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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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96 男だって語らい合う

 


「くあー! いいなあ温泉! ユキさんに感謝だぜ!」


「……ノクトさん、他の人もいますから、声は抑えましょう」


「そうだぞ。貸切じゃないんだ、マナーは守ろう」


「おっとすまねえ。ここに来るのは初めてだからな、ついはしゃいじまった」


 先日レイ達が貸切で大はしゃぎした、鬼人族が経営する温泉。

 そこに、ノクト、セルト、リグアルドの三人が来ていた。

 理由は簡単、ユウキに無料券を貰ったから。

 ユウキからは、ダンジョン探索の疲れを癒して来てくれ、と笑顔で渡された。

 が、実際のところは、ルーリアがリグアルドの湯上りの浴衣姿をみたいという欲望が渦巻いているのだが、勿論当の本人は気付くわけもない。

 ということは、勿論ルーリア達は今どこにいるかと言われれば大いに予想出来るのだが、そこはあえて触れないでおこう。


「いやー、ここ前から来てはみたかったけど、こういう少し高いところに一人で行くってのもなんだかなと思ってな」


「……ノクトさん、意外と寂しがり屋ですね」


「セルト、逆に聞くぜ? お前こういういいとこに一人で来れるか?」


「……すみません、無理です。絶対無理です」


「いや、人見知りのセルトでは質問返しする対象として間違ってると思うが……」


「よしじゃあお前にも聞くぜ? ここに一人で来れんのか? ええ?」


 セルトにフォローを入れると、自分にまで飛び火してきて首を傾げるリグアルド。


「まあそうだな、昔にも似たような場所には行ったことがあるし、行きたい時に行きたいとは思う。少し我儘を言うなら、家族と来たいな」


「あー……そうだった。そうだったな、このにぶちんは。忘れがちだが、一応そうだった……」


「? ノクトさん、何がですか?」


「おっとセルト気にするな。お前が気にしたらマジで負けな案件だ」


「???」


 危うくリグアルドが貴族であることをバラしてしまいそうになったノクトは、慌てて誤魔化した。

 セルトはリグアルドが普通のにぶちん剣士だと思っている。

 もしリグアルドが貴族だとバレれば、昔からの幼馴染であるルーリアのこともバレてしまうかもしれない。

 もし気付けば、人見知りのセルトは二人への接し方が分からなくなってしまうかもしれない。

 そこを気遣って、ノクトは話を断ち切ったのだ。


 にぶちんだが、一応周りの空気は多少読めるリグアルドは、ワンテンポ遅れてそれに気が付き、気を付けようと思った。

 リグアルドだってセルトの気持ちは薄々気が付いているのだ。

 そして恐らく、身分の差より、成就するのは難しいであろうことも。

 それ以外にも、そもそもセルトには勝ち目がない決定的要因があるのだが、自らに向けられる好意には何年経っても気付かないリグアルドは勿論分かっていない。


「確かこの温泉、多少の治癒の効果もあるんだっけか? 病気を抑えるとか、傷を治すとか」


「そういえばそうだったな。怪我をした冒険者も、もしかすると多少奮発してここに来るのかもしれないな」


「……俺達はそんなに怪我とかしませんでしたけどね」


「結構落ち着いて行けたしなー」


「ユキさんとレイチェルのおかげかもな。色んな場面で頼りになったし」


「レイチェルちゃんなー。あの子結構凄いよなー。絶対実力隠してるタイプだろ」


「確かに、そう見える節は結構あるな」


「……態々そんなこと、する必要ありますかね?」


「もしかして、どっかの凄い人だったりとか」


 ノクトの発言に、三人で上を見上げレイの普段の振る舞いをリピートする。


「……ありそうな、なさそうな」


