13 神に天誅とはこれいかにタコに
ぶっ、はぁぁぁ〜。
私はベッドに仰向けにダイブし、息を吐いた。
いやー、濃い一日だった。
てか濃すぎじゃない?
ありがちな新人絡みイベントがあり、何故か小ボス的な山猫に会い、どういう巡り合わせかあのルーリアと会い、最終的に師弟関係になる。
むう、バンバン展開進んでくマンガやラノベじゃあるまいし、一日でここまでいかなくてもよかろうに。
『お疲れ様です』
ああ疲れたよ、なんか疲れたよ。
『そんなマスターに一言、まだ一日は終わっちゃいません』
なぬ?
『ほら、マスター当機の念話ペンダントだけでなく、水晶タブレットを持って行きましたよね?』
……まさか。
『はい、お仕事の時間です』
いやです。
『天誅』
ぎゃあああす!
何今の!
何今の謎攻撃!
なんか頭と体がピリッと来たんだけど!?
『マスターが最終決定下してくれないと困る案件だとか、彼らに報告するその身体の健康具合とか、色々ありますから』
ええー。
めんどいんですけどー。
特に管理者の仕事とかいい加減あいつがやれよー。
『当機はあくまでシステム内領域の管理が担当であって、それ以外は管轄違いです。子守りも出来るだけしたくないですね。あれは研究馬鹿ですし。だから色々とマスターがやってくれないと困るのですが』
じゃあいっそ、お前の管理内容に組織のことも追加するとk
『天誅』
痛い痛い!
何が痛いのか分からないけど痛い!
『大丈夫です。とても安全安心な攻撃ですから』
安全安心な攻撃って初めて聞いたよびっくりだよ!
もう分かったよ悪かったよ。
やりますよ、やればいいんでしょー。
持ってきたマジックポーチになってるサイドバックをガサゴソと探り、一枚の水晶タブレットを取り出す。
それをベッドの上に置いて魔力を流し、起動させる。
これはシステム本体と連動してるもので、ペンダントとは別物で、念話するためではなく、システム内の作業をするためにある。
別にほとんどの作業はSがやってくれるらしいのだが、最終決定とかは流石にSじゃ無理らしいから、これを持っていて欲しいと、Sに無理矢理渡された。
ちくせう、部下が優秀なくせに構ってちゃんでサボるにサボれねえ。
『今サボるってハッキリ考えましたよね、天誅落としていいですか、落としていいですか』
すんませんした。
真面目にやります。
様々なデータをタブレットに送られ、次々に処理していく。
タブレットで色々片付けながら、Sと色々雑談する。
新たなユニークスキルのネタとかないのー?
『今のところはないですね』
龍の数はー?
『それも問題ないですね。特に死んでないです。ああ、でも魔獣の方のドラゴンは少し討伐されすぎて減り気味ですね』
ちょくちょく増やしてるのに減り気味って、どんなドラゴンスレイヤーがいるのさ。
『心当たりがあるようなないような……』
お前がそう言うってことは、私の知ってる奴ってことだなよし聞かないでおこう。
まあ竜の巣に少し多めに魔力を送ってあげれば?
勿論、その巣の主(あるじ)龍の魔力で。
『ドラゴンを増やしつつ、龍には力を付けすぎないようにするとは、相変わらず恐ろしいやり方ですね』
あいつら力つけるとすーぐ調子乗ったりするからねー。
こまめに力は程よく削ってやらないと。
んで、赤目の子なんかは?
『最近また一人死亡してましたね。勿論回収済みです』
まあ、また無駄なんだろうけどねー。
あれは魂自体に力がこびりついてるのか、回収した時にはただの人間と化しているし。
でも暴走した場合は肉体はボロボロだし。
魂の問題だろうなぁ。
『彼らの魂は特殊なのか、当機も上手く捕捉出来ませんし、本当に謎です』
でも、今は暴走させない方法が見つかっていて、こっちの世界にもその道具を広めてるから、まだマシでしょ。
おかげで逆に利用しやすくなって人身売買にされてるけど。
ある程度調べたら、ちゃんと埋葬しておやり。
『そういえば、最近ダンジョン変えてませんけど、どうします?』
んー?
