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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
1章 神の大冒険の始まりだそうです。
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19 女神と少女の交友小話③



「フォル様ー!」


「わわっ、どうしたんですの、ルーリア。いきなり飛び付いてくるなんて、貴女らしくないですのー」


「……フォル様、わたくし、好きな殿方ができてしまったかもしれません!」


「え?」


「できてしまったかもしれません! いいえ、できました!」


「……ええ?」


 エルリアとフォルが出会って約一年。

 初めは疑心や恐怖心が少しあったエルリアだが、今ではフォルののんびりした雰囲気に毒されて、時折種族が違うことなど忘れて仲良く話すようになった。


 そしてお嬢様としての教育や環境と、フォルの性格のギャップにより、この年齢で外の顔内の顔を作ることが上手くなっていた。

 フォルとしては別にそうするつもりは無かったのだが、本人としては「表情や感情を自分で管理する力は、貴族として早いうちから身に付けておいて損は無いですから」と笑って言っていた。

 まあ、本人がいいならいいのだろう、とフォルは自分を納得させた。


 出会ったその日に、自分のことは誰にも言ってはならないということと、そのユニークスキルの能力を話し、スキルの扱いを気を付けるようにという説明はした。

 そして、自分はエルリアの目と自分の目を繋げて、遠くからそちらの世界を勝手に見ることが出来るということを。

 エルリアはそれらの説明に、特に不快感を示すことなく、「それくらいなら全然いいですよ。女神様には女神様なりの深い理由があるんでしょう」と明かしてくれたことを喜んだ。

 別に深い意味なく、ただの趣味なのだが、そこはあえて言わないでおいた。

 ……その誤解が数年後にとある神と出会うまで解けなかったことは、また別の話。


 フォルは昼間でもエルリアに〈念話〉を使うことは出来るが、それでは変なところでボロが出るかもしれないし、落ち着いて話せないということで、毎日ではないが、頻繁に夢の中で会うのが恒例となっていた。


