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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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36 神とダンジョンと狂気の毒

 


 この世界には、悪魔という種族がいる。

 正確には種族ではなく、その他諸々をまとめた名称であるのだが、それを正確に理解しているものが、果たしてどれほどいるだろうか。


 彼らは、分かりやすく言ってしまえば、宇宙のバグだ。

 現在、ほんの少しずつ歪み始めている宇宙の核『イシ』の影響で、何者でもなくなってしまったもの。

 それが悪魔である。


 その悪魔はその他諸々の集まりだが、一つだけ共通点がある。

 それは、星の魔素を魔力に変換する、神などであれば当たり前に備わっている魂の機能が壊れているということ。

 その機能がない場合、彼らはどうやってエネルギーである魔力を得ているのか。


 それが、他の生物や魔力を含むものの捕食活動である。

 時にそれは、吸血行為と呼ばれることもある。


 魂の当たり前の機能が壊れてる故に、それを手動で行わなければならない。

 しかも、他を犠牲にして。

 魔力さえあれば生きていける神達は、悪魔達をおぞましいと言い、忌み嫌った。

 神達も魔力の豊富な星を得て、長く生存し、完全な神へと至るために、永年絶え間なく戦争をしているのだから、悪魔のことを言えたものでは無いと思うが、そこは伏せておこう。