「どうだろうな」


「うん、俺から言っておいてなんだけど、どうなんだろな」


 結局答えはよく分からず、三人揃って首を傾げるだけであった。

 そして微妙な沈黙が流れ始めたその時、意外な人物が、定番の話題を、意外な人物に向けて聞き始めた。


「……ところで、ノクトさん自身に、恋愛の話題って無いんですか?」


「んぶふうっ」


 動揺したノクトは、飲んでもいない風呂の水を吹き出すという、どこかでもあったような器用な芸当をしてみせた。

 見るからに動揺、というか突然過ぎて困惑している。

 そして見たことない困惑顔で、話しを振ってきたセルトと目を合わせた。


「な、なんで俺にその話を振る?」


「……いえ、今までそういう話で、ノクトさんが犠牲になったところを見たことがないなあ、と思いまして」


「犠牲とは言い過ぎな気もするが、確かにそうだな。どうなんだ?」


「え、ええええ……?」


 言われてみて、ノクトは己の内に問いかけるように手で頭を抑えた。

 うーんうーん、としばらく唸った後、ハッとして、ある事に気が付いた。


「俺、人の恋愛の面倒見る癖して、自分の面倒まともに見たことねえわ!」


「……まあ、そんなとこだろうなと思いました」


「やっぱりそうなのか。つまらないな」


「おいお前ら失礼じゃねえ!? 俺一応先輩! 哀れな先輩を応援しろ!」


「……いえ、ノクトさんの好みとかよく分からないんで、ご相談にしか乗れません」


「お前、巨乳で美人ならいいとしか言わないからな。他になにか好みはないのか?」


「正直俺も分からん! 多分その時俺が好きになった人が好みの人だろ!」


「節操なしか」


「……ノクトさんに春は遠そうですね」


 ノクトの胸を張った悲しい発言に、二人はどこか遠い目をした。

 何か悔しくなったノクトは、話題の矛先を安定のリグアルドに変えた。


「そういうお前は! 最近ルーリアちゃんとどうなんだ!」


「え?」


「だぁああ! いい加減、その『何の話だ?』っていう反応はやめろ! 飽きたわ! もう飽きたわ畜生! なんか無いのかよ! 頑張って捻りだせ!」


「んな無茶振りな」


「……実際、どうなんですか?」


「セルトまで……」


 ノクトは呆れ怒り、セルトも何も無いとは言わせないオーラを出し、リグアルドは何か言わなければならなくなる。

 リグアルドは、話の意図が見えてないくせに、無愛想のまま首を捻る。


「先日のダンジョンで、少し白くなって寒そうだったルーリアの手を握って温めてやったらお礼を言われたこと、とか?」


「紳士かよ畜生! シンプルでつまんねーな!」


「何故きちんと最近あった話をしたのに、そんな反応をされなければならない。流石の僕も理不尽だと思うぞ」


「……手……ルーリアさんの、手……」


 淡々と答えたリグアルドの報告に、セルトが自分だったら出来るかどうかを想像し、無理だと気付いて温泉にザボンと顔を潜らせる。

 フードが無い時の恥ずかしがり方がちょっぴり危ない。

 苦しくなる前に顔を上げたセルトは、そのまま話を続けた。


「……というか、最早ハッキリ聞きますけど、リグアルドさんにとって、ルーリアさんって友人という以外には何かないんですか?」


「おおっと、セルトいいぞ! 踏み込んだれ踏み込んだれ!」


 続けるどころか、むしろセルトは直球に聞くことにした。

 それをノクトがグッジョブする。


「友人という以外で?」


 リグアルドはまた考え込んだ。

 悩まなきゃいけない時点で答えは大体見えているのだが、それでも二人は期待して答えを待つ。

 そしてリグアルドは答えを絞り出した。


「一緒に努力する仲間とか、同じように高みを目指す同志、とかか?」


「はい零点。やっぱり期待した俺らが馬鹿だった」


「……どこもかしこも、あのダンジョンみたく寒いですね」


「なんと答えるのが正解だったんだ……?」


