21 神もテンプレに巻き込まれる
俺は冒険者だ。
二年ほどやってる。
まだまだ子供でなめられることもあるけど、そんなの実力で認めさせればいいだけだ。
冒険者ってのは、結局強者が勝つ。
闘うのが上手いやつ。
逃げるのが上手いやつ。
味方の補助が上手いやつ。
状況把握や判断が上手いやつ。
そういう強者が生き残り、力を伸ばしていき、金を得て、名声を得る。
だから俺も、強くなって、今自分を見下しているやつを……なんて言うんだっけ。
確か、昔じいちゃんが言ってた、ぎゃふんと言わせるってやつだ。
うん、ぎゃふんと言わせてみせる。
……まあ、人見知りはなかなか治せないけど。
なんというか、俺は昔っから上手いこと人と関わるのが苦手だ。
いや、原因は分かっている。
幼い頃から一人で遊んで、近所の奴らともあんまり関わらなかったからだ。
じーちゃんの後をついて行って真似をしたり、父ちゃんの手伝いをしたり。
一人で自分のものを作ったり、短弓の訓練をしたり。
そりゃあ一人で過ごすことが多かったら、人見知りになるのも当然ってこった。
家があれなのに人見知りだから余計にからかわれることがあるけど、一人が好きなんだからしょうがない。
じーちゃんがくれたマントのフードは、未だに外せない。
勿論、人見知りの俺にだって憧れる人はいる。
まずはじーちゃん。
じーちゃんはとにかく凄い。
今でも冒険者ギルドに行けば、周りから敬意を払われるんだ。
そして敬意を払われるくらい、凄く強い。
剣とか魔法とか、そういうのじゃないけど、長弓を引いて闘いに集中してる時のじーちゃんは誰よりもかっこいい。
そんなじーちゃんをずっと見てて、冒険者に憧れ、じーちゃんみたいになりたいって思うのは仕方ないと思う。
あとは父ちゃん。
家の食器とか店のとか、全部自分で作ってて、本当に凄い。
どれも綺麗な彫刻が入っていたり、触り心地も使い心地もいい。
作業現場を見る度に、かっこいいしすっげーって思う。
凄いとしか言えない自分の口が恨めしいけど、凄いものは凄い。
最後に、あの人のことは尊敬するし、それに……。
う、うーん、何故か考えるだけで恥ずかしい。
無理だと分かっているのに、なんで目を向けたんだろう。
自分でも馬鹿だと思う。
だがチャンスはあるはずだ。
闘う時と一緒で、チャンスを逃さず掴めば、可能性は無くはない。
……いや、やっぱり無いかもしれないけど、挫けずに行こう、うん。
それと、憧れとかそういうのじゃないけど、あいつのことも、なんかすげーなーって思う。
最近冒険者になったばっかりのチビ女。
チビで歳下で冒険者歴も俺より短いくせに、タメで生意気なやつ。
しかも、初日からあの人への感情も知られ、それを使って色々からかってくるムカつくやつ。
でも冒険者としては、多分将来有望なんだろう。
魔法も使える。
短剣の扱いもそこそこ上手い。
そして戦闘なれしてるかのような勘とセンス。
かと思いきや、変なドジを踏む。
でも総合してみれば、幼いながらに凄いやつだ。
そして、よく分からんやつだ。
妙に正直だったり、からかいのが好きだったり、変に子供っぽかったり、かと思いきや大人びた感じもあったり。
子供なのに、どこか子供に見えないやつだった。
そして、人見知りな俺でも、何故か不思議と一緒にいて、簡単に話せて、面白いと思えるやつだ。
何故か、一緒にいて楽しいなんて思えるんだよな。
まあ、生意気だけど。
多分あいつは、すぐ俺のことなんて追い抜きそうだ。
でも、そんなん悔しいから嫌だ。
違う分野だとしても、実力で簡単に追い越されてたまるか。
もっともっと修行しねーと。
あと、あの人とも仲がいいみたいだから、あいつを通じて、もっと仲良くなるチャンスだと思う。
どんな手でもいいから、視界くらいには入れる男になろう。
そのためにも、今日も強くなろう。
周りになめられないために、あの人にも見てもらうために。
……行く前に、あいつを誘ってもいいかもな。
なんだかんだいって、頼りになる、あの生意気なチビ女を。
*****
「だああああ!」
走るー走るー、俺ーたーちー。
流れる汗なんぞ全く考えずに走る私。
考えるよりも足を動かし、ただ逃走のために全力を尽くす。
死なないために死ぬ気で走る。
でなきゃ死ぬから!
