12 神は風呂でも騒ぐそうで
「よし、ちょっと果実取りをしようじゃないか、だらしなおっぱい!」
「なんで!? なんでいきなり怒ってるの!?抱き着かれるのそんなに嫌だった!?」
「背中で自己主張激しいんじゃ、自重しろ!」
「む、胸の話!? そんな無茶振りな!」
「安心して? 神に不可能なことは大概ないのだから」
「やだ怖い! 女神様の笑顔怖い!」
「よっしゃ天罰じゃー!」
とりあえず、ルーリアの胸を数度叩いて満足した。
後悔も反省もありません。
むしろ若干の清々しさがあります。
あれ、私そういうコンプレックスないはずなのに、なんでこんなことになってんだろ?
ネタ的な方面が一番濃いけど、あれか、肉体年齢に引っ張られてんのかな。
なるほど、世の女性方のコンプレックスがほんの少しだけ分かった気がする。
まあ、神にはそんなに必要じゃないものだから、やっぱり分かんないけど。
え?
なんでこんなことになってるかって?
勿論一緒にお風呂に入ったからですが、なにか?
『何故風呂に入るだけでこんな状況になるのか、当機にはさっぱり分かりません』
私にもよく分からない。
『なんでやねーん』
とりあえず、時は遡ること、ほんの数分前。
私はルーリアの隣の部屋を取ったあと、ルーリアに誘われてお風呂に入った。
勿論、封印の髪飾りと、ちゃっかり防水機能が付いているSのペンダントを身につけて。
この宿屋の風呂は、木製の見事な大浴場であった。
まあ大きさはそこそこなんだけど、でも凄い。
こう、湯気さんがね。
そして熱気がね。
うん、凄い。
いい浴場だなぁって思える感じである。
……感想が雑だ。
てか私、風呂とか、最近まともに入ったことあっただろうか。
……組織のと、私が自空間にオリジナルで作った風呂に、神同士で入ったことがあるくらいだなぁ。
身を清潔にする魔術をいつもかけさえすれば、風呂とか必要ないし。
……何かと魔術に頼った生活してたんだなぁと、改めて実感した。
流石神やで。
「ほらレイちゃん、こっちこっち〜」
丁度誰もいない時間帯の浴場で、ルーリアが既に椅子を二個用意し、後ろの椅子に座って手招きしていた。
その椅子の配置はどう見ても背中洗いですね?
女神の背中を流せるとは、運のいいやつめ!
そんなわけで、大人しくルーリアの前に座った。
自分で洗うのも面倒だしね。
「はーい、それじゃまずは髪の毛を洗いますよ〜」
「めっちゃノリノリだねー。なんでみんな、何かと背中流すイベントだとテンション上がるの?」
「楽しいからだよ〜」
「面倒だとは思わないのかなあ」
「レイちゃんには背中を洗ってあげて、役に立って喜ばせてあげたい人はいないの〜?」
「……あー、まあ、いるにはいる、ね。なるほど、そういう感情か」
「そういうことなんだよ〜。はい、それじゃお湯流すから目をつぶってね〜」
ルーリアが可愛らしい鼻歌を歌いながら、ノリノリで私の髪の泡を流していく。
しかしまあ、ルーリアがちょっと前のめりになるだけで、自己主張の激しい果実が当たる当たる。
私にはそっちのけもないので、全く何も思わないが、なんだろう、この徐々に腹立つこの感じは。
こう、魂自体というより、肉体の方の精神が腹立つというか。
「じゃあ次は、背中を洗うね〜」
「うむ、よろしく」
ルーリアが優しい手つきで私の背中を洗っていく。
なるほどなー、これが楽しいわけかー、分かるようなわからないような。
まあ多分、やること自体に意味があるんだろうなぁ。
「ふふ、妹が出来たみたい〜」
「実年齢は大分離れてるけどね。いや、人間と年齢比べたって意味が無いけど」
「神様ってどのくらい生きるの?」
「うーん、私みたいな最高位の神だと、一万とか余裕でいくらしいけど、実際はあんまり知らないね。私は最高位の神の中でもまだまだ若い部類だし」
「い、一万……」
「ちなみにフォルは私よりかは全然歳上だよ。だからって子供扱いはやめて欲しいと思うけどね」
「そ、そうなんだ〜」
「……ルーリア、今私のこと軽くババアとか思って」
「ないです! 思ってないです! レイちゃんは可愛い女の子だよ〜」
ゴシゴシと程よい加減で、誤魔化すように肩や背中を洗うルーリア。
まあ、寿命が大体八十くらいの人間と比べるのはおかしい話だよなぁ。
といっても、神の中でも、全然魔力を持っていない低級の奴は百年ほどで死んたりするけどね。
「でもまあ、そんな神様が目の前にいて、私に背中を洗われてるなんて、想像出来ないよね〜」
「ま、この体は仮の体だしね」
「それでも、こうやってお話が出来て、触れられてるから、こんなことも出来ちゃうよね〜」
ルーリアがぎゅーっと抱きつく。
……なんだろう、この微妙な苛立ちは。
「うふふ〜、女神様に抱きつけるなんて、私は幸せだなぁ〜」
背中に当てられてるものがグイグイと押してくる。
そして私の中で何かがブチッと切れる音がした。
「だらっしゃああ!!」
「ひゃうっ!?」
私は勢いよく振り返り、ルーリアのその肉を叩いてやった。
「よし、ちょっと果実取りをしようじゃないか、だらしなおっぱい!」
「なんで!? なんでいきなり怒ってるの!? 抱き着かれるのそんなに嫌だった!?」
「背中で自己主張激しいんじゃ、自重しろ!」
で、あとの一連の流れは同じ。
風呂ってこんなもんじゃない?
