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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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48 奥手射手と寡黙射手の休暇

 


 ヒュッ! トスッ!

 ヒュッ! トスッ!


 矢を放つ。

 的の中心に当たる。

 射手と的の距離は二十メートル程。

 これで連続して命中させられるのだから、この射手は名手と言っても良い範囲にいるだろう。


 矢を番え、矢を引き、また放つ。

 今度は中心から僅かにずれたが、それでも十分すぎる命中率だ。

 射手は弓を下ろして息を吐く。


「……励んでいるな」


「わあっ!」


 射手、セルトは、突然気配もなく背後に現れた人物に腰を抜かして、ダンジョン内の洞窟の床に尻もちをつく。

 いつものように、ダンジョンの隠し部屋で訓練をしているところに、突然音もなく現れたのだ。

 驚くのも当然である。

 セルトは顔を上げ、その人物の顔を見て目を見開く。


「じいちゃん!」


「……久しぶりだな」


 セルトの祖父、セドウィンは、セルトを見下ろしてふんっと言った。


「……私に気が付かないとは、まだまだ」


「いや、〈潜伏〉持ちのじいちゃんに気がつける訳がないよ……。俺の〈気配察知〉はまだまだ低いし」


「……勘でどうにかしろ」


「んな無茶な……」


 本当は〈隠密〉カンストボーナスの派生により取得する〈潜伏〉どころか、隠密系で最上位の〈隠蔽〉まで取得済みのセドウィンだが、そこはプロの冒険者らしく、実の孫だろうと簡単に情報を渡したりはしない。

