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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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26 小さき神と小さきモノ達

 


 ルーリア達に声が聞こえないくらいに距離をとり、少しだけ開けた場所に来ると、私は立ち止まった。


「で、いきなりなんか用?」


 私がそうぶっきらぼうに声をかけると、私の周囲に魔素のような、しかしそれよりずっと強く、形は全然違うものが無数に現れ群がる。

 蛍のような、しかしそれよりもずっと仄かな光たち。


『『『ハナシ、ハナシ、シニキタ』』』


『『『テキタイ、シナイ』』』


『『『オネガイ、シニキタ』』』


 それは、精霊。

 この宇宙のどこにでもいる、宇宙の監視者。


 はっきりいってしまえば、意味不明の塊。

 何を考えているのか分からず、どんな力を秘めているかも未だ解明されてない、唯一分かる事は、『セカイのイシ』の信者として大抵傍観者であるということ。

 どこのコミュニティにも属さず、独立したコミュニティを築き、だが、宇宙のどこにでも存在する、ある意味では宇宙で一番恐ろしい存在。


 だが不思議なことに、こいつらは私には積極的に構ってくる。

 しかも、私を『光の子』なんて変な呼び方をする。

 なんでそう呼ぶかを聞いても、『ヒカリノコダカラ』としか答えない。

 対話になりゃしない。

 よって苦手である。


『本当にマスターこの方達苦手ですよね。何かと無視してますし』


 いやー、純粋な心を持った存在だったら良かったけど、こいつらどっか狂気に満ちてて怖いしー。

 やってらんないわー。


「はいはい、一応聞くだけ聞くから、言ってみ。応えるとは言わないけど」


 なので、さっさと適当に済ますに限る。

 なんか、昔からこいつらとはよく分からない相容れない感じがする。

 なのにどこか懐かしい感じもする。

 その心地が気持ち悪いので、あんまり関わらないようにしてる。


『『『イヤナモノ、イル』』』


『『『クラウモノ、イル』』』


『『『アツメルモノ、イル』』』


 うん?

 なんか、心無しかこいつら、苛立ってる?

 感情なんてほぼ無いに等しい魔力精神体が?

 いやまあ、こいつらの感情を読み取れる私も大概だと思うけど。


「具体的には何なの。嫌なものとか言われても分からないんだけど」


 精霊は無い口で口にするのも穢らわしい言うように、少し間を置いてから声を発する。


『『『……タマシイノ、ユガミ、マジリアウモノ』』』


「……まさか、『グラド』!?」


 その言葉を口にすると、精霊達は肯定するように、苛立つように飛び回る。

 〈念話〉の向こうでSが首を傾げるような疑問の念が届いた。

 精霊がイライラしてるのにも納得だ。

 きっと既に、精霊も多少喰われたのだろう。


「でも、それを態々私に言うってどういうこと? 自分達で処分出来ないなら、天使達にでも命令すればいいじゃん。ていうかそのための兵士でしょうに」


 私がそういうと、荒ぶってた精霊達はピタリととまる。

 え、なになに。

 なんか、呆れてるような空気が出てるような?


『『『……デキナイ』』』


「はい? なんで?」


『『『ヒカリノコ、コバムカラ』』』


「え? 私? 拒むってなんの話さ?」


 私が意味不明と首を傾げると、精霊はさらに呆れるような気配を出す。


『『『…………コノセカイ、テンシ、クル、キンシ、シテルセイ』』』


 珍しく、ものすごく間をあけてそんなことを言われた。

 にしても、いや、ちょーっとまて、それってまさか。

 まさかとは思いますがまさか。


「……この世界に既に潜んでるってこと!?」


『『『ソウイウコト』』』


「先に言えや馬鹿!」


『……え?』


 のぉぉお!!

 なんてこった! なんてこった!

 めんどくさいなぁ!

 面倒な事になったなぁ!


 ていうかS、えってなに?

 まさか、知らなかったの?


