27 神はまた新しい玩具を得たようで
「……それで、ルーリアさんとお前は何してたんだ? なんか、狩りしてるようには見えなかったけど」
「あ〜、えーっと」
ルーリアが返答に戸惑い、私の方にヘルプを求めるように見る。
私はやれやれとため息を着いた。
「私がルーリアに魔法について教えて貰ってたんだよ。その訓練の途中の試し打ちでお前を狙った。それだけだよ」
「……ああ、なるほど」
セルトが納得したように頷く。
そしてルーリアは、その手があったか!みたいな顔で目がキラキラしてた。
この子アホの子なのかな?
「……で、さっきのはなんだ?」
「さっきのは純粋な魔力弾だよ。ただ魔力を凝縮して撃つのさ。こうやってっ」
私が片手でまた魔力弾を木に向かって撃つ。
すると、セルトがフードの下で驚きに目をぱちくりさせた。
「……なんっだ、今の」
「だから魔力弾。詠唱もいらないし無属性。ただし攻撃力はあんまりないけど、MPもあんまり減らない技だよ」
私がそう説明すると、セルトから見えない位置で、ルーリアがあれっ? という顔をしていた。
MPというところで反応していたということは、ルーリアは結構消費してたのかな?
まあ初めてだし、しょうがないでしょ。
これから慣れれば問題ない。
そしてセルトは、私が説明すると、キラキラした目をルーリアに向けた。
「流石ルーリアさんですね! そんな凄いオリジナル技を生み出せるなんて!」
人見知りオーラが消えて完全に全身からすごいすごいと溢れ出ている。
まあ凄いのは私だけど、一発で完成まではいかないけど半分ほどは出来たルーリアも凄いだろう。
一方ルーリアは、私の方に目を向けて、ちょっと居心地悪そうな苦笑いをセルトに向けた。
「ま、まあ凄いことかもしれないけど、その、それを出来るレイちゃんの方も凄いよ〜。ね、レイちゃん?」
やめい矛先むけんなっての。
セルトは何故か、そんなルーリアに違和感を感じたのか、疑うような顔をした。
そして手招きして、私の耳元でひそひそと話す。
「……なあ、なんかルーリアさん変じゃね?」
こいつ私の時は結構口調砕けるな。
舐められてんの?
それとも慣れられたの?
「変って、何が?」
「……前に俺がルーリアさんのこと褒めた時は『ふふっ、ありがと。じゃあこれからもセルト君に凄いって思ってもらえるように、もっともっと頑張るよ』って言って、今みたいに否定する感じじゃなかったんだけどな」
あいつどんだけ眩しいの。
私の場にいたら目を塞いでるわ。
私だったら「とーぜんっ。しかもこれからもどんどん伸びてくんだから」とか言っちゃいそう。
『極端過ぎやしませんか』
私だもの。
しゃーなし。
にしてもこいつ、今のルーリアの態度だけでよくそこまで分かるなー。
むしろびっくりというか、それだけルーリアのことをずっと見ていたのかと納得するような。
「まあ、ルーリアだって恥ずかしがることはあるんじゃないの?」
「……そうかもしれないが、あんな風に否定するのは初めて見たし……。ていうかさ、本当にお前がルーリアさんに教えて貰ってたのか?」
ビクッと震えたのは、果たして私の心の内だけか、それとも体にも出てしまったのか。
「……なんか、さっき木の上からちょっと見えてただけだけど、まるでルーリアさんがお前に教わってるように、俺の目には映ったんだが。……本当はどうなんだ?もしお前が教えてたんなら、なんで態々隠すんだよ」
ダラダラと笑顔で冷や汗が流れてくる。
こいつ人のことよく見すぎじゃない?
それともルーリアがいたから?
ルーリアのことずっと見てた系なの?
もしそうだとしたら、やっぱりこいつ確実にルーリアにそういう感情抱いてるよね?
