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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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45 四人の有給休暇

 


「さて、どうしようか」


「ホントにね、どうしよっか」


 アレンとウレクは、向かい合わせにソファーに腰掛けてそう言った。

 勿論、その傍らには恋人を寄り添わせて。


 自分達の主が、知り合いを連れて部屋に閉じこもって既に一日が経った。

 その間、組織への報告書を書いて転送して、とりあえずかわりばんこに風呂に入ってホコリを落としたのはいいのだが、その後、することが無かった。

 ほのぼのと料理を作って食べて、今現在、このだらけっぷり。

 完全に今日の予定に悩んでいる顔だ。


 レイに休暇と言われても、そもそも、今回の護衛任務は組織自体から言い渡されているもので、その組織から休暇を言い渡されない限り、休暇ではないのだ。

 例え組織内での命令権利が一番強いのがレイで、そのレイが命令したことだとしても、今の自分たちは組織の任務の遂行中。

 簡単に受け入れる訳にはいかなかった。


 が、休めという気遣いが理解できないほど愚かではないので、こうしてある程度のことは済ませ、絶賛待機と言う名の任務継続中なのだが。

 なんとも、微妙な時間であった。

 マスターの部屋に無断で入ることも出来ず、かと言って、この場から離れることも許されない。

 自分達に出来るのは、もしもの時にすぐに駆けつけることだけ。

 なので、こうして軽くイチャつく程度で収めているのだが。


「本当に、どうしよっか」


「困ったわね」


 メルウィーがウレクの方に体を寄せる。

 ウレクは甘えてきたメルウィーの頭を撫でてやり、今の現状に苦笑いする。


「マスターが悪魔と戦いに行った時と違って、今回は時間制限が明確じゃないし、何せ、すぐ目の前の部屋にいる。俺達に出来ることと言ったら、こうして程よくだらけてるしかないわけだが」


「みゅ〜」


 スーレアはアレンの膝の上で猫のようにゴロゴロしていた。

 アレンは少し耳を赤くしながらも、内心を可愛いの羅列で満たしながらそんなスーレアを撫でてやる。

 この一連の流れの中でも、彼らに隙など一切無く、不意の一撃を受けたとしても軽く対応出来るくらいにはいつも通りなのだ。

 それでも、神や悪魔なんかには到底叶わない。

 だからこそ、最近のこういった待機時間はとても困るのだ。


 人間絡みであれば、マスターはきちんと頼ってくれるだろう。

 が、悪魔の時には無駄死にするだけと言われ、今も自分達の警護は不要だと言われ、どうにも自信を無くしてくる。


 理解してはいるのだ。

 これはどうしようもない壁だと。

 だからこそ、もどかしく、焦りが生まれる。

 彼らはただの待機時間だけでも、かなり神経をすり減らしていた。

 そんな時である。


「ふっ!」


「そい!」


 アレンとウレクが、スーレアとメルウィーをソファーに深く寝かせて立ち上がり、背後に向かって得物を振る。

 カキンッ! と金属音が奏でられるが、両者の力は拮抗しており、キチキチと刃がゆれた。


「よっ! おっひさ!」


「久しぶりだな」


 気配を消してアレンに短剣を振り下ろしたのは、灰髪の少年。

 対してウレクの背後でアイスピックを振りかざしていたのは、紺色の髪に眼鏡の青年である。

 互いに相手の姿を確認すると、ため息を吐く。


「いきなり襲う事ねーだろ」


「まあまあいいじゃないかー。俺達なりのスキンシップってことで!」


「臨時訓練と称せよ……」


 灰髪の少年は一切悪びれた様子もなくケラケラと笑う。


「君も無言で背後から首切ろうとしないでくれる?」


「悪気はあったが謝罪はしないぞ」


「うん、色々と酷いね」


 紺色の髪の青年は眼鏡を直しながら、すまし顔をする。

 灰髪の少年はアレンを無視してスーレアの方に回り込み、起き上がるスーレアに手を差し伸べた。


「やあスーレア。君は相変わらず、陽の光に照らされて生きる弱い花のように見える肉体ながら、地中ではしっかりと根を張って立っているような強い瞳で、相変わらず美しいね。そんなわけで、今度遊びに行かないかい?」


