29 神の方が呼び出された。
「どうも、初めまして。ギルド長のクディールです」
「初めまして、ギルド長。ルーキー冒険者のレイチェルです」
お互いに初対面らしく、猫被りでニコッと笑う。
ここは都市ビギネル冒険者ギルド、ギルド長執務室。
つまりギルド長の部屋。
通常であれば、ただ実務机があって、その前に来客者用の椅子とテーブルがあるだけのシンプルな部屋のはずなのだが、この部屋は、というか、この都市ビギネルの今のギルド長室は違う。
ギルド長の部屋だからって私物が色々置いてある。
学生が学校のロッカーの中をマイワールドにするより酷い。
いやー、いくら肌身離さず持ちたいものもあるからって、持ってきすぎでしょ、やりすぎでしょ。
んでもって、それ一つ一つに所有者以外は持ち出せない結界張ってるとか、最早ただの馬鹿でしょ。
なのに噂では、隣で紅茶を入れてくれてるこのギルド長補佐、確か、ジュリエナだっけ? がすんなりと触れて手にして、脅しをかけてるらしい。
何度か脅しに使われたため、いくつかはちゃんと家に持ち帰ったらしいけど。
なのにまだギルド長執務室の机には色々置いてある。
補佐の手に怯えながらも、肌身離さず持っておきたいものを置き続けている。
多分、隣の部屋のギルド長用の仮眠室にもあるんだろうなあ。
懲りないなあ。
家に帰るまで我慢しろっつの。
子供か。
そして、こいつの唯一の才能である結界に手を出せるこの補佐も只者じゃないなあ。
てか知ってるような、知らないような……。
うむ、知らん。
「突然呼び出しちゃって悪いね」
「いえ、ギルド長からの呼び出しだと、大抵大切な話でしょうし、別にいいですよ」
「そう言って貰えると助かるよ」
私は微笑むギルド長の前で紅茶を口にした。
おっ、美味しい。
茶葉もいいのを使ってるのかもしれないけど、入れ方も上手。
「美味しい紅茶ですね」
「ふふっ、ありがとうございます」
こんなギルド長には勿体ないくらい、と心の中で付け加えておいた。
リコールされないんだから、一応優秀なんだよなぁ……。
「早速なんだけど、ちょっと二人きりで話したいから、ジュリエナは席を外してくれるかい?」
「あら、私には聞かせられないんですか? まだなんの話をするのかすら知らないのですが」
「聞かないでくれると助かるなー」
「ふーん……。まあいいです。ではごゆっくり」
ジュリエナは疑わしく思いながらも、ニッコリと出ていった。
私達はジュリエナの足音が遠ざかると、はぁーっとため息をついた。
「私にもあんな感じの鬼秘書みたいなのいるけど、あのハーフエルフの方がもっと怖いね」
「まあ僕の場合は自分のせいで怖さが段々と増しているって自覚はあるけど、神様に怖いって言われる程とは。流石ジュリエナ」
「自覚はあるけど反省はしないのな」
「好きなものを前にして落ち着いていられる奴がいるかい」
「お前は我慢出来なすぎ。自重しなって。仕事では一応有能なんだから」
「お褒めに預かり光栄ですよー。ギルド長であれば、いつでも楽しい道具とか素材とかが山盛り見られるけど、同時に書類も山盛りだから大変だよ」
やれやれとため息をつくクディール。
昔も今もこれからも、こいつは反省することなく、好きなことのために生きてくんだろうなあ。
まあ、だからこそそこに共感して気に入って重宝してるんだけどね。
私は後ろにいるだろうウレクに「一番強力な防音結界よろしく」と小声で伝える。
あの補佐エルフ、なんか多少の結界だったら簡単に破りそうで怖いからね。
聞き耳立てられてもいいように、完全に聞こえなくする。
なんとなく、あのエルフはSみたいな怖さもあるし。
『それどういう意味ですか』
そのまんまの意味だよ鬼相棒。
そんなわけで、邪魔者がいなくなったので、私達は完全に猫被りを捨てた。
「そんなわけで、久しぶり、駄目エルフ」
「お久しぶり、神様さん」
「神様さんって、なんか可笑しな言い方だねー」
「じゃあ、レイで」
「あーはいはい。私の正体を知ってながら、普通の対応出来るのはお前も含めて数少ないよ」
