SS 七種の草粥
宙:クリスマスもねえ!正月もねえ!しかし人日の節句だけはやる不思議!どうもお久!SS忘れてなんかないんだぜあけおめことよろ!
レイ「で、本音は?」
宙:本編が全然進んでないからネタが組み込みにくかった。
レイ「メッタいわ」
ベッドで身体を起こすレイの目の前に、草粥があった。
「……草粥?」
「じゃぱにーず七草粥的な!」
「成程、七草粥ね。あれ? ピィリィって日本知ってたっけ?」
「あ、そういう話は本編でよろしく」
「メッタいなあ」
レイの療養中、いつものように、ピィリィとディムはレイへ病人食を届けに来た。
そして、食事をさせつつ診察である。
ちなみに、病人食はどれもヘルシーで栄養満点にしてとても美味しいので、レイも内心じゃ結構気に入っているのだ。
レイはお盆に乗った木の匙をとり、木の器によそわれた草粥をそっと掬おうとした。
その時である。
「ギギャアアァア」
人型の根菜が、白い粥の下から蠢いてきた。
「…………」
ザグザググシャア!
レイは無言で、それを潰した。
無慈悲である、容赦無しである。
「……なにこれ」
「七草粥だよ!」
「そうか。なら、その七種に一体何を使ったのかな……?」
「勿論ピィちゃんが栽培した栄養満点草花の内の、厳選七種だよ!」
「毒みたいなものでしょーがー!」
ピィリィの巫山戯たドヤ顔に、思わずちゃぶ台返ししそうになるレイだが、食べ物を粗末にしてはいけまへん精神でなんとか留まった。
そして改めて、先程の木の匙で仕留めた物を見る。
「……私の認識が正しければ、これはマンドラゴラとかいう危ない生物だったはずなんだけど」
「流石レイ、ご名答。それはピィリィの育てたマンドラゴラ……もどきだ。ちなみに、品種改良しているから、毒素はほぼ中和され、栄養満点なはずだよ。きっと口に合うはずさ」
「倫理と常識と耳に合わない。なんであのシェフもこんなん使おうとしたの……。そして、せめて調理途中で仕留めて欲しかったよ……」
「残念だけどー、その子殺しちゃうとすぐに干からびて、干し大根みたいになっちゃうから、どうしようもないのー」
「そういうことは先に言いなよねぇ!?」
文句をいいつつ、文字通り鮮度が落ちる前にそのマンドラゴラもどきを口に含むレイ。
律儀というかなんというか。
とりあえず、悔しいことに美味しく塩味がつけられていたので、普通に美味だったとか。
納得いかない。
「くっ……、病人食的にはあってるけど……。いや、本来の行事の意味としてはどうなん?」
『無病息災を願う行事ですよね。まさに病気のその時に食べていいものなのでしょうか』
「これ以降かからなければいいと思うのー!」
『成程分かりますん』
ペンダント越しに微妙にボケるS。
まあ正直、行事とか関係ないただの病人食なので、気にしたら負けのような気はするが。
レイは草粥を食べつつ、行事の本来の意味を思い出す。
「ええっと、確か年明けの七日目に食べるもので、先に神に草を叩いて捧げてから調理する、なんて儀式もあるんだっけか」
「ふーん、そういうものものなのかい。そして現在、神への供え物を神が食べている。あれ、人間の手元に残らなくないかい」
「ふっ、今の私は人間だし神なので、丁度よくまわるってもんよ」
「まあそもそも、これの場合は草を捧げたのも神だけどねー。いえーい!」
「マッドサイエンティストでしょ、何言ってんの?」
「むうううう! いじわるいうと、マンドラゴラもどきちゃんもっと入れちゃうぞー!」
「悪かった、私が悪かった。流石に生の状態はやめてお願い」
これ以上変なもの入れられないように、レイは抱え込むようにして食べる。
ピィリィは童女の笑みを浮かべつつ、その腕の中によくわからない植物達をステンバイさせている。
