32 神と初めての小ボス対峙
眩い光が収まり、目を開ける。
そこはさっきまでいたダンジョンと同じ洞窟風の部屋であった。
ここがボス部屋。
ダンジョンとはちょっぴり違う空間にある、隔離空間だ。
その中に、待ってましたと言わんばかりに、牙を向ける魔物が複数、こちらに狙いを定めていた。
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『名前』なし
『種族』 ファイアウルフ
『ランク』3
『Lv』4
『HP』254/254
『MP』144/144
『SP』193/193
『攻撃』161
『防御』115
『魔力』78
『抵抗』65
『敏捷』157
『運気』8
『アクティブスキル』
「威圧 Lv1」
「疾走 Lv4」
「炎纏 Lv3」
『バフスキル』
「暗視 Lv6」
「牙強化 Lv4」
「火炎属性耐性 Lv5」
『ユニークスキル』
『称号』
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********
『名前』なし
『種族』 ウィンドウルフ
『ランク』3
『Lv』2
『HP』201/201
『MP』125/125
『SP』168/168
『攻撃』146
『防御』102
『魔力』67
『抵抗』75
『敏捷』143
『運気』7
『アクティブスキル』
「影分身 Lv2」
「疾走 Lv5」
「風纏 Lv3」
『バフスキル』
「暗視 Lv6」
「牙強化 Lv4」
「暴風属性耐性 Lv5」
『ユニークスキル』
『称号』
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で、残り雑魚ウルフが三匹。
どうせ大したステータスでは無いので、見る価値はない。
にしても、うそーん。
まさかの初のボス部屋でレア遭遇かー。
ありえねー、まじありえねー。
どんな引き運よこれ。
私の乾いた笑とは逆に、みんなは興奮していた。
そりゃね、そうだよね。
普通は興奮するよね。
「まじか、レア遭遇だぞ。こりゃ宝箱が期待出来るな!」
「レア遭遇で強めの魔物でも、ノクトがいつも通りの調子で安心出来るな」
「ファイアウルフの方って、確か〈炎纏〉使うよね? ウィンドウルフは動きが速すぎて追い付けないし〜。じゃあとりあえず、【ウォーターパワー】!」
動揺せずに、敵の種類からルーリアが私達全員の武器に、適切な魔法で付与をつける。
これだけでもファイアウルフにはかなり有利になれる。
ウィンドウルフに対しては自力でどうにかするっきゃない。
それと同時に、向こうの二匹も、それぞれ〈炎纏〉と〈風纏〉を発動した。
ファイアウルフは炎の帯を纏い、ウィンドウルフは小さな辻風を纏った。
炎の帯に近付けば燃えて、辻風に近付けば鋭い風に服や体が切れるだろう。
まずはあれをどうにかしないと、攻撃当たりにくいわ近付けないわでどうしようもない。
だが、二匹はただ纏うだけでなく、配下の雑魚ウルフに当たらないようにしながら、その帯を大きくさせていく。
そして、それをこちらに向かわせてきた。
まずは動かずに小手調べってか?
安置の中で放ってきて腹立つねー。
私達は迫り来るそれを見ながら、手短且つ呑気に作戦会議する。
「まずはどうするよ?」
「まあ、定石通り、魔物のMPが切れて、纏いが無くなるまで避け続けるしかないだろうな。普通のウルフはすぐにどうにかなるだろうけど、あの二匹には近づくのも難しい」
ノクトとリグアルドの台詞に、ルーリアの後ろにいた私はおよ? と首をかしげた。
確かにその通りなんだが、ここには天才魔法士ルーリアさんという名の便利ゲフンゲフン優秀な人物がいるのだから、多少ゴリ押し出来るのでは?
が、その当の本人やっぱりリグアルド達と同じ意見のようだ。
えー、マジで?
