口だけの……
「…………」
……俺は……受付嬢ちゃんに合わせる顔が無いから……黙って出て来ちゃった。
「……あっ! シャワー代払ってねー!!」
ケイゴは、急いでギルドに戻ると、受付嬢ちゃんの隣の人……鬼隣さんの受付に行く。
「……あ、あの……シャワー代……払い忘れました……」
「……あ、そう……次からは、気をつけなさいよ?」
鬼隣さんは、素っ気なく言い、タプを受け取る。
「……す、すいません……」
「……要はそれだけ? 仕事があるから帰ってちょうだい」
「……あ、はい……」
鬼隣さんは、そう言うと、仕事に戻ってしまった。
「…………」
ケイゴは、ギルドを出る。
「…………」
……鬼隣さん……めっちゃ怖……きっと、身内にもめっちゃくちゃ厳しい人だろうな……
「……でも……綺麗なんだよなぁ……大人の魅力?」
ケイゴは、鬼隣さんの顔を思い浮かべる。
「……まぁ……受付嬢ちゃんの方が……」
ケイゴは、顔を無表情にして歩く。
「……掃除しに行くか……ついでに、スリちゃんのところに……」
ケイゴは、まだ曖昧だが、それでも覚えて来た道を歩きボロい家に着く。
「…………」
……スリちゃんいるかな……もう家出てる可能性も無くはないからな……
すると……
「……あいつはどこ行きやがった! 酒がなくなったから買ってこいって言っただろうが! ほんと使えねーガキだ!」
「…………」
……この声は……あの男の……
「……チッ! こんなクソまじーご飯なんか作ってよ! そんな時間あるなら酒買って来やがれ!」
ガシャッ!
「…………ご飯作ってもらえるのがどれほど良い思いしてるのか、分からねーのかよ……」
ケイゴは、眉間にしわを寄せ、腹をさする。
「……流石にもう頭に来たぜ! アイツらが勝手に病気で死んでから、ガキを押し付けやがって、アイツがいたから俺は! クソがぁ!」
ダンッ! ガシャッンッ!
「…………」
……子供を育てる大変さ……俺にはきっと……一生分からないかもしれない……でも……それでも……自分の不幸を……
……相手のせいにするのは間違ってる!
「……俺はデブスで……バカで……何一つ取り柄のない価値のない人間だ……でもね……
……それが誰かのせいでなったわけでも……不幸だとも思わない……いや……ちょっと思うけど……イケメンずるい……違う! そう言う事じゃなくて……
……全ては……自分で選んだ選択の結果だ! なにもかもお前がそうなる様に努力しなかった結果だ! スリちゃんは悪くない! ……あんな優しいくて……強い女の子……を……」
……私……怖くて……隠れるしかなくて……本当にごめんなさい……
「……許せない!」
俺は、この時、初めてだろうか……負けるのがわかってて、それでもなお……立ち向かおうと思ったのは。
ケイゴは、ボロい家に向かった。
「…………」
コンコン
ケイゴは、ドアをノックした。
「……んぁ? 誰だ? ガキか!」
ドタドタと走ってくる足音がした、そしてドアが勢いよく開く。
ガン!
「……うぁ!!」
ケイゴが扉に頭がぶつかり尻餅をつく。
「……テメェ! どこ行ってや……お前は誰だ……」
扉を開けた男は、やさぐれてて、髪がボサボサで、酒臭い……まぁまぁ普通の顔立ちのおっさんだった。
「…………」
ケイゴは立ち上がる、相手を睨みながら。
「……悪かったよ……だが、お前も扉の前に突っ立っているのもいけねーだろ?」
スリ男は、ケイゴをバカにした様に言う。
「……それは……自分も、悪かったのでいいです……」
「……ふ、なら何しに来たんだ?」
「……それは……」
……怒りに任せて来ただけだから……どうしよう……怒ってはいる……けど……この後のことを考えてなかった……
「……こっちは今、むしゃくしゃしててよ……用がねぇーなら帰ってくれるか?」
「……あなたの家から……子供を虐待するような声が聞こえたので……見に来ました……」
……うまく喋れない……こいつを見てると……スリちゃんが殴られて泣いていると思うと……
「…………だからなんだよ……テメェに関係ねぇーだろ? うちの教育だ! 文句言われる筋合いはねぇーよ!」
スリ男は、怒鳴るように言う。
「……だからって……」
ケイゴが喋ろうとするが……
「……ならよ? アンタがあのガキを育てるか? んぁ? 出来んのか? あぁ? 言うだけ言ってどうせ何もできねぇーだろ? ん? ほら! なんか言ってみろよ!」
「……うっ……」
……俺は……タプないし……家ないし……スリちゃんを育てるのは…………くそッ!
