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神は好きに生きるそうです。  作者: 空の宙
1章 神の大冒険の始まりだそうです。
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9 神は黄昏と微睡みの中で

 


 君はいつだって私のそばにいた。

 私を引っ張り、守って、笑ってくれた。

 いつも、いつでも、私が生まれた時からずっと。


 だから、ずっと一緒だと思っていた。

 この幸せは永遠だと思っていた。


 でも、そう思っていたのは、私だけだったの?

 そう願っていたのは私だけ?


 微睡む意識の中、私は君と手を繋いで歩く。

 ずっと、ずっと、こうなのだと、疑うこともせず。


 でも、君は立ち止まって、私から手を離す。

 もう一度手を繋ごうとした私の手を振り払って。

 そして、振り返って、言うんだ。


「─────、──────────」


 なんで、どうして、わかんない。

 どうして今までと同じじゃ駄目なの?

 どうして離れなきゃいけないの?

 そんな疑問と混乱ばかりが頭の中をぐるぐる回った。

 そして、そんな私を背に、君は行ってしまう。

 ほんの一瞬、振り返って見えたその瞳に、私はどうしようもない不安を覚える。


 二度と、会えないんじゃないかって。


 ……お願い……いかないで。

 どうか私から、離れないで。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!


「……置いてかないでっ」


 私は声に出して、そう叫んでいた。


「えっと、置いていったりなんてしないよ?助けた子を、放っておけるわけないよ〜」


 私の寝言に、目の前の金髪でフェーブロングの少女が戸惑い気味に、しかし安堵したように答えた。


 で、色々と気がついた。


 まず、私は歩いていなかった。

 でも、景色は変わっている。

 そして、一定に揺れていた。

 つまり、この少女におんぶされているのだ。


 この私が、人間の、少女に、おんぶを……。

 恥でしかないよ!

 見た目通りの小さい子供じゃないんだよ!


 いや、でも、まだまだ体……は怠くないけど、頭というか急激な魔力消費による魂の疲れが酷いから、歩いてもフラフラだろう。

 反抗せずに、なされるがままになっておこう。


 次に辺りの風景。

 もう都市の城壁が近づいていた。

 つまり、この少女は私をおぶってビギネルに向かっていたのか。

 まあ、帰るところだったし、むしろ助かったかも。


 にしても、この少女は確か……。

 そう思っていると、歩いたままほんの少しこちらに顔を向けて、少女が口を開く。


「君も起きたし、まずは自己紹介だね〜。私の名前はルーリア。君の名前は〜?」


「レイチェル。駆け出し冒険者、です」


 一瞬タメでいきそうになって、一応取り繕った。

 初対面幼女フェイスしないと。

 疲れてて面倒になりかけてる。


「やっぱり迷子じゃなくて冒険者か〜。まあ短剣持って闘ってたしね〜。とりあえず起きてよかったよ〜。同じ冒険者同士、一応よろしくかな?」


「こちらこそ。あと、助けてもらってありがとうございます」


「助けるだなんて大袈裟だな〜。ちょっと体の傷を治してあげただけで、他は何もしてないよ〜」


 いや十分助けてるでしょ。

 応急処置というか、完全回復させてくれてるわけだし。

 殆どは戦いながら癒していたが、それでも体の至る所に傷が残ってたはずだ。


「でもあの時、魔法で山猫を止めてくれたじゃないですか。あれがなかったら自分は死んでましたよ」


「いくら冒険者の死が自己責任と言っても、目の前で死にそうになってる女の子を見捨てるほど、非情になんてなれないよ〜」


「そうですか、ありがとうございます」


「うんうん、それじゃあ、いくつか質問いいかな〜?」


「? どうぞ」


 答えられる範囲で、だけどね。

 無理な所ははぐらかそう。

 にしても、この少女、確か知ってるはずなんだけど……。

 正面から顔を見てないし、イマイチ思い出せないな。


「じゃあ一つめ。山猫との戦闘、君はどこまで覚えてる?」


 どこまで、か。


「一応、全部覚えてますね。最後だけ記憶が曖昧になりかけてますが、山猫の〈突進〉で死にかけたところで、ルーリアさんの放った〈スパーク〉によって山猫の動きが封じられ、そこにとどめを刺した事は覚えてます」


