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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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33 神とごまだれ

 


 私達がハイタッチをし終えると、背後でごとりと音がする。

 部屋の中央に、いつの間にか宝箱が置いてある。

 この世界の住民にも、私にとっても見慣れた光景だけど、やっぱこれ色々おかしいよね。

 うん、やったのは私だけどね!


「よっしゃ! じゃあ宝箱タイムと行くかー!」


「誰が開けるんだ?」


「……俺はルーリアさんがいいかと」


「えっ、私? みんな、一番楽しい開ける係を私がやっていいの?」


「「意義なーし」」


「いいと思うぞ。ルーリアは今回一番活躍しただろ」


「み、みんなが言うなら、開けようかな〜」


 ルーリアが全員に推薦され、宝箱に手をかける。

 ごまだれー。


 ・炎の短剣(火炎属性攻撃付与 効果:微弱)

 ・赤魔石の指輪(魔力+30)

 ・ランク3の魔核:2個

 ・大銀貨:五枚


 ほほうこれは結構いいもので。

 流石レア遭遇だ。

 ……ま、宝箱の中身が、割とダンジョン内で死んだ冒険者から回収したものだなんて、口が裂けても言えないけど。


『色々ついてそうですねー』


 やめいやめい。

 考えたら負けじゃい。


 宝箱の中身を見てみんな目をキラキラさせる。


「おおー、こりゃまた当たりだなー。俺はここ攻略するの三回目だけど、今までで一番いいぞこれ」


「凄いな。武器と装飾品が入っている」


「わあ、すっごーい」


「……ノクトさん、武器と指輪の効果教えてくれますか?」


「ええっと、なになにー?」


 ノクトが〈鑑定〉を発動させる。

 私は最初から見えていたが、他のみんなは〈鑑定〉スキルなんて取ってないだろうからね。

 何せ〈鑑定〉や〈解析〉といったものの情報を読み取るスキルは、取得条件満たすのが厳しい故ポイントで取らないといけない上に、熟練度上げるには色んなものに対して発動しなきゃいけないし、何より発動したのがバレる時はバレる。

 更に生物相手の〈解析〉は使った相手に僅かな不快感を与えることもあり、正直微妙なスキルだからだ。

 でも、とっておけば色んな面で役に立つから、ノクトみたいにとってるやつもいる。

 私は不可抗力だけどな!