「いやー、だって僕にとっては神とか人間とかエルフとかどうでもいいし。それぞれの種族が生み出す物には興味があるけど、人そのものには興味ないね」
「清々しいくらいに言い切ったよこいつ」
「事実だからしょうがない」
くすくすと笑いながら紅茶を口をするクディール。
本当に、昔からこんな奴だった。
自分の興味を持ったもの以外、完全に興味のない男だった。
クディールは、神である私と面識がある。
私が何十年か前に『世界樹の森』にいた時、クディールは生命神と談笑していた。
私は神と普通に喋っているエルフというのが珍しくて近づいてみたのがきっかけ。
面白半分に私は自分が神だと明かし名乗るとと、先ず第一声に、「へぇ、でも君みたいな神様は聞いたことがないね」と言ってきた。
疑ってるとか訝しがってるという訳ではなく、単純に知らないと言う意味でこいつは言ったのだ。
思わず目を丸くした後爆笑してしまった。
色んな意味で笑えた。
本当に笑えた。
その後興味が湧いて色々話を聞いてみると、『世界樹の森』に何か面白いものがないかどうかを探しに来たらしい。
面白いものとは何かと聞いたら、自分にとって欲しいと思ったものが面白いものだと答えた。
要は蒐集家なのだ。
それも、価値観は自分の中で決めてるタイプ。
つまり、お金とか人気とかに流されないのだ。
自分の欲しいと思ったものを集める。
それだけなのだ。
勿論、世間の価値観を否定する訳ではなく、理解はしているのだ。
ただ、自分には自分の価値観があるからと、少しだけズレたところに立っているだけ。
そういう『自分』を持っているという所が面白いと思い、私は私の組織との取引を持ちかけた。
ちなみに生命神は、昔殺したらしい獣神の骨を、クディールの持っていたそこそこ価値のある、有名木工師が作った木製の笛と交換していた。
ぶっちゃけ釣り合ってない気がするけど「自分で探したり作ったりするのは面倒だし、この骨も、もう魔力が抜けて大した価値はないからいいのよ」と生命神は言っていた。
クディールにとっても、取引材料として持っていたものらしいから、全然良かったらしい。
で、私の組織との取引は、定期的に行った。
組織からは、組織で開発した新しい商品の試供品や、既存の中でクディールの目に止まった品を。
クディールからは、お金と情報を。
あらゆる場所のあらゆるものを集めることが趣味で、生きがいのクディールは、様々な情報を持っていた。
それこそ、裏社会、貴族の闇、商人たちの流れ。
組織でも結構情報を集めているが、細かい話や、その個人からしか聞けないような話を知っていた。
私はその辺に目をつけて有能だと思い、組織内で雇うのではなく、本人も望むように、外に置いたままの契約を結んだ。
それから今までずっと、そこそこ対等な関係を結んでいる。
で、そんな奴が、今は冒険者ギルド長をやっている。
それも、冒険者が程よく集まり繁栄している都市ビギネルの。
「ぶっちゃけ、お前がギルド長やってるって聞いた時は、びっくりしたよ。商人の方がずっと似合ってる気がしたけど」
「お金持ちになってそういう面倒くさいのに縛られるよりかは、ギルド長になって、冒険者が持ってきたばかりの素材を、手に入れることは出来ないけど、好きに見たり触れたり出来る環境の方がいいね」
「いや、ギルド長も結構面倒な気がするけど……、柵云々的には……」
「僕が貴族の権力だとか、冒険者の圧力に屈すると思うかい?職務には忠実だよー」
「……なるほど、下手に相手の内の読み合いするよりかは、全然似合ってるかもね」
「商人としての人間関係とか、他人に興味のない僕には難しいし」
「でも自分の欲しいもののためにならやれるんじゃないの? 情報集めだってそのためにやってたんだし」
「出来なくないけど、商人は物を手に入れることより物の流通が目的だろう? 欲しいと思っても、他の誰かに結局売らなきゃいけないなんて悲しいじゃないか。客として買ってた方がわかりやすい。それなら、最初から売られると分かってて見ているか、無理矢理購入出来るギルド長の方がいいね」
