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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
2章 ダンジョンは神にとって波乱万丈の地になりそうです。
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25 神が教師、人間が生徒

 


「そんなわけで、今日は魔力押し相撲をします」


「何がそんなわけなのかは分からないけど、とりあえず了解です!」


 いつもの森の中。

 私はルーリアを連れて、なるべく人気のない、少し開けた場所に来た。


「ところで、オシズモウ、って何?」


「相撲って言うのは、相手を地面に描いた円から出したり足以外を地面につかせたら勝ちな遊びなんだけど。押し相撲は、んー、じゃあ百聞は一見に如かず。ルーリア、私の一歩手前くらいに来て? 杖はそこら辺に置いてね」


「ここ?」


 ルーリアが私の前に立つ。

 私は手を構えた。


「はい、ルーリアも同じように構えて?」


「こうでいいの?」


「うん。それで、こうするっ!」


「わわっ」


 私に突然手を押されて、ルーリアはよろけて、そのまま足を一歩後ろに引いてしまった。


「はい、ルーリアの負けー」


「え、ええ、どういうこと? ルール説明もなしにいきなり負けなんて酷いよ〜」


「あはは、ごめんごめん。やった方が早いと思って。これはスキルも魔力も使わず、掌だけを使って相手を押しあって、前でも後ろでも、一歩でも足を動かしたら負けっていう遊び」


「なるほど〜、スキル〈忍耐〉の熟練度上げの訓練にもなる遊びなんだね〜」


「え? ああ、うん、そうだね」


 ただの遊びなんだが、そっか、一歩も動かないって点では、〈忍耐〉の熟練度上げにも繋がるか。

 組織内の息抜き兼訓練として使えるかも?

 いや、ガチの方でやりそうだから、提案はもう少し考えてからにしよう。

 ていうか、ルーリアも訓練馬鹿だから発想の方向がおかしいな……。


「んで、魔力押し相撲は、昔私がやってた遊びで、相撲と押し相撲の特徴を足して、魔法バージョンにしたものなんだよね」


 私は開けた地面に、直径5メートル程の円を描く。


「まず、ここが範囲。足は動いてもいいけど、ここから出たら負けね」


「ふむふむ」


「で、次に押す要素だけど、これに魔力を使います」


「魔力を使った肉体強化でやるってこと?」


「うんにゃ?純粋な魔力だけでやるけど?」


「……へ?」


 言ったまんまの意味なのに何故か通じなかったようだ。

 ルーリアは全くもって意味不明という顔をしている。

 まあ実践したほうが早いね。


「じゃあやり方を見せてあげるよ」


「う、うん」


「まずさっきと同じように手を中にかざします」


「ふむふむ」


「で、〈魔力操作〉を使って、自分の中の魔力や、周りの魔素を集めます」


「ふむふ、む……?」


「それを魔法を使わずに、無属性で単純な魔力砲にして、発砲!」


 集めた魔力を発砲した。

 すると、前方にあった木に着弾し、パンッと破裂。

 木の破片がパラパラと落ちた。


「まあ今のは球になっちゃったけど、これを連続させてビーム状にして、押し合いっこをします」


「はい先生」


「なんでしょうルーリアさん」


「流石に無理だと思うので、今からやることを変更してくれませんか?」


「やる前から無理とか言ってるんじゃありません。できないとやらないは違いますー。はい却下。じゃあやりますよー」


 まったく何を甘ったれたことを言ってるんだ。

 強くなりたいと言った覚悟はそんなものかね?


