔力を貯め始める。

 それでも、女は動かない。

 目をつぶり、息を整え、微動打にせず太刀を構える。

 ドラゴンは内心ほくそ笑み、雷の咆哮を放った。


 巨大なエネルギーが地面に激突した余波で、山が揺れ、魔物が脱兎の如く飛び出し、女の姿は塵となる。

 そう思っていた。

 その結果を目にすると、確信していた。


 だが、ドラゴンの瞳は、不思議な光景を映していた。


 先程まで山の裾を見ていたはずなのに、何故か青い空が見える。

 しかし、その空に、女がいる。

 地面と空が反転した?

 いや、違う。

 反転していたのは、自らの方である。

 自らの、頭である。

 その証拠に、空には、首から上の無い自らの肉体が────。


 そこで、ドラゴンの意識は途切れた。


 肉体を制御する頭脳が無くなったことで、飛翔していたドラゴンの巨体が、重力にしたがって落下していく。

 かと思いきや、不自然に止まり、まるで見えないロープに取り付けられたかのように、ゆっくりと落下していく。

 そして骸が着いた地面には、咆哮が放たれた跡など無かった。

 岩肌のどこにも、傷は無かった。

 まるで、何も起きていなかったかのように。


 宙に跳んでいた女は、ドラゴンの骸の上に着地した。

 その顔には返り血がついており、その瞳は、酷く、退屈そうな目をしていた。


「……あーあ、よっわ」


 本当に、酷く、心底、退屈そうな目で、平穏な空を、一人静かに見上げたのであった。

 その傍にいたのは、揺らめく漆黒の大太刀のみであった。


 



「あ! 黒い人族のねーちゃんだ!」


「おかえりなさい! ユキねえちゃん!」


「おかえりなさーい!」


 山の麓の村に女が降りてくると、村の子供達が駆け寄ってきた。

 その子供達には、特徴的な狼のような耳や尾がついていた。

 彼らは獣人族の子供。

 その一種である、狼人族。

 つまりここは、森の奥にある獣人族の村なのだ。

 子供達の姿を見たユキと呼ばれた女は、子供達の姿を見て冷めた目から退屈な色を無くし、駆け寄ってくる子供を破顔して迎えた。


「元気にしてたっすか、ガキンチョどもー!」


「「「わー!」」」


 子供達が飛びつき、それを全て倒れることなく受け止めるユキ。

 子供達はくっつき、喜びを尾をパタパタと振って表した。

 ユキも同じように、長いポニーテールをゆさゆさと揺らす。


「ユキねえちゃん、こわいドラゴンさん、どうなったー?」


「かったー?」


「ふふん、あーしを誰だと思ってるんすか」


「おジジとあいさつするときにすっころんだねーちゃん?」


「むむむ、そういうことは言わない約束っす」


「あうっ」


 ユキをからかった子供がデコピンをくらい、額を抑えると、周りの子供から笑い声が上がる。

 そしてユキは子供達を地面に下ろして、ブイサインをする。


「勿論、勝ったっすよ。しかも一撃っす!」


「すっごーい! やっぱりユキねえちゃんはつよいんだ!」


「ええー? オレしってるよー? ドラゴンって、すーっごくつよくて、すーっごくかたくて、たおせるひとなんてめったにいないんだーって、おとなたちがいってたよー」


「おねえちゃん、わたしたちにうそついてないー?」


「むむむむむ、ガキンチョのくせに疑い深いっすねぇ。いいっすよ、だったら、あーしの強さをちょこっとだけ証明してやるっす。あそこの薪を見てるといいっす」


 ユキと子供達がいた場所の数メートル先に、薪割り作業の途中らしき、切り株の台に乗った薪があった。

 子供達がそれに注目し、ユウキがそれっぽく指を突き出した。

 すると、誰も触れていないはずの薪が、一人でに唐竹割りになった。

 わっと子供達から歓声が上がる。


「すごい! まきがかってにわれちゃった!」


「ねえちゃんすごーい!」


「ふふん、すごいっしょー。もっと褒めていいんすよー」


「ええー、でもあれなら、おとなもたまにやってるよー?」


「ここの大人達恐ろしいっすね。流石獣人。……はあ。なら、一番の証拠を見せるっす」


 ユキが指を弾くと、子供達の横に、ドラゴンの雁首がドスッと落ちてきた。

 その首はあまりにも綺麗で、まるで生きているかのように切られた時の状態が保たれていた。

 子供達は突然のそれの出現に驚いたのか、ユキの影に隠れた。

 ユキは子供達の恐怖を察し、頭を撫でてやる。


「ああ、ごめんっす。怖いっすよね」


「……ドラゴンさん、しんでいるの?」


「もう、うごかない?」


「たべてこない?」


「大丈夫っすよ。もう死んでるっす。この村を襲ったり出来ないっすよ」


「ほんとー?」


「ホントっす。嘘じゃないっすよ。倒してくるって約束したっしょ?」


「おお……これは」


 ユキ達の背後から、老人の声がした。

 老狼人はドラゴンの首を見て、ユキに目線を移した。


「本当に、倒してくださったのですか……? これが、本当に、あの恐ろしいドラゴンなのですか……?」


 ユキはその老人、村長の姿を目にして、安心させるように笑った。


「そっすよ村長さん。もう大丈夫っす。あーしが殺したんすからね」


「なんと……本当に、あのドラゴンが……」

 