私がそう不満に思っていると、巨大化した鞭みたいになっている炎の帯と辻風の帯が、もう目の前に迫っていた。
その刹那で、後ろから肩を叩かれた。
犯人はセルトで、私に小声で話しかける。
「……なあ、お前あの炎の帯とか風の渦をなんとかする方法、他に知ってるんじゃないのか?」
「なにさ突然」
「……だってお前、色々と知ってそうじゃないか。今もノクトさん達の提案に不満そうな顔してたし。なにか知ってるんなら、その知恵出し惜しみしてないで使えばいいだろ」
こいつ、地味に観察眼は鋭い。
人見知りな代わりに、遠目に人を見抜くことに慣れてんのかねー。
私はポリポリと頭をかいたあと、口を開いた。
「……分かった。やってやんよ、やってやろうじゃないか、ルーリアが」
「……はあ?」
私が気持ちを切り替えて前方を見ると、炎と辻風は混じりあって、鋭い炎の風となり、あと五メートルほどにまで、ゆっくりと迫って来ている。
もう時間は無い。
ルーリアはノクト達の作戦に賛成して、魔法を発動させようとしていた。
「わわっ、連携プレーだよ。じゃあ【アースウォ「ストップ」ひゃっ!?」
私がルーリアが発動しようとした魔法を、ルーリアの背後からその杖を掴んで、魔法を霧散させ、無理矢理キャンセルさせた。
ルーリアの手前に立っていたリグアルドとノクトには、丁度立ち位置的に私が見えていないが、ルーリアが魔法の発動に失敗したとも思えず、自分達でなんとか出来るように剣を構えたままその顔に疑念を浮かべていた。
かなり乱暴なやり方だが仕方ない。
「ちょちょっ!? 何してるの!? このままじゃみんな炎の風に呑まれるよ!?」
「発動するなら〈ウォーターウォール〉にして。んで、私の指示通りに」
「ふぇ? わ、分かった。【ウォーターウォール】!」
ルーリアが魔法を発動すると、瞬時に私達を守るように大きな水の壁が現れた。
慌てながらも工夫したのか、私達に反った形で発動される。
ルーリアの前にいたノクトとリグアルドは炎の風に恐怖することなく、やはり普通に発動したルーリアに称賛を送った。
「おおー、流石ルーリアちゃん。相変わらず発動が早い」
「流石だな、ルーリア」
「で、でもまだ油断は出来ないよ〜」
その壁に炎の風が当たり、どんどん炎は消えてくが、収まる気配もない。
この密室空間のボス部屋で炎をこんなに使ってもいいのか、と思うかもしれないが問題ない。
一応空気は魔術で定期的に入れ替えてるし。
それに、具現化させるのではなく、ただの魔法として発生させた炎は、酸素ではなく魔力を燃やしてると思ってほしい。
魔力を燃やすってなんぞ? と思うかもしれないが、まあ文字通りの万能エネルギーを燃やしてるとでも思ってくれ。
魔法はなんでもありなんすわ。
いやまあ、ある程度の法則やルールはあるけど。
私はルーリアにだけ聞こえるように指示を出す。
「ルーリア、魔力をコントロールして水を増加」
「ええっ! そ、そんなの出来な」
「やれるよね?」
「ひいっ。分かった、分かったよ〜」
私の催促の笑顔に怯んだルーリアは、発動してる魔法に魔力をどんどん注ぎ込み、水の壁を大きくする。
そもそも水もどっから出てんねんとかいう疑問もあるかもしれないが、そこも魔法ですからで納得して欲しい。
これも飲水にしようとしない限り、ただの魔力として霧散するんだから。
「よし、そのまま前方に押し出すように壁を全速前進!」
「へっ!? ど、どうやってやるの!?」
えー、ここまで出来たんだからそこはやってくれよー。
いや、もしかしたらイメージしにくいか。
「だぁー、もー、悪かったよ、無理言った。私がやってあげるから、次からは自分でやってよ、ね!」
私は魔法を発動させているルーリアの杖を再び掴み、発動途中の魔法に干渉した。
システム内の私の〈魔力操作〉のレベルがまだまだ低いから、ちょっと拒まれるが、なんとかリンクすることに成功する。
そして、無理矢理いじくって、水の壁を操った。
《熟練度が一定値に達しました。アクティブスキル「魔力操作 Lv3」が「魔力操作 Lv4」になります》
わお、丁度上がった。
そりゃまあ、このレベルの魔法に無理矢理干渉して操作したら上がるわな。
私はルーリアに無理矢理MPを使わせ、それを発動させる。
よっしゃ出来た!
「レッツ、大波ゴー!」
私がそう言うと、水の壁は前進していき、炎の風を簡単に呑み込んで消し去り、波のようにウルフ達に襲いかかった。
ウルフ達は自分達より大きな波に、一瞬怯んで足がすくみ、纏っていた炎や辻風ごと無様に呑み込まれた。
「あ、あわわわわ〜」
ルーリアはその光景に、私とウルフを交互に見ながら口元を震わせた。
ノクト達も一瞬ポカンとした。
「え、今のルーリアちゃんの〈ウォーターウォール〉か?」
「あれって、あんな魔法だったか?」
「いやっ、えっと、あははは〜」
「……おいレイチェル」
「こらこら、よそ見厳禁!」
背後からのセルトのジト目を無視して、私は声を上げた。
やれって言ったのそっちじゃんか!
文句は受け付けねぇ!