『いや、マスター基準にやられても困るでしょう』


 これでも大分合わせてやってるんだけど……。


「こんなのレイちゃん以外出来ないよ〜」


「昔はよくこれで遊んでたよ?」


「……ちなみにその遊び相手は?」


「私と同じく神だけど」


「私は人間だよ!?」


「今の私も人間だ。文句言うでない!」


「中身も経験も全然違うと思うよ〜!」


 イヤイヤと泣き言を言うルーリアを無理矢理引っぱって構えさせて、私も円の端の方に立つ。


「そんなわけで、まあ一度やってみなって」


「うう〜、分かったよ〜」


「これを上手く出来るようになれば、MP量が増加するし、魔法も全体的に向上すると思うよ。私もこの遊びだけで結構強くなれたし」


「そ、それは魅力的だね。レイちゃんが言うと特に。……じゃあ、やってみるよ」


 ルーリアを手をかざし、目を閉じて集中する。

 やがてルーリアの周りに、魔力の渦ができ始める。

 その魔力の流れに触発されて、森の木々も喜ぶように揺れ始める。

 ……やっぱりこの子は天才だな。

 将来が楽しみだよ本当に。

 もうやりすぎなくらいに強くさせまくろうかなぁ。


 天才に努力と経験を膨大に詰め込んだら、果たして何になるのやら。

 きっとある所では奇跡と言われ、ある所では化け物と呼ばれ、そして唯一無二の想い人は、そんな少女を純粋に褒めるのだろう。


 ふふふ、楽しいねえ。

 これだから、神だろうと人間だろうと、一人一人の可能性という宇宙を覗き込んで広げてあげるのはやめらんない。

 楽しいし、相手の伸び具合が分かりやすいから教えててやりがいがある。


 そして同時に、私ももっと頑張らなくちゃ、と奮起出来る。

 私も、もっと強くならなくちゃ、って。

 負けられないって。


「ん〜、んん〜」


 ルーリアが顔を歪めつつも、徐々にその手に綺麗な魔力を集め始める。

 やがてそれは形作るようにどんどん凝縮されていく。

 まだ所々にブレはあるが、それでもほぼ私がやった通りに出来ている。


「……はっ!」


 十分に凝縮し球にすると、ルーリアが目を見開き、発砲する。

 だがしかし。


 ボンッ!


