31 神の初めてのパーティープレイ
「くぁぁ……。おはよー」
「おっはよ〜」
「……おはようございます」
「はよー、セルト、ルーリアちゃん。レイチェルちゃんは、なんか眠そうじゃね?」
「おはよう。確かにそうだな」
「えーっと、その、楽しみで?」
「あっはは、レイチェルちゃんでも楽しみで寝不足になることがあるんだなあ」
「体調に問題は無いか?」
「動けば大丈夫。気にしないで」
私はルーリアとセルトと一緒に、約束の時間に門の前に集合した。
ちなみに、都市の門の開門時間は光の六刻で、閉門は影の六刻である。
で、今は光の七刻。
いやー、眩しい朝でござるー。
朝日に目がー、目がー。
『マスター、眠さを誤魔化しきれてませんよ。なんかネタが雑ですし』
バレたか。
いやまー、しょうがなくない?
眠いもんは眠いんです。
「レイちゃん、本当に大丈夫?」
「ルーリアも心配性だなぁ。大丈夫だって。……それと、あんまり深入りしないでって言ったでしょ」
「うん……。でも心配してるんだからね」
「はいはい。ありがと」
寝不足の原因は、夜更かしでも早起きでもない。
昨日鬼ごっこしてたからだ。
どっちが鬼か分からない、悪魔と神の鬼ごっこは、そりゃもうやばかった。
常に魔力の威圧を放ちながらダンジョン内を走り回って、見つけたら、とりあえず向こうに呑み込まれない程度の簡単な破壊系魔術を撃ち込んでビビらせ、どんどん奥に追い込んで行った。
途中何度か冒険者に襲おうとしてたが、その前に私が追いつくと、支配しようとしてる間に壊されると思ったのか、諦めて全力逃走していた。
でも困ったのが第十層。
ダンジョンは十層ごとにボス部屋がある。
第十一層に進むには、一度第十層のボス部屋をクリアしなくてはならない。
一度クリアしたら、それ以降はボス部屋に挑戦するか、先に進むかを選べる。
でも私はまだクリアしてないので、このままでは第二十層まで追い込むことが出来ない。
仕方ないので、裏技でSに頼んでボス部屋付近に追い込んだら、私とグラドだけ自動的に第十一層まで転移するようにした。
え? そんなこと出来るなら最初からSがやればいい?
いやいや、そもそもある程度の魔術を呑み込む力がある敵で、しかも全力逃走してる奴に照準合わせて、魔術空間であるダンジョンの中で細かい魔術を使えって、流石に無理っすわ。
Sでも出来ないことは沢山ある。
だったら、元々指定の転移魔術が組み込まれていて、ボス部屋の前にある『ゲートストーン』を一時的に少しいじってトラップ型魔術にし、近くに来た瞬間自動転移させる方がよっぽど楽で確実。
いやホント、なんちゅーとこに引きこもってくれたんだこいつ。
大迷惑にも程があるわ。
で、それ以降もそこそこ順調に追い込んで行き、第十層から第十一層へ転移させたのと似たように、自動的にグラドだけを第二十層ボス部屋の隣に用意した隔離空間へと閉じ込めた。
ふっ、天才の私が作った隔離空間から出れると思うなよ!
『あ、いつも通りですね。安心しました』
ちょっと一度お前の中の私のいつも通りがなんなのか話し合うべきじゃなかろーか。
『気にしたら負けですよ』
ナンテコッタイ。
え? ダンジョン内にいた冒険者や魔物達はどうしたかって?
冒険者の方には近づかないようにグラドを威圧しながら誘導したし、魔物はグラドを見た瞬間、本能で逃げていった。
流石にあれには逃げるよねえ。
今のところ、どう?