「なるほど。そういうものか」
二人とも区切りをつけて、お茶に口をつける。
「さて、レイ、ここからは正体を隠しているレイチェルに対しての話だ」
「ほほう。面白い言い方するね」
つまり、表面上は人間として、しかし中身は神として、何か答えてほしい、もしくはやって欲しいことがあるってことか。
「君は最近ダンジョンで起こってる謎の死体について知ってるかい?」
一瞬ピクっと顔が強ばってしまったが、すぐに落ち着く。
だがクディールは、今ので私が知ってると察したようだ。
「何か知っているのかい?」
「何かが起こっているだろうということはほぼ確信しているけど、詳しい話は知らない」
「そうか、じゃあ説明するとしよう」
クディールが蒐集家としての雰囲気から、冒険者ギルド長としてのものに変わる。
「君が冒険者になってから数日後くらいかな、ダンジョンで冒険者の死体が、異常な状態で見つかった」
「異常な状態?」
「そう。そもそもダンジョンでは魔物が死体を食ってしまうから、死体が残ってること自体がそこそこ稀なのだけれど、その死体は稀な上に異様だった。なんだか分かる?」
問題型かい。
まあ、大方予想は着くけど。
そりゃ、その死体は人間にとっちゃ異様に見えるだろうね。
「想像でいいのなら、答えるけど」
「どうぞ」
「そうだねえ。じゃあ、あくまで私の中の予想としていうけど、その異様というのは、もしかして死因に関するものじゃない?」
「正解。じゃあその死因、というか、死体がどんな状態だったか分かる?」
……こいつ私が知ってるってほぼ確信してるでしょ。
目が笑ってないよぅー。
「……ま、これも予想に過ぎないけど。異常っていうのは、見つかった冒険者達が、みんな死因不明ってとこなんじゃないの?」
「……具体的には?」
「死に至るほどの傷や毒が見られなかった、そもそもあまりにも綺麗過ぎる、とかね」
しばしの沈黙が流れる。
私の背後で四人のうちの誰かが息を呑む気配がした。
既に聞いていた話と、今の話を繋げて、状況の恐ろしさを実感したのだろう。
そして、やがてクディールは笑った。
どちらかというと、知ってるなら逃がさない的よ? 的な笑みで。
「全部正解だよ。ということは、君は何が原因か分かってるのかい? それも、予想じゃなくて、本当は確信なんじゃない?」
「まさか。今言ったことはあくまで全部予想さ。でも、原因や死因については確信している」
「じゃあ、その死因を聞いてもいいかな。こっちとしてはそれが一番気になってるんだ。ギルド長としても、僕個人としても」
ああ、個人的な興味もあるから、さっき私に対してああ言ったのか。
ギルド長として異常現象について面白さで首突っ込もうとするってどうなのやら……。
「聞きたい? 結構ゾッとする話だと思うけど」
「どうぞ」
私は答えを促されて、答える前に紅茶を口に含んで、空にする。
空になったコップを見ながら、私は笑った。
「魂の喪失だよ」
「魂の……?」
予想外の答えだったのか、クディールが珍しく心底驚いた顔をする。
初めてこんな顔みたわー。
ま、こいつでもそれだけの衝撃は受けるよね。
そもそも魂なんてものが、見た事あるもの以外にとってはお話や噂話の中のもので、半信半疑の存在なんだから。
「クディールは、一応魂の存在を知っているでしょ?」
「確か、それぞれが魂に内なる力を持っていて、スキルや魔法はそれを形にしたものであり、その人の核みたいなものだとか」
実のところ色々と違うが、この世界においてはその考えで間違いない。
何せ私がそういう風にこの世界の魂を改造してるんだから。
まあそこら辺は言わないでおくけど。
「ほぼ正解。魂ってのは、生物の核なのさ。魂を失えば、肉体なんて意識のない、ただの抜け殻の肉。やがて魂との繋がりも切れて、死に至る。傷や呪、毒とか関係なく、ぷっつりと死ぬの。怖いでしょ?」
「……確かに、ゾッとするね。本人も周りも知らないうちに、突然死ぬなんて」