『……情けないことに、知りませんでした。そもそも、さすがに当機でも出会ったことの無いものの感知は難しいです。マスターから知識を与えられてはいれど、知識と経験は別物ですし。まあそもそも当機はシステム外の存在には弱いですから、仕方ないと軽く言い訳したくもなりますが。それに、結界の外からやってくるのには気づけますが、既に中にいる場合は探知しにくいですよ』


 いや、でも、あれがいるならこの世界のシステム内の魂の流れにも多少異変は起きてるはずでは?


『ちょっと調べてみます。……確かに、死亡してるはずなのに、帰って来てない魂が少数いますね。全然気が付きませんでした』


 私の面倒見てばっかりだったからってのもあるかもなー。

 ……なんか、厄介フラグ立ってない?

 てかもう回収してない?

 突然面倒な事に巻き込まれたなあ?


「……ちなみに、他のやつに頼むって選択肢は無かったの?」


『『『コノセカイ、ヒカリノコ、ユイイツ、ケス、ジョウズ、イナイ』』』


「そんな馬鹿な……。いや、もしかしてそうなの? え、もしかして私しかいないの?マジで?」


 私は脳内に候補を上げていくが、どんどんバツ印がついて行く。

 ……消去法的に私になるのかぁ?

 えー、マジでー?


 一瞬、一人の顔が思い浮かぶが、すぐに払拭する。

 ……たらい回しするのは、嫌だ。

 向こうに危険が及ぶ可能性があるくらいなら、私一人でやってみせる。

 でなきゃ、この先やっていけない。


「……ちなみに、それはどこにいるの?」


『『『ココ、チカク、アッチ、ドウクツ』』』


「ってダンジョンじゃん! さらに面倒な!」


『ああ、そりゃ気がつけないですね。あそこはあれひとつで色んな情報が入り乱れすぎてますし』


 オーノー!

 ご近所やないかーい!

 そして地味に色んな云々で探しにくいやつやないかーい!

 引きこもりになってたせいで腑抜けてんなあ私!

 馬鹿なの? アホなの? 死ぬの?

 いや死なんけど。

 ん? あれ、ちょっとタンマ。


「そもそも、なんで入ってこれんのさ。この世界の結界は安定してるはずだよ? そんな、あからさまな不純物入れるほど、ぬるい警備じゃないと思うんだけどなぁ」


 私のこの世界には常時強力な結界を張っている。

 侵入者がいたら警報を出す、とかじゃなくて、完全に不審者を入れない城壁みたいな結界だ。

 そんな結界が、そんなもの入れるなんて、中々考えられない。

 私の知らない間になんかバグでも?

 でも、Sから何の報告もないしなあ。


『『『ソンナノ、シラナイ』』』


『『『シラナイ、シラナイ』』』


『『『ココニイル、ケッカ』』』


 全くもって当てにならない返答。

 なんでやねーん。


「じゃあなに、どうやって来たかは知らないけど、とりあえず居るのは不快だから排除しろって?」


『『『ソウイウコト』』』


「他力本願にも程があるわー。まあ仕方ないかもしれないけどさあ」


 ため息を深く吐く。

 ないわー。

 人間状態の時にやらなきゃとかないわー。

 一度神に戻るってのも手だけど、魂の移動は私の魂が繊細故に私としては結構疲れるから、日数かかるんだよねー。


 何故か私の魂は変なところで弱い。

 魔力を豊富に持ってるくせに弱い。

 今こうやって仮の肉体に魂をとどめているのも、実は結構しんどい。

 おかげで昔は色々と心配もかけたものだ。

 大体、魂をさせている時に狙われるってのもある。

 ……ていうか、やるのバレたら怒られそう、危ないからって。

 なので、やるならこのままで、一時的に封印を解き、早急に仕留める。


「今のところ、ずっとダンジョンにいるの?」


『『『タブン、ソウ』』』


『『『ソト、ヒカリノコ、ワカッテル』』』


『『『オビエテル、バラバラ二』』』


「ばらばら?」


『『『チイサク、バラバラ』』』


『『『カクレンボ、シテル』』』


『『『チイサクナル、チノウ、アル』』』


「知能!? あれに!? ていうかバラバラになったやつを全部処理しろって!?」


 肩にどっしりと重荷が乗った気がした。

 いや、ないわー。

 バラけて小さくなって逃げる知能があるって、やってらんないでしょ。

 しかも私に怖がる本能もあってさらに面倒くさい。

 無理ゲーじゃないけど、かなりハード。


『『『デモ、ケサナイト、ミンナシヌ』』』


『『『ニンゲン、ヨワイ、クワレル』』』


『『『ノマレル、ノマレル』』』


 え、なになに、焚き付けてんの?