私の声にハッとして、ノクト達が構える。
それと同時に、すぐに立て直したウルフ二匹と、ウィンドウルフ二匹、合計四匹が襲いかかって来た。
「あれっ!? ふ、増えてるよっ!?」
ルーリアが増えたウィンドウルフを見て動揺する。
が、ウィンドウルフについての知識があったらしいノクトは首を振り、向かってきたウルフに武器を構えて踏み出した。
「いや、〈影分身〉の偽物だ! どっちかが本物だぜ!」
「残念ハズレ!」
私はノクトの否定の言葉をさらに否定した。
セルトは私の言葉で気がついたのか、ウィンドウルフ二匹に向けて、立て続けに矢を放つ。
矢は見事にウィンドウルフに突き刺さる。
すると、ウィンドウルフは糸が解けるように消え去った。
セルトは雑魚ウルフにもやを放ったが、避けてそのままこちらに向かってきていた。
が、ノクトとリグアルドに任せておけばいいだろう。
そして私は、やはり即座に立ち上がっていたファイアウルフが、こちらを真似して展開していた炎の帯による壁の裏に、洞窟の天井を利用して、〈アースランス〉土氷柱バージョンを落としてやる。
すると、ダメージによる苦痛から炎の壁を少し弱めたその中から、ファイアウルフとウィンドウルフ、そして大波で四匹の盾になったのか、大ダメージを受けたらしいずぶ濡れ雑魚ウルフが出てきた。
三匹の足に運良く土氷柱が刺さり、しばらく動きが止まる。
「……なるほど、分身向かわせて本体は安全地帯か。よく分かったな」
まあ分身は〈観察眼〉使ったら、「何々の分身」って表記されるから、即座に分かるよねー。
ていうか、気配察知にも引っかからないし。
まあレベルの高い〈影分身〉だと、気配察知すら騙す仕様なんだけどね。
ノクトとリグアルドが雑魚ウルフを相手にし、ファイアウルフとウィンドウルフ、瀕死の雑魚ウルフが土の槍から抜け出そうとしている合間に、セルトに賞賛を送る。
「セルトこそ、私の言葉で瞬時に察して、即座に放った矢を命中させるなんて凄いじゃん」
「……どーも」
「はうっ、一人で動揺して恥ずかしいよぉ〜」
「ルーリアもちゃんと気配察知鍛えるようにね。今度訓練したろか?」
「ま、魔法を優先したいかな〜、あはは〜……」
えー、つまんないのー。
その会話の間に、ノクトとリグアルドで一匹ずつ雑魚ウルフにトドメをさし終わっていた。
うむ、お早い事で。
「いやー、俺もまだまだだな。〈影分身〉に騙されちまうとは」
「レイチェル、よく分かったな」
「次回からはそっちが気が付いてよね」
ま、偽物だけいるってことは、普通本体は隠れてるって分かるよねー。
偽物に気が付けばの話だけど。
私達が立て直すと同時に、ウィンドウルフと雑魚ウルフが迫ってくる。
ファイアウルフは援護するように、その場から動かずに、炎の帯を後ろから迫らせてきた。
「【スパーク】!」
ルーリアが電撃魔法を発動すると、ウィンドウルフと雑魚ウルフの二匹に向かって雷の玉が放たれ、その鼻先で閃光がバチバチィッと弾ける。
それは痛い。
ルーリアが放ってるから更に痛い。
「ギャンっ!」
「ヴォンっ!」
その雷で、瀕死だった雑魚ウルフはHPがゼロになり、ウィンドウルフはほんの少しの間痺れの状態になり、辻風も解除された。
「はあっ!」
「ギャウッ」
それを見逃さず、ノクトが両手に持った短剣で切りかかる。
ウィンドウルフはその苦痛に顔を顰めるが、再び辻風を発動し、ノクトに向かって放つ。
同時に、ウィンドウルフの背後から炎の鞭も迫ってきていた。
「やっべ!」
ノクトは即座に離脱しようとするが、蛇のように動いて先回りした炎の鞭に背中を焼かれそうになる。
その炎に、水の玉が当たり、離脱のために猶予が出来た。
勿論、助けたのは私だ。
ついでに二匹に〈アースランス〉で再び足止めっと。
「助かったぜ!」
「ちなみに今のはルーリアじゃなくて私だからねー」
「おおまじか。すげーな」
「これくらいはとーぜん」
私がノクトを助けて駆け寄るの同時に、リグアルドもルーリアとセルトを炎の鞭から守るために剣にルーリアの水の付与も合わせて防いでいた。
中々騎士っぽいじゃん。
「リグルありがと〜」
「……ありがとうございます」
「僕が盾役と決まってるのだから、守るのは当然だ」
無愛想ながらサラッと言いおる。
ルーリアは何故か守るって単語に反応してニヤニヤしてるし。
駄目だ、ルーリアが恋に盲目すぎて私には分からない。
こっちはウィンドウルフが纏ってるもののせいで攻めあぐねており、向こうが〈アースランス〉から抜け出そうとしていると、突然辻風が霧散した。
MP切れによる強制解除だ。
切れたタイミングで、怒り狂ったファイアウルフはリグアルド達の方へ、ウィンドウルフはすぐ近くにいた私に牙を向けて遅いかかってくる。
私の目の前で口内を晒すとは馬鹿め!