 セルトはセドウィンの手を借りて立ち上がる。


「いつ帰ってきてた?」


「……ついさっきだ。セルトがいつも通りダンジョンに行ってると聞いたので、こっちに来た」


「じゃあ、しばらくはうちに居る?」


「……そうなるな」


「やったー! じゃあじいちゃん! 俺に稽古つけて!」


 寡黙な雰囲気のセドウィンとは対照的に、普段よりも高めのトーンで興奮気味に話すセルト。

 セルトの話し方はセドウィンからきているのかもしれないと伺える。


「……お前はそればっかりだな。まあいい」


 目の前にいてもどこか気配が薄く、淡々と話すセドウィン。

 一見不機嫌なように見えなくもないが、セドウィンをよく知っているものには、とても喜んでいると分かるのだ。

 その証拠に、先程から落ち着きなくフードの端を引っ張っていた。

 そしてセドウィンはセルトに手を伸ばして、


「なっ、なんだよもー」


 わちゃわちゃと頭を撫で回してやった。

 どう見ても孫好きな老人である。


「……では、いくか」


「えっ? ここでやるんじゃないの?」


「……ダンジョンにいるのだから、動く的の方がいいだろう。片付けていくぞ」


 そう言ってセドウィンは部屋の中に設置していた的などを手際よく片付けていく。

 セルトも慌てて、マジックポーチを取り出して仕舞い始める。

 セドウィンはそのマジックポーチに目を向けた。


「……それ、まだ使っているのか」


「いや、新しいもの買うほど稼げてないし……。それに、じいちゃんから貰った、大切なものだから。ずっと使う」


「……そうか」


 セドウィンはフードをグイグイと引っ張り続ける。

 分かりやすいような分かりにくいような照れ隠しである。


 二人は隠し部屋から出て、ダンジョンの奥深くへ潜り始める。

 魔物を見つけると、セドウィンは立ちどまり、一歩身を引いてセルトに譲る。

 セルトは短弓を構え、矢を放つ。

 一射目を外し、魔物に接近されるが、諦めずに魔物から距離を取りながら矢を放ち、今度は脳天に命中させ、魔物はその場に倒れる。

 二人は絶命した魔物に近づいて、必要な素材の剥ぎ取りを始める。


「……さっき、何をしようとしていた?」


「え? 何って、ただ矢を放っただけだけど……」


「……矢に僅かだが、魔力が流れていたぞ。〈魔力付与〉なんていつの間に取得した?」


「じいちゃん、この方法知ってるのか!?」


 セルトは驚いて声を上げた。

 今まで祖父からこの方法を教えて貰ったことは一度もないからだ。


「……矢に薬を塗ったり、スキルで属性を付与する以外では、一番簡単な強化方法だからな。知っていて当然だ」


「でも、今まで教えてくれたことないじゃん」


「……お前にはまだ早いと思っていたからな。まさか、少しでも魔力を操れるようになっていたとは」


 セルトはセドウィンにそう言われて胸を張った。


「これのおかげで〈魔力操作〉が取得出来て、さらに操り安くなったんだ。まあ、まだ矢先にちっとも溜められないから、矢を握る度、なるべく流すようにしているだけだけど」


「……私が教える前に思いつくとはな」


「あ、違うよじいちゃん。教えて貰ったんだ」


「……ようやく人見知りが治ったのか?」


「いや……。まだ大人の冒険者達に話しかけるのは苦手だよ。緊張しちゃって上手く話せないし、なにかと見下されることが多いし。関わりをもてているのはほんの少しだ」


「……では、その数少ない知り合いに教えて貰ったのか?」


「そう。最近冒険者になったばっかりで、俺よりも年下のチビ女なんだけど、こいつがすっげーんだ!」


 そういってセルトは、最近あった出来事について話した。

 本人の前では癪なので絶対に言わないが、内心セルトはレイのことを軽く尊敬していた。

 その様々な出来事を聞き、見ない間に随分と変わったようにセドウィンは感じた。


「それで、そいつの特訓の時に、まずはこれを教えて貰ったんだ。初めはじいちゃんに教えて貰ったことないことだからすげーって思ったけど、凄かったのはその後だった。そいつが見本を俺の前でやって見せたんだけど、見事に成功してさ! 木の幹が軽く爆ぜたんだ! まあ、弓はどこか慣れてない感じだったけど、それでも初めてには見えなかったなー」


 セドウィンは饒舌に楽しそうに話すセルトを見て、顎に手を当てた。


「……セルト、今はその少女が好きなのか?」


「ぶっ!?」


 何も飲んでいないのに吹き出すという器用な真似をするセルト。

 魔物から手を離して立ち上がり、即座に抗議した。


「んなわけないじゃん! 俺が好きなのは今も変わらずルーリアさんだけだ! あんなチビ女好きになんねーよ! 良い奴だしすげーやつだけど、色々生意気でムカつくし!」


「……違うのか。随分と楽しそうだから、そうなのかと」


「まだ出会って数日だし、お互いにお互いのことあんま知らねーもん。まあ、色々頼りにはなるけど……」


 そう言ってしゃがみこみ、剥ぎ取りを終え、素材をポーチにしまった。

 そして立ち上がり、二人は再び奥へと歩き始める。


「そうだ。聞いてくれよじいちゃん」


「……どうした?」


「俺さ、ルーリアさんに告白したんだ」


 セドウィンは時が止まったようにピタリと止まった。

 セルトは止まった祖父を振り返る。


「……今、なんて?」


「だ、だから、ルーリアさんに告白したんだよ。恥ずかしいなぁ……」


 セルトは頬をかく。

 対するセドウィンは、突然号泣し始めた。

 雑に効果音をつけるとダバーという感じに。

 勿論、比喩的なあれだが。


「うおっ!? じ、じいちゃん!? どうしたんだ!?」


「……可愛い孫がいつの間にかそんな勇気ある少年へと成長していてかなり感動した」


「んな泣かなくても……」


「……喜びと感動と衝撃の涙だ気にするな」


 セドウィンはハンカチで涙を拭いた。

 本当にただの孫バカである。

 セドウィンは落ち着くと顔を上げる。


「……それで、どうだった?」


「勿論、振られたさ」


「……その割には、落ち着いているな」


「まあ、振られたけど、だからこそちょっと近くなれたし」


「……? どういうことだ?」


 共に歩を合わせて奥へと歩く。

 セルトは恥ずかしそうにはにかんだ。


「ルーリアさんの恋愛相談に乗ることにしたんだ。ルーリアさんと同じ、片想い俺なら、何か役に立てるかなって」


「……それはまた、妙な成り行きに」


「これもそのチビ女が提案したことなんだよなー。しかも、そいつすっげー楽しそうなのな。ぜってー側で笑う気満々だろあいつ」


 腹立たしそうにいいながらも、顔は笑顔のセルト。

 祖父であるセドウィンも、つられて珍しく笑ってしまった。


「……お前があまり落ち込んでいないようでよかった」


「うーん、こう見えても結構落ち込んでるよ。分かってはいた、分かってはいたけど、正面から断られたから、結構来るものあってさ。うん、普通にグッサリきたね」


 そう言って、セルトは少し顔をうつむける。

 セドウィンはそんな顔を見て、私の馬鹿零点と顔を覆う。

 しかし、セルトはすぐに顔を上げた。


「それでも、好きなのはやめらんねーし、好きだからこそ、ルーリアさんには好きな人と結ばれて幸せになって欲しいから、隣で一生懸命応援して、背中を押してあげることにしたんだ。ただただ、好きだから。だから、泣いたりなんてしない」