あー。
どうしよ。
たしかー、この都市ビギネルの近くにあったよね『ウルフハウス』。
あれはそろそろやめにしてもいいかもね。
『ああ、あのマスターが狼だらけの森ってなんかよくね? という発言からノリで作られた森系のダンジョンですか。確かにそろそろ二百年くらい経つのでは?』
今度は何作ろっかー。
……雪だるま作ろう的なアレとか良くない?
『そう来ましたか。まあいいんじゃないですか?』
そうなると氷系の魔物新しく欲しいなー。
てなわけで、あのマッドロリへの連絡よろ。
『向こうも新しい実験で喜ぶでしょうね。まあ本人の喜びの悲鳴とは真逆に、他は最悪の悲鳴を上げるでしょうけど』
知らんがな。
宇宙でドヤ顔してる痛い奴らなんていくら死んだってざまあとしか思わないね。
『全くもって同感ですね。ああ、そう言えば、夕方マスターが発動させていた、あの謎の魔力集中攻撃。あれの封印魔術式をあの方から頂いておいたので、転送しておきますね。髪飾りに移すのはマスターに任せます』
おお、それはありがたい。
あんな最終奥義みたいなの、自分で無意識に何度も発動したら洒落にならん。
早速髪飾りに添付ーっと。
《熟練度が一定値に達しました。バフスキル「集中 Lv1」を取得しました》
《熟練度が一定値に達しました。バフスキル「演算処理 Lv1」を取得しました》
《熟練度が一定値に達しました。バフスキル「並列思考 Lv1」を取得しました》
うん?
色々上がったな?
あー、まあこのタブレットの中のデータを見るだけでも、魔術の式を読み解くような頭脳使ってるからなー。
あとSと話すのも、〈念話〉を使ってだから、手元の操作と念話の発動で並列思考してるようなもんだし、上がるかー。
にしても、こんな上がるもんなのね。
『人間の脳でいつもの仕事をいつものようにやると、こうなるということなのでしょう』
なるほどそれもあるか。
おかげでちょっと頭熱くなってきた。
そう言えば、あの後倒れたから、自分のステータスがどうなってるのか確認し忘れた。
〈観察眼〉はっつどー。
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『名前』レイチェル・フェルリィ
『種族』 人族
『ジョブ』シーフ
『Lv』5
『HP』102/102(↑24)
『MP』170/170(↑15)
『SP』69/70(↑15)
『攻撃』60(↑15)
『防御』29(↑9)
『魔力』121(↑9)
『抵抗』121(↑9)
『敏捷』55(↑15)
『運気』10
『スキルポイント』20
『アクティブスキル』
「罠解除 Lv1」
「火炎魔法 Lv1」
「水流魔法 Lv1」
「暴風魔法 Lv2(1up)」
「地動魔法 Lv1」
「光魔法 Lv1」
「闇魔法 Lv1」
『バフスキル』
「強力 Lv1」
「俊足 Lv1」
「気配感知 Lv1」
「魔力感知 Lv2(1up)」
「魔力操作 Lv2(1up)」
「罠感知 Lv1」
「集中 Lv1(new)」
「演算処理 Lv1(new)」
「並列思考 Lv1(new)」
「神層領域拡張 Lv10」
『ユニークスキル』
「観察眼」
『称号』
なし
********
ほどよーく上がっておるー。
うん、まあ、あの山猫私よりも格上でめっちゃ強いし、レベル3つくらい上がるよねー。
むしろまだ上がってないだけで、実はレベル6寸前なんじゃないの?
『確かにシステム内の数値的にも、あと小型の魔物などを二、三体倒せば上がりますね』
むっはー。
上がりすぎー。
コツコツプレイとは一体。
『別に低レベル時は上がりやすいため、早々に上がっていたでしょうし問題ないのでは?』
ま、それもそーかもねー。
どうせお遊びだ。
多少の予定外やらハプニングは、むしろ楽しまなきゃ損だよねー。
「お疲れ様です、我らがマスター」
突然ベッドの横に人が立つ。
勿論私は身構えたり警戒することなく、いつも通りヘラりと答えた。
「そっちこそお疲れさーん。といっても、これからしばらくは私につきっきりになると思うけどね」
「それが任務ですから」
そういって微笑む目の前のウレクという青年も、やはり私の組織の一員なのだ。
しかもエリート組の一人。
こう見えても結構な実力を持ってるんだから、侮ることなかれ。
「お身体の容態はどうですか?」
「んー、さっきも組織に提出したけど、今のところは普通だね。魔力を封じていて、いつもより全然保持していないっていうのがちょっと落ち着かないけど、これといった問題は無いね」
「分かりました。それでは、身長と体重、あと魔力保持量をそれぞれ測定させてもらいますね。こちらにどうぞ」
ウレクの持つ大きめのマジックポーチから、体重計のようなものが出される。
勿論体重計だ。
ただし、体重だけでなく身長も魔力保持量も測れるハイテクすぎる優れものだけど。
素直にそれに乗る。
すると光の壁のようなものが私を囲い、SFあるあるのセンサーのようなものが身体を測定する。
そして測定が終わると、側面の隙間からガガっと紙が出てくる。
そう!
