悪魔の独り言
やあ、初めまして。
すごく怪しいし、大した者でもあるけど、君に危害を加える者じゃないよ。
……そんなよく分からないって顔をしないでよ。
初対面なりに気を使って警戒を解こうとしてるだけじゃないか。
つまらない人だねえ、君は。
突然どうして話しかけたかって?
さあ、どうしてだろう。
久々に誰かと話したくなったからかな。
きっと向こうはそんなに時間は経っていないのかもしれないけど、ボクにとっては数十年ほど一人で飛び回っていたからね。
ちょっぴり寂しさを紛らわしたくなったのかもしれない。
お隣、失礼するよ。
そうだな。
久々にまともに誰かに会えたことだし、ちょっとボクの話を聞いてはくれないかい?
ああ、大した話じゃない。
適当に聞き流してくれて構わないさ。
まずは、自己紹介でもしようか。
君は何も知らなそうだからね。
ああ、馬鹿にしてるとかじゃないよ?
単純に、そう見えてしまうだけさ。
ボクはこの宇宙で悪魔と呼ばれる者の一種だ。
この黒い天輪と黒い炎のような翼が見えるかい?
これがボクが悪魔である証さ。
と言っても、それぞれの悪魔が持つ天輪も翼も大分違うけどね。
言ってしまえば、ボクらはその他大勢の種族だし。
名無し種族とも言えるね。
悪魔っていうのは、最初から悪魔なわけじゃなくて、何らかの理由があってそうなってしまった者達だから。
成れの果てとか、浮浪者とか言われたりもするよ。
まあ、細かいことは、今は省くとしよう。
ボクは悪魔だけど、とある人の下にいるんだ。
ほら見てよこれ。
首元のチョーカーにさ、魔術が組み込まれているだろう?
これがボクに付けられた首輪。
つまり犬ってことだね、わーんわん。
……そんな無機質な目を向けられると、流石のボクも傷つくな。
別に束縛の魔術なんて、魂に刻み込めば終わるんだけどね。
それだけじゃなくて、体の一部か、縛ることを具現したような物に術を組み込むと、より強力になる。
ボクの場合、いつでも首を締められちゃうのさ。
つまり反抗したら即首切りならぬ首絞めー。
まあ、彼女からの罰なら、どんなものでも受け入れけるけどね。
でも締められるなら、チョーカー越しじゃなくて、あの手で直接やられた方がずっといい。
ボクを飼ってるご主人様達はね、凄いんだよ?
世界でも結構恐れられてる神様なんだ。
え、神様が何かって?
君、そんなことも知らないのか。
色んな意味で驚きだよ。
そうだな、神様は神様なんだけど、正確にはそうじゃないんだよなあ。
まさしく神なのではなく、神という一種族、と言えば伝わるかな?
人間と違って、魔力を持ち、それを使って魔術というものを構築する種族。
逆に言えば、魔力と魔術を抜いてしまえば、ちょっとだけ強い人間と大差ない。
長寿なのも、魔力があるからだし。
ボクからしたら、どっちも変わらないどころか、何かと傲慢且つ暴力的な神族の方がタチが悪いよ。
まあ人間も人間同士だと似たようなものかな?
分かんないや。
でもね、ボクのご主人様は違うんだ。
彼女達は、むしろ神族っぽくない。
どこか人間っぽくて、でも神族らしい傲慢さも多少はあって、なのに、あり方は人間っぽくも神族っぽくもない。
彼女達は彼女達という種族みたいな。
唯一無二みたいな人なんだ。
その神様達の住む星は、彼女達が管理していてね。
その星は凄いのさ。
とある大陸全体が全て魔術で管理されているんだよ。
この凄さが分かるかい?
管理なんてのは、所詮結界やら魂の管理やらをする程度なんだ。
なのに、その大陸は全てが管理されている。
魂も、肉体も、そしてその魔術の範囲内オリジナルの要素も。
君、ゲームって知ってるかい?
正直ボクも普通のゲームしか知らないけど、地球には電子ゲームとか言うのがあるらしくてね。
それを参考にして作られた魔術は、その大陸をゲーム会場にし、その住民達全てをプレイヤーにした。
何が一番異様かって、人間達が魔法を使うことだよ。
人間の魂なんて脆弱だから、魔力を膨大に持つことも、ほんの少ししかない魔力を魔法に使うことも出来ない。
人間の中には神に教わった黒魔術なんてものを使う者、魔女なんていうのもいるけど、あれは自分の魂から使わず、自然界の魔力を使ったものだ。
普通は、人間が魔法を使ったら簡単に死んでしまう。
でもね、その世界の人間達は色々とおかしいんだ。
魔法を使い、魔法に似た何かを使い、神様に用意されたモンスターを倒して、自分自身を進化させていく。
あれは強化なんてものじゃない、人という種族から逸脱した進化さ。
それが死ぬことなく、その大陸全ての者に適応されている!
これがどれだけすごい事か分かるかい?
ふふ、難しいかもね。
それでも、芸術的で、天才的な魔術としか言えない、そんなものを作り出してしまうのが、ボクのご主人様なのさ。
まさしく天才だ。
天という名の、世界から何かを与えられた存在としか思えない。
でも彼女達自身は、殆ど彼女達の独学と研鑽だという。
もう恐ろしくて仕方ないよね。
そして同時に、酷く歓喜し、興奮するね。
そんな天才達がボクを縛り付けている。
それがとても楽しくてたまらない。
怖くないのかって?
怖いに決まってるよ。
彼女達はいつだってボクを殺せる。
いや、死ぬことは怖くない。
生きなければとは思っているけれど、いざ死を突きつけられたら死ぬつもりだ。
といっても、自分で死んだりしないけどね。
でも、彼女達はボクを殺さない。
代わりに、普通の人からすれば死にたくなるような罰を与えてくれる。
それがね、嬉しいんだ。
ボクは罪人だから。
罪人にとって悲しいことは、何もバツを与えられず、のうのうと生かされることだ。
彼女達は、そんな歪んだボクを縛り付けて、願いを叶えてくれた。
それが酷く嬉しいんだ。
罰を喜んでいいのかは分からないけど、何も与えられずに死にたくなって、勝手に自殺するよりかはマシだろう。
自殺は、最も許されないことだろうからね。
ああ、ごめんね。
暗い話をしてしまった。
そうだなあ、明るい話に切り替えよう。
そのとある二人の、ボクのご主人様の内の、一人の話。
その話をしよう。
彼女はいつもキラキラしてて、イキイキしてて、まるで光みたいな人なんだ。
何故か分からないけど、ただ一緒に居るだけ、思うだけ、見るだけで心が温かくなる、不思議な存在なんだ。
ボクはどんな種族も平等に好きだけど、それは博愛とか観察面においての好きだ。
ある意味、興味が無いとも言う。
でも彼女に対しては、なんていうか、愛おしいって感じなのかな。
本当に、不思議な子なんだ。
……お、興味があるかい?
じゃあ、まだ時間はあるかな?
あともう少し、独り言をさせてもらおう。
自由に好きなように、思うように生きることが好きな、とある神様の話を、ね。
?「作品のスタートを見事に取られた……」
?『じゃああの人爆発させますか』
?「やめなさい。どっかのチャンネルじゃないんだから」
?『いやあれはただの爆発中毒でしょう。当機のは天誅です』
?「どっちもどっちかな」
?『とりあえず次話に行きましょうか』
?「おー」