いや違う今はそっちじゃないそうじゃない。
『マスター、落ち着きましょう。軽く息はいて吸いましょう』
お、おう。
すー、はー。
……うむ、落ち着いた。
別に、これくらいなら、特に拙い事じゃない、か。
「認めるわけじゃないけど、もしそうだとしたら、変じゃない?」
「……はあ? なんで?」
「いやだって、私の方が大分歳下なのに、ルーリアに教えるなんてさ。しかも駆け出しなのに」
「……なにいってんだ?」
うわ、すっげえ「はあ?」って顔に書かれてる。
すごくそんな文字が見える。
わかりやすいくらい今のこいつの心情が見える。
意味不って心情めっちゃ見えるよ。
「……教える側とか、実力だとかに、なんで年齢が関係あるんだ? 強いから強い、凄いから凄いんだろ。歳上だから凄い、歳下だから凄くないなんて、誰が決めるんだよ?」
セルトは、それ以外に考えたことがないというような、純粋な顔で、そう言い放った。
私は、その言葉に唖然として、ふっと笑ってしまった。
……ああ、そうだった。
馬鹿なのは私だ。
こいつは、歳なんて関係ないってのを、ずっと証明しようとしてきた立派な子供じゃないか。
憧れを胸に、自分みたいな子供でもやれるんだって、必死に頑張ってきたやつじゃないか。
そんなやつに、なんて馬鹿な言い訳を言ったんだ。
通じる訳ないじゃんか。
他の奴と同じなわけ、ないじゃんか。
「……っはは。いやほんと、その通りだね。ごめん、馬鹿なこと言った」
「……いや、まあ、客観的というか、一般的にはそうかもしれないけど、俺はそういう考えが嫌いだからさ。昔、そういう風に見られて馬鹿にされたのもあってさ。初めてあった時も、お前に歳下とか言ったけど、からかいつーか、ちょっとの腹立たしさのつもりで、別に見下したわけじゃねーし」
「うんうん、分かった分かった。分かる分かる。そーだね、その通りだよ」
「……何一人で頷いてんだよ、怖い奴だな。で、本当にどっちなんだよ。どっちが先生なんだよ」
うーん、どーしよっかなー。
なんていうか、出会って二日目だけど、ちょっぴりこいつが気に入ってしまった。
だからほんの少し仲間に入れてやってもいいかもしれない、なんて、思ってる自分がいる。
そんな自分に、神らしくある自分が、笑った気がした。
その時思ったように、好きにすればいいじゃん、と。
「じゃあさ、本当のこと言って、ちょこっとだけ仲間に入れてやるけど、その代わり深入りしない、あと他の誰にも言わないって約束する?」
「……ん? お、おお? ていうか、それ殆ど肯定してるようなもんじゃ……」
「まだしてませんー。で、どうなの。深入りせずに仲間に入るの?ちなみに、弓使いのお前におすすめの技もあるぞー」
「……それは、ちょっと気になるな……。それに、ルーリアさんと一緒ってこと、か?」
「一緒だぞー。一緒にいる機会が増えるぞー」
「……おいやめろ。そんな目で見るな! そんなニマニマした目で見るな! 下心なんてない……とは言わないけど、その目を向けるな!」
セルトは顔を真っ赤にしたあと、フードを抑えながら答えを口にした。
「……分かったよ。深入りしねーから、俺をお前とルーリアさんの仲間に入れてくれ……ください」
「取ってつけたような敬語はいいよ気持ち悪い。じゃあおっけ。本当のことを言うよ」
私は一瞬口を閉じて、適当なの設定を思い浮かべると、続きを口にした。
「私は小さい頃、すごーい魔法使いの弟子だったことがあってね。その人は孤児の私を育てながら、色んなことを教えてくれたの。その時の知識と経験があるから今でも凄いわけ。で、その凄い人の教えを、飲み込み早いルーリアにも教えてあげて、もっと凄くなってもらおうってわけ。そんなわけで、私が先生で、ルーリアが生徒なのです。あ、セルトも仲間入りするならセルトも私の教え子だね。光栄に思たまえ」
そう口早に、安っぽい絵本みたいな説明をした。
うむ、我ながら中々の適当感!
『……いや、でも、あながち間違ってないのでは? ていうか、大方間違ってないのでは? 昔あの方に色々なことを教えて貰ったのですから、師弟関係といっても間違ってないような気がしますけど』
システム内の魔法は私オリジナルなんだから、私が第一人者だもん。
まあ確かに、意外と間違ってな……。
……待って、S、なんでそんなこと分かんのさ?
色々教えて貰ったなんて、私言ったっけ?
『……い、言ってましたよ。ええ、言ってました。マスター時折思い出を話してくれるじゃないですか。闘い方を教えて貰ったとか、本を読んでもらったとか、旅の話とか』
そーだっけ?
まあ、そうか、色々話したかー。
……そんな細かく言ったっけ?