「ところがどっこい」
私は笑顔で続きがあるという。
クディールは疑問符を浮かべた。
死因についてはそれだけじゃないのか、と。
確かに死因はそれだ。
が、問題は死んだ後。
「今回の事件ではね、確かに魂の喪失による死だと思う。でもね、死んだその魂は、知らずに、苦しまずに死ぬんじゃない」
「……どういうことだい?」
「死んだ後に、どうしようもなく苦しむのさ」
その言葉に、しばしの沈黙が流れる。
その間に、私は紅茶を継ぎ足して口を潤した。
カップをソーサーに戻したタイミングで、クディールは口を開いた。
「……死ねずに苦しむんじゃなくて、死んだ後に苦しむのかい?」
クディールが目を丸くした。
まあ、聞いたことの無い話だろうからねえ。
「そう。死んだ後、その魂は酷い苦痛の渦に晒されることになる。きっと今も、沢山の魂が悲鳴を上げているだろうね、その怪物の中で。……まあ、あくまで予想だけど」
「怪物……。ということは、その怪物とやらが、魂を肉体から抜き出して、魂に苦しみを与えているのかい?」
「抜き出すって部分が、ちょっぴり足りないなー」
「……焦らさずに答えをくれないかい? ちょっとだけ興味が湧いた」
物にしか興味が無いこいつが、死因に興味を示すなんて珍しい。
まあ絶対初めて聞く話だろうし、興味も湧くよねー。
こいつは知識にも多少の興味はあるし。
「そうだね。じゃあ一気に答えを言おっか。今回の事件の原因は、魂喰らいの悪魔『グラド』と呼ばれるものが正体だよ」
「魂喰らいの、悪魔、か。初めて聞く名前だ」
「そりゃあ、この世界、っていうかこの大陸に多分初めてやって来ただろう悪魔だからね。文献も何もあるわけがない」
クディールは蒐集家だが、珍しい物語にもそこそこ興味がある読書家でもあるので、神話だとか英雄談だとかは色々知っている。
だから初めて会った時にも、私のような神は知らないと言ったのだろう。
私の場合は、こっちの大陸には存在しないってことにしてるから、知らなくて当たり前なんだけどね。
「それで、その悪魔に喰われた魂達は、どうなってるんだい?」
「本来、どんな生物でも一つの肉体という器に、一つの魂しか入らない。でも悪魔が魂を食べて食べて、それをゆっくりと胃袋で消化してるとしたら? 悪魔という一つの器の中に、消化されるまで、沢山の魂をぎゅうぎゅうに詰め込んでいるってことになる。それも、自我を保ったまま。簡単に言えば、魂のおしくらまんじゅう、魂の生き地獄だよ」
しかもそれぞれの魂は全然違う。
混じり合うわけが無い。
つまり、多重人格になりかけながら、ゆっくりと融かされていくというわけだ。
全くもってえげつない消化方法だ。
クディールも苦笑いを浮かべた。
「……ははっ、そりゃ酷い。死んで苦しみから解放されるのではなく、むしろ待ってるのは生き地獄とは。……それで、解決方法はあるのかい?」
「ない」
「……それは、本当かい?」
「少なくとも、人間達に出来ることは何も無いよ。何せ肉体を持たないんだ、そいつは。だからまともな物理攻撃が効かない。さらに、魔力を術式の状態でも喰らう、つまり、魔法だって食べてしまう。要するに、攻撃手段も通じないって訳」
「……それ、本当にどうするんだい?」
「だから、唯一の解決方法は、私という存在ってだけ。人間の中でも、神族の中でも、ね」
私はお茶をティーポットから足し、ため息を飲み込むように啜った。
忌々しいとはまさにこの事だろう。
「君以外の神族にも対処出来ないのかい?」
「多分、ね。あれを退治出来るのは私だけなんだよ」
精霊が言うのだから、間違いないだろう。
多分子の世界の髪で魂とかの扱いが上手いのは私くらいしかいないのだ。
ないわー、マジないわー。
「君は出来るのかい?」
「はっ、誰だと思ってんの? この私だよ?やるって言ったらやってやるレイさんだよ? 人間の姿だろうとなんだろうと、出来ると言ったら出来るのがレイという女神なのです」
私は小さな体で胸を張ってそそ言い切った。
私が出来るって言ったら出来るんじゃい!