 やだわー。

 こいつらも地味に知能があってやだわー。


「はあ。分かった。分かったよ。やりますよ、やってやんよ。この世界の最高管理者として働いてやりますよーだ」


 めんどいので、引き受けてさっさと済ませるに限る。

 私しかいないのなら、私がやるっきゃないだろう。

 それに、この世界の人間の魂がどんどん喰われるのは気に入らないし。

 私の支配下で好き勝手するとはいい度胸だ。


『『『マカセタ、マカセル』』』


『『『オネガイ、マカセル』』』


『『『セカイノタメ、マカセル』』』


「あくまで私が気に入らないからだもん。そっちのためにやるわけないでしょうがバーカ」


 私が暴言を吐くと、さっさと精霊はバラけて行った。

 あいっかわらず、わけわからんやつらだ。

 とりあえず、ルーリア達のとこに戻ろう。





「あ、レイちゃん。遅かったね〜」


 戻るとルーリアは特に深く聞くわけでもなく笑って迎えてくれた。

 その屈託のない笑顔になんとなく癒されたので、その胸に頭を押し付けた。

 ああ、精霊共と話をするだけで疲れる。

 ほんっと、疲れる、主に精神的な意味で。


「わわっ、レイちゃん? いきなりどうしたの?」


「……何やってんだお前」


「いや、ルーリアって意外と癒しキャラなんだなーと」


「意外と!? んも〜、もしかしてお疲れなの〜? じゃあよしよししちゃおう〜」


 ルーリアは私の頭を胸に押し付けたまま撫でてきた。

 それはまるで子を慰める母のような……。

 いや子供だけど子供じゃないもん。


「なんか、ルーリアにやられるとムカつく」


「……勝手に甘えてるくせに文句言うなよ」


「まあまあ、レイちゃんだって甘えたくなる時くらいあるんだろうから、甘えたい時に思いっきり甘えればいいと思うよ〜」


「おかんか」


「……ルーリアさん、なんかお母さんですね」


「ま、まだそんな年齢じゃないけどね〜」


「いやルーリアの歳だったら普通に結婚してるでしょ。まあ? 昔から結婚の話どころか、そういう意味で手を繋ぐことすらままならない女の子のままじゃ、いつまで経っても縁のない話になるかもだけど」


「うぐっ」


「……お前色々と酷いな」


「安定のノリでーす」


 いつまで経っても一歩踏み出せない若者なんて、からかいながら突き飛ばすに限りますよねー。


『慰めてるのか追い討ちかけてるのか分からないやり方ですね』


 相手に悪意しか伝わらないお節介って面白くない?


『うわぁ……、もはやそれ嫌がらせでは』


 相談に乗ってあげてるんだからチャラだよチャラ。


 でも、お礼くらい言っておくか。 


「まあ、ありがと」


「どういたしまして〜」


「……素直なのか素直じゃないのか分かんない奴だな」


「自分の欲とかノリには正直だよ?」


「……最悪だこいつ」


「あははは……」


 全くなんでそんな顔するのやら。

 正直でいいじゃないか。


 まあうん、とりあえず、癒しも得たし、がんばりますかー。

 こいつらに、勝手に死なれるのも、なんかもやっとするし。

 うむ、いらん邪魔者には、即ご退場願おう。

 私の暇潰し冒険の邪魔するやつは薙ぎ倒す!

 やってやんよ!







 ********



『今回は休憩』



S『同じ精霊でも当機の方が万倍可愛いですよね。ね!』

レイ「いやそもそもお前は精霊とは割と違うし。可愛さは、ノーコメントで」

S『むう……』

レイ「むうじゃないよ可愛いな」

S『……ふふふ』


やはりチョロい(確信)

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