「おっ、この短剣はすげーぞ。攻撃毎に炎属性の付与されるやつだ。微弱でも小金貨一枚はするんじゃねーか?」


「わわっ、そんなのが? じゃあじゃあ指輪は?」


「えーっと。お、こっちはルーリアちゃん向きだな。魔力が30も上がる。貴重な指輪だぞー」


「じゃあルーリアが貰っていいだろう。今回一番活躍したしな」


「……俺もルーリアさんが貰うといいと思います」


「いいんじゃない? これでさらに魔法の威力が上がるね」


「ほんと? いいの? じゃあ、みんなのお言葉に甘えて貰っちゃおうかな〜」


 ルーリアが赤魔石の指輪を取り出す。

 指輪にはめ込まれた赤く輝く魔石を見て、とても嬉しそうな顔で指輪を嵌めようとし、ふと止まる。

 そして止めた目線をリグアルドに移した。


「ねえねえリグル、リグルが私の指に嵌めてくれない?」


「え? なんでだ?」


「「「……」」」


「いいからいいから〜」


 ルーリアは不思議そうな顔をしているリグアルドの手に指輪を渡す。

 私達三人は背景と化した。


「左手の中指でいいよ〜」


「こうか?」


 リグアルドは言われるがままに、ルーリアの指に指輪をはめ込む。

 魔石のはめ込まれた特殊な指輪は、装備者の指の大きさに合わせて自動的に変化するようになっている。

 よって、指に通された指輪は、ルーリアの指ピッタリに嵌った。


「えへへ、ありがと〜リグル〜」


「なんかよくわからないけど、良かったな」


 ルーリアは自分から頼んで着けてもらっただけなのに、心の底から幸せそうな顔で笑いながら、左手を掲げてクルクル回った。

 その光景を見ていたセルトは、両手で見るのが辛いと顔を覆って落ち込み、私とノクトは哀れなセルトの肩をポンポンと叩いてやった。

 どんまい、セルト。

 そしてルーリア、恐ろしい子。


 私は甘ったるい空気を一時的に壊すため、話を進めた。


「魔石は換金するとして、この短剣はどうする? 換金する? 誰かが貰う?」


「それはレイチェルちゃんが貰えばいいんじゃないか?」


「……お前でいいと思うぞ」


「僕もそれでいい」


「レイちゃんでいいよ〜」


 満場一致ですかそうですか。


「じゃあ貰おうかな」


 私は短剣を手に取り、振った感覚を確かめる。

 うむ、なかなかいいものだ。

 二刀流ってのもいいかもね。

 元から持ってた無属性の剣は常に暴風属性を自分で付与して、こっちで火炎属性として使ったら丁度良さそう。

 二属性二刀流!

 中二心がくすぐられるぜ!

 いや中二病じゃないけども。


「あとは、銀貨とか倒した魔物やらはどう分ける? ぶっちゃけ、私はこの短剣貰えたし、無しでもいいんだけど」


「私も指輪貰ったし、どっちでもいいよ〜」


「と、今回活躍した二人が言ってるが、どうするよ?」


「本人達がそれでいいなら、魔核や素材を売ったお金と大銀貨の大部分は僕達で分けていいんじゃないか?」


「……俺もそれでいいです」


「「どうぞどうぞ〜」」


 そんなわけで、綺麗に宝箱の中身を分け合うことが決定し、魔物の解体を全員で行い、退場のためにゲートストーンの前に集まった。


「それじゃ、今日はもう帰るとするか!」


 ノクトがゲートストーンに触れて、脳内で選択する。

 足元に転移の魔法陣が広がり、私達は光に包まれる。

 私はその時、空間の揺らぎの中、第二十層にいるグラドの悔しそうな叫び声を聞いた気がした。

 ダンジョン内だから、同じような隔離空間が一時的に近くなるのか。


 ……もうちょい待っているんだね。

 外にも残滓がいるかもしれないから、そいつらを先に消滅させたら、きっちり消滅させてやる。

 そして、私の世界にやって来たことを心の底から後悔させてあげるよ。

 多くの人間に絶望の声を上げさせた奴に、もっと酷い絶望の声を上げせたら、滑稽だろうねぇ?


『マスター、楽しそうですね』


 まあねー。

 私は弱体化してて、向こうは中々に厄介な敵。

 久々の本気の運動には丁度いいでしょ?


『なるほど。まあたまには運動しないとなまりますもんね』


 しょゆことー。


 私がそんなことを考えているあいだに、地上へ戻った。

 サクサクプレイだったから、まだ黄昏時には早かった。


「いやー、ポーションも使わず、全員怪我なく終われたな〜」


「想像以上に早かったな」


「このパーティーならデールのダンジョンの最下層まで平気で行けちゃうんじゃない?」


「次はそれ目指すのもいいかもなあー」


「……自分ももう少し活躍出来るようにしたいです」


「セルト君も十分頑張ってるよ〜」


 みんながそう談笑しながら帰路についている時に、指輪を見る度ニコニコしてるルーリアに小声で話しかけた。


「ねえルーリア、なんで中指にしたの? そういうのじゃないんだから、当たり前かもしれないけど、そういう指につけた方が気分的には良くない? リグアルドはそういうのにすら気が付かなそうだし」


