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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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99 喧しい乱舞と優雅なお茶会

S『前半ユウキ茶番で、後半はアンタリル家茶番です、はい』

S²「茶番って言った!」

S『まあ事実ですし』

 


「それじゃ、いくぜい?」


「はっ、今日こそテメーのあほ面ぶん殴ってやるよ」


「えー? 今日もお前がまいったって言うんじゃないのー?」


「だーまれ! 俺様が言わせる側だボケ!」


 見たわす限り何も無い、ただの荒原。

 その荒原に、剣を構えて、立つ影二つ。

 互いに不敵な笑みを浮かべて、空気が張りつめた、その一瞬の時を待つ。

 そして、太陽がてっぺんの最高地点に達したその時、地面が爆ぜた。


 刹那、最早心地好いくらいの金属の衝突音が、何も無い荒原に響き渡る。


 対面せし片方は、いつもの袴姿に、絶対に赤いマフラーを外さない、黒髪茶目のユウキ。

 もう片方は、黒髪黒目に、黒褐色肌で黒づくめのレグ。

 二人は、誰もいない何も無い荒原で、剣を交えていた。


 ここは二人が見つけた、人里離れ誰にも迷惑のかからない、乱闘にはうってつけの場所だ。

 この二人は両方戦闘狂。

 しかも、雑魚ばかりでは満足出来ないカラダだ。

 だが、手頃な殴り合いならすぐ近くにいるではないか、と。

 故に、二人はこうして度々剣を交える。


 かといって、普通の場所では確実に被害が出る。

 ギルドの結界付き闘技場も、下手すれば破壊する可能性すら持ち合わせている。

 それに、人型のレグをあまり晒したくはない。

 だからこそ、探したのだ。

 誰にも被害の及ばない、人気の完全に無い場所を。


 勿論、魔物はいた。

 が、こうして二人がやってくると、野生本能的に逃げていく。

 彼らだって巻き添えで死にたくはないのだ。

 初めて来た時はユウキ達を襲ったが、一度コテンパンにされてからは、この土地の主たる岩竜含めて、一匹足りとも二人に近付かなくなった。

 ユウキとて、無駄に殺すつもりはないし、彼らの生息地を荒らして迷惑であるのは事実なので、近寄らないのならば無視をした。


 そうしていい闘技場を勝手に手に入れた二人は、戦闘欲求が高まった時、こうして剣を交える。

 似た者同士、丁度いいのだ。

 勿論、レグがユウキに勝てたことは無いのだが。


「せいっ!」


「くっ!」


 ユウキが大剣を大きく薙ぎ、レグは自らの魔力から生成した二本の剣でそれを受け止めるも、勢いは殺せず後方へ吹き飛んだ。

 そしてユウキが手をあげると、空中から無数の剣が現れる。

 ユウキの持つ〈空間魔法〉に溜められた、魔力から武器を作るスキルで作った剣達だ。

 その剣達が空を埋めつくし、縦横無尽にレグへと襲いかかる。


「ちっ!」


 咄嗟にレグは、悪魔の黒い翼を出した。

 普段は具現化していないが、レグとて悪魔、黒翼は持っているのだ。

 飛び回りながら、レグはそれらを受け流したり、避けたりして、制空権の支配権を取り戻そうとする。

 剣を避けても、その先にはユウキがいて、ユウキを避ければ、剣がいる。

 中々打開しにくい状況だ。


「はっ、ちょーしのんな!」


 だが、同じことはレグにも出来る。

 レグは己の魔力を周囲に霧散させ、それを凝縮し、ユウキと同じように剣の雨を降らす。

 無数の剣と剣がぶつかり合い、たった二人の空間にいくつもの斬撃音がなる。

 レグは全身や、一部を武器にすることが出来る。

 が、自分の魔力を切り離して、一つの武器を作ることも出来る。

 つまり、魔力が尽きない限り分身体を作ることが出来るのだ。

 中々チートである。

 二人が同時に無数の剣を、共通の敵に向けて放ったのならば、凄惨な串刺しショーでも出来そうだ。


「ちぇっ、やっぱレグのその翼、かっこいいし機能性高いし羨ましいわー。あたしも空飛びたい!」


「別、にっ、お前だって、空走るくらい出来るだろう、がっ!」


 自分を羨ましがりながら襲ってくるユウキを、斬撃で応戦しながらも反論するレグ。

 どうやら、ユウキの方が余裕があるらしい。

 レグはいつものことだが、それでも悔しさで苛立ち、剣先が雑に、乱暴になる。

 もしかすると、ユウキはこれを狙ってわざと集中力を削ろうとしているのかもしれない。


「ははっ! 楽しいねえ、楽しいなあ!」


「不覚ながら同意だよっ、とっ!」


 いや、何も考えていないかもしれない。

 まあ、実にお似合いのコンビであろう。