なんと測定結果まで出てきちゃうちょーすごい子なのです!
『あの組織にある機械達と比べたら、そこまで凄いものでもないですよね?』
便利って意味だよあんぽんたん。
「はい、終わりました。御協力ありがとうございます」
「あいよ。でもどうせこれ明日もその次の日もやるんでしょ? 毎日やる意味あるのかなぁ?」
「組織内にいた時点で、マスターのその肉体は少しずつ、しかも通常よりもかなり早い速度で成長していました。あれはほとんどマスターの膨大な魔力が原因かも知れませんが、封印した後でもどれだけの変化があるかも分かりません。つまり、毎日測定しないとむしろ駄目なんですよ」
「まー、それもそっか。神や悪魔が人間の体に宿ると、急激に成長することがあるしね。そうなると毎日身体測定しないと駄目かー」
「ええ、お手数お掛けしますが、よろしくお願いします」
一応、向こうの新しい実験に協力してるんだから、きっちりやらないとなー。
これからこいつらにも迷惑かけるんだろうし、労いもしてやらんと。
「ふむ……、ウレク、ちょっとこっちおいで?」
「はい」
言われるままに近づいたウレクに、ちょいちょいと屈むように指示する。
ウレクは一瞬怪訝な顔をしながらも、屈んで背を低くした。
私は丁度いい高さになったウレクの頭を、〈ヒール〉を発動しながら撫でてやった。
「!?」
ウレクが一瞬、驚き体を震わせ硬直するが、動きはせず、私にされるがままになった。
「まあ、なんていうか、何あげればいいかとかわかんないし、とりあえずの労いみたいなものを、ね?」
「め、滅相もございません。別にマスターのお役に立てるというだけで、十分ですから」
「私がブラック社長みたいで嫌だからやってあげてんの。だから素直に受けとんなさい」
「あ、ありがとうございます」
うんうん、これで私も納得。
優秀な手駒にほぼ無報酬っていうのは、なんだかモヤッとするからね。
そうやって従順な犬を撫でてやってる感覚でナデナデしていると、私の部屋の扉がノックされた。
私が扉の方を見ると、ウレクも私の手から離れて、すぐに警戒した。
『レイちゃん? まだ起きてるかな〜。私、ルーリアだよ〜』
私はウレクの方をむくと、ウレクは警戒をといた。
「先程の方ですね。では、私は見つかる前に退散します」
「うむ、ご苦労さん。ちゃんと交代で寝るようにするんだよ?」
「数日くらい寝なくても大丈夫ですが、お気遣い感謝します。それでは」
ウレクは部屋の窓から跳びさり、姿を消す。
まるでスパイだな。
まあ諜報員だし間違っちゃいないけど。
「入っていいよー」
「お、お邪魔します」
ルーリアが恐る恐る入ってくる。
なんでそんなにソワソワしてるんだか。
「えへへ、夜に誰かの部屋にお邪魔するなんて初めてだよ」
「そんな嬉しいことかなあ?」
「私にとっては嬉しいし楽しいことなの!」
そういうもんなのか。
「それで、こんな夜に何しに来たの?」
この世界の人間は、大抵夜には寝る。
理由は勿論、夜にやる娯楽物もなければ、ランプや魔法を使って光源維持するのも面倒だからだ。
だから、こんな月明かりしかない夜に、することなんてあっただろうか?
「ちょっと、お話がしたくって」
おっと、頬の染め方から大方の予想が着いてしまった。
これはちょこっと長くなる予感ですねちくせう。
まだ初日が濃くなるんかーい!
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『今回は休憩』
S←仕事バカ(有能)
レイ←怠惰バカ(でも天才)
クディール←仕事はできる(でも失踪癖)
なんだこれ。




