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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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97 駄目ギルド長と有能補佐

 


 買い物客で賑わう、夕刻を過ぎた都市ビギネルの市場にて。


「あら?」


「おや、奇遇だ」


 一人の有能補佐と、駄目ギルド長がばったり顔を合わせていた。


「意外と、普通に買い物とかするんですねえ」


「いやいや、僕だって普通に生活してるから。生活力はある方だと自負しているよ」


 クディールの買い物籠を見て失礼なことを言うジュリエナに、クディールはきちんと反論し胸を張った。

 勿論、その発言に訝しげな態度を向けるジュリエナ。


「普段あんな様子だと疑いたくもなりますよ」


「失敬な。料理もちゃんと自分で作ってる」


「ええ……本当ですか?」


「疑い深いなあ……ああ、ならそうだ」


 疑われてばかりで心外だと思うクディールは、ポンと手を叩いた。


「それなら、君の家に行って証明してあげるよ」


「…………はい?」





「あ、姉さん、おかえりなさ……い?」


 アンジェリカは、買い物から帰ってきたジュリエナに対して、掃除の手を止めて目をぱちくりさせる。


「えーと……姉さん、仕事以外では役に立たなそうな駄目エルフを買ってきちゃったんですか?」


「ちょっとした不可抗力よ」


「ねえ君達、いい加減僕への評価が酷すぎると思うんだけども」


「いえいえ、仕事終わりに上司が家に遊びに来るとか、流石にどう対応すればいいかわかりませんよ。困ります」


「普通でいいさ。職場じゃないんだし」


 クディールは手をひらひらさせているが、一応れっきとした二人の上司。

 もう少し威厳とかを持って欲しいものだとアンジェリカは思った。

 アンジェリカの考えている事に同意できるからこそ、ジュリエナは頭を痛そうに抑えつつ、とりあえず家に上がる。


「まあ、結局連れてきちゃいましたし、どうぞ上がってくださいな」


「お邪魔します」


「もうっ、お茶、用意しますね」


 アンジェリカは頬を膨らませつつも、お茶の準備を始める。

 ちなみに、普通の平民は茶葉などあまり使わない。

 理由は勿論、少々値が張るから。

 レイの組織などが暗躍して、ある程度高級なものでも安く広く普及されるようにはなっているこの世界だが、それでも組織の利益分やら商人やらが程よく値段を上乗せすると、やはり少々高い。