『こんな風呂は嫌ですね』
風呂入らないSに嫌がられるとは、いやはや不思議な。
『……まあ、マスターと入るのは、悪くないと思いますけどね』
ん?
今小さくなんて言った?
『マスターは変態だなぁと』
おいこら、誰が変態じゃ。
『風呂場で美少女の胸を叩くのは変態でしょう』
おい、そういう風に聞くと私がどこぞの変態みたいじゃん!
やめなさーい!
私は変態じゃありませーん!
とりあえずその後は、私も自分の前の方を洗い流し、胸を抑えるルーリアの背中をくすぐりを入れつつ流してやり、浴槽に浸かった。
「はぁー、お風呂っていいなぁー」
「うう〜、色々と酷い目にあったよ〜」
風呂場なのに何故か若干の息切れを起こしているルーリア。
こちょこちょしながら洗ってやったけど、笑い声が色っぽい声になり始めたところでやめてやった。
ここにそういう成分はいらないんです。
私が興味ないからね。
あー、静かでまったりした空間だなぁ。
……人がいないなら、ちょっぴりはしゃいでもいいんじゃない?
私は浴槽の水を掬いながら、一つ思いついた。
「……よし、丁度誰もいないみたいだし、今ここで魔法講座第一回目を開こうか」
「え? こんなところで出来るの? 危なくない?ていうかどうやって?」
「やだなー、目の前いいものがあるじゃんかー。そしてそれをちょっと利用するだけなので安心安全」
ルーリアは目の前と言われキョロキョロして、そして気がつく。
「……まさか、このお湯を使って?」
「せーかいっ! そんなわけで、水魔法のレベル上げに繋がる基礎訓練をしようじゃないかー。理想はこの浴槽全体を魔力操作だけで、私達が流されちゃうくらいの回るプールに出来るくらい! でもまあそれは流石に無理だろうから、手のひらサイズで今回は許そう」
「回るプールって何?」
「ぐるぐる水流が起こり続ける楽しい水遊び場さ。ここよりもずっとずっと広い器に、水をたっぷり入れて、機械や歩く人の動きを利用して、ずっと水流を起こし続ける」
「ちょ、ちょっと待って。そんなの魔力だけで出来るの?」
「気合で」
「気合!?」
いや、あながち間違っちゃいない。
私は水中にある手の平の上で魔力の流動を起こし、魔法を組み立てるのではなく、それを水に染み込んだ魔素とリンクさせる。
で、水を操作出来る状態になったら、段々と渦を大きくしていく。
そして手乗り渦潮みたいなのができると、その状態を維持したまま湯船から上げて、ルーリアに見せてやった。
「ほい」
「いやほいじゃないよ?!」
「いやいや、お前の〈精霊の目〉を発動させれば、どんな風になってるか理解出来るはずだよ」
「な、なるほど」
言われてルーリアがスキルを発動させ、その目を煌めかせた。
「……ねえ、それって本当に純粋な〈魔力操作〉だけでやってるの? 何故か物凄く膨大な魔力が見えるんだけど」
「あー、マジかー。久々にやったから、無駄な魔力を使っちゃってるんだなー」
「いやいや、そういう問題じゃないよ!?」
「でもルーリアの方が〈魔力操作〉のレベルは高いんだから、出来るはずだよ。水魔法だって持ってるでしょ? その基礎ってだけだって」
「う、うう〜、強くなるため、強くなるため〜。やってみるよ〜」
ルーリアが私の真似をして、魔力の流動から始める。
そして水魔法の要領で水の魔力を操作するが、ほんの数秒の渦を作り、霧散してしまった。
「ふええ〜、これ難しいよ〜。大体これ、水魔法レベル8の初期段階だよね? 私の水魔法はレベル4で、全然そんなの出来るわけないよ〜」
やれやれ、システムの力を使わずして私は出来るのに、こいつはシステムの魔法が出来ないから出来ないと言いやがる。
全く情けない。
システムごときに己の限界縛られて。
まあ、そうした私が言えることじゃないかもしれないけど。
私はルーリアの肩に手を置いて、笑ってみせる。
「ルーリア、そんな君にいい言葉を教えてあげよう」
「ふぇ?」
「出来る出来ないじゃない、やれ」
「それはいい言葉じゃなくてただの指導では!?」
「はい、そんなわけで、水中でもいいから十秒渦が維持出来るまでお風呂から上がれません、スタート!」
「ちょぉっ!?」
その後、ルーリアは笑顔の私に肩を抑えつけられ、必死になって十秒維持に成功し、のぼせかけてたので私が頭を冷やしてやりながら上げてやった。
『お、鬼だ……』
英才教育といいなさい!
********
『今回は休憩』
レイ「胸に必要性は感じないが、グイグイ押されるとムカつくよね」
S『興味無い存在があまりにギャーギャー騒いでたら流石にイラつくみたいな感じですか?』
レイ「人で例えるのは不思議だが、まあそんな感じかもしれない」
S『ちなみにマスター本体は真っ平ら関ヶ原ですよね』
レイ「さりげなく人の設定ばらさないで」
設定とか言わないでください。