 声を震わせ、うっすらと涙を浮かべる村長。

 その老狼人は震える体で地面に手をつけ、最大級の感謝を表すために、頭を地面に伏せた。


「ありがとうございます。ありがとうございます……。どう、お礼をすればいいものか……」


 村長のその姿を見て、ユキは慌てて手を振った。

 まさかそこまで感謝されるとは思っていなかったからだ。


「ああああ、顔を上げて欲しいっす村長さん。お礼なんて別に。あーしはたまたま通りかかって、たまたま助けられただけなんすから」


「それでも、魔物の群れを全て伏せ、度々村人を襲いに来ていた今回の元凶であるドラゴンを倒してくださった。貴女は、感謝されるべきことをした。讃えられるべきことをした。村を代表して、お礼を申し上げます」


 村長は涙を流した。

 自分たちを救ってくれたユキへの感謝の涙を、何も出来なかった無力な自分への後悔の涙を、亡くなった者達への追悼の涙を、村に平穏が訪れた安堵の涙を。

 その姿を見て、ユキは頭をガシガシとかいた。

 何度かこういうことを経験したことがあっても、慣れないものは慣れないのだ。


「……っあー、ほんっと。こういうのはまだ自分は気恥しいっすから、顔を上げて欲しいっす。気持ちは十分、伝わったっすから」


「おジジ、ないてるのー」


「おジジー、なかないでー」


 子供達に囲まれ慰められ、老狼人はゆっくりと立ち上がった。

 やがて騒ぎが聞こえたのが、村人達が集まってくる。

 そして、地面に置かれたドラゴンの雁首を目にして、驚きの声を上げる。


「ああ……あのドラゴンだ……」


「本当に、ユキ様が倒してくださったのだ……」


「この村は、救われたのか……?」


 村人は信じられないと言う目で、ユキを見つめた。

 ユキは視線の渦に晒され、ふうっと息を吐くと、拳を突き上げた。

 こうなったら、自分が締めてやるべだろうと察したからだ。


「あの忌々しいドラゴンは、あたしが倒したっす! もう理不尽な暴力に怯える必要は無い! この世界じゃ生き残ったものが勝ちっす! だから、生き残れたこの村の勝利っすよ!」


 その言葉に、村人から声が上がった。

 ドラゴン討伐を喜ぶ声、再び平穏が取り戻されたことに安堵する声、亡くなった者を悼む声。

 しかし、その誰もが、ユキの名を讃え、感謝の声を上げた。

 村長がユキに近付いて提案する。


「ユキ様、もしこの後お時間を頂けるなら、ぜひ感謝の宴に参加していかれませんか? 泊まる場所も、大した場所ではございませんが、ご用意致しましょう」


「おっとパーティーっすか。お気持ちは十分ありがたいんすけどねぇ……」


「もしや、何かご予定が?」


「まあ、そもそもこの村見つけたのだって、地道にダッシュしてる時に偶然見つけただけっすからねー。一応は」


「そうなのですか。それはそれは……お手数お掛けしてしまって。お急ぎの用があるなら、別に無理にとは言いませぬ。助けて貰った礼を出来るだけしたい、それだけですので」


「いやいや、急いでいたからこそ、この村のピンチにも間に合えたわけで。だからって無視して通り過ぎれば、あーしは自分自身にも、これから会いに行く人にも顔向け出来ないっすからね。むしろ急ぎの用があって良かったっすよ。この村を間一髪救えたんすから」


 ユキがそうニカッと笑うと、子供達がその腰にしがみついた。


「おねえちゃん、もういっちゃうのー?」


「ぼうけんしゃさんのおはなしとか、ききたかったのにー」


「みんなかんげいしてくれるっていってるよー?」


 その寂しそうな顔を見た途端、ユキは笑って子供達の頭を撫でた。


「じゃあ、お言葉に甘えて、一晩お世話になろうっすかねー」


「やったー!」


「じゃあじゃあ、いろんなおはなしきかせてー!」


「勿論っすよ! さあさあ、パーティーの準備っす!」


「ええー? しゅやくのおねえちゃんがおてつだいしちゃいみないよー?」


「ちょーっと手伝うだけっすからー。ねー?」


 辺りが小さな笑い声に包まれる。

 ドラゴンに気まぐれに襲われた村には、もう元の平穏が戻ろうとしていた。





「……っはー。食った飲んだー、飲んだ食ったー」


 ユキは黒い太刀を携えて、民家の外に出た。

 地面に太刀を突き立て、手に持っていた瓢箪酒を口にした。


「っかー! うまー! クソトカゲをぶちのめしたあとの酒はサイコーだわー」


 僅かに酔いで顔を紅に染めるユキは月を見上げ、瓢箪の中身をちゃぷんと揺らした。


「あーあ、最近はあんなクソトカゲぶちのめすくらいじゃ満足しねーよー。もっとやべーもんのほうが楽しいわー」


 ユキがそう嘆息すると、黒い大太刀の黒が揺らめいた。

 まるでユキの退屈に共感しているようで、やはりなんだか生き物じみて見える。

 ユキはそんな黒い大太刀に、甘えるように寄りかかった。


「でもきっと、レイレイに会えば、退屈なんてどっか吹き飛ぶっすよね。だってレイレイっすもん」


 そう答えになっていないことを言って不敵に笑い、ユキは再び酒を喉に流し込む。


「……さーてさてさて、レイレイは今頃、この月の下、何をしてるっすかねー? あーしを嫌な顔で待ってるんすかねー。あー、楽しみだなー。楽しみだなあー」


 月はそんな狂戦士を、夜の灯りとして、ただ淡々と、照らしていた。

 静かになった森を、人通りの少ない都市を、一人と一人の夜を。


 そうして、二人が会うまで、あと少し……。

 時は静かに、近付いていた……。








 ********



『今回は休憩』



レイ「(ゾクッ!?)」

S『何やら悪寒が……』

レイ「フラグやめて!」

宙:でも立てます!

レイ「やーめーてー!」

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