 それに、水や果実水で慣れている人からすれば、わざわざ水に色や香りを付ける理由が分からない、という理由もある。


 が、ジュリエナとアンジェリカは、冒険者ギルドでも優秀な方であり、お金には余裕がある。

 それに、二人共紅茶は好きだし、ジュリエナは入れるのが上手だ。

 アンジェリカも、姉のように上手に入れられるようになりたいと思っている。

 だからその練習として、家ではアンジェリカが紅茶を入れるのを担当しているのだ。


 そうやってジュリエナが準備している間、クディールが家の中をキョロキョロと見回す。

 家の中は綺麗に掃除されており、物がどこにも散らばっていない。

 整理整頓されており、クディールの家とは真逆も真逆だ。


「いやあ、こうやって綺麗に整頓された家というのは久々に見るなあ」


「貴方のお家ですと、最早床までコレクションで埋まっているのでは?」


 テーブルに買い物籠を置いたジュリエナは、食材を中から取り出していく。

 クディールは適当な椅子に座りながら答えた。


「流石に歩く場所までは消しちゃいないさ。まあ、狭まってはいるけれど」


「ほらやっぱり」


「流石としか言い様がありませんね」


「気を付けてはいるんだけどね。物が増えると、にん……自分が動くのも大変だし」


「自分の家ですよね?」


「扉開けた瞬間に物が雪崩落ちてくるのでは?」


「流石にそこまでじゃない」


 危うくドルディのことを言いかけ、控えるクディール。

 あれはレイの組織がくれた、この世界ではまだ最先端に位置するであろう魔導具だ。

 いくら見た目は完璧なメイドとはいえ、簡単に口外しては行けないだろう。

 それに、クディールみたいな男がメイドを雇ってる、なんて言ったら、ジュリエナ達からの微妙な目がさらに酷くなるかもしれない。

 それを予想して、人形が動くのも大変、ではなく、自分が動くのが大変、ということにした。

 クディールにだって学習能力はあるのだ。

 それを実らせることが少ないだけで。


「はい、お茶をどうぞ。いつもギルド長が飲みなれている姉さんの味には負けてしまいますけど」


「ありがとう……うん、美味しいよ。姉妹でそんなに変わりないんじゃない?」


「いえいえ、まだまだ姉さんには追いつけませんから」


「もう、いつもそうやって謙遜して。貴方はもう少し自信を持つべきよ」


「姉さんこそ、もう少し自分が高みにいることを自覚するべきです」


「はは、仲のいい姉妹だ」


 クディールは姉妹を少し微笑ましそうに眺め、ふと、チェストの上に飾ってある、とあるものを見つけた。

 紅茶を置き、席を立ち、それを手に取る。


「これは……写真?」


「あら、よくご存知で」


 そう、それは写真立て。

 紛うことなき、カラー写真の入った写真立てであった。


「一応、僕もこの機械を持ってるからね。古代の本物と、現代で作られた新しいのをね」


「え、あれって相当高いものでは? というか、古代の本物って、そんなものまで?」


「上手く取引したのさ。勿論、昔はそんな財産無かったから、ギルド長になってからだけど」


「いやいやいや、それでも普通持ってませんから」


「伊達に蒐集家を自称してないわね……」


 アンジェリカが手を振って普通を訴え、ジュリエナは呆れたように額に手を抑えたあと、ため息を紅茶と一緒に飲み込んだ。

 クディールは少しだけ自慢気に笑いつつ、その写真を見る。


 真ん中には、ジュリエナとアンジェリカらしき子供と、二人の兄と思われる人物。

 その後ろには、両親と、祖母らしき存在。

 そして、子供達の前にはしゃがんでいる男の老人がいた。

 写真の中で、その老人だけが、耳がエルフの長耳ではなかった。

 普通の、人族のようだ。


「これは、家族写真かい?」


「ええ。昔撮ったものです」


「このお爺さんは? エルフではないようだけれど」


「……祖父です。私達の」


「祖父?」


 クディールはもう一度、その老人をよく見てみる。

 固そうに笑っていて、だが子供達に囲まれて幸せそうな、普通の人族の老人。

 だが、その髪の色、夕焼けのオレンジ色の髪は、ジュリエナやアンジェリカと同じであった。

 兄と父親、そして祖母はエルフの金髪であるというのに、母親と姉妹はオレンジ色の髪であった。


「成程、道理で君達は、エルフだというのに金髪じゃないわけだ。人族の血が、少しだけ混ざっているのか」


「ええ。だから、この髪色は私達姉妹の自慢です」


「大好きな祖父と同じ、夕焼け色ですからね。同じように祖父が大好きであった兄は、私達を羨んでいましたけど」


 この世界のエルフは、基本的に金髪だ。

 理由は単純に、その始祖の殆どが金髪であったから。

 基本的に森の奥で暮らすエルフは、あまり他の種と交わらない。

 故に、昔から変わらず、金色の髪を持つ種族であった。


 だが、ジュリエナとアンジェリカは、魔力は人族よりもあり、耳はエルフの長耳でありながら、髪色がオレンジ色であった。

 初めて出会った時から、クディールはそこが疑問であったが、ようやく理解した。

 殆どエルフの血だが、髪にだけ祖父の影響が出たということだろう。

 人族のクォーターというわけだ。


「このお爺さんは……人族の寿命からして、もうお亡くなりに?」


「……そうでしょうね。生きていたとしても、百をとうの昔に超えています。確実に、生きていないでしょう」


「その言い方だと、行方不明、ってことかい?」


「ええ。冒険者としてどこかに旅立って以来、二度と帰ってきませんでした」


 アンジェリカは、少し悲しそうな瞳をする。

 ジュリエナも、普段であれば見れないような顔をしつつ、クディールから写真を受け取り、そして見つめながら話し出す。


「祖父は、稀少なSランク冒険者でした。その強さも、その功績も、全て周りに認められた、冒険者が崇める存在。私達家族にとっても、自慢の存在でした。誇らしかったのですよ、自分達にはこんな祖父がいるんだ、と」


 写真の向こう側に昔を見るように、ジュリエナ目を細めた。


「ですが、その名声は、常に危険と隣り合わせ。強ければ強いほど、危険という死神は重たく張り付きます。祖父も、それを分かっていて、冒険者をやっていたでしょう。私達家族も、それを覚悟していました。いつかはいなくなるかもしれない、と」


 紅茶の湯気が揺らいだ。

 クディールは、黙って聞いていた。


「ですがまあ、覚悟していたよりも、別れの瞬間というのは呆気ないもので。しかも、それが別れであったと理解するのは、大分後のことで。あの日、祖父の髪色に良く似合う夕焼けを背に、冒険に出た祖父を、私達は普通に見送り……そして、帰ってきませんでした」


「……話に釘を刺すようであれだけれど、夕方という一部の強力な魔物が活発化し始める時間帯に出かけるお爺さん、中々面白いね」


「祖父は相当強かったので、昼間に出てくる魔物じゃ道中楽しめなかったそうです」


「戦いに身を委ねた人というのは、やはり僕からすれば遠い存在だね。命を晒すことを楽しむのは理解に苦しむ」


「まあ、Sランクは狂気の域ですからね。家族が言うのもあれですが、祖父は相当変わっていたと思います。それでも、実力は本物で、勿論財も多く、その財で手に入れたカメラを使って、いなくなる前に写真を撮り、写真とカメラを残していったのです」