「きゃあっ!」


 それは不発し、ルーリアの手元で爆発する。

 するとどうなるか。

 集めた強力な魔力の爆発を直に受けたルーリアは後方に吹き飛ぶに決まってる。

 ルーリアはそのまま木に背中を打ち付け、痛みに顔を歪める。


「うう〜、痛いよ〜」


「派手に吹き飛んだねー。はい【ヒール】」


 私はルーリアの背中を擦りながら回復させてあげる。

 まあ流石にこれは最初から成功出来るとは思って無かったし。

 でもちょっと予想の斜め上いってびっくりした。

 ルーリアの評価をちょっと上げる必要があるかもね。


「初めてにしては上出来だよ。球に出来たならあとはビームで発砲するだけなんだから」


「う〜ん、でもそこが難しいよ〜」


「魔法なんてぶっちゃけイメージだからなぁ。イメージが濃くないと実行には移せないよねー。まあイメージをちゃんとするためには、それを支える基礎知識がいるけど」


「本当にただのイメージだったら今頃魔法使いは沢山いるよ〜。何か分かりやすい例えないの〜?」


「頭をフル回転させて魂の力を膨大に使うイメージだね」


「難易度高くなった!」


 手を貸してルーリアを立たせてあげる。


「どうする? もう一回やって見る?」


「じゃあ、その前にもう一回見せてくれる?目の力も合わせて全力で〈魔力感知〉するから!」


 ふんっとやる気満々になるルーリア。

 やり始めればのめり込むタイプだよねえ。

 ちょろいわー。


「じゃあちゃんと見ててよね」


 また両手をかざし、狙いを木の幹に定め、魔力を集め始める。

 そして魔力が十分に集まり、


「はっ!」


「うおっ!?」


 直前に目標を変えて後方に放つ。

 そして驚いた声のあと、ドスンッと何かが落ちる音がした。


「え? え?」


 ルーリアは何が起きたのか分かっていないみたいだ。

 私はルーリアを放って声の方に向かうと、ルーリアも慌てて着いてくる。

 そして覗き見してた奴のところにたどり着くと、仁王立ちでドヤ顔ブイサインした。


「覗き魔退治ー!」


「人聞きの悪いこと言うなよ!」


「いや覗き見してたのは事実でしょ」


「た、たまたま近くにいただけだ!」


「あれ、セルトくん?」


「ル、ルルルーリアさんっ。どうもこんにちは!」


 私の放った魔力ビームに驚いて、潜伏していた木の上から無様に落ちたのはセルトだった。

 まあ多分、たまたま狩りの途中で私達のいた所まで来たんだろうなぁ。

 人避けの結界も今は張って無かったし。

 会話操作の結界は組織の奴らにやらせてたから、多分私が講師とはバレてない、はず。

 いや、視界はそのままだったからどうだろう……。


「こんにちは〜セルトくん。レイちゃんがいきなり変な方向に打つから何かと思ったよ〜」


「え、ルーリアは気付いてなかったの?」


「レイちゃんに集中してたから気がつかなかったよ〜」


 えー、魔力集めに集中していた私でさえ気がつけたんだから、レベルが私より高いルーリアも気付くべきでしょー。

 まあ私は魔素の流れに触れたものを感知することに慣れてるからっていうのもあるかもしれないけど。

 うむ、今度気配感知の訓練してもいいかもな。

 私がそう企むと、何かを察知したのかルーリアが青い顔して一瞬震える。


「……ルーリアさん? どうかしましたか?」


「う、ううん、なんか嫌な予感がするな〜って思っただけだよ〜」


「大丈夫、気のせいだよ気のせい」


 私がそう笑顔で言うと「あ、これ絶対なんかあるやつだ〜」とルーリアが諦め顔になる。

 こやつも大分学習したようで。


「セルトくんは狩りの途中?」


「は、はいっ。今日は家のためにピグ狩りに」


「そっか〜、セルトくんは偉いね〜」


「そ、そそそんなこたないです! 家の手伝いもするのが冒険者続ける条件なのでやってるだけです! あと訓練にもなるのもありますし!」


「でも偉いよ〜。セルトくんはいい子だね〜」


「あ、あわわわ」


 ルーリアに頭を撫でられて、引っ張ったフードの下からでも分かるくらい真っ赤になるセルト。

 お? およおよー?


「まあセルトは弓の扱いも上手いし、普通に凄いんじゃない?」


「……べっ、別にそこまでじゃねーし」


「レイちゃんもそう思うよね〜。私弓は全然触ったことないし、羨ましいよ〜」


「……そ、祖父に教えてもらってますから。祖父の期待にも答えるために、上達するのは当然のことですっ」


「おじいちゃんっ子のいい子でもあるよねえ〜。セルトくんは弓の上手ないい子だよ〜」


「あうぅ……」


 セルトの顔が更に火照る。

 私の褒めにはちょっとしか照れてないのに、ルーリアに褒められると一気に真っ赤になる。

 おっとー?

 これは面白いおもちゃの予感ですねぇー?


『おっとマスターの新しいおもちゃが増えてしまいましたか』


 くっくっく、そういう話で弄るのが大好きなこのレイ様は容赦しないのです!

 面白そうだからとことん問い詰めてやろうじゃないか!


『やめたげてー、純情っ子が可哀想ですよ』


 だが断る!