「悪いな嬢ちゃん! 面倒なことに巻き込んじまってよ!」
「全くだよ! トラップに引っかかってゴブリンの群れに追われるパーティーに巻き込まれるとか、どんなテンプレなの!?」
「本っ当にすまねえ! うちのバカがやらかしちまってよ!」
「俺も反省してますってグレッドさん!」
「反省だけじゃなくて打開策も考えろ!」
「さーせん! 馬鹿でほんとさーせん!」
そう、私とこのパーティーは追われている。
ありがちな、ゴブリンの群れに。
私は冒険者生活が始まって二週間目。
そろそろダンジョンとかいいかもなーと思い、思い至ったら即日、一日で浅い所まで潜る準備をして、さっさと挑戦しに行った。
ダンジョンっていうのは、これも勿論私がこの大陸のために作った特設魔術会場で、魔物や宝箱が湧く場所だ。
え? 魔物はともかく宝箱まで湧くっていうのが分からない?
宝箱湧くったら湧くんです。
ポンと出現するんです。
あ、勿論魔物はポンなんて出ずに、ある程度の生態系はあるよ。
『いや、宝箱の出現方法やっぱりおかしいでしょう』
素直に受諾して実行したのは誰だっけ、誰だっけ?
『はい当機ですよ当機の馬鹿者。なんでこんな変なシステム実装しちゃったんでしょう……』
昔のお前は素直だった、オーケー?
『おっふ』
楽しければよーし!
この大陸なんて、とうの昔に科学とか物理的法則とか殆ど無視しちゃってるんだから気にしたら爆発するよー!
『爆発する意味が分かりません』
ノリに決まってるじゃんじぇーけー。
で、だ。
とにかく私はダンジョンに来た。
ダンジョンってのは、普通だったらパーティー組んで、最下層まで挑戦するんなら数日かかるのものだ。
だか、都市ビギネル近くにあるデールのダンジョンは私基準でそこまで難易度高い場所でもないので、浅い階層なら一人でもまあ大丈夫だろと思って挑戦しに来た。
ルーリアはちょっと心配してたけど、暇があればダンジョンにいる冒険者を眺めて無様な姿とか笑ってた私でっせ?
ここの三十層程度しかない浅いダンジョンなんて知り尽くしておりまんがな!
モーマンタイ!
『やっぱりこの神様最低でしたね』
まーまー、面白い世界にしてあげたのは私なんだから、この位の暇潰しはいいでしょうに。
そんな訳で、適当に魔物討伐したり、ダンジョン内の宝箱を探したり、そこそこに満喫していた。
そして第五層くらいにいたとき、遠くから大量の魔物が来ることを〈気配察知〉で感じた。
気配の感じた方に視線を向けると、土埃を巻き上げてやってくる四人組パーティーと、その背後には大量のゴブリン。
で、今に至る。
あるあるの華麗に助けるシーン?
あるわけないじゃん!
いくらダンジョンの知識があっても、今の私はか弱い初心者冒険者だぞ!
無理っす。
一緒に逃げるのが関の山っす。
巻き込まれたので逃げてるあいだに、敬語なんぞ一切使ず、苛立ちを向けて簡単に説明プリーズすると、簡単な話だった。
仲間の一人がヘマして罠に引っかかってゴブリンの群れが現れるボタン押しちゃった。
はい、以上。
このダンジョンで罠に引っかかるやつって超レアキャラなんですけど。
ダンジョンの罠って階層が深いほど色々面白くて難しいものになるけど、こんなDランクダンジョンの第五層の罠って。
聞いた時は耳を疑ったわ。
私の中ではいい笑いの種として重宝するくらい、珍しい間抜けなんですけど。
ダンジョン内にある罠は俗にトラップと言われる。
獣を捉えるためのものとか、侵入防止のものでは無い。
ダンジョンにのこのこやって来た冒険者を邪魔するための、言ってしまえばお遊び要素だ。
しかしただのトラップと思うことなかれ。
宝箱かと思いきや、目の前に落とし穴が出現したり。
普通に歩き回っていたら、突然踏んでしまった感圧版が、床の下に地中にいるタイプの魔物を呼び起こすとか。
あとはこいつらが引っかかった、宝箱の周りにある罠の解除法を間違えると、宝箱の後ろの壁の奥の部屋でステンバーイしてた魔物が襲いかかってくるとか。
その他諸々楽しいトラップが満載でございます。
ただし見ていればの話だけどね!
やられる側はたまったもんじゃない!
畜生誰だそんなトラップを作ったのは!
私か!
『一人ボケツッコミお疲れ様です。これが因果応報ですね』
すいませんでしたー。
私がせせら笑っていた冒険者達の恐怖がちょっとだけ分かった。
たまたまトラップ引っかかってこうなるなんて嫌だね。
まあ廃止なんてしないけど。
ダンジョンと言えばトラップでしょうに!
『謎の常識』
私の常識、世界の常識です。
『間違ってないしいくらでもねじ曲げてしまえるのが恐ろしいですね……』
しゃーないやん、神なんだもの。
いや、にしてもこの状況は本当によろしくない。
魔法?