「私の代わりにこれでも食っとけ!」
「ブァゥッ!?」
ウィンドウルフは私に投げつけられた何かを飲み込む。
すると、ウィンドウルフは途端に地面をのたうち回る。
その隙にノクトがウィンドウルフの首をかき切り、完全に動くなるまで剣で押さえつけた。
やがてウィンドウルフの動きは止まった。
《経験値が一定に達しました。Lv10からLv11になりました》
《各種基本ステータス値が上昇しました》
《レベルアップボーナスにより、各種スキル熟練度が上昇します》
《スキルポイントを取得しました》
そっかー、もうレベルアップかー。
ボス部屋ボーナス経験値は美味しいですなー。
ちなみに、パーティーでボス部屋に挑んだ場合は、部屋の魔物を全て倒した後に、パーティーの人数分均等に経験値が割り振られる。
まあ、そこにプラマイで戦闘内のMVPと能無しには少し差が出るが、大体は同じぐらい貰えるようになっている。
「ふうっ、こっちは終わりっと。にしても、レイチェルちゃん、今何を投げつけたんだ?なんか軽く爆発したけど」
「小さくした〈ファイアボール〉だけど?」
「え、えげつねぇ……」
生死をかけた戦いでえげつないもクソもあるか!
気にしたら負けです!
「ん?でも無詠唱でやってたよな?ルーリアちゃんみたく魔法名も言ってなかったし」
「聞こえてなかっだけだよ」
私は面と向かって嘘を吐く。
流石に隣で魔法発動するのは不味かったかなー。
道中のは全部ルーリアがやってると思ってたんだろうし。
ノクトにこれ以上何も聞かれないために後ろに目をやると、丁度リグアルドがファイアウルフにトドメを刺したところだった。
ファイアウルフの足には矢が刺さっていたので、上手いこと連携プレー出来たのだろう。
「よーし! これで第十層クリアだな!」
ノクトがリグアルド達の方に駆け寄り、右手を上げる。
それに釣られてルーリアも剣をしまったリグアルドも手を上げる。
私も肩を竦めながらも、空気を読んで手を上げた。
セルトだけは空気が読めていない、というか、長年のコミュ障ぼっちの弊害のせいで分かってないらしく、首を傾げている。
私はやれやれとため息をついて無理矢理セルトの手を掴んで上げてやる。
それを見てノクトが満足そうに笑うと、みんなでハイタッチした。
「第十層ボス部屋攻略、おつかれっ!」
「いえーい!」
「おつかれ」
「おめでと」
「あっ、……お疲れ様、です」
パンっ! といい音がボス部屋の隔離部屋に響く。
じゃあ私は、初めてのパーティープレイおめでとうっと。
そんなわけで、デールのダンジョン、第十層ボス部屋攻略完了!
『パチパチパチー』
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『以下の用語とその解説が追加されました』
「場所:魔術空間:ボス部屋」
ダンジョン内に十層ごとに存在する、特殊な部屋。
詳細:ゲートストーンによる転移でのみ入場出来る。
中には特定の魔物からランダムで魔物が配置されており、全滅させると、パーティーの人数分経験値が均等に割り振られ、どこからともなく宝箱が現れる。
部屋の中はそのダンジョン内と同じようになっている。
宝箱を開けた後、退場のためのゲートストーンが現れ、ダンジョン入口に戻るか、先の階へ進むかを選択可能。
補足:空気やら魔素やらは、魔術により定期的に外と循環している不思議設計です。
「生物:魔物:ファイアウルフ・ウィンドウルフ」
ウルフ系の第三進化系。
詳細:ウルフからブラックウルフと進化し、その後条件を満たすと進化出来る魔物。
進化先はランダムで、進化後はその系統のスキルを進化ボーナスで得る。
ランク3とそこそこ強め。
大抵MP消費の属性纏スキルを持ち、これがかなり厄介。
補足:今回はマスターの提案でゴリ押しましたが、大抵は相手がMP切れるまで攻撃を避け続けるのが定石です。
レイ「正直いうと、めっちゃ楽勝だった。このパーティーもっと上のボス倒せるんじゃない?」
S『マスターが手を抜いても?』
レイ「私が手を抜いてもいけるいける」
S『じゃあそれ用のもっとレアなボスよういしておきますね』
レイ「やめようか。お前がやるとやり過ぎになる気がするからやめようか」
パーティー戦闘は面倒くちゃい。