 そして今日はエルリア六歳の誕生日。

 交友深い伯爵家にも、誕生日が近く同い年の次男がいた。

 そのため、その日は初めて、騎士一族の伯爵家とエルリアの侯爵家が、エルリア侯爵家の屋敷に集まって、一緒にお祝いしたらしい。


 フォルは視界を共有することは出来るが、ずっとしている訳でもないし、その間のエルリアの感情も表情も読める訳でもない。

 なので、ちゃんとした話は夢の中でないと出来ないのだ。


 そしてフォルは、初めてレイ以外の人物に戸惑わされていた。


「えーっと、それはもしかして、あの伯爵家の長男の方ですの?」


「いいえ、同い年の次男の方、リグアルドという者です!」


「次男の方? 何かの間違いでは?」


 アンタリル侯爵家と交流の深い家、コルマー伯爵家。

 そこには二人の兄弟がいた。

 片方は天才、片方は平凡な努力家である。


 兄の方は、生まれたときから異才を放っていた。

 剣技や発想、気品ある紳士な立ち振る舞い。

 幼いながらに、人の目を引いていた。

 そして評価も高かった。

 しかしそれに驕るわけでもなく、純粋に自らの望みである剣の極みに到達するため、成長を続ける。

 国の騎士達にとって、最も栄誉な称号である、「剣聖」の称号を貰える可能性のある候補の一人だと、洗礼式を受けて数年の子供ながら言われていた。


 一方確か次男の方は、一言で平凡と称せる幼年であったはずだ。

 貴族で伯爵家で、もう幼い頃から剣を持たされているが、立ち振る舞いも剣筋も歳並みで普通。

 兄と比べると、全て劣っており、取り立てて言うところもない幼年だ。

 将来に期待がかけられているわけでもなく、周りからの評価も薄い。

 強いて言うなら努力家だが、それは誰でも同じことである。

 勿論、これらの情報は、フォルから見た少しの情報とレイに貰った情報によるものだが。


 とにかく、ルーリアが惚れる要素が特になさそうな幼年だ。

 強いて言うなら、兄よりは大人しめの整った顔だろうか。

 しかしエルリアの興奮は止まらない。


「いえ、間違いでも勘違いでもありません! 私、リグアルドを見ていたら、自分の心臓が反応したのです! それが事実、それが証明です!」


 フォルは、心底どうしたものかと思った。

 貴族としてお淑やかに育てられたエルリアが、ここまで興奮するのを見るのは初めてなのだ。

 新しい一面を見れて嬉しいが、ここまで興奮した者には、まずどんな言葉をかければいいか分からなかった。


「えーと、とりあえず、落ち着いて椅子に座るですの。話をちゃんと聞きますから」


「あっ、はい、すみません、いきなり興奮してしまって。はしたないですよね」


「別にワタクシの前ではそういうことは気にしなくていいですの。むしろ新しい一面が見れて嬉しいですの」


 まあ驚きの方が強いけれど、とは言わなかった。

 そしてエルリアは、今度は落ち着いて話し始めた。


 誕生日会が終わり、主役が揉みくちゃにされるのも疲れるだろうと言うことで、会場には集まった大人達が残り、エルリアとリグアルドは先に部屋に戻った。

 しかし部屋に戻っても、特にしたいことも無く、落ち着かなかった。

 なので、いち早く立派な魔法士である母親に少しでも近付けるように、いつものように魔力を操る練習をしようと、庭に出ることにした。


 そして庭に出ると、誰かが剣をふる音がする。

 一瞬、伯爵家長男の方かと思ったが、向こうは大人達の対応は自分がするから、君達は先にお戻りといって、会場に残っていたはずだ。

 もしかすると、もう戻ってきたのかもしれないと思い、庭に足を踏み入れると、そこにはリグアルドが一人で黙々と剣を降っていた。


 ルーリアは、二人きりのその空間で、初めは特に何を思ったわけでもなく、邪魔にならないように、区切りのいいところで話しかけたそうな。


「熱心ね」


 突然の声に、リグアルドは剣を握ったまま、しかし姿を見た瞬間、地面に刃先を下ろした。


「リグアルド様、よね。さっきはあんまり落ち着いて自己紹介が出来なかったから。私はエルリア・アンタリル。お母様のような魔法士になることが目標よ。貴方は?」


 リグアルドはエルリアの屈託のない笑みを向けられて、その仏頂面に、ほんの少しだけ、小さな笑顔を見せる。


「……私はリグアルド・コルマー。尊敬する立派な家族のような騎士になることが目標です」


「一番尊敬しているのは、やっぱりお兄さん?」


「そうですね、尊敬度に優劣なんてないですが、あえて上げるならやはり兄上ですね」


「リグアルドのお兄さん、凄いものね」


「ええ、周りからの見ても凄いように、私にとっても憧れで、目標で、尊敬する人です」


 見晴らしが良く、使用人によって整えられた庭に、涼しい風が吹く。

 エルリアは、目が痛くならないように空を見上げた。


「でも、憧れの人が一番近くにいるのは、嬉しいことだけど、ちょっぴり寂しいことよね」


「どうしてですか?」


「だって、目の前でその凄さや、周りから称賛を受けている姿を見ると、本当に私もこんなふうになれるのかしら、と不安になってしまわない?」


 エルリアが悩んだ顔でそう言うと、リグアルドがキョトンとした。


「何を言っているんですか、エルリア嬢は。届かないなんて、今は当たり前ではないですか」


「え?」


「私達はまだ子供ですよ? 自分に大きな期待も高望みもかけられるわけが無い。今急いだって、届かないのは当たり前です」


 リグアルドはそう真っ直ぐな瞳で言い切った。

 そしてエルリアは、一瞬固まったあと、その言葉が自分の中にストンと落ちて笑ってしまった。


「ふふ、ふふふっ。そうね、その通りだわ」


「エルリア嬢?」


「ありがとうリグアルド様。私はどうやら上ばかり見上げすぎてた見たいですわ。そうね、まずは自分の足元を見なければね」


 エルリアは、自分の足を見て、それから空を見上げた。


「今は届かなくて当たり前。なんでそんなことを忘れていたのかしら」


「気が急いていたのではないですか? 急ぎ足は転ぶ原因になりますよ」


「ふふっ、その通りね。とっても分かりやすいわ」


 エルリアは、なんだか自分の心が軽くなったきがした。

 無意識の内に、自らに期待をかけすぎていたのかもしれないと。


「ねえリグアルド様、二人で約束を交わしませんこと?」


「どんなですか?」


「いつか絶対、自分の憧れの人に追いついて、追いつけるくらいになると。そして、そのためにお互いに目標に向かって一歩ずつでも歩み続けると」


「そんな約束をしなくても、エルリア嬢はきちんと進んで行けるのでは?」


「私がしたいからしたいのです。ほら、手を出して」


 エルリアに言われるがままに、リグアルドはエルリアに手を出した。

 エルリアはその手を両手で握り、胸のあたりまで持ち上げた。


「互いに、自分の足元もしっかり見ながら、ちゃんと目指し続けましょう。約束ですよ?」


 強引だが優しい笑みに、リグアルドもちゃんと答えた。


「分かりました。約束ですよ」


 そう小さく微笑んだリグアルドに対して、エルリアはしばらく、この手をほんの少しでも離したくないと思った。

 だが一瞬で気が付き、手を離した。


「でっ、では、訓練に精進しながら、自らの体調はご自愛くださいませ。私はこれで」


「はい、そちらこそ、貴女の道に祝福があることを祈っています」


 エルリアははしたなくならない程度に、その場から駆け足で離れた。

 そして、自分の部屋に篭って、自分の心臓を抑えた。


「これは、小走りしたからですの?それとも、私は……」


 そう言って、ほんの少し熱を帯びた顔を抑えて、今晩は早く寝ようと決めた。

 だが、夜になるまでずっと、リグアルドの顔が離れず、家族にどう言えばいいか分からないため、夢の中でフォルにすがりついた。


「そんなわけで、私思ったのです。これは恋ではないかと!」


 フォルは思った。

 レイ様の追記通り、本当に面白い展開になりそうだ、と。

 それからフォルは、言葉を選びながらエルリアの興奮を抑え、そしてエルリアのまとまらない興奮した言葉を聞き続け、それは恋かもしれませんね、と答えてしまった。


 それ以降、フォルはエルリアの、恋愛相談者第一号となり、毎度毎度夢の中で楽しい恋バナに花を咲かせたそうな。





 それから数年後、まさか、自分の主人の方が、人間のフリして冒険者になり、同じく魔法の道を極めるために冒険者になったエルリアと出会うなど、思いもしなかったが……。

 それはまた、別の話。



(ちなみに脇からこっそり覗いてた人達)

レイ「この展開は予想外」

S『人間の感情って不思議ですね』



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