「ええ〜、やだな〜レイちゃん。本物以外嵌めないし、嵌める気もないよ〜」


 そう言いながらルーリアは自分の左手の薬指を触った。

 その顔は、普段のおっとり顔でありながら、確実に獲物を狙う眼光を放っていた。


「ここに嵌めるのは、ちゃんとそういう関係になってからだよ。嵌めた時にだけ、長年の想いが、ようやく結ばれるんだから」


「なるほどね」


 そしてルーリアは私の顔を見ながら満面の笑みを浮かべた。


「だから、いつか本物を嵌めて貰えるように、もっともっとアピールしないとね」


「おおう、目がまじですな。でも肝心なところでヘタレるくせに大丈夫?」


「ううっ、こ、これから頑張るもん」


「それルーリアの人生で何度言われたセリフだろうねー。他のことは即実行なのに、恋愛に関しては奥手になりおって。このヘタレ」


「き、厳しい……。ていうか、なんで知ってるの!?どこまで知ってるの!?」 


「ふっ、暇人ナメるなよ?」


「怖いっ! 素直に怖いっ!」


 きゃ〜といいながら、ルーリアは前を歩くリグアルド達の方へ避難する。

 本当に、目が離せないったら。

 そう思うのは、ちょっとお節介かね。

 まあ、見てて面白いからいいけどね。

 私がそうやれやれと思っていると、セルトから声をかけられた。


「……ルーリアさん、すっごい嬉しそうだよな」


「あの状態でリグアルドとイチャイチャしながらギルド帰ったら、殺意向けられるんじゃないかなってくらいにはゲロ甘だよね」


「……大いに想像出来る」


 そしてそんな殺意を向けられても、にぶちんリグアルドは分かってないだろうし、ルーリアは幸せオーラで跳ね除けるんだろうなぁ。

 哀れ、独身諸君。


「……俺さ、ルーリアさんに告白しようと思う」


「へー…………なんて?」


 セルトの言葉は唐突だった。

 そして私の脳内は理解不能で満たされていた。


「……だから、ルーリアさんに自分の想いを告白しようと思う。……おい、なんだよその顔は。俺がルーリアさんのこと、その、す、好きってことくらい知ってんだろ」


 いや、こんな顔にもなりますよ。

 いきなり何言ってるんだこの青二才は。

 てか、目の前であんなゲロ甘見せつけられてよくもまあそんなことを言えるね?

 え、頭大丈夫?


「え、なになに、いきなりどしたん。一体何をきっかけにしてそんなことを思い至ったの?」


 私が理由を問いかけると、セルトはしばらく自分の中で言葉をまとめるように下を向いたあと、口を開いた。


「……さっきみたいにさ、ルーリアさんがリグアルドさんのことを好きっていう雰囲気を見ている時に、いつも俺の中には二つの感情があるんだ。一つは、あの人達で幸せになって欲しいっていう応援する気持ちと、もう一つは、あの目が俺に向けられればいいのにっていう嫉妬の気持ちだ」


 私はセルトの言葉と立場を想像してみた。

 想い人が、一番想ってる人と付き合う未来という、その人の幸せを一番に願う気持ち。

 想い人と共に幸せになる人が自分であればいいのにという気持ち。

 どちらも、当たり前の感情だろう。

 まあ、やっぱり私には恋愛は細かくは分からないけどね。


「……それで、今日もそんな風に思って、いい加減嫌だなって思ったんだ。こんな中途半端な気持ちであの人を想うくらいなら、きっちり諦めつけて、全力であの人を応援したいって」


「だから、諦められるように告白をするって?」


「……そういうことだ」


 はーん、なるほーねー。

 真面目か。

 どんだけ真面目なの?

 その真っ直ぐすぎる瞳はなんなの?

 穢れた人間どもの目が潰せるんじゃねーの?


「フラれたからって、諦められるかは別なんじゃないの? フラれたからこそ諦められなくなる時もあるじゃん」


「……ちゃんと、諦めるつもりだ」


「ふーん。で、告白した後はどうすんのさ? ルーリアとどう接するの?」


「……今まで通り、でも、今までよりも距離を取るつもりだ。諦めるのに、近くにいたら、それこそ諦めつかなくなるかもしれないだろ」


「はーん。きっちりさせるつもりなのかー」


 それは、寂しくはなかろうか。

 覚悟を決めたからって、いきなり好きな人から離れられるとは、私はあまり思えない。

 ルーリアとしても、多分、無理に距離を取って欲しくはないだろうし。

 まあ、ルーリアの場合は、同類であるセルトの気持ちを理解出来るから尊重するだろうけど、それでも数少ない友人が減るのは嫌だろう。

 それに、いきなりそんなに上手く立ち回れるもんなのかねー。

 私としても、別に馴れ合ってるつもりはないけど、私の周りでいきなり空気が悪くなるのはなんか癪だ。

 ……一つ提案するか。


「ねえ、一つだけ、フラれた後もいい感じの友人でいられる方法があるよ」


「……え?」


「離れて元の他人に戻るのなんて、お互いに寂しいじゃん。だからさ、こういうのはどう?」


 私はセルトの耳に小声でその提案を話す。

 それを聞くと、セルトは目を見開いた。


「……いや、それって、なんていうか」


「これなら今まで通りの距離より若干近づける代わりに、絶対諦めたままになるでしょ?」


「……ある種の拷問じゃね?」


「うん、ぶっちゃけ私もそんな未来が想像出来る。ルーリアの場合マジで拷問になりそう。でも、これならお互い距離をとならくていいし、むしろいい友人になれるし、セルトはすっぱり諦めたままになれるから、一石三鳥でしょ?」