 そうだ、私は最後、短剣を使って、いや、『輝剣』を使って山猫にトドメを刺した。

 ……無意識の内に発動してしまったのだろう。

 恐らくこの疲労は『輝剣』の発動による反動だ。

 魂の魔力の消費を封じている状態で、しかも人間の肉体で使ったんだ。

 倒れるに決まってる。


『……ザ……ザザ……』


 ん?


『ザザー……ピンッ! ……マスター?聞こえてますか?』 


 おお、S、どしたん?

 なんかノイズ入ってたけど。


『どうしたのかはこっちのセリフです。いきなりマスターとの〈念話〉が途切れたんですから、心配しましたよ』


 え、なんで?


『いや、知りませんよ。一体なんのバグやら……』


 バグ?

 一体何が……。

 ……あ、もしかして私のせいか。


『何をやらかしたんですか』


 周囲の魔力諸共吸い込み、一点集中の力にして発動する魔術を発動しちゃった。

 自分の体内の魔力も吸い込むことがあって、スキルの重ねがけの使いすぎとその魔力の濁流に揉まれて絶賛疲労困憊で動けません。

 だから、ペンダントに入っていた魔術も吸い込まれかけて、バグったのかもしれないね。


『……何やらかしてるんですか。というかそれ、マスターの魔力を封印してる魔術も吸い込んでるのでは? 当機の〈念話〉を吸い込むくらいなのですから』


 あ。

 私は慌てて髪飾りを確認した。

 だが流石と言うべきか、魔術は全く脆くなってなかった。


 うん、全然問題ないね。


『そうですか。でもその魔術、もう発動してはダメですよ? 色々バグを引き起こす可能性が大です。マスター自身にも、そして周りにも』


 う、悪かったよ、気をつける。


「おーい、どうかしたの〜? 突然黙り込んで髪飾り確認しちゃって」


「ああ、いえ、大丈夫です。無くしてないか心配になったので」


「一応周囲に落ちてるものはなかったから、大丈夫じゃないかな〜。それでまあ、全部覚えてるんだね。良かった良かった」


「何がですか?」


「あんまり知らないかもしれないけどね、魔力の大量消費による魔力欠乏症では、たまに記憶障害を起こす人がいるの。君も、私が見たところ、相当魔力を消費してたから、心配になったけど、問題ないなら良かったよ〜」


 ああ、確かにそうだな。

 神でも時折、大規模魔術を使ったことにより、かなり弱体化し、その上記憶障害、酷いと魂の崩壊に至る奴がいる。

 そうならないように、このシステム内の世界では、MPというもので個人の使用出来る魔力を管理している。

 そもそも人間が持てる魔力なんて微々たるものなんだから、魔法による大量消費なんてしちゃいけない。

 だからこそ安全装置としてMPで管理してるのだ。


 だがまあ、ルーリアが言う通り、MPが切れても使用して魔力欠乏症になり、記憶障害を起こす奴もいる。

 システムが無理っていってるんだから、素直に従ってほしいものだ。


「じゃあ二つ目。これは答えても答えなくてもいいけど、君はあの時、複数の魔法を同時展開してたよね? それも、違う属性の魔法を。ついでに、〈魔闘術〉も使用してた。あれはどうやっていたの?」