『……別に、マスターだって感傷的になることはあるでしょう。ていうか、何度もあるじゃないですか』
べっ、別に感傷的になんか、なって……ますけども。
なることはありますけども。
……うぅー、もうっ、いいやっ。
気にしないでおく!
無視しとくよ無視無視!
そんなことより今はセルトだ。
まあSと話してる時は大抵一瞬の思考なんだけどね。
セルトは私の言った説明を一応飲み込んだような顔をする。
「……なるほど、だからお前、ゴブリン集団の時も、色々と見たことない魔法の使い方してたんだな。納得したわ」
「そういうこと」
「……でも、小さい頃って、今でも十分小さいのにか?」
「十二歳はそこそこ立派な年齢ですー。ていうか、早速さっき言ったこと忘れた?」
「……そういうことか。分かった。聞かないでおく。冒険者には色んなやついるしな」
「うんうん、物分りのいい子だねー」
「……なんか、不色魔と腹立ってくるな」
「気のせいだよ、気のせい」
話がついたことで、私とセルトが後ろを振り返ると、ルーリアが腰に手を当ててムスッとしていた。
むくれっ面も愛らしくて腹立つなおい。
「む〜、さっきから二人とも仲良くって羨ましくなっちゃうじゃん。私も仲間に入れてよ〜」
拗ねてる、とても拗ねていらっしゃる。
あれか、貴重な友達が、自分の知り合いとだけ話してると、凄く疎外感を受ける、三人グループの法則。
『それはあれでしたっけ、三人グループだと、大抵話す時に二と一になるっていう』
そう、グループあるある。
それの一になってルーリアが拗ねていらっしゃる。
なんだよむ〜って、子供か。
尖らせた唇が苛立ちじゃなくて可愛さ産んでるだろが。
よく分からんがイラッとしたので、ほっぺたをつんつんしてやった。
「ふぇっ? な、なに〜。なんでつんつんするの〜」
「いやなんとなく。ああ、あと、こいつも仲間に入れることにしたから」
「……えっと、どういう?」
「私の魔法講座仲間。私が先生だってバラしたからさ。弓使いなら矢に付与出来るようなの教えられるし」
「……お前はなんでもありか」
「良かったんだ? ……はっ! じゃあじゃあ、セルト君は私の弟弟子ってこと!?」
「え、あー、うん、そうだね。そうですねー」
お友達少ないからって嬉しそうですね箱入り娘よ。
一方のセルトは弟弟子という所でフードを深く被った。
「……お、弟弟子」
「お前はなんで若干顔を赤らめてるの」
「な、なってねーし! 同じ弟子になって距離が近くなったとか思ってねーし!」
「いや墓分かりやす過ぎでしょ……。ていうか、私の弟子になってるってとこにツッコミはないの?」
私がそういうとセルトが鼻で笑った。
「……少し違和感はあるけど、強くなれるなら本望だ。なんだってやってやんよ」
ほう、ほほほうほーう。
つまりやる気十分と。
それはいいことを聞いたなぁ。
「じゃあ、遠慮はいらないよね! やる気満々な奴に遠慮なんて失礼だよね!」
「……え? まあ、うん、そうだな?」
やったぜおもちゃが増えましたー!
ふひひ、さてさて、何してやろっかなー。
私が心の中で楽しい訓練を企んでいると、ルーリアがセルトの肩に手を置いた。
「ルル、ルーリアさん?」
「セルト君、覚悟した方がいいよ。レイちゃんは無理難題をやれとは言わないけど、私達の出来る範囲ギリギリを攻めてくるから」
「えっ……」
「つまり、死にはしないけど、死ぬ気でやらなきゃやってらんないくらい鬼畜ってことだよ。頑張ってね!」
「ちょ、ルーリアさん? そんな笑顔で言われると逆に怖いんですけど!?」
「大丈夫、結果的には強くなるから! びっくりするくらいにね!」
「結果的にはって、途中では一体どうなるんですか!?」
なんだか弟子達が五月蝿いのう。
そうか、私の訓練が楽しみなのか!
そーかそーか!
嬉しいなあ!
『こうしてまたマスターのおもちゃが増えましたとさ、と。名ー無ー』
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『今回は休憩』
レイ「ルーリアが眩しいなって思った」
S『心が穢れてるんですかね』
レイ「やだなあ私に穢れなんてあろうはずがございませんよおほほほほ」
S『そういうところですかね』
レイ「るっさいわい」
良い子は眩しい。