「……どうせみんなそうなるんだよ……今までも何度か来たぜ? お前みたいな……偽善者どもがよ! だいたいこう言うとみんな帰ってくんだぜ? 言い出しておきながら何にも言い返せねー偽善者がよ!」
スリ男は、笑う、ケイゴを嘲笑う。
「……アンタらも変わんねーじゃねーか? 言う事で、自分は優しい! とか思ってんじゃねぇのか? はっ! バッカじゃねーの? 言うなら言うで、最後まで責任持てよ! あーイラつく! 消えろ! 俺の前から! もう二度と顔を見せるな!」
ドンッ! バタンッ!
スリ男は、ケイゴを突き飛ばし扉を勢いよく閉めた。
「…………」
……正論だった……何も言い返せない……アイツの言う通り……俺は……
「…………」
……偽善者なんだ……
ケイゴは、さっきまでの怒りを忘れ、ゆっくりと立つ。
「……俺は…………口だけだ……また……同じことを繰り返す……
……口だけの偽善者……だ……」
ケイゴは、下を向き歩き出した。
「……ごめん……スリちゃん……君は……俺の為に泣いてくれたのに……
……何もしてやれない……アイツに何も言い返せない……君の様に強くなりたい……」
……俺は……ダメな人間だ……一言でも……言い返さなきゃいけなかったのに……
「………おれは……くっ……クソ野郎だ……」
……悔しい……君の事を……守ってやれない……
「……ズリぢゃん……ごめん……ねぇ……無力なおれでぇ……ごめんね」
ケイゴは、ゆっくりと歩き出した、屋敷に向かって。
「……がぜぐがら……君が少しでも……虐待されないように……
……今すぐ助け出したいのに……どうして俺は……こんなにクソなんだよ……」
ケイゴは、顔を歪ませ泣く……己の弱さに殺意を思いながら。
「……チッ! 偽善者がまた来やがって……めんどうだ……」
スリ男は、電話みたいな物の受話器を取る。
「…………………約束の件……いいぜ……あんなガキくれてやる……ちゃんとタプは……あぁ……それでいい……アイツにそんな価値があるとは思わねぇがな……そうかい……じゃ……
……頼んだぜ」
ガチャ
スリ男は、受話器を置いた。
「…………」
ケイゴは、下を向きただ歩く。
「…………」
……このバンドをつけて……
ケイゴは、ローゼさんから借りたバンドを腕にはめた。
「…………ついた……」
ケイゴは、屋敷の門前に立つ。
「…………」
ケイゴは、招き猫をした。
シュタッ!
「……おはようございます……ケイゴさん……」
黒執事が現れた。
「……おはようございます……今からします……それだけです……」
ケイゴは、そう言う。
「……分かりました……ではよろしくお願いします」
シュッ!
黒執事は、去った。
「…………」
ケイゴは門を開き、屋敷の敷地に入っていく。
「…………」
ケイゴは、屋敷の扉を開いた。
「…………暗いな…………」
屋敷の中はやはり暗かった、ケイゴは、周りを見回す。
「……シロフワさん……あ、いや……[ ヒカルン ]」
ケイゴが、言うとほぼ同時に、二つの白いフワフワが出る。
「……あれ? どうして二つ?」
ケイゴがその二つを交互に見てると。
左にある白いフワフワが頭に移動する。
「……おぉ……こっちがシロフワさんか……見分けつかんないや……」
ケイゴは、少し笑いながら言う。
「……あんた来るの早くない?」
「……ッ!……おはようございます」
俺は、シロフワさんが頭に移動するのを見て上を見上げてたら、すぐ目の前に盾士ちゃんが立っていた。
……まじ怖いんだけど……漆黒鎧さんも盾士ちゃんも……気配だしてくれないかなぁ……
……俺結構……学校では気配ない方だっただけど……
「……何びっくりしてるのよ……幽霊なんていないじゃない……ふふ♪」
盾士ちゃんは、少しニヤッとした笑い方をした。
「……そ、そうですよね……」
……よくこんな暗いところ明かりなしで居られるよな……というか……盾士ちゃんの姿……
……めっちゃ可愛い……白くて脚に近づくほど、フワフワのワンピース着てる……綺麗な脚が素晴らしい!