「なるほど。遺影、ってやつか」


 クディールは肩を竦め、席に戻った。

 そして紅茶を飲み、姉妹に質問を投げ掛ける。


「じゃあもしかして、君達が冒険者ギルドで働くのって、そのお爺さんの痕跡を見つけるためかい?」


「ええ、正解です。冒険者は、その多くが、どこで死んだのか分かりません。手がかりは、他の冒険者が拾ってくれた遺品やら、死体の残骸やらだけ。祖父の冒険に出かける場所のレベルともなれば、それを見つけることも難しいかもしれません。それでも、どこかにあると信じたいんです。自分達の誇りである祖父が、最後まで勇敢な冒険者であった証拠があると」


 アンジェリカはギュッとコップを握り、強い決意に満ちた目をする。

 ジュリエナは写真立てをチェストの上に戻し、自身も席に戻った。


「私は初め、冒険者として祖父の痕跡を探すことにしました。ですが、祖父がもう年齢的に生きていないであろう頃に、ようやくAランクくらいまで到達し、そこで祖父を探すことも、冒険者としても限界を感じ、冒険者をやめて、それを補佐する側へと転換したのです」


「ああ、やっぱり冒険者だったのか。道理で強いと」


「ふふっ、もしギルド長である貴方に暴力が向けられた際は、きちんと守ってあげますよ? 補佐ですから」


「護衛も出来る補佐、恐ろしいなあ……」


 普段物理的圧力をかけられているクディールは、ジュリエナの強さの秘密を知り、とんでもない補佐を持ってしまったな、と戦慄した。

 だが結局は、自分と同じように、何か目的を持って冒険者ギルドに務めているのだな、と仲間意識のようなものも感じた。


「僕は珍しいものを探し、君達はお爺さんの痕跡を探す。やはり冒険者ギルドというのは面白い人が集まりやすいね」


「もし貴方が祖父の痕跡を持っているなら、言い値で買いますわ」


「ははは。見つかったら、ね。正直、どんなものか分からないし」


「じゃあ、貴方の家に痕跡らしきものが混じってないか、今度物色しに行ってもよろしくて?」


「話の流れを断ち切るようで悪いが絶対に断る! 他人なんて家に入れるものか! もし何か壊されたらたまったもんじゃない! 怒るからね! 全力で怒るからね!」


 ジュリエナの恐ろしい提案に、クディールは机を叩いて全力で拒否した。

 その普段見ない姿に、アンジェリカは目を見開きつつ、苦笑して聞いた。


「普段怒られてばっかりのギルド長が、全力で怒ったら何するんですか?」


「呪いの魔導具とかで呪うかも」


「かなり物騒ですねえ。というかそれ、違法なものじゃないですよね?」


「多分、合法、なはず? うーんどうだろう、僕わりと禁忌に近いものも持ってたりすることもあるからなあ」


「貴方ギルド長の自覚ありますか?」


「姉さん、やっぱりこのギルド長駄目エルフです。強制的に家を調査すべきでは?」


「やめて。絶対にやめてくれ。違法なものは持ってないだろうから家には来ないでくれ」


「かなり不安ですねえ」


「……そういえばこのギルド長、家にはどうして来たんでしたっけ?」


 かなり話が脱線してから、アンジェリカがそもそもの事の発端を聞き出す。

 クディールは思い出したように手を叩いた。


「そうだったそうだった。僕の生活力を証明するために来たんだった」


「ということは、夕飯を貴方が作るんですか?」


「え、ギルド長、ご飯作れるんですか?」


「ふふん。伊達に長く一人暮らししてないよ。それに僕はレシピ集なんかもコレクションとして持っていたりするんだ。舐めないでくれたまえ」


「へえ、では、お手並み拝見ですね」


「期待しないで待っておきますね」


「その言葉、後で撤回させてあげるよ」


 クディールは腕をまくり、自信満々な態度を見せた。

 そうして、紅茶に変わって、夕餉の匂いが立ち込め始める。

 都市ビギネルのあちこちに、美味しそうな匂いが登り始める。

 時刻は、いつしか姉妹の祖父が度々徘徊していたらしい、森などが危険になり始める夜であった。



【実食会】

ジュリ「嘘……そこらのお店レベルに美味しい……」

アン「ちょっとこれ本当にギルド長が作りました? 出来合いのものじゃないですよね?」

グディ「ねえ素直に褒めてくれない? 疑いが強すぎて泣くよ?」


美味しかったそうな。

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