 げ、拙いな。

 見られてたのか。

 しかも、相当分析されている。

 普通の人間の限界を超えてることは、容易に察せられてるだろう。

 幼くして天才の域を超えてるとでも思ってほしいものだ。


「じゃあそれは黙秘で。というか、言葉に出来るものでもありませんし、納得してもらえるかは別なので」


「そっか〜。期待はしてなかったけど、残念」


 あれは私の知識と、封印しても尚残ってる技量で出来る技。

 そして経験と努力だ。

 言葉に出来るようなもんじゃない。

 単純に、私の実力なのだから。

 でも黙秘と答え一時的に引いてはいるが、気になるという顔をしている。

 これはしばらく面倒かもしれない。


「じゃあ最後の質問ね。これはまあ、ちょっと失礼になっちゃうかもだけど、好奇心には勝てなくって」


「答えられるかは分かりませんが、どうぞ?」


「じゃあ質問ね。これは私の秘密を明かすことにも繋がっちゃうんだけど、そうしてでも気になることがあるの」


 ちょっと、嫌な予感がした。

 ルーリアはそのまま説明を続ける。


「私ね、周囲の人や空間に存在する魔素、あと体内にある魔力の流れが凄く鮮明に見える目を持ってるんだ。それで、色々重複しながら戦闘している君の魔力を、失礼だと思いながらも見ちゃったの。……君のその魔力、明らかに普通じゃないんだよね。どれくらいかっていうと、私の憧れるとっても強い人達よりも、ずっと濃い魔力があるように見えたの。しかも、それは一部で、残りの部分は封印しているようにも見えたんだ」


 ルーリアは城壁まであと少しというところで立ち止まり、私の顔を見た。

 その目はどこか、光っているように見えた。

 いや、本当に光っていたのだろう。

 それと同時に、私はそいつの顔を見て、あることを思い出した。

 というか、なんで忘れてた。

 あんなに観察してたやつを、どうやったら忘れられるんだ。

 どうやら疲労のせいで、記憶が混濁してたらしい。



「ねえ、そんな普通じゃない君は、一体、何者なのかな?」



 こいつのこの、品のある愛らしい顔立ちに、輝いたエメラルドグリーンの目。

 これはスキルを発動してる証拠だ。


 こいつは、ルーリアは、私が〈精霊の目〉を与えてやった、天才魔法士ルーリア・アンタリル!

 なんていうエンカウント!

 だから初日回収イベントが多いっつの!