 私がウィンクしてそういうと、セルトは顎に手を当てて考えて、ため息をついた。


「……検討する」


「うんうん、今すぐじゃなくていいよ。ただ、私としてはその未来を一番オススメするね。なにせ、私的にそれが一番見てて面白そうだから!」


「お前自分のためかっ!」


「あたっ」


 セルトにペシっと頭を叩かれた。

 ふっ、何を言うか。

 私はいつだって自分のためにしか動かん!

 ルーリアを訓練したり相談乗ったりするのも、その方が面白いからだし。

 なのでセルトにも思いっきり面白い展開を生み出してほしい。


「……そんなわけで、三日後に告白する」


「おや、今晩じゃないのな」


「……流石に、心の準備が」


 セルトが胸の辺りを抑える。

 いやまあ、三日以内って期間をつけるだけマシでしょ。

 目の前には十年以上想ってるくせに未だ告白出来ないヘタレもいるんだから。

 でも三日か、いいな、それ。


「じゃあ、お前の期限に乗って私の方の用事も三日以内に済ませようかな」


「……なんかあるのか?」


「なーいしょ。おーしえない」


「……あ、そ」


「で、用事を済ませて、お前が玉砕する所を見に行ってやんよ!」


 私は親指をビシッと立てた。

 色恋沙汰は一番近くで見るに限る!


「おい来んなよ!? 絶対来んなよ!?」


「それはフリかね? 大体、お前ごときに私が止められるわけなかろうに」


「勘弁してくれ……」


 あれれー? 頭が痛いのかなー? どうしたのかなー?

 私、わかんなーい。


『鬼ですね』


 神ですよ。

 ただし悪意を持った覗き見が大好きな。


『尚更タチが悪い……』


 いやほら、ルーリアの相談相手としてちゃんとルーリア絡みの色恋は見ておくべきかなーと。


『そういう建前は先に言うものです』


 めんごめーんご。


 私は笑いながらセルトの背中をバンバン叩いてやった。


「なーに、いざ勇気が出なかったら、その背中蹴飛ばしてあげるから安心しなって」


「押すの間違いじゃないのかそれ……」


「間違って足が出ることの方が多いかな」


「足癖悪いな……」


 セルトはため息をつく。

 そして小さく笑った。


「……でもまあ、なんか、ちょっと勇気出た気がする。ありがとな」


「ん? おお、どういたしまして?」


 からかっていただけなのに何故か勇気が出たらしい。

 Mですかー?


『……ほんとマスターは、無自覚な優しさが多いですよね』


 うにゅ?

 なんか言ったかい?


『いえいえ、不可抗力だなーと』


 それな、謎である。


 とりあえず、予定は決まったな。

 セルトは三日以内にルーリアに愛の告白。

 私は三日以内に、グラドと決着をつける。

 うむ、いいね。

 とてもわかりやすい。

 二日間で外に出ているだろうグラドの残滓を探して始末し、三日目に本体にトドメを刺す。


『三日も放置されて可哀想に』


 知らんがな。

 腹も満たせずに苦しめー苦しめー!


『色々と酷い』


 はーてさーて、色々とどんな結末になるかねーっと。

 ふんふふふーん。







 ********



『今回は休憩』



S『まあでも、玉砕確定っていうのは可愛そうですよね』

レイ「いやあ、誰の目から見ても明らかな変えようが無い事実を誤魔化しても、ねえ?」

S『ただし当事者は微塵も知らない、と』

レイ「一度セルトに嫉妬で射抜かれればいいのにね?」

S『物理的キューピットですね』

レイ「暗殺天使か?」


にぶちんは不滅なり。

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