いや、この数相手となると初級魔法でも大量に撃ち込まなきゃ足止め出来ない。
そしてそんな魔法構築には人間の体では集中力を必要とする。
こんな切羽詰まった状況把握じゃ、逃走のために体を僅かに軽くすることしか出来ないわ!
あとは、一瞬でダンジョンから出る方法というのもあるが、それも無理。
ダンジョン潜る際には大抵の者が、『テレポストーン』という、そこそこ値が張り使い捨てだが、非常時には大変便利な道具を購入してから来る。
名前から察せられるように、使用するとダンジョンの入口まで瞬間移動するという、別名小型転移石だ。
しかし、これは使用者の魔力を消費し、尚且つ、一定の準備時間を必要とする。
つまり、少し安全で落ち着ける場所で、集中して使わなければならない。
非常時脱出用なのに安全な場所限定とはこれ如何にと思うかもしれないが、そう簡単に転移が使えたら魔法使いが泣く。
発動の定石としては、大抵は集団でいる時に、発動中は前線の者達が時間稼ぎをし、優先して逃がした人物を魔物から離した後方で使わせるというものなのだ。
つまり、こんな少数パーティじゃそんな戦法は取りにくい。
となると、自力で出口まで脱出するしかない。
「きゃあっ!」
がまあ、上手いこと行かないのがテンプレイベントの醍醐味な訳でして。
つまり、ダンジョン内の第四層付近へと差し掛かったとき、四人組パーティーで一番足の遅かった魔法使いのお姉さんが転んだ。
うぉぉい!?
そこまで回収するか!?
私何も悪くないよ!?
「メリダ!」
グレッドと呼ばれていたリーダー風の男が思わず足を止める。
仲間としては正しいかもしれないけど、冒険者としては微妙だ。
何が出来るっちゅーねん。
出来ることと言ったら、ゴブリンに棍棒を振り下ろされて、殺される寸前のお姉さんを呆然と眺める程度だ。
そう思っていた瞬間だった。
──ヒュッ!
棍棒を振り上げていたゴブリンの脳天に、深々と矢が刺さる。
ゴブリンは何も分からないまま、ヘッドショットされて絶命した。
お姉さんも呆然とし、私達も固まったままだった。
トスッ! トスッ! トスッ!
また連続で、しかも全て脳天に命中する。
ゴブリン達の方もわけが分からず、その場でたじろぎ足を止めた。
だが分からなかったのは私達も同じ。
私だけが反射的に矢尻の方向に目を向けると、そこに一人の少年がいた。
「……はぁ」
大人の背より少し高い位置にぽっかりと空いた、直径二メートル程のそこそこの大きさの横穴。
その穴の縁に、短弓を構えフードを深く被った、狩人みたいな少年がいた。
フードの隙間から僅かに伺えたその顔には、如何にもめんどくせーと書かれていた。
おうおう、なんで突然ぽっと出の奴が主人公ポジとってんねん。
なんか高い所立っているのもあり、ちょっと腹立つよ!
『お、大人気ない……』
るっせー!
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『以下の用語とその解説が追加されました』
「場所:魔術空間:ダンジョン」
宝箱や魔物、またダンジョントラップの多数配置されたフィールド。
詳細:システム管理されている大陸にだけ存在する、魔術で生成された、ある種の特殊空間型モンスター。
洞窟型だけでなく、森林型、溶岩地帯型、城型と様々である。
中には様々な魔物や、また宝箱がある。そして罠の種類も豊富で何でもござれ。
宝箱は確率物。
中身は運任せである。
冒険者達は魔物から素材を集めるよりも、宝箱探しメインにダンジョンに来る。
中には珍しい魔剣や魔法のアクセサリなどもある。
ダンジョンのランクはS、A、B、C、Dと五段階で、Dが一番難易度が低い。
つまり、Dランクダンジョンは魔物も弱いしトラップも簡単なもので、宝箱の中身の価値も低いことが多い。
補足:遊び心塗れのフィールドを何故か採用してしまった当時の当機は、忠実すぎたのか狂っていたのか……。
「物品:魔法道具:テレポストーン」
ダンジョンの入口まで即座に瞬間移動出来る優れもの。
詳細:別名転移石。
ダンジョン内でのみ使用可能な道具。
使用者の魔力を流すと発動される。
勿論使い捨て。
だが発動への準備時間が少しあるため、使用するには多少安全な場所で無ければならない。
また敵を前にしても冷静に魔力を流し込めなければならない。
色々と条件があるが、これがあればどんなに深く層でボロボロになっていても、すぐに地上に出られる。
補足:まあ発動に時間かかるのは、魔法使いの沽券ためというのと、マスター的につまらなかったからというのもありますけどね。
S『主人公枠返上ですかね?』
レイ「やめて! 主人公は私!」
S『次回、新主人公活躍』
レイ「おいこらー!」
何かと通りすがりの人を助けていく偏見主人公イメージ。