「……おい、お前何ニヤニヤしてんだ?」


「いえいえ別に? 青春だなぁーって思っただけですよー?」


「っ! おっ、おまっ、気づいてっ」


「おーっと、話しなら今後でしようじゃまいかー。その方がそっち的にいいでしょ?」


「え? なになに〜? 二人ともいきなり仲良くどうしたの〜?」


「……やっぱり生意気なチビガキだお前は!」


「純情な青春っ子がぴーぴーうるさいぞー」


「な、なんだか二人がとっても仲良しに見えるよ?」


「いや仲良しじゃないから」


「……そうですよ、昨日知り合ったばっかりの仲です」


「うん、仲良しだね?」


 私とセルトは互いに苦い顔で睨む。

 そして目で「変なこと言うんじゃねーぞ」と訴えてくる。

 私は「さーてどうでしょねぇ?」とニマニマ顔を返した。

 セルトは分かりやすいくらいの嫌な顔をフードの下から見せた。


「……くそっ、こいつめんどくせぇ」


「おい聞こえてるぞ。わかり易すぎるのが悪いと思いまーす」


「う、うるさいうるさい!」


「むぅ〜、二人があっという間に仲良しで羨ましいよ〜」


「「だから違っ……いやもういいや」」


 キッと睨み合う。

 ルーリアが横で楽しそうにクスクス笑ってるのがイラッとする。

 くそうクソガキめ。


 そうやって不毛な争いをしていると、微かな声が耳に届いた。



『『『……ノコ、ヒカリ……、オネガイ……キイテ……』』』



 何重にも重なった、人外の声。

 私はすぐにそれがなんの声か察し、周囲を見渡す。

 周囲には、誰も居ないし何も無い。

 だが、ちゃんと私には感じる(・・・)


 ……ちっ、折角楽しい所だったのに水を差された。


「……あー、ルーリア」


「ん? なに?」


「ちょっとだけここで待っててくれる?」


「いいけど、どうかしたの?」


「ちょっとした用事」


「……おい、色々と聞きたいことがあるんだが」


「後で聞いてあげるから、セルトはここで好感度アップに勤しんでなよ」


「な、ななななに言ってんだおま!」


「いや変なことは言ってないんだけど、動揺し過ぎでしょ……。まあちょっと行ってくる」


「じゃあ、待ってるよ〜」


「べっ、別にそんなんじゃねーからな!」


 わーわー、後ろのクソガキがぴーぴーうるさいぞぅ。


『からかうの好きすぎでしょう』


 からかいやすい相手が目の前にいるとついついからかうよねー。


 私はルーリア達から離れる前に、後ろをチラリと見る。

 背後の空には何もいなかったが、私の目には見知った魔力の残滓が映っていた。

 あっちはあっちで何をしてるのやら、さっぱり分からん。

 まあとりあえず、かまってちゃん共のところに行きますかー。







 *****



「あー、びっくりした。あの少年狙うフリして堂々と僕に撃ってくるんだもん。人間になっても全然侮れないったら」


 レイから大分距離を取った木の上で、一人の悪魔が感嘆のため息を吐く。

 発砲した一直線上にいなかったというのに、悪魔の座る木が軽く爆ぜているのは、魔力玉に何かしらの魔術が込められていたと見られる。

 だがその悪魔は、自分の身がさりげなく狙われたにも関わらず、酷く楽しそうであった。


「にしても、彼らもそろそろウザがってるなー。まあ、あんな奴らはどうでもいいけど。いい感じにレイを焚き付けてくれれば、もう期待することはないねー」


 悪魔が手を伸ばした先に、丁度木の実が実っていた。

 宙で指をピンッと弾くと、木の実はひとりでに落ちてくる。

 それを影のような手を伸ばして手に入れ、一口かじった。


「さーてと、この先のシナリオはどうしよっか?いっそ彼女に怒られるの覚悟で、思いっきりいい展開に持っていってもいいかもね?」


 さも楽しそうに、愉快だと言うように、その悪魔は一人、悪巧みをする。

 その顔は、まるでわざと叱られることを期待する子供のようでもあり、実に悪魔らしい笑顔であった……。






 ********



『今回は休憩』



S『これでも十分優しくしている筈なのに滲み出る鬼共感臭とは一体』

レイ「合わせてあげてるのになー。人間ちょっと辛いぐらいがいいじゃんか」

S『基準点って知ってますか』

レイ「自覚してても考慮しないことってあるよね」

S『確信犯じゃないですか』


あれでもまだ優しい部類(本人談)

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