「……なに? そんなに見て……どう?……この服……似合ってると思うんだけど……」
盾士ちゃんは、その場で一回転する……フワって! フワってなった……太ももが良かった! 眼福です♪
「……似合っています……」
「……ありがとう……じゃあ……倉庫の続きよね……掃除……」
盾士ちゃんは、少し微笑むとそう言った。
「……そ、そうですね……グチャグチャにしたまま帰っちゃいましたから……」
「……わ、私も手伝うわ……」
盾士ちゃんは、俺に目を合わせずに言う。
「……いいんですか? 手伝ってもらっても……」
「………良いって言ってるでしょ……ほら行くわよ!」
盾士ちゃんは、怒ったように言う。
「あ、はい……よろしくお願いします……」
「……てか……なんで二つも出してるの? ……
シロフワさん……」
盾士ちゃんは、シロフワさんじゃない方を指差す。
「……二つ出ちゃって……どうやって消すのがわかんないんですが……どうすれば良いですか?」
……この魔法の事知ってそうだし……聞ける時に聞く……じゃないと後が大変だ。
「……消し方知らないの? じゃあ、なんでもう一つの方は? 今まで消してたんじゃないの?」
「………勝手に……消えてたんです……」
……実際……勝手に魔法発動したし……もう訳わかんないんだけど……
「……勝手にって……生きてる訳じゃあるまいし……まぁいいわ……しょうがないから教えてあげる……昨日は、二回も私が消しといたのよ?」
「……あっ……そう言えば……二回出した時……すみませんでした……ありがとうございました」
……盾士ちゃんが消しといてくれてたのか……本当にごめんなさい……
「……はぁ……じゃあまずは、そのヒカルンに手を乗せてみて?」
「……手を乗せる……」
ケイゴは、シロフワさんじゃない方に手を乗せる。
「……そして……撫でる」
「……撫でる……」
俺は、ヒカルンを優しく撫でた……
……が……消えなかった。
「…………」
「…………」
盾士ちゃんとケイゴはその場で固まった。
「……も、もう一度やってみて……」
盾士ちゃんは、ヒカルンをじっとみて言う。
「……わかりました……」
ケイゴがも一度撫でた……変わらない。
「…………もう一度」
「……は、はい……」
ケイゴは、同じ様にしようとしたら……
ヒカルンが、ケイゴの手から逃げる様に盾士ちゃんの方に行った。
「…………」
「…………」
……泣いていい?
「……私がやってみるわね…………ぇ……」
盾士ちゃんがヒカルンを撫で用とした瞬間……盾士ちゃんの手に吸い込まれる様に移動して……一瞬で消えた。
「…………」
「…………」
……泣いていい?
「……そんな目で見ないでよ……私も訳がわかんないわ……自分から消えに来るなんて……」
盾士ちゃんは、困惑しながら俺の目を避ける様に手を見た。
「……き、気にしてませんよ……全然……」
「……そんな震えた声で言われても……説得力ないわよ……」
盾士ちゃんは、ケイゴを、かわいそうな目で見ながら言う。
「……消えた事ですし……掃除始めましょうか……教えていただきありがとうございます……」
俺は、盾士ちゃんに軽くお辞儀して言う。
「……え、ええ……次からは……私が消してあげるから……本当に大丈夫?」
盾士ちゃんは、ちょっと震えるケイゴを心配する……近づいて触れはしない。
「……自分には……シロフワさんがいますから……」
俺は、最後の望みをシロフワさんに託す。
頭からシロフワさんがゆっくりと降りてきた。
「…………」
(……なんて……かわいそうなの……この人……)
「……じゃあ……始めましょう……時間がもったいないですから……」
ケイゴは、シロフワさんをギュッと胸に抱きながら倉庫に向かう。
「……そ、そうね……」
(……魔法が術者の言うこと聞かないなんて……
……初めて見た……)
盾士ちゃんは、悲しさの出る太い背中を追った。