 そして『イシ』の忠実な兵士であり、今の宇宙の均衡を守っている種族、天使族も、彼らを忌み嫌う。

 嫌うというより、そんな感情は無いのだから、完全に討伐対処として扱っていると言った具合だ。

 主から生まれた不要なバグなのだから、その排除に向かうのは当たり前だろう。

 たとえそこに、元同族が混ざっていたとしても、天使は忠実に、不要なものは切り捨てる。


 だが悪魔達は、互いに協力などしない。

 それぞれが唯一無二で、個々の考え方も、生き方も、在り方も違い、それぞれが集団の神と渡り合えることがあるくらいには強いのだ。

 だから、彼らは関わり合うことなく生きる。

 たとえ出会ったとしても、共感も同情もせず、邪魔なものとして殺し合う。

 彼らは自分の道を、何者にも邪魔されたくはないのだ。


 そんな悪魔の中に、『グラド』と呼ばれる種がある。

 悪魔の中には、捕食行為が特殊なものがいるが、グラドは代表的な例であった。

 彼らは、魔力を血肉や魔石ではなく、魂から取り込む。

 吸血行為ではなく、魂食行為で生きていく。

 彼らの発生は、一度に多くの人間が極近辺で死ぬと、魂の巡りにバグが起こり、その流れに乗れずに互いに融合してしまう時である。

 つまり、村や街一つの住人が一度に何らかの原因で死ぬと、グラドになるのだ。

 流行病による死亡者の出るスピードではバグは起きないので、大抵は一方的な虐殺などが多い。

 爆弾や大規模魔術などによる殺戮では、簡単にグラドが出来ることだろう。

 つまりは、誰かの業の上で発生している、哀れな種族なのだ。


 彼らは魂の巡りに乗れず、一つの塊として全員が融合する。

 しかし、自己のある人間の魂が、一つのものとして融合するのに、上手くいくわけはない。

 大抵は互いに抵抗し反発し、お互いの意識を消していく。

 そうして、部分部分で混ざりあった意識が一つの意識として活動するため、狂った存在になる。

 思考がまとまってないため、知能もない。

 ただ、存在し続けるために、他の魂を喰らい続け、飲み込み続け、融合し、一つの存在として、より歪な存在となる。


 その融合段階の時、取り込まれた魂は果たしてどんな状態か。

 それは一言で、地獄である。


『嫌だ嫌だ嫌だいやだイヤだァァアア!』


『来るな来るな来るなく……るナァ……』


『助けて助けて助けてたスケ……』


 取り込まれた一つ一つの魂が、グラドの体内で誰にも届かない恐怖を叫ぶ。

 そんな魂を、グラドの中に潜む微かな意識達が、その魂を乗っ取ろうと欠片を植え付けられ、少しづつ少しづつ、侵食していく。

 その苦痛、絶望は筆舌に尽くしがたく、二度と元に戻ることのない本人達にしか分からないだろう。


 彼らが抗えど、助けを求めど、それは誰にも届かず、希望も救いもありはしない。

 ただ、完全に苦しみから逃れる時、即ちグラドに完全に取り込まれた時を待つしかない。

 そんな魂達の中で、一人の男の魂が声を上げる。


『……逃げ……ロ……』


 もう終わる自分の身を案じるより、仲間の生きる未来を願い、彼は、永遠の暗闇に堕ちていく。


 そんな彼の願いも、やはり、届くわけはなかった。







 *****



「じゃ、ケリつけてくるよ」


 私はダンジョンの入口、ダンジョン入口でぼったくり商売をする商人達から離れたところで、組織の四人と顔を合わせていた。


「マスター、やはり途中まででも」


「しつこいっての。邪魔って言ってるでしょ。私よりも弱いお前達に何が出来るの」


「……でも、凄く嫌な予感がするんです。だから、私……」


 スーレアはとても不安そうな顔で俯いた。

 私はため息をついて、今の私よりほんの少し背の高いスーレアの頭を背伸びして撫でてやる。


「その気持ちはありがたく受け取っておくよ。ちゃんとやるべき事やって来て、戻ってくる。だから、お前達はここでちゃんと待ってて。それが、お前達のやるべき事だよ」


「……はい」


 私は頷くスーレアから手を離し、ほかの三人を見る。


「もし私が、影の五の刻が鳴っても帰ってこなかったら、その時はこの結界の外まで逃げてよね。ま、そこまで長引くことはないだろうけど、一応ね」


「かしこまりました」


「マスター、お気をつけて」


「ご武運を」


 メルウィー、ウレク、アレンがそれぞれ頭を下げる。

 私はそれを見て頷く。


「うむ、行ってくる」





 私は腰に魔力水晶の剣を下げ、急ぎ足にダンジョンの奥底へと駆けていく。

 あんな重々しい空気させなくていいんだけどなー。

 ぶっちゃけ、あいつら心配しすぎじゃない?


『マスターがもっと軽く説明すれば良かったではありませんか』


 結構軽く説明しなかった?


『いや、十分重かったですよ』


 えー、だって魂喰らうとかなんとか言ってもさー、結局分解して完全消滅させて魂は輪廻に戻せば終わりじゃん?

 昔なんて一瞬で終わったよ?


『危機感の違いにかなり誤差がありますねぇ』


 まあでも、今回は私も人間の肉体でどうにかするわけだし、不確定要素があるから完全に楽観してもいられないんだけどね。


『やはり元の肉体でどうにかするべきでは?』


 ほんの数日間ここから離れてる間に、調子に乗られて活動域広められたらたまったもんじゃない。

 たとえ閉じ込めてたとしても、もしかすると私の作った隔離空間の魔術すら食い破って出てくるかもしれないし。

 案外、不確定要素が多くて不安になる相手だからねー、本来は。


『なるほど、確かにそうですね。でも、戦闘時は封印解除するんですよね?』


 そりゃあ、そうしないとこっちがすぐやられちゃうっての。


『肉体は大丈夫なんですか?』


 肉体保持、身体強化、耐性強化、体内の魔力操作、エトセトラ。

 これらの魔術を一度に発動するから、ぶっちゃけ脳が一番心配。

 爆発したらどうしよう。


『リアル頭の中に爆弾が! ですね』


 リアル脳内爆弾だね。

 いや、実際そうなったらシャレにならないよ。

 脳なしで魂だけで魔術制御しながら肉体動かすとか死んじゃう。


『いや、それほぼ死体人形状態ですよね? 相手よりえげつないんですけど』


 それが出来なくないのが私なのです。


『恐ろしい。流石マスター、恐ろしい』


 はいはい、そんな茶番してる間に、もう第十層着きましたよー。

 ここはルーリア達とクリアしたので、ボス部屋ではなく下の階に転移!

 ゲートストーンよ、レッツゴー!


 私は第十一層に到達する。

 残り十層、魔物を見かけても無視して、さっさか進むのでーす。


 にしても、ボス部屋なんだし、お前のテリトリーなんだから、色々罠仕掛けてくれてもいいと思うんだよね。


『おや、当機も協力プレイして良いのですか? てっきりお一人でどうにかすることをお望みかと』


 既に頼りきってるし、相棒を上手く扱うのも自分の力じゃない?

