17 女神と少女の交友小話
宙:お前名前「フォルトゥーネ」ってので長くてめんどいから、この回では全部「フォル」な。決定!
フォル「ねえこれワタクシ怒っていいですの?怒っていいですのよね?」
レイ「殴っていいぞ。私が許可する」
宙:私に落ち度などなa
S『そしてその後その汚物を見るものはいなかった、と』
「初めましてですのー。ワタクシは女神、幸運の女神、フォルトゥーネっていいますのー」
「……え?」
「ああ、貴女の名前は知ってるので、名乗る必要はないですのー。ワタクシのことは、気軽にフォル、とでも呼んでほしいですのー」
それが出会い。
少女に出来た初めての、まるで友人みたいな神様との出会い。
そしてこれは、人間観察好き女神の、少女交友小話である。
フォルが少女のことを知ったのは、レイに紹介された時であった。
「はい、この中から適当に選んどいて。ま、お前なら本当に適当に選んでも、いい感じの奴選べると思うけどね。このチート奇縁持ちめ」
この世界に持つフォルの木の隠れ小屋にて、不定期な休暇を、魔術研究を進めながら有意義に過ごしていたある日、レイが十枚ほどの紙を持ってやって来た。
本当になんの連絡もなく突然やってくるものだから、フォルの小屋という研究小屋は散らかっていた。
「ああ、もう、いつも連絡が欲しいと言ってるじゃないですのー。なんでいきなり来るんですのー」
「いいじゃん別に。お前の小屋が散らかってようとどうでもいいし。お前の都合もどうでもいいし。暴君かよ的なツッコミは無しで。あ、この椅子使っていい?」
「どうぞですのー。お足元気をつけてくださいね? あと、紙はその机の上に置いておいてくださいですの。ワタクシはお茶と菓子を持ってくるですのー」
「美味しいお菓子でよろー」
勝手に来ておいて美味しい菓子をさも当然のようにねだるレイ。
そんなレイに苦笑いしながら、やはりこちらにも研究道具で七割ほど埋まっている台所にてお茶を入れる。
整理整頓は苦手ではないのだが、研究の途中で連続的に様々なことに手を出しているうちに、片付けるのを忘れてしまうのだ。
神なら皆使える空間収納に全て仕舞えればいいのだが、フォルの研究で扱うものの中には異空間の時空の流れにすら弱いものあったり、中でどうなるか分からないものもあるため、外に置いておくと自然と積み上がってしまう。
よって、こうして誰かが突然来て研究が中断されない限り、片付けに手を出さない。
息抜きもこういう時以外しない。
中位神なので、数年ほど栄養を取らなくても問題は無いのだが、やはり精神的には自然と且つ当然疲労がたまる。
精神の疲労は、精神に干渉する魔術が得意なものでないと上手いこと改善されないので、その点に関しては人間と同じように休憩をとるしかないのだ。
なのでフォルは時折、もしかするとこの方は自分を強制的に休ませるために突然訪問するのだろうか、と思うが、人の家で迷惑にならない程度に程よく好き勝手する姿を見ると、やはり好きに行動してるだけなのかもしれないとまた苦笑いする。
お茶を入れると、フォルも椅子を異空間から取り出して席につく。
今日のお菓子はクッキーらしい。
「いっただきまーす」
お茶に口をつけたあと、問答無用でクッキーに手を伸ばす。
普通であれば出した側が先に安全を保証するために食べそうなものだが、レイほどの神に治癒出来ない毒などほとんどないので、その心配すら見せない。
その自信と傲慢さには憧れすら抱けるが、同時にそういう時に大丈夫だろうかと不安にもなる。
「うむ、うまうま」
「気に入ってもらえたようで何よりですのー」
「でもあの主夫のクッキーが一番美味しいなーって思っちゃうんだよね」
「ああ、カルランさんですの。確かにそれは思いますの。人間よりもずっとずっと料理を極めてきた月日が長いのですから、当然のような気もしますが」
「まあねー。そして愛でもあるよねえー。微笑ましい微笑ましい」
馬鹿にするわけでも見下すわけでもなく、大して興味がなさそうにレイは淡々とそう口にした。
そして口の中にまたクッキーを放りこむ。
それを目にしながら、フォルは紙の方に目線を移す。
今回もまた様々な人間が候補に上がっているものだ、と自らもクッキーを口にしながらフォルは思った。
この紙に書いてあるのは、とあるユニークスキルを持たせる人間の候補だ。
フォルは比較的、星から離れて他の星や神々の調査をする忙しい諜報活動員のため、そんなフォルのために態々作られたスキルが〈精霊の目〉というものである。
フォルは人間と談話するのが趣味であるという変人ならぬ変神であり、人間と話す時はいつも楽しそうである。
なのに諜報活動のために星から離れることが多く、人間と話すことも少ないために、人間といつでも話せる道具か魔術が欲しいとレイに我儘を申した。