『何とかして抜け出そうとしていますけど、まあマスターの言う通り、隔離空間から逃げられるわけないですし、問題ないでしょう』
無駄な足掻きってやつだ。
にしても、バラけてたグラド、あれで全部なわけないよなぁ。
『でしょうね。でも、上層にいればマスターに狙われると分かったのか、どんどん下層に逃げようとしていますよ。勿論、どんどん自動転移で第十一層、そしてその後第二十層に送り込んでます』
ごくろーさん。
どんだけバラバラになってるんだか……。
もしかしたら、本当に厄介なことに、ある程度の知能がついてるのかもね。
だとしたら、結構厄介かもねえ。
『どのようにですか?』
喰われた魂を救い出しても、殆どグラドの知能に刺されて傷つくかもしれないってこと。
最悪、自我が無くなって、解放した瞬間、魂が霧散することもありえるね。
『……マスター、喰われた彼らを態々救う気だったのですか?』
当たり前でしょ。
グラドを倒して、はい終わり、なんて、この私の土地で好き勝手していたやつにそれだけで済ませるわけないよ。
悪魔はきっちり滅し、被害者はきっちり救う。
ムカつくし、可哀想だからね。
『そう、ですか。まああまり無茶はしないように』
分かってるって。
組織の四人も相当心配するだろうし、ね。
「それじゃ、いっちょダンジョンに行くかー!」
「おー!」
「「「お、おー」」」
ルーリアとノクトだけが異様にテンション高い。
いや、他の二人も張り切ってはいるんだろうけど、リグルは無愛想だし、セルトは人見知りでテンション上げることに慣れてないだけなのだろう。
気分の色の出方が見事にくっきり別れておる。
ま、元気なのはいいことなんじゃないかなー。
ダンジョンに着くと、戦闘態勢を整えた。
ポジションとしては、前衛という名の特攻が私とノクト。
リグルがルーリアとセルトの盾役。
で、リグルの後ろで安心して後衛を務めるルーリアとセルト。
こんな感じである。
で、中々バランスいいパーティーだなーと思ってました。
ええ、思ってましたとも。
でもまあ、なんというか、うん、人間って底知れないね。
何が言いたいかって言うと、団結力とかバランス重視とか、馬鹿にならないね。
私基本的にソロだったり独断専行だったから知らなかったよ。
「いやー、もう第十層着いちまったな! はえーったらありゃしねー!あーはっはっは!」
ノクトが乾いた高笑いを上げる。
そう、私の予想を遥かに上回る速度で第十層まで攻略してしまった。
魔物倒しながら超短時間で。
いや早いわ!
ビックリだわ!
ダンジョン入って二時間も経たずに来ちゃったよ!
普通この位のパーティーなら平均三時間くらいなんですけど!?
おっかしいんじゃないの!?
うん、本当に、バランスが良すぎた。
まず私とノクトで特攻かけて、一番先頭にいる魔物を倒し、逃した奴はリグル達が処理。
ルーリアもセルトも、リグルが完璧に護衛を務めてくれるから、安心して攻撃を放てる。
さらに、ルーリアが〈付与魔法〉を全員に付与してくれて、怪我も〈光魔法〉で即座に治してくれるので、誰も怪我なくポーションを消費することなく来れた。
いやもう、なんだこのパーティー。
これで重戦士系入れたら完璧やん。
なんだこのパーティー。
「なんていうか、ルーリアとノクトと僕の三人で来た時もそこそこ早かったけど、二人が加わったことでさらに戦力増強されて、異常な早さで攻略出来たな」
「ま、まあ怪我ないんだし、これで早く帰れるんなら問題ないんじゃない?」
「いやなんていうか、これは異常でしょ。良い意味で」
ほんの少し心配してたのを忘れるくらいに、こいつらは逞しかった。
まあ、強くてもアレの前では意味の無いことだけど。
そんなわけで、ボス部屋に入る前に、みんな武器の確認したり、休憩をすることになった。
怪我はしてないけど、体力は減ってるからね。
あと、ハイスピード過ぎてお腹空いた。
「……あ、あの……今日母ちゃんがお弁当作ってくれたんですけど、皆さんの分もあるので、よかったらどうぞ」
「おっ、マジで! あの木漏れ日亭のメシかー。うっまそー! ありがとな!」
「ありがとう、セルト」
「わあ、ソリさんのご飯が外でも食べれるなんて幸せ〜。ありがと〜」
セルトがみんなに野菜やハムを挟んだ、所謂サンドウィッチを配っていく。