 ノクトとセルトが肩を竦めてやれやれと言い、微塵も答えが分からないリグアルドはやはり首を傾げる。

 二人はルーリアが哀れになってきて、心の中で今はここにいないルーリアを応援した。


「なんか、このメンバーで恋愛の話はダメだな」


「……そうですね」


「何故始めたんだ……」


「面白そうだからに決まってんだろ」


「……あと、進捗とか、進展とか」


「な、なるほど? よくわからん」


「これはボケてるのか天然なのか分かんねえ」


「……多分、天然ですよ」


「先程から僕への空気が酷いということくらいは、流石の僕も分かるんだぞ」


「じゃあその調子で、もう少し近い距離の空気も読めるようになってくれ……」


「本当にそうですね……」


 二人は頭を抑え、やはりリグアルドは首を傾げる。

 そうして、いつも通りの空気のまま、三人はしばらく温泉を楽しんだ……。





 そして、風呂上がり、廊下にて。


「あれ?」


「……え?」


「何故御三方が?」


 風呂上がりの三人の目の前には、先日ここに来たばかりであろうはずのルーリアとユウキ、そして、木の皿に入ったあられをもぐもぐしているレイの姿があった。

 そしてポカンとする三人に、ユウキは手を振った。


「やほー! 奇遇っすね!」


「いやいやいや。いくらなんでも偶然が過ぎませんかねユキさん?」


「えー? あーし、何の事かわかんないっすなぁー」


 ノクトが疑心の目を向けるが、ユウキは顔を明後日の方向に向けて惚けた顔をする。

 そしてセルトもレイに話しかける。


「……本当に、何でいるんだ? つい最近来たばっかりだろ?」


「(もぐもぐもぐもぐ)」


 レイはあられを食べたまま、こちらも明後日の方向を向いた。

 セルトは答え気が無いことを察し、レイが抱える、見たことの無いお菓子、あられを不思議そうに見つめる。

 するとレイが一粒摘み、セルトに差し出した。


「……くれるのか?」


「(もぐもぐ)」


「……ありがと」


 セルトは口に含み、程よく塩で味付けされた初めてのあられの美味しさに目を見開く。

 もう一粒欲しそうな目をすると、レイは仕方ないな、とでも言いたげに皿を向けてくれた。

 その間も黙ってもぐもぐしている。

 今は怖がってレイのうなじの所に乗って隠れているツララみたいな無口さだ。


 そして、ルーリアはリグアルドと顔を合わせた。


「もう一度来てたんだな」


「う、うん。前回はそこまで長く居れたわけじゃないから、もう一回ゆっくり来たいなって思ってね〜」


 ルーリアはリグアルドの顔というより、僅かに湯上りの熱気が漂う着物の方に目を向けていた。

 僅かに肌が露出した部分をチラチラ見つつ、破廉恥だと言うように一人で勝手に恥ずかしくなるルーリア。


「? どうかしたのか?」


「なっ、なんでもないよっ」


「顔が赤いが……熱でもあるんじゃないのか?」


「っ!?」


 さりげなくルーリアの額に手をやるリグアルド。

 ルーリアは硬直してあわあわとした後、萌え供給のキャパオーバーでぷしゅうとショートする。

 セルトとノクトは一連の流れを見て、大体を察して頷いた。


「成程、湯上りの着物か」


「……湯上り着物ですね」


「どやっ。依頼完了っすよ」


 ユウキは謎のドヤ顔をかまし、いい顔をする。

 そして相変わらずもぐもぐとあられを食べるレイは、湯上りで妙に火照った空気を、呆れたように鼻で笑い飛ばした。

 カリカリと、あられの砕けるいい音が、しばらくそのまったりとした空間に響き続けた。

 そんな、湯上りの団欒の一幕であったとさ。

 ちゃんちゃん。



S『マスター、今回セリフゼロだったご感想をどうぞ』

レイ「あられ美味しい」

S『はい、激甘な現場からは以上でした。……なんだこれ』


ここで口開けばセリフゼロじゃない、はず(そんなわきゃない)

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