「ははっ、頼もしいや」
まあ、人間状態でやるから怪我無しとはいかないだろうけど、それは黙っとこう。
やれることに変わりない。
クディールは疲れたようにため息を吐いた。
「君に話をしてよかった。正直、僕らにはもうどうしようもないと思っていたからね。冒険者のために情報を集めたいのに、それを依頼した冒険者も、ほとんど死んでしまったからね。……恐らく、喰われてしまったのだろう。申し訳ないことをしてしまったよ」
「そりゃあ災難なことで。じゃあ、もう調査はしなくていいよ。無駄な死人を増やすだけだもん。あとは私が全部何とかする」
「それは頼もしいや。神様がやってくれるんなら、確実だろうね」
「あったりまえよ」
私がふふんと胸を張ると、クディールが普段のだらけた感じから切り替えて、ギルド長としての雰囲気に変わり、私を正面から見た。
「じゃあギルド長として、Eランク冒険者レイチェルに、特別クエストを渡そう。その悪魔を、早急に退治してくれ」
「うむっ、任されたっ」
「それが出来たら、君をDランク冒険者に上げてもいいかもね。あと、報酬もね」
「うーん、ランクは別に無理して変に上げなくていいよ。あんまり興味無いし。報酬も、ほぼ冒険者レイチェルとしてじゃなくて、神レイとして済ませるつもりだから、そんなに多くなくていい」
「じゃあ、神レイに対しての報酬じゃダメかい? 君しか適任者がいないのなら尚更だし、君がやってくれなければこれから先も冒険者は謎の変死に悩まされることになる。だから、退治してくれた暁には、ちゃんとお礼を形にして渡したいと思うんだけど。貰ったお金は、レイチェルとして使うんじゃなくて、レイとして持っておくんじゃダメなのかい?」
うーん、確かにそれならいいかもな。
組織にでも寄付すればいいし。
私の所持金これ以上増やしたってどうしようもない。
何せたまにしか使わない上に、働かなくても組織の管理をちょっもしてるだけでバンバン入ってくるからなー。
全然お金に困ってない。
「……分かったよ。受け取ることにする。まあ私は使わずに、組織のお金になりそうだけどね」
「まあ好きにするといいさ。僕としては、冒険者ギルド長として、謎の変死事件を終わらせてほしいだけだからね」
「あいよ。それならダンジョンの異常についての警告を出しておいて、なるべく人が来ないようにしてよ。しばらくは別のダンジョンに行っててもらおう」
「わかった、そうする。ご忠告感謝するよ」
私は紅茶を飲み干して席を立つ。
お金なんて興味無い。
私は私の世界の住民という、私のモノに勝手に手を出したクソ悪魔を滅ぼしたいだけだ。
「じゃ、時間はちょっとかかるかもしれないけど、あと数日で必ず終わらせるから、大船乗った気分で真面目に仕事しててねー。あ、あと、事が済んでも、その悪魔のこととか、私が解決したとか、言わなくていいから。目立ちたくないし」
「分かったよ。謎の魔物はどこかの有能な冒険者に退治されたということにでもしておこう。それが今の契約だしね」
そう、クディールにはちょっとしたお願いをしている。
それは私という冒険者レイチェルがあまり目立たないようにすること。
理由は簡単で、元々そんな人間は存在しない上に、すぐにいなくなるかもしれないからだ。
だから、変に目立って、消えるかもしれない存在に面倒事を絡ませたくない。
ボロを出した時に、本気で面倒になるからだ。
最悪の場合、レイチェルという存在に関する記憶を全ての住民から消すつもりだし。
そうなると微調整が面倒くさい。
うん、面倒くさい。
「じゃ、任せたよ」
「そっちこそ、よろしく」
私は部屋から出て、ギルドの一階に向かった。
組織の四人は説得して、クディールに説明して、あとはルーリア達をどうするか、だね。
はてさて、どーしよっかなー。
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『今回は休憩』
レイ「今回凄い黙ってたね」
S『まあ、マスターが説明することですし、横槍入れることもないかな、と』
レイ「普段なら入れてるのか」
S『ちょっとからかう程度ですよ』
レイ「それは横槍かなー」
かまってちゃんじゃないよ!