「おいこらオルヴィン! 俺の目の前でスーレアをたぶらかそうとするんじゃねえって何度も言ってんだろ!」


「おおっと酷い。何故日常会話で文句を言われなきゃいけないんだ。俺は何も悪くない」


「お前の日常会話は日常会話って言わねえよバーカ!」


 アレンは素早くスーレアを抱き寄せて、オルヴィンという少年を睨みつける。

 スーレアはアレンの腕の中でモジモジとすると、


「えっと、オルちゃんは友達としてはいいけど、それ以上には全然かっこよくは見れないし、スーの中で一番かっこいいのはアレンだから、そういう意味でのお出かけは嫌かな」


 キッパリハッキリと断った。


「辛辣! でも素敵だ! また今度誘うよ!」


「おまっ、つぁ、うぁぁ〜」


 アレンがさりげなく褒められてオルヴィンを咎めるのも忘れて、スーレアを強く抱き締めて頭を擦り寄せた。

 スーレアもアレンに対して嬉しそうに撫でてやる。

 最早何も言うまい。

 対してオルヴィンはめげずにメルウィーの方に向かう。


「ではメルウィーの方は」


「今度()()()ならしよっか?」


「ううーん、遠回しに拒否られたがそれでも良し!」


「……オルヴィンってば、一応()()()なのに、自重する気ないよね」


 ウレクがメルウィーを抱き寄せながらため息をつく。


 一応記すと、オルヴィンは男ではなく女だ。

 男のようにかっこいい女を目指す、自分磨きが大好きな女である。

 ただし、その男装したような格好で女性を誑かすのが大好きな同性愛者という、妙な女だが。

 オルヴィンは自分を主張するように両手を広げた。


「俺は女の子が大好きだ。誑かすのもナンパするのも侍らせるのも好きだ。そんなわけで、目の前に可憐な女性がいたら手を出したくなるのは当然だと思うんだぜ」


「ごめん何言ってるか分かんない」


「「「同感」」」


「まったく、これだから既にくっついてる男衆は、あだっ!」


 不意にオルヴィンが背後からアイスピックの柄で殴られた。

 青年はため息をつく。


「やかましい。さっさと本題を話せ」


「はぁ、ライディルよぉ。そんなんだからモテないんだよ」


「化粧臭い女やら何かと花を飛ばしているような女に寄られたところで全くもって嬉しくないな。私には幼女がいれば十分だ」


「オメーも大概だよアホめ」


「男女に言われたくはない。幼女の尊さのみが正義に決まってる」


「子供のころじゃまだ花が開く前じゃねーか。満開でいつ散ってしまうか分からないのがいいんだろが!」


「蕾の時が美しいさ」


 ライディルはすまし顔でそう幼女への愛を語る。

 こいつもこいつでロリコンだった。

 オルヴィンはライディルが天に祈りを捧げようとしているのを完全に無視して、ソファーに腰掛けると、部屋の隅、組織への転移陣がある部屋に繋がってる廊下に目をやった。


「まあ本題の前に、お前もさっさと出てこいよ」


 そう言われて、廊下からひょこっと、一人の少女のような薄緑の髪の青年が顔を出す。


「えへへ、みんな楽しそうだから。なんだか出るタイミング失っちゃった」


「あら、クーリアまでいたのね」


「クーちゃん久しぶりー」


 先程の二人に取ったのとは大分違う態度でメルウィーとスーレアがその人物に近づく。

 オルヴィンとライディルも悪い人ではないのだが、如何せん性癖が性癖なわけで、どうにも微妙な態度を取ってしまうのは仕方ない話だろう。


 クーリアと呼ばれた青年は、えへへと可愛らしく笑う。

 しかし、その目元は見えない。

 否、彼の目は他人からは完全に見えない。

 スーレアのように片目を眼帯で覆っているのでは無く、完全に両目をターバンのような布を巻いて塞いでいるのだ。

 しかし、動作に不自由さは見られない。

 まるで見えている人間と変わらない、普通の動きをとり、楽しそうに笑うのだ。

 クーリアとメルウィーとスーレアは手を合わせて楽しそうに笑う。

 クーリアは青年なのだが、どうにも纏っている雰囲気がふんわりしたもので、顔も可愛らしいので、仲良くなるのは可愛がってくる女性が多い。


