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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
3章 雪と氷のお城で遊ぶそうです。
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93 あられとできたて

前回の続きです。

 


 道場で朝稽古が始まった後、温泉の厨房の一角にて。


「チキチキ、ユウキの三分クッキングー!」


「はーい」


「なんだこれ……」


「はい拍手!」


「パチパチパチー」


「あーはいはい。ぱちぱちぱちー」


「レグ! やる気が足りないぞやる気が!」


「いや別に俺様何もしないからいいだろが……」


「観客にもやる気はいるだろ! 会場が盛り上がらないじゃんか!」


「なーにが会場だやかましい。さっさと始めやがれ」


 ユウキ達の後ろで椅子に座ったレグが心底付き合ってられんと追い払うように手を振る目先には、少しの材料と楽しげなユウキとキクノがいた。

 つまりはお料理教室なのである。


「はい、それじゃあ今回のお料理の説明をしまーす!」


「今回は何を作るんですかー?」


「今回は超簡単でシンプル、そして美味い! あられを作ろうと思いまーす!」


「あられ? 一体どんな食べ物なのか、私、気になります!」


「俺様つっこまねえぞ、つっこまねえからな……!」


 握った拳を震わせながら額に当てて耐えるレグ。

 この空間に酷く似合わない。

 哀れとしか言い様がない。

 キクノは全く気にしていないどころかノリノリである。

 ユウキのこのノリについていけるとは、中々強いお姉様だ。


「はい、それでは材料のご紹介! まず、昔に成形する際余って乾燥仕切った餅の欠片達!」


「言われた通り用意しましたよー。いつもどうにかこうにか食べているこれが、果たしてどう変化するんでしょう?」


「それはこれからのお楽しみってやつでぃ! そして次にお塩!」


「お塩そこそこありますよー」


「はい! 材料これでおしまい!」


「ええっ、これだけでいいんですか?」


「これだけでいいんです!」


「事前に材料用意してた時点で分かってんだろが……とかいうツッコミは敢えて入れねーぞ」


「入れてんじゃん」


「うるせえ」


 さっさと進めやがれ、と急かすレグをさておき、ユウキはそのままのマイペースで進めていく。


「お次は道具! まず揚げ物用油!」


「はいここにー」


「そしてそのための鍋!」


「お鍋です!」


「揚げたあとの置き場所も菜箸も準備オーケー! それじゃ早速始めようぜ!」


「俺様なんでここに居るんだろうなぁ……」


 揺れない椅子の上で暇そうに体を揺らすレグ。

 言葉が全くもってその通り過ぎて、目が明後日の方向を向いていても仕方ないと感じてしまう。

 ユウキは自作のエプロンを身に付け、早速調理に取り掛かる。


「はい、じゃあまずお鍋に油をしきまーす。次にお餅用意!」


「お餅準備完了です!」


「餅が乾燥し切ってるのを確認して、粉を払って、はい入れます!」


「え、下準備も何も無しですか?」


「この料理の下準備といえば餅を細かくして乾燥させることくらいっすからね。今回は聞いたらお店の食堂で出してる餅の余った欠片があったから、ここでする下準備は何もなしっす」