「ぐうっ!」


 背後目掛けて飛んできた剣を、レグは避けきれずに翼に受けてしまう。

 悪魔の翼は、悪魔にとって象徴であり、多くの魔力が集まるところ。

 悪魔は魔力の塊のため、より多くの魔力が集まるところには、より多くの神経が集まっているようなものなのだ。

 よって、魔力神経的な、つまりは痛覚もきちんとあるレグは、苦痛に顔を歪め、一瞬手に持っていた剣を手放しかける。


「らっ!」


 だが、一瞬で目の前迫ったユウキが追い打ちをかけ、レグの剣を自身の剣で凪いで、腕力に任せてぶった斬る。

 魔力の剣はその衝撃に耐えきれず、砕けて魔力となって散る。

 そしてレグもそのまま垂直に剣を振られ、地面に叩きつけられた。


「くはっ!」


 地面に軽くクレーターを作って叩きつけられ伸びるレグ。

 そんなレグの首筋に、地面に着地したユウキが剣先を当てた。

 それ以外にもレグにの周囲には、既にユウキが異空間から覗かせた剣先が何十本と見える。

 完全に、逃げ道はなかった。


「ほれ、今日もあたしが勝っただろ?」


「はっ。誰がもう降参って言った?」


「なに?」


 ユウキは普段と様子の違うレグの態度に首を傾げる。

 普段は、レグはこれくらいで降参して、続行を諦めるのだ。

 なのに、今日はまだ、何か隠し玉でもあるかのような顔をしている。

 常に行動を共にする相棒である自分に、いつの間にか何を隠しているのか。

 そんな相棒を疑うユウキの前で、レグは服の内側から何かを取り出した。


「今日の俺様はひと味違うぜ、って言ってみたり。……ちょっと恥ずかしいな」


 それは、僅かに発光して見える、直径二センチほどの透明な玉。

 一見、何の変哲もないガラス玉のようにも見える。

 が、ユウキにはそれが何か一瞬で理解出来た。

 故に、動揺した。


「おいちょっと待てお前、それまさか──」


「あむっ」


 ユウキの動揺した静止の声を無視して、レグはそれを飲み込んだ。

 反射的に、ユウキは手の中の剣は構えたまま、他の剣はしまって後方へ飛び退けた。

 まるで、レグに対して怯えるように、最大限の警戒を剥き出しにするように。


 次の瞬間、レグの内側から黒い魔力のオーラが溢れ、レグを覆った。


「くっ……あっ……」


 内側から、姿の見えなくなったレグの呻き声が聞こえる。

 まるで、何か強い力を抑え込んでいるかのような声だ。

 ユウキは、剣を強く握りしめた。

 レグとのじゃれあい、もといこの殺し合いで、久々に力んだかもしれない。

 それほどまでに、今のレグに対して、先が予想出来なかった。


「ガアッ!」


 そして、その予想外が、黒い膜の中から飛び出した。

 レグは両手に黒き魔力剣を持ち、距離を置いていたユウキに対して一瞬で詰め寄る。


「っ!?」


 正直、あと僅かに反応が遅れていたら、ユウキの喉元は切られていた。

 それくらいの寸前のところで、ユウキはレグの剣を受け止めていた。

 ギチギチと剣が悲鳴を上げる中、ユウキは思わずレグの顔を覗きこむ。


「おいっ、レグっ!」


「っ……ぐ……」


 レグは何か爆発しそうなものを押さえ込んだような表情で、呻き声を上げる。

 ユウキは、先程レグが飲み込んだ玉、正体は魔玉であったのだが、それのせいで暴走しかけているのではないかという懸念が浮かんだ。

 悪魔は、飢餓以外にも、魔力の取り込みすぎて暴走を起こすこともある。

 魔力が強すぎてちゃんと取り込めなかったり、むしろそれに影響を受けたりするのだ。

 もしかすると、今飲んだ魔玉は、レグには合わないものかもしれない。

 そう思ったユウキは、勝負抜きにレグを心配した、のだが───


「もんっ……だい、ねえっ!」


「おわっと!?」


 レグが二振りの剣を大きく振り回し、ユウキを飛ばす。

 その目には、きちんと理性の色があった。

 それを見て、ユウキは一先ず安心する。


「なるほどね、単純に、なんか強すぎる魔玉を飲んだってわけか……なら、遠慮はいらねえなっ!」


「……全力で、こいやっ!」


 そして、闘いはさらに激化する。

 地面は何度も衝撃波に煽られ、辺りに轟音がうるさく反響し、遠くにいた魔物達も、それに怯えた。

 本当に、天変地異を起こしかねない二人であった。

 傍からは非常にお似合いのコンビに見えるだろう。





 ……そして、決着が着いた。


「はあっ……はあっ……! ちく、しょう……! また、負けたっ……!」


「いやー、流石に、今回はあたしも疲れたわー。はぁー」


 何も無い荒原のど真ん中、二人は隣同士仰向けに伸びていた。

 青い空に白い雲、広がる荒原に、そして二つの影。

 ケンカのシーンとしては実にいい陽気である。