 *****



「お? あれルーリアちゃんじゃね?」


 ノクトがそう言った先には、誰かをおぶったルーリアがいた。

 鎧の少年、リグアルドもそれに気が付き、首を傾げる。


「あれは誰を背負ってるんだろうな?」


「んー、あれ? あれはさっき俺が絡んだレイチェルちゃんじゃねーか?」


「お前が将来有望そうだと言った幼子か?」


「そーそー。あの赤髪ロリっ子。多分そうだな。おーい!」


 ノクトが手を振ると、ルーリアがこちらに気がつく。


「リグルにノクトさん。やっほ〜」


「やっほ〜。今帰りかい?」


「はい。特訓帰りですよ〜」


「そーかそーか。でもって、レイチェルちゃんさっきぶりー」


「……どーも」


「うわ睨まれたー。俺ショック」


「ノクトさん、レイチェルちゃんに何したんですか〜?」


「えー、ちょっと新人の儀みたいなのをしてあげただけだよー」


「つまり怖がらせたんですね」


「と思うだろう。なんとこの子、やり返したんだぜ?」


「失礼な。殺気を受けたから殺気を返しただけ。常識でしょ?」


「そんな常識持つ幼女は嫌だねー。怖い怖い」


「あと単純に女好きと仲良くなる趣味はないもん」


「言い切られてしまったよ、およよ」


 レイは泣き真似をするノクトを無視して、リグアルドの方を見た。

 レイの目が一瞬、射抜くような、呆れたような目をしたのには、誰も気が付かなかった。


「ああ、そういやこっちは初対面か」


「初めまして、僕はリグアルドだ」


「レイチェルです。よろしくお願いします」


「こちらこそよろしく。駆け出し冒険者の君に幸あれ」


「ありがとうございます」


「普通だ、すごく普通だよ」


「ノクトさん、普通はこうですよ? ノクトさんの新人弄りがおかしいだけですよ〜」


「だって新人からかうのおもしれーじゃんか。あと先輩冒険者からの洗礼である。ありがたく受け取ってもらいたいね」


「やり方が分かりにくすぎるんですよ〜」


 ルーリアがノクトにため息をついた。

 ノクトは笑いながら、黄昏時になっていく空を見上げた。


「俺達はこれから宿に向かうつもりだけど、ルーリアちゃん達はどうするんだい?」


「今日捉えた魔物を換金してから、その後は宿ですかね〜。レイチェルちゃんもそれでいいよね?」


「ええ、構いませんよ」


「そういや、二人はなんで一緒にいるんだ?たまたま会ったのか?」


 リグアルドがそう聞くと、ルーリアがよくぞ聞いてくれましたという顔をした。


「たまたま会ったんだけどね、出会った時凄かったんだよ〜! あのねあのね、レイチェルちゃんってばね、今日冒険者になったばっかりなのに、あの山ねぇ……ってあいたた、レイチェルちゃん〜、頬抓らないで〜」


 ルーリアが呻くのを見ると、レイが背後からルーリアの頬を抓っていた。


「言わないでください。目立ちたくないので」


「ええ〜、でも本当に凄かったじゃん〜。魔法だって」


「言 わ な い で く れ ま す か?」


「わ、分かった、言わないよ〜。言わないから抓らないで〜」


「約束です」


「うう〜、乙女の頬が〜」


 レイに手を離されると、ルーリアが頬をさすった。

 そしてレイを背負い直すと、ノクト達に背を向けた。


「まあ、たまたま会って、ちょっとお話した程度の仲だから〜。大したことは無いよ〜。まあこれから仲良くなれたらいいな〜とは思ってるけどね〜」


「え、そうなの?」


「あれ、もしかして駄目?」


「いや、別に、嫌ってほどじゃないですけど」


「じゃあ宿に着いたら親睦会だね!」


「二人きりで親睦会も何もありますかねぇ」


「何があったのかはすっげー気になるけど、まあ女の子に秘密は付き物だよな。聞かないでおくぜ」


「じゃあな、ルーリア」


「うん、リグルとノクトさん、また明日〜」


 そうして去っていくルーリアにノクト達は手を振り、姿が夕方の人混みに消えていくと、手を下ろした。


「……なあ、もしかしてだけど、さっきルーリアちゃん、山猫って言いかけてなかったか?」


「あのアステ山の? 今は特に活動が活発じゃなかったっけか」


「冒険者になったばっかりなのにってことは、まさかとは思うが、な」


「あのレイチェルって子が討伐したんじゃないかってことか? 到底信じられないが……」


「でもお前らだって結構なりたての頃に倒してだろ? だから、案外有り得なくもないんじゃねーの?」


「もし事実なら、本当に恐ろしいな……」


「でも同時にワクワクしねーか?まーた奇抜な子がやって来たと思うとさ」


 ノクトはケラケラと楽しそうに笑っていた。

 冒険者は大抵自分の力などは見せないものだ。

 だからこそ噂話などに聞き耳を立てる。

 知られないようにしてるからこそ、知りたくなる。

 そして色々と可能性を秘めた新人というのは、噂の格好の的である。


「僕はそういうのは興味ないが、自分も精進しなければとは思うぞ」


「だー! もー! かってーなー! そんな鍛錬馬鹿だからにぶちんの馬鹿野郎なんだよ!」


「え、なんだいきなり。なにか変な事言ったか? というか、なんでことある事ににぶちんだの馬鹿だのお前に言われなきゃいけないんだ」


「うるせー鈍感男!」


「全くなんなんだ……。じゃあ僕は行くぞ」


「おうおう行ってしまえ。そしてどこかでその鈍くて硬い頭でもぶつけてしまえ。そしていい加減柔らかくしろ」


「散々な言われ用だな……。まあ、またな」


「おう、またなー」


 二人の冒険者も、それぞれの宿に向かう。

 そうして都市ビギネルに、夜が来る。







 ********



『今回は休憩』



S『ふう、目覚めてくれてよかったです。目覚めなかったら天誅で起こそうかと』

レイ「痛い痛い。その目覚まし時計は痛い」

S『はあ、マスターをおんぶ、いいですね……』

レイ「突然どうしたの???」


背負いたい願望。

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