「それで、何しにきたんだ?」


「決まってんだろ。交代だ」


「交代?」


 アレンが首を傾げ、そしてメルウィーとスーレアは固まり、ウレクは表情を引き締めた。

 そしてスーレアは恐る恐る振り返り、震える声で聞いた。


「も、もしかして、スー達、マスターに役立たずって言われた、の?」


 その表情はみるみる青ざめ、奥歯も震え始めた。

 スーレア達にとって、レイに捨てられることは、生きている価値が無くなるのと同義なのだ。


 何せ、彼らはレイによって地獄から救われた、この世界の孤児たちなのだから。


 彼らにとってレイとは聖母であり、マスターであり、正しく神なのだ。

 レイによって拾われ、救われ、生かされ、そして生きる力を与えられた。

 そんな彼らが、レイに従わない訳はなかった。

 レイはわざとそうなるように、自分の利益のためにしたと、自分の善行を否定するが、それでも救われた事実は変わらない、変えられない。

 だから彼らはレイに従い、レイに永遠の忠誠を誓う。


 そして今回の任務で四人を指名したのはレイだ。

 交代させる権利を持つのもレイのはずである。

 つまり、交代とは役立たずと言われるのと同義で、死の宣告であった。


 だが、オルヴィンはメルウィーやスーレアの悲痛な顔を見て、慌てて否定するように手を振った。


「ああっ! 違う違う! 交代じゃなくて、一時交代!」


「一時交代?」


「つまり、お前らに有給休暇やるからちょっと羽を伸ばしてこいってこと」


 ウレクが首を傾げた瞬間、部屋からパジャマ姿のレイが出てきた。

 瞬間、彼らはその場で跪く。

 レイはだるそうに手を振る。


「あーはいはい。とりあえず、顔上げて」


 レイに許可を貰い、全員顔を上げる。

 レイの顔を見ると、昨晩より大分顔色は良くなっていた。

 恐らく、治療されたのだろう。

 レイは体を少し伸ばしてから話し始める。


「どうせお前達、任務に忠実で、私が休むために離れろって言っても離れてくんないでしょ? そんなわけで、無理矢理有給休暇やるために、この三人をS越しで組織に頼んで呼んだってわけ。まあ、クーリアは別案件だけど」


 レイがちょいちょいとクーリアに手を振ると、目が隠れていても分かるくらいに、クーリアはぱあっと明るくなり、すぐにレイに駆け寄り、擦り寄った。

 完全に親に甘える子供である。


「ふふっ、マスターの匂いだ〜」


「え、私臭い?」


「お花みたいな香りですよ〜」


「分からん」


 レイは小さな背でクーリアの頭を撫でてやり、クーリアは一旦落ち着いたのかレイから腰を屈めたまま離れる。

 その瞬間、クーリアの肩が背後からガシッと掴まれた。

 クーリアは驚きで尻餅をつく。


「っ!?」


「おおっ、おおおー! 本物の『精霊の目』の持ち主だー!」


「だ、誰っ!?」


 クーリアが怯えたようにふるふると震えるのを無視して、ピィリィはがっちりホールドしてジリジリと顔を寄せてくる。

 その目は完全に興奮の色で染まっており、完全に目の前のクーリアをモルモットか研究対象としか見ていない。

 ピィリィはワクワクと顔面に書かれているかのような期待する笑みで、レイを見た。


「レイちゃん! この子持ち帰っていい!?」


「駄目に決まってんでしょアホマッド」


「えー」


「えー、じゃない。そいつは私の可愛い部下なの。手を出すんじゃないの」


 レイは腰が抜けたクーリアを引っ張り、ピィリィから遠ざけるようにする。

 クーリアは今の一連の流れで完全にピィリィに怯えてしまったようで、小さいレイの体に小動物のように震えながら捕まっていた。

 クーリアを落ち着かせながら、レイは四人に目を向けた。


「四人には臨時の有給休暇を二日あげる。その間、ここでダラダラするも良し。都市ビギネルを観光してもよし。周辺の森で狩りをしてるもよし。二日後までにここに戻ればいいよ。存分にダブルデートしてくるがいい。その間の一応の代わりとして、オルヴィンとライディルを呼んだってわけ」