「んで? レグ、お前いつあんな代物手に入れてたん? あたし買ってあげた覚えないんだけども」


「んぁ? ありゃ貰いもんだよ。クソ女神からのな」


「なにいっ!?」


 レグの全くもって聞き及んでない情報に、ユウキは疲れを忘れて体を起こした。

 とんでもない食い付きである。


「どういうことだぁ! なんでお前がレイレイからプレゼント貰ってんのさ! ずるい! ずるすぎる! ずるいずるいずるいずるい!」


「わぁーあー。俺様を揺らすんじゃねええ。つーか、てめーのせいで貰う羽目になったんだよ畜生がー」


「ワァイ?」


 ユウキはレグの胸ぐらを掴んだまま、首を傾げて訳が分からないという顔をする。

 レグは少々苛立ったような、苦虫を噛み潰したような、そんな微妙な顔をして事実を語った。


「いやほら、前の温泉の時に、俺様が暴走するお前を殴っただろ? あれのお礼ー、とか言われて渡されてな。ついでに、これ使ってユウキ思いっきり殴っとけ、とも言われた」


「のーん!? あたしは自分でレグにレイレイからプレゼント貰う原因作ってたのか! なんてこったい!」


 うがー! っと悔しそうに頭を掻きむしるユウキ。

 離されたレグはため息をついてみせた。


「正直、あの女神に唆されてこれ使うのはすげー癪だったけど、まあ折角貰ったんなら一応使っておこうと思ってな。下手に取っておいても、実戦で使えるとも限らねーし」


「確かに。もしもの時に使って、それでレグが暴走したら元も子もないもんな。あれだっけ? 強すぎる魔力を取り込んだらそれはそれで暴走するってやつっしょ?」


「そーいうこった。今回も正直、あんな小さくてもかなりのエネルギー持ってたから、呑まれかけたけどな。これを平然と供給してもらってるヘタレ猫の奴はイカれてんな」


「流石レイレイ。強いからには持ってる力ってのも強いんだねえ」


 ユウキは嘆息しながらレグを膝の上に乗せ、その小さな頭に自身の顎を乗せた。

 勿論無許可でそんなことされたレグは、分かりやすく嫌な顔をする。


「おいこら、くっつくんじゃねえ」


「疲れたからやだー」


「暑苦しいんだよ馬鹿」


「いいじゃんかー、勝者の特権ー」


「特権ちっせー……いや俺様的には十分にウザイけど……」


「ほれ、あたしの血ー上げるから許してーなー。ほれほれー」


 ユウキが手を口元に持ってくるので、その手の甲に、レグはガブリと強く噛み付いた。

 その乱暴さにユウキはむくれる。


「痛くないけど痛い」


「……っぷは。痛くしてんだよばーか」


「むー、まあ別にいいけどー」


 こうして、二人はのんびりと体を休める。

 そのまま雲が流れるのを普段の二人には似合わず静かに眺め、日がかなり傾き始めた頃に帰ったそうな。







 *****



「……そうですか。新しいダンジョン、色々ありそうで楽しそうですね」


「私は一番上まで行かずに、疲れて帰っちゃったけどね〜。ユキさんと、そのレイちゃんって子が攻略して来た感想を聞かせてくれたんだ〜」


「へえ、お姉様は行かなかったのに、その子供冒険者は行ったんですか。少し、興味深いですね。まだ十二歳なんでしょう? ユキさんについていけるなんて、随分と実力があるようですが」


「んっ! ケホッ、コホッ。そ、そうだね〜。レイちゃんは強いからね〜」


「……一度、顔を合わせてみたいですね。お姉様がそんなにも認め、親しみを抱いている冒険者に」


「!? だっ、ダメっ!」


「え? 何故ですか? 少しお茶を共にしたいって思ってるだけですよ。別に雇うとか下手に物を渡すとかをするわけではありませんから、いいではないですか」


「やっ、えっと、その、レイちゃんは〜……」


「もしかして、気軽に呼ぶには、難しい身分の方だったりしますか?」


「そ、ういうわけじゃ、ないけど……」


「そういった年齢の方から見た冒険者の話を聞きたいだけです。ね、いいじゃないですか。私とお姉様とそのレイチェルって方と、三人でお茶会。誘ってみてくださいな」


「あ、う、んと…………わか、った。誘って、みるね」


「はい。良き返答を、楽しみにしていますね」


「う、うん」





「うわあぁああん! レイちゃんに怒られる〜! どーしよ〜!」



ユウキ「んあああー、レグってやっぱりこう、いい感じのサイズだよなあ」

レグ「……なあ、そろそろ頭突きアッパーかましていいか? 丁度俺様の頭の上にテメーの顎あるし」

ユウキ「やめて怖い。流石にそれは痛くなくても痛い」


弱肉強食の精神で諦めはいいが、苛立つものは苛立つ。

致し方なし。

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