レイは、変にストレスや不満を募らせるのは互いに良くないと思い、すぐにSと協力してスキルを作る。
その結果産まれたのが〈精霊の目〉というスキル。
そしてレイは、本来は神と話が出来るだけでも光栄なことであるのに、むこうの趣味のためだけに神経使いそうな神と話せというのは中々可哀想だと、その本人に対して酷く失礼な気遣いにより、そのスキルにちょっとした力をつけた。
その効果が、《本来は視覚することの出来ない魔素や魔法式などを視覚化出来る。またそれらを操作する力を上昇させる》というものである。
別にこれ自体に深い意味はない。
単純に、地味だけどとても便利なスキルをつけたいと思った時に、レイがこれにしようと直感で決めたものである。
わかりやすく表すと、〈魔力感知〉と〈術式感知〉をほぼレベル10の状態で発動出来て、〈魔力操作〉や魔法構築能力を強化するというものである。
このシステム管理下にある世界において、スキルレベル10とは最高値であり、あまり到達出来るものでは無い。
基礎ステータスの底上をするスキルならば、そこそこ上げやすいが、それでもレベル10はあまりいない。
そんな効果のあるスキルを、産まれたての子供に付けるのだ。
普通であれば大混乱するだろう。
なので、自らがステータスを鑑定する時以外には、他人にもステータスカードにも映らないようにする。
そこら辺は子供達の平穏を考慮した結果だ。
だが、ステータスカードなどに映らないようにすると、余計にその子供が異様になることもある。
平民や農民であれば、魔法を扱うことなど滅多にないし、そもそも魔法は誰かに教えられなければ使えないので、使えもしない。
よって、異様さがバレることはないので問題無い。
大抵魔法を使うのはそういう親族がいるか貴族くらいなものである。
だから、貴族などにそのスキルをつけると、とても目立つ。
生まれつきの天才だの神に愛されてだのと賞賛されるだろう。
だが逆に、持っていても割と異様に見えないので、騒ぎは小さいだろう。
まあ神からの恩恵であるのは間違いないが、少なくとも愛やら思いやりはない。
フォルはそんなことを思いながら、今回は貴族の子などがいいかもしれないと思い、後半部分に並んだ貴族の子供の紙を見た。
今回はスキルを持たせていた人間のうち、一人が死亡してしまったので、その穴埋めを決めるための選別だ。
紙には、そこ本人からすれば何故そんなことを知っているのかと思えるようなことが、簡潔に分かりやすく書かれていた。
勿論、神の前でプライバシーの云々は揉み消される。
そしてちなみに、レイがどのような基準で子供を選んでいるかというと、長くもつように(レイが何度も面倒なことをしなくていいように)生きやすい子供で、そしてレイの目から見て面白そうな子供である。
勿論、面白そうというのはレイの主観だ。
大抵は碌でもない。
そうしてフォルは、一人の少女の紙で手を止める。
その少女の家族や環境などの詳細を閲読する。
ここら辺はレイがシステムで集めたのと組織の諜報員に集めさせた情報である。
(貴族で侯爵家、そして母には優秀な魔法士団の副団長を持ち、父は国の優秀な文官である、ですの。そして家族全員が騎士であるとある伯爵家の婦人と、侯爵家の婦人が友人であり、両家は良い関係を結んでいる。レイ様の追記はー、なになに、伯爵家の兄弟のどちらかと、侯爵家の長女は、両家の関係より、いつかこの伯爵家のご子息と婚約を結ぶ可能性が高いため、そこら辺の色恋の青春が見れるかも、と。ほほう、面白そうですのー)
フォルは口元を布で拭き取りながら、その紙をレイに差し出した。
「おっ、決まったの?」
「はいですの。この子に決めますの」
レイはフォルから紙を受け取り、紙を一瞥すると、ふうんと楽しそうな笑みを浮かべた。
その紙をパチンと弾き、二枚に増やして片方をフォルに渡し、残りの持ってきた紙は全て回収して自らの異空間に仕舞う。
そして綺麗にクッキーを食べ終わり、席を立つ。
「おっけ、じゃあ今から設定してくるよ。楽しみにしてるんだね」
「はーい。いつもどうもですのー」
「なーに、どうせいつも私だって横から楽しんでいるからね。じゃあばいばーい。また面白い研究したら教えてねー」
レイは外へ出ると、一瞬で転移した。
これで今からその少女にスキルを与えるのだろう。
「ふふふ、楽しみですのー。どんな子か、わくわくドキドキむねむねーなのですのー」
そう言ってフォルは、もう一度紙を確認した。
その少女の名前は、エルリア・アンタリル。
これが、二人の出会いへの、第一歩目であった。
S『割と好き勝手してますよね。あの魔女の家で』
レイ「物ぶっ壊してないしセーフ」
S『いやー、セウトですかねー』
壊さなきゃセーフ。