 セルトはへへっと小さく笑った。

 セドウィンは孫が眩しすぎてまた顔を覆った。

 私の孫超強くて超いい子、と内心連呼しまくった。

 そんな内心の興奮を抑えると、セルトの頭をポンポンと優しく叩いた。


「……なら、応援を頑張れよ。私も、お前をずっと応援し続けてやる」


「へへっ、ありがと、じいちゃん」


 そう言って二人は、セドウィンが家にいる間、家族の穏やかな時間を楽しんだ。







「お久しぶりです。休暇は楽しめましたか?」


「……お陰様で。ところでエリオット様」


「どうしました?」


「……この前、私の孫がルーリア様に想いを告げたそうです」


「んぐっ! ゲホッゴホッ」


「……大丈夫ですか?」


「いい茶葉を手に入れたから、飲むのを楽しみにしていたのに、危うく吹き出すところでした」


「……申し訳ございません」


「そう思うなら、突然驚くようなことを言わないでください」


「……割と慣れたものでは?」


「いや、お姉様(・・・)に愛の告白をする猛者など、最近はもういませんよ。完全にリグアルド殿しか見ていないことに気がついて諦める者か、なんとなくその身分の差に気がついて諦めるものが大半だそうです」


「……よくご存知で」


「いくらリグアルド殿も共にいるとはいえ、流石にお姉様を一人にさせる訳にはいきませんから。お姉様だって、影に護衛騎士がついてることくらいご存知だと思いますよ」


「……なるほど」


「にしても、セドウィンのお孫さん、いくらお姉様の身分を知らないとはいえ、よく告白しましたね。勇気ある少年だ」


「……やはり、ルーリア様について告げておいた方がよかったでしょうか? 失礼をしていないか、時折心配になるのですが」


「いいえ。折角お姉様に懐いているのです。下手に身分の差でよそよそしくなっては、お姉様としても悲しいでしょう。このまま告げないでおいてください。にしても、あなたのお孫さん、泣いてませんでした? お姉様の告白の断り方は、いつもバッサリしすぎて完全に相手の心を折っていると聞くのですが……」


「……まあ、全くもって眼中に無いような断り方をされれば、大抵は泣くでしょうね。ですが、私の孫は少々変わったことをしたそうで」


「ほう、どんなことですか?」


「……どうやら、断られても、そのまま側にいることにしたようです。恋愛相談にのる友人として」


「……それはまた、面白い選択を。というかそれ、お姉様の相談に乗るって、絶対拷問だと思うのですが」


「……そうなのですか?」


「弟として、何度か相談に乗ったりすることもあったのですが。いやもう、あれは聞く側は段々と嫌になるというか、その場から退散したくなりますよ。なにせ、相談しているように見えて、節々に惚気を入れてきますから。頑張って笑顔で聞いてるしかないですね」


「……ちょっと、というか、かなり孫が心配になってきました」


「まあ、振られても態々そのような選択肢をとるくらいなら、それくらいの想いと覚悟があるのでしょう。多分大丈夫ですよ。恐らく、きっと」


「……とりあえず、ルーリア様と孫の日常が平穏であることを祈るしかないですね」


「なら私は、皆が平穏でいられるように、きちんと仕事をして、お姉様に心配をかけないようにしなくては」


「……では、私の仕事は、そんな貴方様をお守りするということで」


「今日も任せましたよ、セドウィン」


「……かしこまりました」



宙:イイハナシダナー。

S『久々にまともな人間のまともな話が……』

宙:俺いつかカッコイイおじいちゃんキャラでいっぱいにしたいんだけど。

S『イケメンは嫌いなのにですか?』

宙:ショタとじいちゃんは許せるんばい……。

S『わぁ……』


フードの祖父とフードの孫のほのぼの話でした。

次は変態エルフがメイドとイチャイチャする話です。

間違ってはいない。

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