 ていうか、私が作った道具や私が設計した武器を私がどう利用しようが私の勝手だよねー、と気がついた。


『なるほど確かにそうですね。なら、程よく妨害行為をしましょう』


 よろしくー。

 主に拘束してくれたり、向こうの攻撃を妨害してくれればいいよ。

 どうせ向こうは魔力弾撃つか、ダメージ覚悟で喰らいに来るか、精神汚染の力を放つくらいしか出来ないんだからさ。


 そう思いながら歩いている時、私は悪寒を感じた。

 ……戦闘音に……血の臭い。

 しかも、物凄く嫌な予感がする。


 私は即座に身体強化し、スピードを速める。

 だが、既に遅かった。

 私は、第十七層の中腹で、その現場にたどり着く。

 その中心にいた人物が、足元にあるものから視線を外し、私に視線を合わせる。


「あれ、もしかして、あの時のレイチェルちゃんか?」


「……グレッド?」


 そこにいたのは、私がダンジョンに初めて潜った時に、トラップによるゴブリン集団の襲撃に巻き込んでくれやがったお馬鹿パーティーのリーダー、グレッドだった。

 グレッドが手に握るロングソードには、血が滴っていた。


「……お前の仲間が全員屍になってるけど、何かあったの?」


 私がグレッドの足元の彼らを見ながらそう尋ねると、グレッドはとても悲しそうな、辛そうな目をした。

 心底、悔しそうな目を。


「……こいつらが、突然襲いかかってきたんだ。ダンジョンに入った時は、全員いつも通りだったが、底へ行けば行くほど、なんか様子がおかしくなり始めたんだよ。意味不明なことを言ったり、突然勝手な行動を始めたりさ。そんなことする奴らじゃなかったのによ」


 突然の仲間打ち、ねえ。


「で、ここで突然襲われたってこと?」


「ああ、全員それぞれの武器を、俺に向けてきたんだ。初めは何の冗談かと思ったが、もう全員目が普通じゃなかった。……俺は仲間に剣を向けたくはなかったが、もう、助けられそうに見えなかった。きっと悪魔かなんかに取り憑かれたか、操られたんだろう。俺はそんなことで苦しむ仲間を見たくなかった。だからいっそと思って……」


「仲間である自分が引導を渡してやった、と」


「……そういうことだ。仲間に手をかけちまって、ほんと、笑えるよな」


 グレッドは、生気のない目で乾いた笑みを浮かべた。

 私はその足元にある死体を見た。

 まだ血が地面に広がり続ける、悲惨な死体を。

 グレッドは、私に近付いてきた。


「なあ、あいつらに、一体なにがあったんだろな?」


 その顔は、本当に、酷く、酷く、悲しそうで。


「さあ、ね。お前の言う通り、悪魔にでも憑かれてたんじゃない? 不幸にも、ね」


「そう、か……」


 酷く、酷く、やるせない顔をしていた。


 グレッドは血のついた剣を見たあと、私を見た。


「じゃあ、さ。その悪魔は、今一体、どこに居るんだろな? 取り憑いていた人間が死んだら、次はどこへ向かうんだろな?」


 その剣を、私に向ける。

 今は誰も信じられないと言うように。


「……何が言いたいのかな?」


「レイチェルちゃん、君はどっちだ? こんなことがあった後だ、近付く人間が信用出来なくなるのは、普通だろ?」


 私はふむ、と腕を組む。

 そしてグレッドを見返してやる。

 黙って相手の言葉に耳を傾ける。


「……それとも、俺がもしかすると、そうなっちまったのかね?」


 そしてその剣をゆっくりと構える。

 私はその剣を見たあと、グレッドの表情を見た。

 そいつの最後の表情を。


「もしそうだとしたら、その悪魔は君に……一体何をするんだろな?」


 そう言った瞬間、グレッドが間合いを詰めた。

 その剣は真っ直ぐに、私の心臓へと向かう。

 そうなる瞬間まで、私は何の動きも見せず、ただ相手の言葉に耳を傾けており、



 ────その場に新たな鮮血が舞った。







 *****



「さーってさてさて、盛り上がって来たね? このイベントの結末は、果たしてボクの望むものになってくれるかなー? 期待してるよ、キャスト諸君」







 ********



『今回は休憩』



(エンカウントちょっと前)

レイ(案外その辺にいてグサーとかなりそう……なんて、ね)

S(……あ(察し))


フラグいくない。

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