食事中に毒物みたいなもの入れられそうになるとは、これはどういうことなのか。
病人食ってなに、とは言わない。
「春の代表の七つの草を入れて、粥にし、身体を温めながら無病息災を祈る。脆弱な人間らしい行事だよね。ちなみに、正月のバカ食いやらのんだくれやらによる胃の疲れをとるためでもあるとかないとか」
「新年は誰しも盛り上がるものだからね。盛り上がりが収まった頃に胃に優しいものを食べる。成程、それらしい行事だ」
「まあぶっちゃけよく知らんけど。中国の説話に基づくもの、としか知らん。知りたきゃググれカス」
「カスって言わないの」
「すまーんぬ」
レイはスルスルと美味しそうに草粥を食べていく。
米、のようなものを食べ切ると、底の方に塩粥の白い汁が残った。
レイはそれを木の匙で掬い、手ぶらな左手を出す。
「七草粥には無病息災ともう一つ、おまけみたいな行事があってね。爪に汁をかけて爪を切ると、爪に関する怪我をしなくなるとか」
「爪切りならあるよ」
「用意がいいことで」
「ピィちゃんが切ってあげるのー!」
「丁度伸びてきたし、よろしく」
レイが自分の爪に汁をかけ、ピィリィが爪を切っていく。
しばらく爪を切る音が、部屋に響いた。
レイの両手の爪を綺麗に切りそろえると、ピィリィは何かの蓋をカチャリと閉めた。
レイはうっすらと冷たい笑みを浮かべる。
「……それは何かな?」
「ピィちゃんのシャーレだよー」
「……じゃあ、それに入ってるものは何かな?」
「勿論、レイちゃんの爪です!」
「さりげなくサンプル採取してんじゃなーい!」
レイはすかさず手を伸ばしてそのシャーレを奪おうとする。
「やー! 爪切りと治療の対価ー!」
ピィリィは反射的にディムの背後に隠れた。
本調子でないレイは、魔力のオーラを微量放って威嚇する。
あくまで私悪くない顔のピィリィに、ディムが呆れ顔をしつつ助け舟を出す。
「まあまあ、今回はゴミにせずに有効活用しようとしてるだけで、レイを傷付けた訳でもないし、いいじゃないか。プラスのボーナス支払いとでも思っておくれ」
「いやマッドサイエンティストの手に私のサンプルが渡ることがそもそも大問題だと思うんだけど」
「たかが爪だ。見逃しておやり。ピィリィとしても、今はレイを看病しているおかげでサンプル採集にも行けないんだし。大丈夫、変なことには使わせないよ」
「む……」
レイはディムの説得に揺らぎかける。
そして、両手で空になったお椀を載せたお盆を持つ。
「確かに、それはそうかも」
「だろう? だったら」
「……って、なるわけないでしょーが! ご馳走様! そしてそのシャーレ寄越せ!」
「おおっと」
レイは激昂してお椀の乗ったお盆をディム目掛けてぶん投げた。
しかしディムは右手でそれを妙な取り方でキャッチし、舌をチロっと出している背後のピィリィに左手を回す。
「残念、なら逃げるが勝ちだね」
「ばいばいー。また来るねー」
そして、二人の姿は忽然と消えてしまう。
「あ! おいこら! 美味しかったが待たんかーい!」
当然、レイがベッドから下りて何も無い宙に手を伸ばすも、虚しく宙を切ってしまう。
そして勢いでベッドからずり落ちると、
「逃げられたー!」
『……ドンマイです』
レイは頭を抱えて悔しがった。
まあ、読めてはいたことである。
とっぴんぱらりのぷう。
今のところ、3章は未定です。
二月にいける、かなー?
行けたとしても、3章前編ってなりそうなんですがね。
なにせまあ、話があれであれなわけであれあれなので……(意味不明)
とりあえず皆さん、七草粥を食べて、今年一年も健康に過ごしましょう。
ちなみに自分はお粥全般大好物です。
(※七草粥云々には諸説あります)