「じゃあ普段は餅を乾燥させる時間がいるんですね?」


「そっすね。大体三日から五日かけて風通しのいい所で乾燥させるっす。今回この料理を選んだのは丁度あったからっすねー」


「普通にしてりゃ普通の料理教室なんだがな……」


「……お。何やら揚げ物の音と臭いがするな」


 レグが後ろで眺めている時、入口の暖簾をくぐってオボロが現れた。

 普段の黒装束ではなく、たすき掛けをした掃除スタイルの着物だ。


「あら、照明の掃除ご苦労さま。丁度いいし、休憩したらどうかしら」


「そうさせてもらう。全く、身内だからとこき使いおって」


「お給料と妹さんからの贈り物はちゃんと渡すわよ。いやあ、男手は便利ねえ」


「あーし時々混ぜてるんで、キクノの姐さんオボロんにお茶出してあげてて良いっすよ。ついでにあーしも欲しいっす」


「はいはーい、分かりました」


 ユウキが菜箸を持って餅を油の中で混ぜる間に、キクノは全員分のお茶を用意する。

 珍しく気を利かせたレグがオボロのために椅子を持ってきてやり、かと言って何も告げることなく自らの椅子にドカッと座り直した。


「感謝する、レグ」


「別に、暇だったからやっただけだ」


「態々誤魔化しにもなっていない言い訳をしなくてもいいんだぞ」


「うっせえな」


 レグなりの疲れたオボロへの多少の労りなのか、今日はツンツンしているだけである。

 普段からこれくらいであればいいのに、と軽くオボロは残念がった。

 根は素直で良い子なのだが、その優しさを見れるのは稀なのである。


「はい、お疲れ様。レグちゃんもどうぞ」


「どうも」


「別に俺様は喉乾いたりしないけどな」


 そう言いつつ、レグもお茶に口をつけた。

 悪魔のエネルギーは基本的に魔力であり、その魔力は契約者から常に流れている。

 常時繋がれてる点滴のようなものだ。

 普通の飲食でも多少のエネルギーは補えるが、ほぼ意味が無いに等しい。


 そして悪魔は、魔力が極端に足りないと、飢餓状態を起こす。

 悪魔の飢餓状態は厄介なもので、自らの枯渇しかけている魔力を補うために、理性を飛ばして周囲の生きとし生けるものを全て喰らうために暴走する。

 そうならないために、悪魔は悪魔へと変化した際に、特別な契約魔術の知識が世界より与えられる。


 それが、悪魔が死なないための首輪と鎖、契約魔術である。


「腹は減らないと言うが、味覚とかはあるのか?」


「あー……。あるっちゃあるけど、元々俺様生物じゃねえからなあ。味覚植え付けられても良くわかんねーよ。うっすらと美味いもの、不味いものが分かるってだけだ」


「同じように美味しいって思えないなんて、ちょっぴり寂しいわね」


「はっ、俺様には血の味だけでじゅーぶんだ」


「上手いことを言うんじゃない」


「だってマジで血と魔力しか本気で美味いとは思わねーんだもん。それ以外どうでもいいね」


「あーもー、調理してる後ろで生臭い話を始めようとしないでくれっすよー。はい、揚がったっすー」


 ユウキが揚がったあられを、油切りのための布が引かれた皿の上にヒョイと乗せていく。

 ある程度乗せると、厨房内のオボロ達が茶を飲んでいる机に持ってきて、その狐色の菓子を披露する。

 置かれたあられに、全員の注目が集まる。


「まあっ。綺麗だわ。形もコロコロしてて可愛らしい」


「これはまた、見るからに美味しそうなものだ」


「へー、餅からこんなもんが出来るんだな」


「出来たて一番! 冷めたら塩かけて食べていいっすよー」


「え、あとは塩をかけるだけなんですか?」


「塩かけるだけっす! 調味料が豊富なら、アレンジで好きなものかけていけるっすけど、一番手頃で美味しいのは塩っすからね。シンプルに塩味でどうぞっす。火傷には気を付けるんすよー」


 ユウキはそのまま、残りの餅も上げるために火元に戻る。

 残されたあられを前に、三人は冷めるのを待った。

 待てをされた犬みたいだ。


「……もうそろそろいいかしら?」


「いいんじゃないか?」


「それじゃあお塩を振り掛けて……っと」


「俺様も一つくらい食ってみるか」


 全員で一つずつとり、僅かに残った熱気に息を吹きかけて飛ばし、口元に近付ける。


「「「いただきます」」」


 サクッと、口の中に楽しい音が響く。

 香ばしい味が、三人の中で広がった。


「あらっ、とっても美味しいわ」


「本当に単純な味だが、だからこそ邪魔な味が無くて美味いな」


「んー、まあ、美味いんじゃね? やっぱ良くわかんねーけど」


「好評で何よりっすよー。作ったかいがあるってもんっす」


「美味いものはここかー!」


 そしてちょうどクズハまでやって来た。

 ヨダレを今にも垂らしそうな、まるで犬のテンションである。

 ここは犬ばかりである。


「ここっすよー、タイショー。丁度冷めたんで、食べていいっすよー」


「おお! こりゃまた愛らしい菓子だな! 何で作ったんだ?」


「余ってたお餅っす。ほら、お客さんに出すには不格好だったり、形を整えるために余った餅とかあったっしょ? あれが乾いていたんで使ったんすよ」


「なんと!? これが餅だと!? 言われなければ分からんな!」


 そう言いながら、クズハは早速手を洗い、あられを口に含んだ。

 そして、サクッと噛んだ瞬間、クワッと目を見開いた。


「美味い! 酒だな!」


「クズハ、朝から飲もうとしないで頂戴」


「誰が介抱するんですか。嫌ですよ、また某が襲われるのは」


「めんどくせえババアだな」


「誰が老害か!」


「言ってねーよ腐れ耳!」


「あーはいはい。仲良く食べるんすよー」


 新しい揚げたてを持ってきたユウキが、クズハとレグの間に割り込むようにあられを置いた。


「というわけで、物凄く簡単っすけど、この料理のレシピを温泉の代金として権利丸ごと売るってことでどうすか? お店のメニューの参考になったら嬉しいっすけど」


「そうね…………うん。いけると思うわ。いい料理をありがとうね、ユウキさん」


「いえいえー、無理を言ったのはこっちなんで。むしろこんな簡単なのでいいんすか? なんならもう一つくらい教えるっすけど」


「先にこっちからこの交換条件を出したんだから、今更変えませんよ。そりゃあ、儲けたいなら取れる時から取るのが正解でしょうけど、そんなことしてユウキさんと取引する回数が減るのも残念ですし」


「ううーん、言葉の裏にこき使う回数って意味が見え隠れしてる気がするっすねえー」


「あらやだあ、そんなこと言ってませんようおほほほほ」


「恐ろしい、流石姐さん、恐ろしいっす」


 ユウキはわざとらしく笑うキクノに戦慄し苦笑いし、塩が煌めくあられをひょいと口に含んだ。


「さて、今頃レイレイは何をしてるっすかねー」


 そうして、朝に別れたレイの現在を想像し、騒がしくて楽しそうだと思ったあと、目の前の人達に目線を戻した。

 ユウキのお料理教室、これにて終了、である。



ユウキ「美味い! シンプルイズベスト! レイレイに食べさせたい!」

レグ「今のあいつの姿で、コロコロしたこれ食ってたら、完全に子供だな」

ユウキ「何それ尊い! 流石レイレイ! さすレイ!」

レグ「何言ってんのか分かんねーよ」


前に祖母が作ったあられがとても美味しかったので、それを参考にしました。

詳しい作り方は検索してどうぞ。

ちなみに、オボロが掃除をしていた照明についてですが、この日帰り温泉はそこそこいい所なので、魔導具の照明があり、その掃除を任されていたというわけです。

魔法万歳ですね。

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