 四人は顔を見合わせた。

 まさか態々組織に手を出してまで休暇を寄越してくるとは思わなかったのだ。

 困惑するのも無理はない。

 しかし、一つ疑問があり、メルウィーは手を挙げて質問する。


「なに?」


「あの、結局クーリアはなんのために呼ばれたんですか? その、あまり護衛に向いてる方では無かったと思うのですが……」


 メルウィーは心配そうにクーリアを見る。

 確かにクーリアに戦闘力、戦闘経験はあまり無い。

 せいぜい護身術を身につけている程度だ。

 レイはその質問に頭をかき、珍しく申し訳なさそうにクーリアを見る。

 すると、ピィリィが代わりに答えた。


「さっきちょっとした交換条件でねー。この子を観察してもいい権利をレイちゃんがくれたのー!」


「……え?」


 クーリアはレイとピィリィを交互に見る。

 オルヴィンとライディルは首を傾げるが、メルウィー達はなんとなく察しが着いた。

 途端に不安と不信に染まっていく彼らを安心させるようにレイは手を振る。


「あー、勿論クーリアをピィリィに触らせる気なんて毛頭ないよ。何するか分からないし。私の横で、ただ観察だけさせるつもり。勿論、クーリアが嫌なら、無しにするけど」


 レイはクーリアの瞳をのぞき込む。

 正直、クーリアは先程のピィリィの挙動で完全に怯えていた。

 だが、クーリアはレイの服の袖を掴む。


「……マスターと、一緒なら、怖く無いですし、お役に立てるなら立ちたいです」


「無理しなくてもいいんだよ?」


「大丈夫です。組織でも、似たようなことをされてきましたから」


 クーリアそう言って、見えない目で笑う。

 クーリアは組織にやって来た当時は、組織で色々と調べられていた。

 勿論、レイの許可の元、クーリアの意志を尊重して行っていたため、酷いことはされていない。

 ピィリィは慣れた組織より怖いが、レイがいれば問題ないと感じたのだろう。

 レイは苦笑いしながらクーリアの頭を優しく撫でる。


「悪いね、勝手に巻き込んで」


「ふふーん。新しいデータゲットなのー。じゃあ、本人の同意も得たことだし、さっき言ったことは全部やってあげるー」


「はあ……ぼったくりめ」


「えー? 正当な交換条件なのー」


 果たして何の話をしていたのか、全く分からない人間達は首を傾げるしかない。

 レイはクーリアの手を引いて部屋に戻ろうとする。


「じゃあオルヴィンとライディルはそっちで待機ね」


「「かしこまりました」」


「四人は、ま、休暇を楽しむんだねー。次はいつ与えられるかわかんないし」


「「「「お気遣い、ありがとうございます」」」」


「じゃあ、クーリアは一緒に部屋に来て」


「はいっ!」


「んじゃ、また二日後ね。あ、食事は気にしなくて大丈夫。オルヴィンとライディルは適当な時間にとってね」


 四人は扉の向こうへ消えたレイに敬意を払った。

 そのままレイ達三人は、扉の向こうへと閉じこもってしまう。

 しばらくの沈黙の後、ライディルが項垂れた。


「なんてことだ……。まさか私の知らない間に、マスターが尊く美しく愛くるしい幼女になっていたとは……。神よ、ありがとうございます……」


 完全に祈りのポーズで固まるライディル。

 微妙な沈黙の中で、オルヴィンがツッコミを入れる。


「……いや、神はマスターだろうが」


 そんなわけで、四人の短い休暇が始まった。



S『マスターの組織は変なのがいっぱいですね』

レイ「へんなのって言わないであげて。個性的と言いなさい」

S『遠回しに異色と認めましたね?』


まあトップがレイだから仕方な((殴

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