みんな嬉嬉として取り分を取っていき、その美味しさに頬を緩めた。
ダンジョン内なのにほのぼのだなぁー。
「……ほら、お前も」
「ん、ありがと」
私もサンドウィッチを受け取る。
パクッと口にすると、オリジナルのソースと、シャキシャキの野菜が絶妙な美味さだった。
やばい、美味しい。
めっちゃ美味しい。
セルトは私の隣で腰を下ろした。
さりげなくルーリアの隣に行けばいいのに、ヘタレおって。
「……なあ、お前、なんか手を抜いてたか?」
んぐっ。
あっぶない。
パンが変なとこ入るとこだった。
「な、何の話かね」
「……いや、なんか、前に見たときより、手を抜いてる感じがしたからさ」
「本気出すほど切羽詰まってないってだけだよ。ルーリア達がいるから、私がそこまで頑張る必要ないし」
「……手を抜いてるって認めるんだな」
「探られたくないって線引きだよ。自分の力を見せびらかす馬鹿がどこにいんのさ」
まあたまにそういうやつはいますけど。
私は今回、魔法もほぼ使ってない。
使うにしてもルーリアが使ったかのように見せた。
今回は魔法に頼らずに戦ういい練習になったよ。
たまには物理だけで頑張らないと。
「……パーティー組んでる仲間なんだし、遠慮しなけりゃいいのに」
「仲間、ねえ……。だとしてもやだよ。大体、私が本気出したら、みんなの出番奪っちゃうじゃん」
「……相変わらず上から目線だな。一度その本気とやらを見てみたいな」
「だがことわーる。見せませんよーだ」
私はサンドウィッチを平らげ、口元をペロリと舐める。
ハンカチでふきふきーっと。
仲間、仲間かあ。
いや、よくわかんないね。
やっぱり私は周りと全然違うから、仲間って言えるほど、こいつらを対等に見れないんだよね。
難しい。
仲間が欲しいと思ったこと、一度も無いし。
だって私には、そんなものいらなかったんだから。
……昔の奴らを仲間って言えるのかどうかは、知らないけど。
「さてと、休憩は済んだかー?」
「私は大丈夫〜」
「問題ない」
「……俺も大丈夫です」
「私も平気ー」
「んじゃ、みんな扉付近に集まってくれ」
ノクトが先頭に立ち、行き止まりになっており、扉に見える壁に埋め込まれた、青く光る『ゲートストーン』に触れる。
これが青の時は入場可能で、赤の時はその階のボス部屋通過か、クリアしてない人達は青になるまで待機しなくてはならない。
パーティーで挑む時は、代表がそれに触れて、誰と共に転移するかを脳内で指定する。
「それじゃ、行くぞ!」
ノクトがそう言うと同時、私達の足元に、大きめの転移魔法陣が浮かび上がる。
そして、視界は転移の魔力の流れで出来た、眩い光で埋め尽くされた。
さてさて、初めてのパーティープレイ、いっちょ行きますか!
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『以下の用語とその解説が追加されました』
「物品:魔術道具:ゲートストーン」
ダンジョン内にのみ存在する、ボス部屋への転移石。
詳細:ボス部屋を複数作るのが面倒くさかったレイが、順番に入れるようにしたシステム。
ボス用魔物が湧き、誰も入場してない時は、入場可能の青に光る。
逆に誰かが挑戦していたり、まだ魔物が配置されてない時は、入場不可の赤色になる。
十層ごとに行き止まりに、扉のような模様の壁があり、その中央に配置される。
補足:一応これはシステム内じゃ破壊不可で、マスターと当機のみ干渉できます。
「人物:人族:ソリ・クリム」
未登場だけどセルトとシリカの母。
詳細:木漏れ日亭の厨房担当。
シリカに似た雰囲気のあるの恰幅のいい女性。
料理の腕は大変よろしい。
一応レイが食事してるシーンでは毎度裏の厨房にいる。
顔を合わせたことはないが、ソリの方はレイのことをルーリアと同じ常連冒険者として認識している。
セルトのために冒険者として稼ぎに行く時はいつも弁当を持たせている。
補足:この人もまな板が武器なのか、どうなんでしょうね。
レイ「まるでクリム家の家系武器がまな板的な……」
S『すでに長男と祖父は弓なので違うと思います』
レイ「じゃあ男衆は弓で女衆はまな板か」
S『打撃と突撃でバッチグーですね』
レイ「そうだねー……んなわけないやん」
S『ノリツッコミ回収お疲れ様です』
とりあえず、男衆は女衆の尻に敷かれてるんだろうなあという妄想。




